スタンダード情報局 vol.108 -『兄弟戦争』の終わり-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは、富澤です。

『兄弟戦争』期のスタンダードも終わりが近づくと同時に、『ファイレクシア:完全なる統一』の足音が聞こえてきました。すでに国内では発売されており、後はMTGアリーナでのリリースを待つばかりです。

新カードの情報をご紹介したい気持ちをグッとこらえて、今回は『兄弟戦争』期のスタンダードの総括をお届けします。

『兄弟戦争』期の振り返り

喉首狙い軍備放棄

『兄弟戦争』の特徴として優秀な低コストカードがあげられます。『団結のドミナリア』期に支配的であった《黙示録、シェオルドレッド》を如実に意識したカードが収録され、除去耐性のない高コストクリーチャーは段々と数を減らしていきます。黒系ミッドレンジの定番であったはずの《黙示録、シェオルドレッド》は、一時はサイドボードへと居場所を追いやられたほどでした。

鏡割りの寓話

マナコストが軽く、汎用性の高い干渉手段が増えたことで、高コストのカードは対処された際にテンポ面で大きく損をしてしまうため、デッキはスリム化していきます。その中心に置かれていたのは変わらず《鏡割りの寓話》だったわけですが、これを軽いクリーチャーと干渉手段でサポートしていくグリクシスミッドレンジが環境をリードしていきました。

これだと前環境と変わらないじゃないかと思われた方、ご安心ください。『兄弟戦争』で強化されていたのは何もグリクシスミッドレンジだけではなかったのです。

婚礼の発表街並みの地ならし屋

戦線を横へ横へと拡大していく白単ミッドレンジ、そしてパワーストーンを活用したイゼットランプです。特に後者は重いアーティファクト・クリーチャーを高速で召喚するというまったく新しいアーキタイプであり、ミッドレンジ側が想定していたメタゲームに当てはまらない戦略でした。

徴兵士官ロノムの発掘家、フェルドン

また、優秀な低コストクリーチャーを手に入れたことでアゾリウス兵士赤単アグロが誕生し、ミラーマッチ用のカードを増やしアグロへのガードを下げていたグリクシスミッドレンジを狙い撃ちました。低いマナカーブに裏打ちされた展開力と、中盤以降も脅威が途切れないように構築されていました。

かき消し削剥切り崩し

しかし、目まぐるしく変化し続けるメタゲームを前にしても、グリクシスミッドレンジは《かき消し》《削剥》《切り崩し》の枚数を増やし、メインボードへ《黙示録、シェオルドレッド》を復権させるなどして対応していきます。

環境の王者に対して最後に挑戦状を叩きつけたのは、エスパーミッドレンジの亜種であるエスパーレジェンズでした。

スレイベンの守護者、サリア賢明な車掌、トルーズ夜明けの空、猗旺

非クリーチャー呪文の使用を制限する《スレイベンの守護者、サリア》から《策謀の予見者、ラフィーン》へと繋ぐ黄金ムーブ、1対1交換が難しい《賢明な車掌、トルーズ》《夜明けの空、猗旺》などグリクシスミッドレンジに強いカードで溢れていたのです。

結局のところ最後まで「グリクシスミッドレンジ vs. その他」の構図こそ変わらなかったものの、『兄弟戦争』期のスタンダードにはアグロからランプまで多くのアーキタイプが登場していました。しかもゲームレンジの異なる単色デッキが複数登場するなどプレイしていて飽きない環境だったのです。

続いてはエリア予選(TC大阪)の結果を中心に、注目デッキを振り返っていきましょう。

代表的なデッキ紹介

王道のミッドレンジ

死体鑑定士

前環境に引き続いて、トップメタとなったグリクシスミッドレンジ。《喉首狙い》を手に入れたことでボードコントロール力は向上し、メタゲームに合わせて《剃刀鞭の人体改造機》《刃とぐろの蛇》《黙示録、シェオルドレッド》が入れ替わります。

グリクシスミッドレンジは2マナ以下の軽量干渉手段を多用した手数で勝負するデッキ。火力や打ち消し呪文でボードを平らにしていき、《鏡割りの寓話》《死体鑑定士》などの3マナ域のパーマネントを軸に攻めていきます。軽くテンポ面を意識した捌くアーキタイプですが、フィニッシャーには《絶望招来》が据えられています。

喉首狙いかき消し削剥

根底にあるのは1対1交換によるテンポアドバンテージの獲得です。《喉首狙い》により巧みにゲームスピードを支配し、《かき消し》が重いカードへ睨みを利かせます。環境に《勢団の銀行破り》が増加すれば《削剥》を採用するなど、単体のカードを変えることでメタゲームに適合できる対応力の高いデッキでした。

戦略で対抗せよ

増え続けるグリクシスミッドレンジデッキ。3色ゆえにカード選択は無限にあり、サイドボードを含めてあらゆる状況に対する解決策が用意されていました。完全無欠と思われたデッキですが、攻略の糸口は意外なところにありました。

