スタンダード情報局 vol.109 -《アトラクサ》を求めて-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは、富澤です。

昨日まで開催されていた『プロツアー・ファイレクシア』はご覧になられましたか。熱戦に次ぐ熱戦が繰り広げられ、リード・デューク/Reid Duke選手がプロツアー初優勝を果たしました。

プロツアーについてもっと語りたいところですが、時間は待ってはくれません。そうです、2週間後には『チャンピオンズカップファイナル サイクル2』が迫っているのです!

『ファイレクシア:完全なる統一』加入から3週間弱経過したわけですが、どのような変化を遂げたのでしょうか。スタンダードの今を追っていきましょう。

『ファイレクシア:完全なる統一』加入による変化

1週目

まずはここ3週間の復習から始めていきましょう。オンラインリリースに先駆けて、国内では2月4-5日にサイクル2最後となるエリア予選が開催されました。発売直後のため新アーキタイプこそいませんでしたが、既存デッキは軒並みアップデートされていました。

金属海の沿岸闇滑りの岸黒割れの崖銅線の地溝剃刀境の茂み

《黒割れの崖》をはじめとした5種類のファストランドにより多色デッキのマナベースが大幅に強化されました。いままでグリクシスやエスパーなどの3色デッキはスローランドの採用枚数が多く、序盤にかため引いてしまい初動が遅れてしまうことが多々あったのです。

ダメージランドもありますが、《黙示録、シェオルドレッド》《絶望招来》などの戦闘を介さないダメージソースがある環境においては手放しで喜ぶわけにはいきません。ファストランドの加入は多色デッキに序盤の安定性をもたらしたのです。

離反ダニ、スクレルヴ骨化

対抗馬であったエスパーレジェンズと白単ミッドレンジも新戦力を獲得しています。《離反ダニ、スクレルヴ》は1マナの伝説のクリーチャー、かつ《ルーンの母》のごとく後続を守る聖母。《スレイベンの守護者、サリア》《策謀の予見者、ラフィーン》のマウントが完成します。

白単ミッドレンジには新たな除去《骨化》が追加。2マナの追放除去でありながら効果範囲が広く、クリーチャーのみならずプレインズウォーカーまで対応してくれます。エンチャントであるのも嬉しく、《鏡割りの寓話》のゴブリントークンを対処しつつ、《絶望招来》の生贄先にもなってくれるのです。

初週では細部のアップデートこそありましたが、デッキの軸になるカードは見つかりませんでした。多数の神話レアが収録されているとはいえ、『ファイレクシア:完全なる統一』はスタンダード的には控えめなセットという印象でした。

2週目

偉大なる統一者、アトラクサ

さてさて、発売以降話題の乏しかった『ファイレクシア:完全なる統一』ですが、ここ最近1枚のカード名をよく耳にしています。それは《偉大なる統一者、アトラクサ》です。モダンやレガシーなどでも試験的に採用されている堕天使は、スタンダードにも舞い降りたのです。

《偉大なる統一者、アトラクサ》の快進撃は止まらず、ブレーキの壊れたダンプカーのごとくスタンダードで破壊の限りを尽くしました。2/11-12に開催されたStandard Challengeでは、アーキタイプの異なる《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキが優勝したほどです。

ひとつは高速リアニメイト戦略。《鏡割りの寓話》などで墓地へ落とし、《報復招来》で釣りあげます。《偉大なる統一者、アトラクサ》は次弾を装填してくれる確率が高く、追放しない限り対処に終わりはありません。

もうひとつは「版図」をベースにしたコントロールデッキです。5色パワーカードを詰め込んだグッドスタッフであり、ボードコントロールに注力した戦略です。タップイン土地が多く、出だしが遅く見えますが、《力線の束縛》でカバーしています。

これらのデッキは白単ミッドレンジにとって天敵そのもの。着実にボードを構築し中長期戦でカードパワーにより試合を有利に運んでいく白単ミッドレンジにとって、より重く強いカードで構築された《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキにはなすすべがなかったのです。

3週目

このままスタンダードは《偉大なる統一者、アトラクサ》に、そしてファイレクシアに浸食されてしまうのでしょうか?

