スタンダード情報局 vol.113 -『ファイレクシア:完全なる統一』の終わり、環境総括-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは、富澤です。

前回の記事では、多色デッキに対して効果的な土地破壊戦略についてご紹介しました。繰り返し起動される《廃墟の地》によりだんだんと行動を制限されていくわけですが、土地の能力であるがゆえに対応することは難しく、座して死を待つよりほかありませんでした。

その影響で多色デッキに採用される基本土地の枚数が増えていますが、その分だけ安定性も下がってしまいます。これもまたメタゲームの醍醐味ですね。

さて、『ファイレクシア:完全なる統一』期のスタンダードも終わりが近づくと同時に、『機械兵団の進軍』の足音が聞こえてきました。今週中には「カードイメージギャラリー」にすべてのカードが公開されるはずです。最新カードをご紹介したいのは山々ですが、楽しみは次回以降にとっておきましょう。

今回は『ファイレクシア:完全なる統一』期のスタンダードの総括をお届けします。

『ファイレクシア:完全なる統一』期の振り返り

ここ最近のスタンダードは既存のデッキの存在感が強く、セットが追加されても細部のアップデートにとどまるなど閉塞感に苛まれていました。『ファイレクシア:完全なる統一』にしてもファストランドや《シェオルドレッドの勅令》などに注目が集まり、同じ道をたどると思われていたのです。

しかしながら発売前の予想に反して、『ファイレクシア:完全なる統一』は凝り固まった環境を打破する起爆剤となりました。同セットのカードをコンセプトにしたデッキが2つ誕生し、さらにはメタゲームの中心に居座るだけのデッキパワーを秘めていたのです。《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキはそのカードパワーゆえにデッキへと昇華され、セレズニアポイズンはセットの特徴である「毒性」を前面に押し出したデッキでした。

偉大なる統一者、アトラクサ

あらゆる構築フォーマットで人気の《偉大なる統一者、アトラクサ》はスタンダードでも例外にもれず、多くのプレイヤーを魅了しました。フィニッシャー級のサイズに加えて着地した瞬間に大量のカードアドバンテージを稼がれてしまうため、除去呪文はあまり意味をなしません。そのカードパワーは当代随一であり、あの《グリセルブランド》をもしのぐといわれるほどでした。

問題となったのは4色の7マナという決して安くないマナコスト。当初は色マナをそろえやすい「版図」デッキやリアニメイトに組み込まれましたが、時間とともにミッドレンジデッキのフィニッシャーへと代わっていきます。ベースをラクドスやグリクシスとしながらも、マナベースは拡張され、手札からもプレイが可能になりました。墓地対策を克服したことで、《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキは異なる二軸、奇襲性と安定性を両立させたのです。

かき消し軽蔑的な一撃

環境に大ぶりなデッキが登場したことで、ミッドレンジの中でも打ち消し呪文入りデッキにチャンスが巡ってきます。捌きを得意とするグリクシスミッドレンジはメタゲームに適応し、さらに増加するであろうミッドレンジマッチを見据えて構築も重さを増していきます。

そのわずかな構築の変化を見逃さなかったのが、各種テンポデッキでした。なかでもセレズニアポイズンは既存のテンポ戦略に属さないアーキタイプということもあり、大きな戦果をあげました。

離反ダニ、スクレルヴ敬慕される腐敗僧ミレックス

1マナ域からはじまる「毒性」アグロは、低コスト除去の減っていたミッドレンジのガードを悠々とこじ開け、勝利の山を築いていきます。セレズニアポイズンは初速に優れていただけではなく、戦闘に頼らない毒カウンターの配置方法や消耗戦に強いカードなど攻め手が複合的であり、既存のサイドボードでは対処が追いつきません。

《離反ダニ、スクレルヴ》は自軍を守る優秀なクリーチャーであり、毒戦略とは無関係のアゾリウス兵士やエスパーレジェンズでも採用されるほどでした。

兄弟仲の終焉一時的封鎖

そしてテンポデッキが流行したことで、各デッキのサイドボードには全体除去が増えていきます。多色ミッドレンジは選択肢も豊富にあり、メタゲームの変化にも順応し、テンポデッキの攻略へと進んでいきます。

多少の浮き沈みはあれど、多色ミッドレンジが活躍し続けている要因は強固なマナベースにあります。3色デッキとクァドラプルシンボルの共存を実現したマナ基盤があれば、メタゲームに合わせてどんなカードも採用可能です。ファストランドを得たことでその傾向は顕著となり、デッキから基本土地を締め出してしまうしまうほどでした。

ですが、現行のスタンダードの特殊土地はあまりに優秀過ぎました。白単ミッドレンジが狙ったのは、特殊土地のみで構築されていた多色ミッドレンジのマナベースだったのです。

廃墟の地解体爆破場

《廃墟の地》《解体爆破場》を用いた土地破壊戦略は、過度に特殊土地に頼ったマナベースへ壊滅的な打撃をあたえました。《永岩城の修繕》《セラの模範》で再利用することで相手の土地基盤は焦土と化し、何も残りません。レガシーと同じくスタンダードでも、「基本土地こそ最強の土地」となってしまったのです。

その後、多色ミッドレンジは基本土地を増やすことで、土地破壊戦略に耐性をつけています。

偉大なる統一者、アトラクサ放浪皇僧院の速槍敬慕される腐敗僧

現行のスタンダードは「ミッドレンジ vs. テンポ」の構図となっています。ですが、一口にミッドレンジといっても単色から5色までさまざまな選択肢があり、主戦略もボードコントロールやリアニメイト、土地破壊など多岐にわたります。テンポデッキにしてもサイドボードにプレインズウォーカーや英雄譚といった角度の異なる脅威を採用しており、対処する側も一筋縄ではいきません。

どのデッキも活躍できるだけのパワーを有しており、デッキ選択もさることながらメタゲームに合わせたチューニングが重要となっています。新デッキが構築され、さらに週替わりで細かくメタゲームが動くなど、近年のスタンダードのなかでも群を抜いて面白い環境でした。

続いては代表的なデッキを振り返っていきましょう。

代表的なデッキ紹介

《アトラクサ》デッキ

偉大なる統一者、アトラクサ

《偉大なる統一者、アトラクサ》のカードパワーの高さから、さまざまなデッキが構築されました。特にマナコストを支払うことなく直接墓地から戦場へ出す踏み倒し呪文は相性がよく、奇襲性の高いリアニメイト戦略へと組み込まれました。

ボロス招来

ボロス招来は、《鏡割りの寓話》などのカードを捨てる効果と《報復招来》などの墓地からパーマネントを戦場へ出す効果を組み合わせ、従来よりも早いターンに重い脅威を展開し、そのカードパワーでもってボードを制圧します。《大勝ち》のように宝物トークンを生成できるカードもあり、リアニメイト呪文に頼らず手札からプレイすることも可能です。

グリクシスリアニメイト

チャンピオンズカップファイナル サイクル2』ではグリクシスをベースに構築されており、《絶望招来》に代わるフィニッシャーとして《ギックスの残虐》+《偉大なる統一者、アトラクサ》のパッケージが取られています。リアニメイト一本槍のデッキと違いボードコントロールに長けており、相手のデッキによってはミッドレンジプランを優先していきます。

テンポ戦略に寄せて

《アトラクサ》デッキ登場後、打ち消し呪文や墓地対策を採用したミッドレンジが増加します。環境がミッドレンジ方向へと進み構築が重くなったことで、テンポ戦略にチャンスが巡ってきます。

赤単アグロ

赤単アグロは、序盤からクリーチャーでライフを攻めていく攻撃的なアーキタイプ。速攻付きのクリーチャーと直接ダメージ呪文の組み合わせにより、ほかのアグロと比べてもダメージ効率の優れたデッキです。使いまわせる《フェニックスの雛》《怪しげな統治者、スクイー》のおかげで攻め手が尽きることはなく、《血に飢えた敵対者》による呪文の使いまわしも可能です。

レジスタンスの火、コス

単色ながらサイドボードの《鏡割りの寓話》とプレインズウォーカーにより、対処手段の異なる攻め手が用意できるのも魅力のひとつ。サイドインされた《切り崩し》の裏をかくと同時に、中~長期戦を見据えています。《レジスタンスの火、コス》はアドバンテージ源と除去能力を有した使いやすいプレインズウォーカーであり、奥義までの到達スピードが早く、クロックの低いミッドレンジには効果的な1枚です。

機械化戦祭典壊し

また、《機械化戦》を採用したバーンタイプもあり、《祭典壊し》とセットで使うことでアグロマッチを有利に進められます。

アゾリウス兵士

アゾリウス兵士は1マナ域からクリーチャーを展開し続ける由緒正しき白系アグロ。《徴兵士官》《毅然たる援軍》から始まる軽量ビートダウンを《雄々しい古参兵》《包囲の古参兵》でバックアップしていきます。《徴兵士官》《天空射の士官》のおかげで中盤以降も手札が途切れる心配はありません。お互いにクリーチャーが並ぶ膠着した場面では《先兵の飛行士、ハービン》がフィニッシャーとなります。

微風の歩哨交渉団の保護

定番であった《スレイベンの守護者、サリア》を排除し、《微風の歩哨》《交渉団の保護》などのインスタントタイミングで使用できるカードが増えています。《スレイベンの守護者、サリア》は定着すれば強力な反面、後手番では対処されやすく自身もクリーチャー以外の呪文を採用しにくい弱点を抱えていました。