白単ミッドレンジ

優秀な単体除去が揃っているならば、1枚で複数のパーマネントを生成することで除去の価値を下げてしまえばいいのです。

白単ミッドレンジは《神憑く相棒》《婚礼の発表》のようなアドバンテージのとれるパーマネントを軸に構築されたデッキです。1枚で複数のクリーチャートークンを生成してくれるためボード上の攻め合いで強く、単体除去に耐性を持ちます。またフィニッシャーには《夜明けの空、猗旺》《聖域の番人》といったパワーカードが据えられています。

第三の道のロラン軍備放棄

環境定義といわれる《鏡割りの寓話》を綺麗に対処できるのが《第三の道のロラン》。ほかにも《婚礼の発表》《勢団の銀行破り》をカバーできるため、環境が進むにつれて評価が上がったカードです。

《軍備放棄》は待望の単体除去カード。以前は《邪悪を打ち砕く》《運命的不在》のような条件付きのものでしたが、《軍備放棄》はほとんどの場合で万能除去として相手を選ばずに使用可能です。《平地》が多い白単ミッドレンジにフィットした除去カードだったのです。

イゼットランプ

続いての攻略の糸口。万能と言われる《喉首狙い》の弱点を突くのはどうでしょう?

イゼットランプはインスタントアクションを絡めながら《厳しい授業》《鏡割りの寓話》などでマナを伸ばして5マナを目指します。5マナにおかれた《マイトストーンとウィークストーン》は能力付きの2マナランプカードであり、フィニッシャーへの架け橋。ひとたびマナが伸びれば《街並みの地ならし屋》《瞬足光線の大隊》などの高コストカードを連打して、対応を迫っていきます。

街並みの地ならし屋マイトストーンとウィークストーン

《マイトストーンとウィークストーン》経由で最速5ターン目に着地する《街並みの地ならし屋》はまさしくゲームエンドカード。プレイ時に加えて攻撃時にも能力が誘発するため、攻撃に成功すれば反撃の芽を摘むことへと繋がります。仮に《削剥》されようとも「蘇生」により再利用可能。インスタントトリックの少ないデッキには特に効果的なカードでした。

単色という選択肢

環境がロングゲームへと傾倒すれば、逆を突いた戦略は大きな効果を生みます。

赤単アグロ

《僧院の速槍》《ロノムの発掘家、フェルドン》を手に入れた赤単アグロの逆襲がスタート。

赤単アグロは、序盤からクリーチャーでライフを攻めていく攻撃的なアーキタイプです。優秀な火力と速攻を持つクリーチャーのおかげで、ほかのアグロと比べてダメージ効率の優れたデッキとなります。従来の戦略に加えて、《焦熱の交渉人、ヤヤ》《鏡割りの寓話》といったカードを採用しており、カードパワー不足やガス欠する心配はありません。

僧院の速槍引き裂く炎

パイオニア~レガシーまでの赤いデッキを支える《僧院の速槍》の再録は復活の足掛かりとなりました。《鏡割りの寓話》《敬慕される炎魔道士、ヤヤ》のようにクロックを生成しつつ果敢を誘発させるカードが揃っていたため、このモンクには2点以上のダメージを期待できました。

苦しめられてきた《黙示録、シェオルドレッド》に対しては《引き裂く炎》を用意するなど備えは完璧。

青単テンポ

青単テンポは打ち消し呪文によるコントロールを中心に《傲慢なジン》《トレイリアの恐怖》で攻めていくクロックパーミッション戦略。やや線の細いデッキですが、軽量の打ち消しや保護呪文が多く、重いパワーカードで勝負してくるミッドレンジには強いアーキタイプです。

傲慢なジントレイリアの恐怖

登場当初は《秘密を掘り下げる者》が採用された青単デルバーや、デッキスロットの大半を打ち消し呪文にしたフルパーミッション型などが見られました。しかし、エリア予選前後に至っては軽量ドローを多用し、高速で巨大な《傲慢なジン》《トレイリアの恐怖》を着地させる構築へと変貌を遂げました。

知識の流れ

《知識の流れ》は膠着したゲームにおいて、勝敗を分ける一手となります。マナを伸ばした先に待ち受ける明確なゴールであり、インスタントであるため隙もありません。5マナと《かき消し》に引っかかりやすいのがネックですが、《傲慢なジン》などを囮にしたり、2マナ余分に用意するなど工夫し、解決を目指します。

サリアをこの手に

呪文過多のグリクシスミッドレンジに強い《スレイベンの守護者、サリア》ですが、最適な構築が見つからず活躍の機会が訪れません。エスパーレジェンズが現れるまでは。

エスパーミッドレンジの中でも非クリーチャー呪文を減らし、デッキの半数近くを伝説のクリーチャーで埋めている構築がエスパーレジェンズです。《スレイベンの守護者、サリア》《敬虔な新米、デニック》といった戦闘に特化したメタクリーチャーを《策謀の予見者、ラフィーン》でバックアップしていきます。《英雄の公有地》のおかげで色マナに困ることがなく、強力なマナベースを武器にレジェンドを展開していきます。

通常のグリクシス対エスパーの構図としては、エスパー側のクリーチャーが丁寧に捌かれて、ガス欠したところへ《死体鑑定士》《絶望招来》をプレイされて決定的なアドバンテージ差が生まれてしまうというものでした。

スレイベンの守護者、サリア策謀の予見者、ラフィーンヨーグモスの法務官、ギックス天上都市、大田原

エスパーレジェンズは《スレイベンの守護者、サリア》によりグリクシスミッドレンジの初動である2マナの捌きを止めます。ワンテンポずつ遅れるグリクシスに対して《策謀の予見者、ラフィーン》《ヨーグモスの法務官、ギックス》で矢継ぎ早に脅威を展開し、ボードや手札の強化を図ります。《スレイベンの守護者、サリア》によるテンポロス戦略と強力な後続クリーチャーがこのデッキを支えているのです。

クリーチャー中心のデッキですが、《天上都市、大田原》などの「魂力」付きの土地などもあり、対応力に富んだデッキでした。

賢明な車掌、トルーズ夜明けの空、猗旺先兵の飛行士、ハービン

伝説のクリーチャー次第で容易に強化されるため、今後も活躍が続くことでしょう。

大会結果

『兄弟戦争』期の最後を飾ったエリア予選(TC大阪)の結果も掲載します。

チャンピオンズカップ エリア予選 サイクル2 in TC大阪

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
権利獲得 マキノ タカヒト 赤単アグロ
権利獲得 ノイネ カズヒロ 青単テンポ
権利獲得 コバヤシ リョウヘイ グリクシスミッドレンジ
権利獲得 イケヤマ シンゴ グリクシスミッドレンジ
権利獲得 オオハシ ヨシヒロ グリクシスミッドレンジ
権利獲得 イイツカ ユウキ 青単テンポ
権利獲得 タナカ ヒロノリ 白単ミッドレンジ
権利獲得 ハマグチ マサクニ エスパーレジェンズ

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

参加者60名で開催されたエリア予選(TC大阪)。チャンピオンズカップファイナルへの8つの椅子を手にしたのは3つのグリクシスミッドレンジとエスパーレジェンズ、4つの単色デッキでした。環境末期らしくどのデッキも洗練された構築となっています。

メタゲーム

デッキタイプ 使用者数
グリクシスミッドレンジ 20
エスパーレジェンズ 10
エスパーミッドレンジ 3
白単ミッドレンジ 12
赤単アグロ 4
ラクドスアグロ 4
青単テンポ 3
エスパーミッドレンジ 3
その他 4
合計 60

トップ16デッキリストはこちら

おわりに

デッキタイプ 使用者数
グリクシスミッドレンジ 42 +9
エスパーミッドレンジ 16 +1
エスパーレジェンズ 12 +2
白単ミッドレンジ 9 +3
青単テンポ 9 +3
赤単アグロ 7 +2
アゾリウス兵士 3 +1
ジャンドアグロ 2 +1
イゼットランプ 2 +0
マルドゥミッドレンジ 2 +0
アゾリウスミッドレンジ 1 +1
4色天使ミッドレンジ 1 +1
ビッグレッド 1 +0
アゾリウスヒロイック 1 +0
ディミーアアグロ 1 +0
ラクドスアグロ 1 +0
グリクシスコントロール 1 +0
ジャンドミッドレンジ 1 +0
マルドゥ天使ミッドレンジ 1 +0
ジェスカイコントロール 1 +0
4色レジェンズ 1 +0
ローム 1 +0
合計 116名 24

一部のデッキにつきましてはBIG MAGIC様から引用しています。

前回の集計結果に、RollingDice様とBig Red様、今回の晴れる屋トーナメントセンター大阪の結果を足したものとなります。

ロノムの発掘家、フェルドン聖域の番人策謀の予見者、ラフィーン

『兄弟戦争』期のスタンダードの総括をお届けしました。グリクシスミッドレンジが突出したアーキタイプであることは間違いありませんが、メタゲームの変化に合わせてさまざまな対抗馬が登場していたことがわかりました。

赤単アグロや白単ミッドレンジ、エスパーレジェンズはグリクシスミッドレンジの構築の隙を突いたデッキであり、スタンダードの面白さと可能性を示してくれたと思います。

『ファイレクシア:完全なる統一』の加入により新たなアーキタイプは生まれるのでしょうか。今から楽しみでなりません。

次回からは新環境のスタンダードの情報をお届けしたいと思います。それでは!

この記事内で掲載されたカード

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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