かき消し死体鑑定士

天使の進行に待ったをかけたのはグリクシスミッドレンジ。環境がより遅い方へとシフトし、白単ミッドレンジが減少したことで《かき消し》の賞味期限が伸びて、青いミッドレンジにチャンスが巡ってきました。青いミッドレンジの筆頭といえばグリクシスミッドレンジであり、立ち位置が向上して頂点へと返り咲いたのです。

リアニメイト戦略のように《偉大なる統一者、アトラクサ》が墓地を経由するならば、《死体鑑定士》はメインボードにとれる優れたメタカードとなります。

スレイベンの守護者、サリアロノムの発掘家、フェルドン

これにてメタゲームが1周したわけですが、《偉大なる統一者、アトラクサ》の首を狙うのは何もグリクシスミッドレンジだけではありません。展開力の優れたアゾリウス兵士と赤単アグロは速度で天使を乗り越えようとしています。

前置きが長くなりましたが、それでは大会結果をみていきましょう。

2/19(日):Standard Challenge

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 Mogged グリクシスミッドレンジ
準優勝 MAFS ラクドスアトラクサ
トップ4 Mizl1zzie ラクドスアトラクサ
トップ4 TrueHero グリクシスミッドレンジ
トップ8 Traft グリクシスミッドレンジ
トップ8 O_danielakos グリクシスミッドレンジ
トップ8 420dragon グリクシスミッドレンジ
トップ8 karatedom グリクシスコントロール

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

2/19(日)に開催されたStandard Challengeはグリクシスミッドレンジを使用したMoggedが優勝しています。トップ8中5つが同アーキタイプであり、グリクシスミッドレンジの圧勝となりました。

精神接合器ハーキルの最後の瞑想

karatedomのグリクシスコントロールは《精神接合器》を軸にしたノンクリーチャータイプ。ターン経過とともにインスタントとソーサリーのマナコストが軽くなっていくため、本来スタンダードでは見かけないカードも入っています。

《ハーキルの最後の瞑想》はボードをリセットしつつ強制的にターンを終了させますが、マナコストがネックでした。《精神接合器》に油カウンターを貯めて、相手ターン中でのプレイを目指します。

メタゲーム

デッキタイプ トップ32 トップ16
グリクシスミッドレンジ 10 7
ラクドスアトラクサ 6 3
アゾリウス兵士 5 4
赤単アグロ 4 1
ボロス招来 2 0
その他 5 1
合計 32 16

《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキの首を狙うグリクシスミッドレンジ、アゾリウス兵士、赤単アグロがメタゲーム上位に見られます。アゾリウス兵士は《スレイベンの守護者、サリア》に加えてソフトカウンターを併用し、《偉大なる統一者、アトラクサ》の着地前にビートダウンを狙います。

しかしながら、メタられてもなお《偉大なる統一者、アトラクサ》の人気はうなぎのぼりであり、今大会の採用枚数ではトップ10入りしているほどです。

トップ8デッキリストはこちら

ラクドスアトラクサ

ラクドスアトラクサですが、ベースはラクドスカラーであり、《偉大なる統一者、アトラクサ》以外は黒と赤のカードのみと非常に安定したアーキタイプです。大量の除去でボードをコントロールしていき、《鏡割りの寓話》《黙示録、シェオルドレッド》がフィニッシャーとなります。

《偉大なる統一者、アトラクサ》はリソース補充兼フィニッシャーですが、このカードを抜きにしても戦略が成り立つところが強みといえます。

偉大なる統一者、アトラクサギックスの残虐

《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキのゴールはいかにしてこの天使をプレイするかにつきます。《鏡割りの寓話》のゴブリンから生成される宝物トークンを使い、マナを支払うのも手ですがそれでは悠長です。

