スタンダード情報局 vol.117 -グリクシスの希望の標-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは。富澤です。

前回は『機械兵団の進軍』からの新戦力を取り入れたデッキを紹介しました。《碑出告と開璃》シュートは近年では群を抜いて優秀なコンボであり、メタゲームに定着する可能性も十分にあります。どのような変遷をたどるのか楽しみなデッキのひとつです。

今回もMagic Onlineより、Standard Challengeの最新デッキをお届けします。

先週末の注目トピックは?

前回はアグロを中心にデッキパワーに振り切った構築が多くみられましたが、先週末の主役となったのはミッドレンジでした。アグロへ意識が傾いた結果、軽量単体除去を多用したラクドスやグリクシスミッドレンジが増加し、赤単やエスパーレジェンズは数を減らしています。

ラクドスやグリクシスに求められていたのはデッキ構築のバランスです。アグロを取りこぼさずに、それでいてミラーマッチや自身よりも重いコントロールにも対抗しなければなりません。注目が集まったのは1枚のプレインズウォーカーでした。

希望の標、チャンドラ

《希望の標、チャンドラ》はラクドスやグリクシスで増加傾向にあるプレインズウォーカーです。起動型能力もさることながら、強力な常在型能力を有しており、各ターンに一度《感電の反復》の恩恵にあずかれるのです。

喉首狙い削剥かき消し

たとえタップアウトで《希望の標、チャンドラ》が着地したとしても、[+2]能力を起動すれば2マナ以下の除去を即座にプレイし、2体のクリーチャーを対処できます。インスタントやソーサリーを多用するデッキでは起動型能力よりも常在型能力の影響が大きく、生存しているだけで勝敗を決する十分なパワーを秘めています。

原初の征服者、エターリ原初の病、エターリ

ミッドレンジやコントロールのフィニッシャーとして《原初の征服者、エターリ》《偉大なる統一者、アトラクサ》が活躍中ですが、デッキによって差別化が図れています。インスタントやソーサリーを軸にしたボードを捌いていく戦略にはほかの呪文とシナジーを形成する《希望の標、チャンドラ》のほうがフィットしています。

それでは大会結果をみていきましょう。

4/29(土):Standard Challenge

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 Venom1 白単ミッドレンジ
準優勝 katubuta グリクシスミッドレンジ
トップ4 pepeisra ボロスミッドレンジ
トップ4 Swiftclaw_ 赤単アグロ
トップ8 Tulio_Jaudy 白単コントロール
トップ8 solomonwolf ボロスミッドレンジ
トップ8 _IlNano_ グリクシスミッドレンジ
トップ8 trukanshii ラクドスミッドレンジ

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

4/29(土)に開催されたStandard Challengeは白単ミッドレンジを使用したVenom1選手が制しています。トップ8は白系とグリクシスがぶつかりあっており、現在のメタゲームを如実に表しています。

メタゲーム

デッキタイプ トップ32 トップ16
ラクドスミッドレンジ 8 4
グリクシスミッドレンジ 6 4
エスパーレジェンズ 3 1
白単ミッドレンジ 3 2
青単テンポ 2 0
ボロスミッドレンジ 2 2
その他 8 3
合計 32 16

アグロに対してガードを上げたラクドス-グリクシスミッドレンジが増加したことで、白系ミッドレンジは良ポジションとなっています。エスパーレジェンズや青単テンポなどテンポ寄りのデッキ選択もみられましたが、トップ16の結果からミッドレンジ側の対策は手厚くとられていたようです。

トップ8デッキリストはこちら

グリクシスミッドレンジ

グリクシスミッドレンジは単体除去や火力、打ち消し呪文でボードを平らにしていく捌きに重きをおいたアーキタイプです。2マナ以下の軽量インスタントを多用しており、テンポ良く対処しながら《鏡割りの寓話》《死体鑑定士》へ繋げてボードを切り返していきます。特定のカードに依存していないため構築の自由度が高く、メタゲームに合わせたカードチョイスが可能です。

希望の標、チャンドラ

グリクシスミッドレンジにおける新たなゴールとして設置された《希望の標、チャンドラ》。マナ加速、カードアドバンテージ、ボードコントロールの3要素を持ち合わせているプレインズウォーカーです。トークン生成などの自衛能力を持っておらず、ボードコントロール能力がマイナス起動、6マナとやや重いマナコストを考えると、《焦熱の交渉人、ヤヤ》《レジスタンスの火、コス》よりは使い勝手が悪いように思えます。

かき消しかき消し

ですが、《希望の標、チャンドラ》を非凡たらしめているのはその常在型能力にほかなりません。各ターンに1回インスタントやソーサリーをコピーできるため、カードとテンポの両面からアドバンテージへ直結します。《喉首狙い》《削剥》は当然として、「犠牲」コスト未払いの《かき消し》が4マナ要求になり確定カウンターといっても遜色ない効果となります。

絶望招来

軽量呪文で自身を守り、ターンが返ってきたらゲームを締めくくるフェイズへと進みます。グリクシスミッドレンジの定番である《絶望招来》をコピーできれば勝利は揺るぎません。ややオーバーキルですが、ボード、ライフ、手札で圧倒的リソース差を生み出してくれます。

これまで対白単ミッドレンジではボード構築を巡る駆け引きが焦点となっていました。クリーチャートークンやエンチャントなどのパーマネントを並べられてひとたび築城されると攻め切るのは困難を極めていましたが、《希望の標、チャンドラ》《絶望招来》のコンビネーションはそれすらも覆す破壊力を秘めています。

アゾリウスフラッシュ

アゾリウスフラッシュは白の軽量クリーチャーを青のインスタントトリックでサポートしていくビートダウンの一種。《徴兵士官》から展開していき、瞬速クリーチャーを絡め戦線を維持し、最終的に《輝かしい聖戦士、エーデリン》がフィニッシャーとなります。

《離反ダニ、スクレルヴ》《選定された平和の番人》など一部のクリーチャーはダメージソースと妨害要素を兼務しています。

アゾリウス兵士と似通った構築ですが、種族は統一されておらず、そのため《雄々しい古参兵》《先兵の飛行士、ハービン》などの強化カードは不採用となります。

フェアリーの黒幕

第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権の優勝者、高橋 優太選手がプレイヤー・スポットライト・カードになりました。レガシーやヴィンテージに続き、スタンダードでも活躍しています。

2マナと軽いためほかの呪文と併用して構えやすく、能動的にプレイするにしても瞬速によりほとんど隙を作りません。展開と妨害の両立を目指すフラッシュ系デッキにマッチしたデザインとなっています。序盤であればクロックとして、中盤以降は対戦相手の《鏡割りの寓話》のII章やメインで起動された《勢団の銀行破り》に合わせてプレイすることで、追加のカードをもたらしてくれます。

起動型能力はやや重いものの、この手のアーキタイプの弱点であった中盤以降の土地の引きすぎを緩和してくれます。

ゴバカーンへの侵攻光盾の陣列

《ゴバカーンへの侵攻》《精鋭呪文縛り》の「バトル」版といえる性能。対戦相手の手札をチェックすればその後のプランも立てやすくなるため、展開と妨害の両立を目指すフラッシュと相性の良いカードです。ほかの「バトル」よりも守備度が低く、「変身」させやすいのもポイントです。《ゴバカーンへの侵攻》で軽量除去やブロッカーとなるクリーチャーを追放しておき、その隙にライフや守備カウンターを減らしていきます。

基本的にフラッシュ系はクロックを打ち消し呪文で守る必要があり、手札やカードの有効範囲が切れる前にライフを削りきることを想定しています。しかし、このデッキでは先の《フェアリーの黒幕》に加えて、ボード強化と保護を兼ねた《光盾の陣列》により、中盤以降も戦える構築となっています。

救済の波濤

白いデッキのサイドボードに増えている《救済の波濤》は単体除去やプレイヤーを対象にとる効果へのカウンターとして機能します。クリーチャーの保護カードとしては《とんずら》《ロランの脱出》がありますが、このカードが優れているのは、クリーチャーへのダメージの発生源が黒や赤であればすべて軽減してくれる点にあります。グリクシスやラクドスがサイドインしてくる《兄弟仲の終焉》をわずか1マナで無効化してくれるのです。

4色レジェンズ

4色レジェンズは伝説のクリーチャーと土地をテーマにしたコンボデッキであり、エスパーレジェンズに《大スライム、スローグルク》をハイブリットした構築です。伝説クリーチャーを並べて《天上都市、大田原》などの「魂力」コストを引き下げつつ、「切削」や「謀議」、「サイクリング」付きの土地を用いて《大スライム、スローグルク》を育てていきます。

サリアとギトラグの怪物

《サリアとギトラグの怪物》は土地カードが多めのミッドレンジに適した伝説のクリーチャーコンビです。ダメージクロック、妨害、リソース補充と異なる役割をひとつにまとめたオーバーパワーなデザインであり、《黙示録、シェオルドレッド》に次ぐフィニッシャーの立ち位置となります。

序盤の《スレイベンの守護者、サリア》から《サリアとギトラグの怪物》へと繋げば、多色デッキとのマッチアップでは2ターン分の差が生まれることになります。現在、多色ミッドレンジが増加傾向にあるため、この常在型能力はメタゲームに合致した優秀な効果です。

マナ生成以外の用途があるとはいえ、構築上土地過多のデッキであり、リソース不足に陥ることもあります。以前は《策謀の予見者、ラフィーン》の「謀議」頼みでしたが、《サリアとギトラグの怪物》を採用したことで、追加のドローソースを獲得しています。

生ける治療、メリーラ

白系のレジェンズデッキでは《離反ダニ、スクレルヴ》《スレイベンの守護者、サリア》を駆使してボードを構築していきますが、同じ役割である《生ける治療、メリーラ》が追加されています。《切り崩し》の対処外であるためテンポ損しにくく、後続を守る避雷針となります。

マナに余裕があればあらかじめ《大スライム、スローグルク》を対象に能力を起動しておき、2枚目の《大スライム、スローグルク》をプレイすることで、一度に大量の土地を戻せます。劣勢の際に《天上都市、大田原》《皇国の地、永岩城》を確保し、ボードの巻き返しを図ります。

そのほかの大会結果

4/30(日):Standard Challenge

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 O_danielakos グリクシスミッドレンジ
準優勝 a.c.a.i_20006 バントコントロール
トップ4 Oderus Urungus 多色ランプ
トップ4 1337Waffles ラクドスミッドレンジ
トップ8 plaza23 エスパーミッドレンジ
トップ8 finnthewizard33 セレズニアポイズン
トップ8 David1987 ラクドスリアニメイト
トップ8 pepeisra ボロスミッドレンジ

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

4/30(日)に開催されたStandard Challengeはグリクシスミッドレンジを使用したO_danielakos選手が優勝を果たしました。《希望の標、チャンドラ》は不採用であり、《ヴェールのリリアナ》《刃とぐろの蛇》を採用した古典的な構築となります。

メタゲーム

デッキタイプ トップ32 トップ16
グリクシスミッドレンジ 8 3
ラクドスミッドレンジ 5 4
ジェスカイコントロール 3 0
エスパーレジェンズ 3 1
ラクドスリアニメイト 3 2
ボロスミッドレンジ 2 1
その他 8 5
合計 32 16

トップ16中そのほかが5つと、あらゆるデッキに可能性がある印象を受けます。トップ8には白をベースにした「版図」デッキが入賞していることからも、メタゲームはあれど構築は手探りが続いているようです。

トップ8デッキリストはこちら

おわりに

希望の標、チャンドラ

今回は新たなプレインズウォーカー《希望の標、チャンドラ》を中心にお送りしてきました。ラクドスやグリクシスミッドレンジにとっては、文字通り希望となるのでしょうか。

上位を見渡してもフラッシュや4色レジェンズ、多色ミッドレンジなどアーキタイプも多岐に渡っています。メタゲームが確立していない今だからこそ、さまざまはデッキにチャンスがあり、どのデッキが抜け出すのか気になるところです。

今週末にはプロツアー・機械兵団の進軍が控えていますね。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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