デッキ全体を軽いカードや瞬速を持つクリーチャーで構築することで、展開の際に生じる隙を最小限に抑えています。《交渉団の保護》《ギックスの残虐》《大群退治》のように対処すべきカードがはっきりしているマッチアップでは効果的です。

毒カウンター

「ミッドレンジ vs. テンポ」の構図となった『チャンピオンズカップファイナル サイクル2』ですが、その中心となったのは最新鋭のデッキでした。

セレズニアポイズンは「毒性」持ちクリーチャーのみで構築された毒勝ちを狙うビートダウンデッキ。メインボードは一部の土地を除いてすべて『ファイレクシア:完全なる統一』のカードであり、セットのコンセプトを前面に押し出したまったく新しいアーキタイプとなります。1マナ域から順次クリーチャーを展開して毒カウンターをあたえていき、中盤以降は《離反ダニ、スクレルヴ》の回避能力や《スクレルヴの巣》の数の暴力で勝利条件達成を狙います。

離反ダニ、スクレルヴタイヴァーの抵抗

安定した展開力を支えているのはコストパフォーマンスの優れた自衛手段です。《離反ダニ、スクレルヴ》は現代へと蘇りし《ルーンの母》であり、事前にプレイしておくことでほかのクリーチャーへ単体除去に対する耐性を付与してくれます。

戦場に《離反ダニ、スクレルヴ》がいなくとも安心はできません。緑マナさえあれば《タイヴァーの抵抗》が虎視眈々と出番をうかがっています。単なる除去に対するカウンターに終わらず、《敬慕される腐敗僧》とシナジーを形成したり、複数のクリーチャーにブロックされた《ふくれた汚染者》にプレイすることで無理矢理ダメージを貫通させるなど使い勝手の良い1枚となっています。

マナを縛って

エスパーレジェンズ

エスパーレジェンズはエスパーミッドレンジの中でもクリーチャーに寄せており、伝説クリーチャーを多用することで「魂力」土地などの恩恵を受けられるように構築されています。《英雄の公有地》+ファストランドのマナベースにより3色デッキながら、非常に安定した展開力が実現しています。《離反ダニ、スクレルヴ》《スレイベンの守護者、サリア》に守られたクリーチャー陣を《策謀の予見者、ラフィーン》で強化するビートダウンデッキです。

スレイベンの守護者、サリア婚礼の発表

こちらのデッキはエスパーレジェンズのなかでも非常に尖った構築であり、メインボードから《スレイベンの守護者、サリア》《婚礼の発表》が共存しています。《婚礼の発表》はクリーチャー主体の戦略に合致したカードでありながら、角度の異なる脅威となります。主に単体除去でボードコントロールしてくるグリクシスミッドレンジに効果的なカードであり、《スレイベンの守護者、サリア》が対処された際の二の矢となり、《策謀の予見者、ラフィーン》頼みだった3マナ域を埋めてくれています。

白単ミッドレンジ

白単ミッドレンジは《野心的な農場労働者》《婚礼の発表》のようなアドバンテージのとれるパーマネントを軸に構築されたデッキです。単体のサイズは小さくとも、1枚で複数のクリーチャートークンや手札を供給を生成してくれるカードが多いため単体除去で損をしにくく、時間をかけて強固なボードを築いていきます。速攻戦略をやや苦手としますが、《軍備放棄》《骨化》といった軽量除去がそろっており、《放浪皇》まで使って時間を稼いでいきます。

廃墟の地解体爆破場永岩城の修繕セラの模範

環境が多色化傾向にあり、基本土地の採用枚数が減っている点に着目して構築されたのがこちらの白単ミッドレンジです。《廃墟の地》《解体爆破場》による土地破壊戦略は色マナを枯渇させ、呪文をプレイすること自体を難しくしてしまいます。デッキから基本土地が枯渇すれば《廃墟の地》は一方的な《不毛の大地》となるのです。

序盤からマナベースを攻めていきますが、基本土地の採用枚数が増えていることもあり、8枚程度では足りません。そこで《永岩城の修繕》《セラの模範》を採用し、1枚のカードを使いまわせるように構築されています。マナ差が広がれば行動回数に差が生まれるため、少しずつですが確実に有利なボードとなっていきます。

おわりに

今回は『ファイレクシア:完全なる統一』期のスタンダードの総括をお届けしました。

メタゲームは毎週目まぐるしく動き、次から次へと登場し、そしてアップデートされるデッキはどれも興味深いものばかりでした。ミッドレンジの土地を巡る攻防は地味でしたが、狙いが明確であり、対抗すべく基本土地を増やすといったデッキの変化もわかりやすく、はたから見ていても面白いものでした。『機械兵団の進軍』リリース後も楽しみですね。

次回もスタンダードの情報をお届けしたいと思います。それでは!

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら