神になるべき人物
日本で一番統率者戦で強いプレイヤーは誰だろうか。
前回大会では、初代神ツボイ選手の二度目の防衛を阻み、タカハシ選手が「ティムナ&クラム」で神の座を奪った。
タカハシ選手はオープンなコミュニティで日々精力的に活動しており、”ファン”が多い。第4期統率者神決定戦でも普段からタカハシ選手とプレイしているという参加者が非常に多かった。タカハシ選手が日々、いかに多くのプレイヤーと多くのゲームをこなしているかがわかる。
ファンは皆一同に言う。
「タカハシさんの応援にきた?まさか」
「タカハシさんが神をやめるのを見に来ました」
「オレがあいつを人間にもどしてやるんです」
果たして決定戦の結果は――近年、統率者戦のトーナメントで惜しいところで優勝を逃し続けてきたヨシダ選手と《トレストの密偵長、エドリック》の勝利に終わった!
今回は統率者神決定戦の模様を送りながら、新たに神の座についたヨシダ選手へのインタビュー、神の座を退いたタカハシ選手への謝辞をお送りする。
防衛に挑むタカハシ選手(右)
対するは挑戦者ハヤシ選手(左)トザワ選手(中)
神に挑戦する三者
ヨシダ選手《トレストの密偵長、エドリック》
ヨシダ選手はグランプリでの統率者戦のトーナメントで3度の優勝を経験している、非常に著名な統率者戦プレイヤーだ。先日発売された『マナバーン2023』にも統率者戦の記事を寄稿しているほど。《トレストの密偵長、エドリック》を相棒に戦い続けている。
しかし、これまでの「統率者神決定戦」や「最強統率者決定戦」などではあと一歩というところで優勝を逃し続けていた。
《トレストの密偵長、エドリック》はコンバットでダメージを刻みながら大量にドローし、追加ターン呪文を唱えてまたコンバットしてドローして……と繰り返して勝利を目指す。「追加ターンを撃ってこないということは打ち消しを持っている」ということであり、相手にすると非常にゲームが難しい。
しかし、「ティムナ&クラム」「ログラクフ&テヴェシュ」のような、近年の2ターンキルを仕掛けてくるような相手に対しては、統率者でドローできる前の初手で戦わなければならず、苦しいマッチとなってしまう。
一方で打ち消しを握りさえすればいいというわけでもなく、自分のゲームを進めるために軽量なクリーチャーとマナ基盤も必要なのが難しい。
ハヤシ選手《トリトンの英雄、トラシオス》《愚者滅ぼし、テヴェシュ・ザット》
ハヤシ選手は第3期統率者神決定戦でトップ12に残っている。当時は「ティムナ&クラム」を使用し、同じく「ティムナ&クラム」を使用したタカハシ選手に敗れてしまっていた。《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動するタイミングを見誤るというミスで勝ちを逃し、送り出したタカハシ選手が神となる結末に心中穏やかではなかっただろう。
そんなハヤシ選手が今回選択したのは「トラシオス&テヴェシュ」。「《ディスプレイサーの仔猫》をいかに強く使うか?」という発想から構築されており、通称「猫トラテヴェ」。
《ディスプレイサーの仔猫》の能力で《呪文探求者》や《永遠の証人》のETB能力を使いまわして、マナ加速+サーチや無限マナ+《トリトンの英雄、トラシオス》無限起動で勝利できるなど、非常に幅広いコンボが可能。コンボパーツそれぞれが単体でも強力であるという点が魅力的だ。
トザワ選手《精霊の魂、アニマー》
ヨシダ選手がエドリックマスターなら、トザワ選手はアニマーマスターだ。
第1回最強統率者決定戦でもトップ4入りした実力者だ。当時はまだ「統率者神」が始まる前だったこともあり、非常に注目された。それ以来も精力的に大会に参加してきたものの、なかなか目立った活躍はなかった。
皮肉なことに、アニマーもエドリックと同じく、やや「時代に取り残された」感のある統率者であることは否めない。2ターンキルに構えながらクリーチャーとマナ基盤のある手でキープしなければならないマリガンの過酷さ、打ち消しだけでなく除去でも止まってしまうコンボの脆さ。
今回の躍進の秘密はなんだろうか。これまで「アニマーの必須カード」だと思われていた《祖先の像》《呪文探求者》の不採用が大きい。
《呪文探求者》→《新生化》をサーチ→《祖先の像》とつなげて《精霊の魂、アニマー》に無限にカウンターを置くコンボを排している。代わりに《幻影の像》などクローン系カードを大量に採用しており、《波止場の恐喝者》や対戦相手の強いクリーチャーをコピーしていくのだ。
青いカードが少なく、《意志の力》《否定の力》が使いにくい代わりに、《虚空の杯》が採用されていることにも注目。
決定戦の模様
ゲーム前の4人。互いに顔見知りであり、
「もはやフリープレイ」。
席順はランダムに決定される。
ヨシダ選手(エドリック)
タカハシ選手(ティムナ&クラム)
ハヤシ選手(トラシオス&テヴェシュ)
トザワ選手(アニマー)
※以下、文中ではプレイヤーを統率者名で呼称する。
ティムナ、トラシオス、アニマーは1発でキープ。迷いなく、自信がうかがえる宣言。1番手のエドリックのみ2度マリガンし、手札6枚でスタートとなる。
《魔力の墓所》に加え、バウンス呪文もありなんとか戦えそうな手でキープしたエドリック。なんとトップから《モックス・ダイアモンド》が振ってきて、1ターン目に《トレストの密偵長、エドリック》を戦場に送り込む。
一方でティムクラの初手はマナ基盤、打ち消し、サーチと三拍子揃った素晴らしい初手。これに加えてファーストドローは《悪魔の教示者》なのだからすごい。土地と《水蓮の花びら》だけをプレイ。
続くトラテヴェ、アニマーはともに土地をプレイしてパス。エドリックにターンが回る。
ここでエドリックから飛び出たのは《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》!2枚目のドローに反応して2/2のクリーチャーを生み出すという、《トレストの密偵長、エドリック》とあまりにも噛み合いすぎている1枚。全体パンプアップ能力まで持っており、マナが伸びれば追加ターンがなくとも殴り切れる可能性さえある。
「う……つよすぎ」。これにはティムクラから言葉が漏れるが対応せず。《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》が着地する。エドリックとしては非常に理想的な立ち上がりとなった。
タカハシ選手はエンド前に《吸血の教示者》。「《リスティックの研究》かな~」とつぶやきつつも《魔力の墓所》をサーチ。
《炎の儀式》も使いながら《ルーデヴィックの名作、クラム》を着地させる。
呪文を2回以上唱えがちなエドリックにとっては《ルーデヴィックの名作、クラム》は苦手なカードだ。《トレストの密偵長、エドリック》の能力でドローもさせてしまう。
トラテヴェは《トリトンの英雄、トラシオス》をプレイ、アニマーは《俗世の教示者》から《波止場の恐喝者》をサーチする。《波止場の恐喝者》からは5つの宝物・トークンを生成する。
《精霊の魂、アニマー》を唱え、続いて《幻影の像》!これは《波止場の恐喝者》になり、ふたたび宝物を獲得。
そして《生類の侍臣》だ。ライブラリー上からクリーチャーを唱えることができ、しかも色マナを無視できる。
ゲーム後、ティムクラの談
「昨晩、予選抜けしたリストを見ていて、アニマーの《生類の侍臣》」は絶対に対応すると決めていた」
「予選ではそれを消すという選択が出来なかったプレイヤーが負けていった」
タカハシ選手の言葉の通り、挑戦者決定戦でもアニマーはこのカード1枚から次々クリーチャーを戦場に送り込んで勝利しているのだ。
ゲーム後、エドリックの談
「あの時点でバウンス呪文は持っていたから、つながったりコンボになりそうなら、《精霊の魂、アニマー》をバウンスして止めようと思っていた。
スタック上の《生類の侍臣》を前に、エドリックからはアクションをとるそぶりがない。
ティムクラ、悩む。その手には《意志の力》がある。結局、《激しい叱責》をコストに《意志の力》で《生類の侍臣》をカウンターする。
エドリックは漁夫の利を得たか。受け取ったターン、3体で攻撃、3枚のカードをドローしながら《時間のねじれ》。これにティムクラから《断れない提案》。しかしこれをエドリックが追いかける!《激情の後見》だ!
《トリトンの英雄、トラシオス》が戦場にあるトラテヴェだが、この時手札には対抗手段がない。《むかつき》《リスティックの研究》《ガイアの揺籃の地》……ゲームがあとほんのちょっとだけでも遅ければ非常に強そうなのだが、エドリックのロケットスタートは誰にとっても想定外だ。もちろん、アニマーにとっても。誰も対応できず、追加ターンとなる。
続くターンでも《運命のきずな》で追加ターンを獲得。その後のターン、《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》の能力を起動し、ティムクラのライフを削り切る。《トリトンの英雄、トラシオス》もブロックに回って死亡。
トラテヴェから《王冠泥棒、オーコ》が飛び出すがこれはエドリックから《否定の力》。これは打つ手なしか。
アニマーからは《賢いなりすまし》。これにエドリックは《秘儀の否定》を差し向けるが、アニマーは《白鳥の歌》で追いかける。《賢いなりすまし》は《トレストの密偵長、エドリック》として着地。
3体で攻撃して 6枚ドローできるはずが、《精霊の魂、アニマー》に《厚かましい借り手》が飛んでくる!ドロー枚数が減ったうえ、肝心かなめのアニマーを失う。
再び《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》の能力で圧倒的なクロックを用意、まずはトラテヴェを撃墜。さらに《悪名高き群れ》だ!!
エドリック殴りきる!エドリック殴りきる!ヨシダ選手、悲願の優勝!!
リーサルの場面。
敗北したティムクラは盤面整理を手伝う。
それを見守るのは初代・第2期統率者神のツボイ選手。
分水嶺
ゲーム後も席を立たない3人。
パソコンには勝者インタビューに臨むヨシダ選手の姿。
ゲームを大きく左右したのはアニマーの《生類の侍臣》を巡る攻防だ。
4番手のアニマーが追いかけるためには《生類の侍臣》でアドバンテージをとりたい。
アニマーはそのターン中に勝てるビジョンがなかったとゲーム後に語っている。しかし、戦場には《波止場の恐喝者》がおり、対戦する側としては厳しく見てしまう1枚だ。事実、挑戦者決定戦では《生類の侍臣》で勝利しているのだから。
プレイする側、される側で強さの評価に大きな乖離があったことで、ティムクラは「打ち消す」選択に至った。
これはアニマーのミスだろうか。あるいはティムクラのミスだろうか。そうとは単純には言えない。エドリックの手にはバウンスがあり、《生類の侍臣》を消さずとも介入する方法があったのだ。
本来、対戦相手のアクションに対して対応するかどうかはターンの進行順に決める。しかしエドリックは《生類の侍臣》着地後に対応する方法を持っていて、ティムクラは持っていなかった。これにより対応するか考える順番が逆転してしまったのだ。
統率者戦の真髄は「技量」だという人がいる。「噛み合い」だという人がいる。「運」だという人もいる。
10年選手のエドリックの技量に疑いなどない。噛み合った手札とドロー。トップから《モックス・ダイアモンド》《太陽の指輪》を引く運。
今日この日、エドリックは勝つ。そんな運命にあったのかもしれない。
ヒーローインタビュー
敗北した三者だが、全くその場から離れる雰囲気がない。そこで、その場で今度は手順を逆にしてのエキシビジョンマッチを提案。ゲームを進行してもらいながらインタビューを行った。
――改めまして優勝おめでとうございます!
「ありがとうございます」
――悲願の優勝となりましたね。いまのお気持ちはいかがですか。
「長かった……うれしいですね」
――統率者戦の歴も長いと思いますが、マジックはいつからプレイされているんですか。
「『オデッセイ』が出たくらい?スタンダードをプレイしていて、『ミラディン』『ダークスティール』の“やべー時期”を経験してるんだけど、今思えば親和デッキのヤバさで逆に夢中になったのかも」
「受験でちょっと離れたりもしたけど、ほとんど途切れることなくずっとマジックをプレイしてるかな。いまは統率者戦ばっかりだけど」
――長らく《トレストの密偵長、エドリック》を相棒とされていますが、その理由は何ですか。
「『統率者』が発表された当時、《トレストの密偵長、エドリック》を見て「強いな」って思ったのがきっかけ。で、それからずっと」
――「ずっと」とはいえ、リストは頻繁に更新されていますよね。今の環境を意識して追加したカードはなんですか。
「クリーチャーにあたる打ち消しを多めに取った。決勝では自分が一番クリーチャーにあたる打ち消しが多かったはず」
――次回は逆に挑戦者を待ち受ける立場になります。どんなお気持ちですか。
「まぁ~次は時間制限ないんでね(笑)」
「今回は時間制限のある予選を突破するために少し前のめりな構築になっていたんだけど、次回はより理想的なエドリックで戦える」
――前回みたいな3時間越えゲームは勘弁してくださいね……。これから競技的な統率者戦を始めるプレイヤーにアドバイスはありませんか。
「すでにあるコンボに固執しないでほしい」
「みんなが知っているコンボは研究されていて、対応されやすい。有名なコンボひとつに頼り切るのではなく、コンバットでも勝てるとか、なにか何か別の要素も絡めた戦略がいいと思う」
「それから、いろんな場所でたくさん遊ぶこと。こういう場所でいきなり知らない相手に出会うと、どうしたらいいか分からないまま即死する」
――そういう意味では3月は忙しくなりそうですね。
「東京でも大阪でもコマンダーサミットがある。大阪では八十岡さんと戦えるということで自分も参加する予定です」
ありがとうタカハシ選手
惜しくも神の座を退いたタカハシ選手。
「まー、これで次からはいっぱいゲームできるな!神はホラ、戦えるの1回だけだから」
「1日30時間プレイしている」というタカハシ選手。オープンなオンラインコミュニティで精力的に活動するだけでなく、様々な統率者戦のトーナメントに参加、情報も盛んに発信していた。
動画にもご出演いただいた
初代統率者神のツボイ選手があまりにも優しく親しみやすい人物だったため、それと対比して「邪神」と呼ばれることもあったタカハシ選手だったが、そのスタイルは「ハイレベルなゲームを楽しみたい」という渇望ゆえのもの。
再び決勝戦にやってくる日はそう遠くないだろう。ちなみに、エキシビジョンマッチはタカハシ選手が勝利していた。
次はいったいどんなプレイヤーが、デッキが神となるのだろう。あるいはエドリックマスターが防衛を果たすのだろうか。
それではみなさん、第4期統率者神決定戦でお会いしよう。
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