そこでサポートする手段として活躍するのが、リアニメイト英雄譚《ギックスの残虐》《鏡割りの寓話》《ヴェールのリリアナ》で墓地へと送り込み、一本釣りを狙います。

《ギックスの残虐》はすべての墓地を参照できるため、相手の捨てた《偉大なる統一者、アトラクサ》との友情コンボも可能な墓地メタカードでもあります。

シェオルドレッドの勅令

除去枠には新カード《シェオルドレッドの勅令》があります。多少使いどきを選びますが、呪禁や被覆を無視して対処してくれます。《策謀の予見者、ラフィーン》の「護法」に引っ掛からないのも嬉しいところ。

しかもモードが複数あるため、布告系除去の弱点だったトークンを並べる横展開も、このカードの前では無意味です。《鏡割りの寓話》《婚礼の発表》のトークンがいようとも、トークンでないクリーチャーを選べます。プレインズウォーカーも対処できる汎用性の高い1枚ですね。

ボロス招来

ボロス招来は《報復招来》による高速リアニメイト戦略です。《偉大なる統一者、アトラクサ》《ファイレクシアへの門》といった高コストカードを踏み倒し、カードパワーでボードを制圧します。

偉大なる統一者、アトラクサ報復招来ファイレクシアへの門

《報復招来》の釣りあげ先となるのは《偉大なる統一者、アトラクサ》《ファイレクシアへの門》。後者はミッドレンジマッチに強く、不利な状況からの一発逆転を可能にしてくれます。

仮にすべてのクリーチャーを除去できなくとも、次のターンから蘇り、自軍へと加わります。墓地をすべて追放しない限り、悪夢は繰り返されるのです。

鏡割りの寓話安堵の火葬大勝ち永岩城の修繕屑鉄造りの雑種犬

墓地へカードを送り込むのは《鏡割りの寓話》《安堵の火葬》《大勝ち》《永岩城の修繕》《屑鉄造りの雑種犬》の5種15枚。

なかでも《大勝ち》1枚で手札とマナを伸ばしてくれる画期的なカードです。サイドボード後の墓地対策や《報復招来》を引けない際に、《偉大なる統一者、アトラクサ》《ファイレクシアへの門》を手札からプレイする助けとなります。インスタントであるため《死体鑑定士》の影響を受けにくいのもポイントです。

そのほかの大会結果

2/18(土):Standard Challenge

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 Venom1 グリクシスミッドレンジ
準優勝 andrw1232 ラクドスアトラクサ
トップ4 maximusdee ジャンドミッドレンジ
トップ4 dimk 青単テンポ
トップ8 WrzoBuSeks アゾリウス兵士
トップ8 Schiaveto アゾリウス兵士
トップ8 cocof グリクシスミッドレンジ
トップ8 remf アゾリウス兵士

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

2/18(土)のStandard Challengeの優勝はVenom1のグリクシスミッドレンジ。サイドボードには《強迫》《否認》《軽蔑的な一撃》が複数枚とられており、リアニメイトなどの《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキを意識した構築となっています。

メタゲーム

デッキタイプ トップ32 トップ16
アゾリウス兵士 6 4
グリクシスミッドレンジ 5 4
赤単アグロ 3 2
ジャンドミッドレンジ 3 1
白単ミッドレンジ 2 1
エスパーレジェンズ 2 0
その他 11 4
合計 32 16

トップ8デッキリストはこちら

おわりに

偉大なる統一者、アトラクサ

今回は『ファイレクシア:完全なる統一』加入後ということで、《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキをご紹介しました。基本的にリアニメイトや「版図」戦略とセットで採用されていますが、《偉大なる統一者、アトラクサ》に頼らずにデッキとして完結しているラクドスバージョンは要注目です。

次週も《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキはアップデートされるのでしょうか?それともグリクシスミッドレンジやアグロがこのまま上位に居座るのでしょうか。メタゲームの変化が楽しみです。

それではまた次回の情報局で!

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら