はじめに
みなさん、こんにちは。富澤です。
先週末には3回目となる『プレイヤーズコンベンション』が千葉にて開催されました。多くの方で賑わっている光景を目の当たりにすると、改めてテーブルトップイベントの良さを実感した次第です。紙って、いいですね。
そして、同イベント中に『チャンピオンズカップファイナル サイクル3』がパイオニアにて開催されました。プロツアーへの参加権利をかけた最後の関門であり、18個の枠をかけて競い合ったわけです。それはまさに宝の山、至高のデッキリストに溢れていました。
久しぶりのパイオニア情報局では、『チャンピオンズカップファイナル サイクル3』の大会結果をお届けします。
チャンピオンズカップファイナル サイクル3
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Alexander von Stange | 緑単信心 |
準優勝 | 小笠原 智明 | エニグマファイアーズ |
トップ4 | 村上 和弥 | グルール機体 |
トップ4 | 茂里 憲之 | アブザンパルへリオン |
トップ8 | 宮脇 猛 | アブザンパルへリオン |
トップ8 | 小原 裕一郎 | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | 吉越 久倫 | ティムール機体 |
トップ8 | 佐藤 レイ | ボロス召集 |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者228名で開催された『チャンピオンズカップファイナル サイクル3』を制したのは、緑単信心を使用したアレクサンダー・ヴォン・ステンジ/Alexander von Stange選手でした。
トップ8中ラクドスミッドレンジはわずか1名にとどまり、代わりにアブザンパルへリオン、エニグマファイアーズ、グルール機体などアンチラクドスデッキが多数を占める結果となりました。
小原 裕一郎選手のラクドスミッドレンジは、リソースを絞ることに特化した構築になっていました。3枚の《変わり谷》を含めて軽量のダメージソースを厚くとり、《思考囲い》と《強迫》で相手のゲームプランを崩しながら、早いターンでの決着を目指します。《ヴェールのリリアナ》はショートレンジのゲームプランにうってつけのプレインズウォーカーであり、相手の手札を絞り反撃の糸口を摘んでしまいます。
トップ8へ2名のプレイヤーを送り込むことに成功したアブザンパルへリオン。「切削」カード+《大牙勢団の総長、脂牙》から《パルヘリオンⅡ》を釣り上げる速攻13点パンチと、《大牙勢団の総長、脂牙》に頼らず《エシカの戦車》で押していくミッドレンジプランの2軸の攻めを持っています。コンボデッキでありながら相手によっては仕掛けずに攻めていけるのは、パイオニアを代表する万能手札破壊《思考囲い》のサポートがあればこそです。
メタゲームブレイクダウン
(編集者注:上記の表はラストチャンストライアルで権利を獲得した4名分のデッキを含みます。)
事前の予想を裏切ることなく、ラクドスミッドレンジがトップメタでした。次点には緑単信心、アゾリウスコントロールとデッキパワーが高く、人気のデッキが続きます。
意外だったのは4番手の白単人間。こちらは対ラクドスミッドレンジを意識した呪文デッキやコンボデッキを狩りにいった形です。誤算を上げるとすればややラクドスサクリファイスが多かった点でしょう。小型クリーチャーでボードを作るアグロデッキにとって、ラクドスサクリファイスは天敵であり、2日目では使用率が下がっています。
2日目進出率という観点では、ラクドスサクリファイス、アゾリウスロータス、ボロス召集の3デッキが頭一つ抜けた数値となっています。
トップ8デッキリストはこちら。
緑単信心
緑単信心はマナクリーチャーを活用し、早期にコストの大きな呪文へと繋げるランプデッキ。シンボルの濃いカードをボードへと展開し、「信心」を稼ぐことで《ニクスの祭殿、ニクソス》から爆発的なマナへと変換します。また、《ビヒモスを招く者、キオーラ》と《大いなる創造者、カーン》を使った無限マナパッケージもあるなど攻め手が多彩なアーキタイプです。
新顔は《ポルクラノスの再誕》と《イクサランへの侵攻》の2種類。前者は《老樹林のトロール》と同じ3マナのトリプルシンボルクリーチャーであり、4/5と破格のスタッツに加えて「信心」を稼いでくれます。これまで弱点であった上空にも睨みを利かしてスピリットや天使を止めつつ、《エシカの戦車》などの中軸の攻撃すら許しません。
《イクサランへの侵攻》は5枚目の《ニッサの誓い》にして、緑の《衝動》と呼ぶべきカードであり、《収穫祭の襲撃》以外のすべてにアクセスできます。《茨の騎兵》や《老樹林のトロール》など引き込み、「信心」が稼ぎやすくなっています。
緑単信心といえばサイドボードにおける《大いなる創造者、カーン》のシルバーバレット戦略ですが、ここにもスパイスが加えられています。《金線の酒杯》はボロス召集などのトークン戦略に睨みを利かすカードであるほか、軽量パーマネントにも効果があります。実際、決勝戦では2枚の《岩への繋ぎ止め》を割る活躍を見せました。
《石の脳》はコンボデッキ対策であり、キーカードをデッキから抜きコンボ自体を瓦解させます。《イクサランへの侵攻》が加わったことで、以前よりも安定して《大いなる創造者、カーン》へ繋がるようになっています。無限マナの注ぎ先でもあり、追放領域から繰り返し《大いなる創造者、カーン》で持ってくることで、相手のデッキを根こそぎ消滅させてしまいます。
ティムール機体
ティムール機体はマナクリーチャーから機体へと繋げ、その性能でもってボードを制圧してしまうミッドレンジ戦略です。《エシカの戦車》と《領事の旗艦、スカイソブリン》は出た瞬間からボードへ影響を及ぼし、さらに攻撃することで差を広げていきます。着地から攻撃までのラグを消す《無謀な嵐探し》の存在がデッキの完成度を高めています。
機体と《アクロス戦争》によりボードで優位に立ち続けることを主眼においたデッキであり、アンチラクドスミッドレンジデッキとなります。デッキに足された3色目からは青のお家芸の打ち消し呪文が採用されています。
対ラクドスミッドレンジに特化している一方で、コンボデッキを苦手としていたグルール機体。ボードへの干渉力と圧力は強いものの、カラーの性質上、ほかの領域への干渉手段が欠けていました。そのため、《エンバレスの宝剣》を使い、無理矢理ショートレンジのダメージレースにて決着を試みるしかありませんでした。その弱点を克服したのがティムール機体なのです。
青を足すことでメインとサイドに打ち消し呪文を散らし、苦手としていたコンボやコントロールとの相性を劇的に変化させています。《頑固な否認》は「獰猛」を満たせば、あらゆる非クリーチャー呪文をわずか1マナで対処してくれます。構えやすく、それでいてテンポ面で大きなリターンを稼いでくれるのです。
「獰猛」の条件を満たすのは《砕骨の巨人》や《エシカの戦車》など14枚のカード。最大限のリターンを得るためにもこれらを素早く定着させる必要があります。
目新しいカードでは《ヴォルダーレンの興奮探し》があげられます。《ヴォルダーレンの興奮探し》は機体デッキが得た新たな脅威であり、「賛助」により自他へ+1/+1カウンターと《投げ飛ばし》効果を付与します。3/3と最低限のスタッツを持ちながら、ときには《恋煩いの野獣》を7点×2の瞬間火力へと変換します。メインボードに欠けていた最後の数点を削りきる手段を手にしたのです。
ボロス召集
ボロス召集はその名の通りクリーチャーを並べて「召集」コストを稼ぎ、早期に《イーオスの遍歴の騎士》や《敬慕されるロクソドン》を展開するデッキです。その展開力はパイオニア随一であり、単体除去で対処するのは難しく、早ければ2ターン目にこれらの「召集」クリーチャーが出てくるほど。
爆発力こそ魅力な反面、単体のサイズは1/1前後とプレッシャーに欠けるものばかりです。マリガンを絡めてしっかりとキーカードを引き込む必要があります。
爆発的な展開力を支えているのが《上機嫌の解体》です。1マナで3体のトークンを生成するため、2ターン目の《敬慕されるロクソドン》や《イーオスの遍歴の騎士》を実現するキーカードとなります。
コストには12枚のカードが用意されており、《羽ばたき飛行機械》ならば1ターン目に3体、《スレイベンの検査官》ならば2ターン目に4体分のクリーチャーを確保でき、少ないマナで一気に頭数を増やせます。
ボードへクリーチャーを用意したら《敬慕されるロクソドン》と《イーオスの遍歴の騎士》の出番です。「召集」コストにあてることで前者はボード強化を、後者は《敬慕されるロクソドン》や《無謀な奇襲隊》など直接的な戦力を補充してくれます。《イーオスの遍歴の騎士》の加入によりフィニッシャーへと安定して繋がるようになり、このデッキは完成に至ったのです。
プロツアー権利獲得ラインを探る
冒頭で述べた通り『チャンピオンズカップファイナル サイクル3』では、トップ8に加えて上位18名にプロツアーへの参加権利が与えられます。以下はプロツアーへの権利を獲得した18名のデッキタイプになります。
デッキタイプ | 使用者数 |
---|---|
ラクドスミッドレンジ | 3 |
緑単信心 | 2 |
アブザンパルへリオン | 2 |
イゼット独創力 | 2 |
ラクドスサクリファイス | 2 |
アゾリウスコントロール | 1 |
エニグマファイアーズ | 1 |
グルール機体 | 1 |
アゾリウスロータス | 1 |
ボロス召集 | 1 |
ティムール機体 | 1 |
黒単ミッドレンジ | 1 |
合計 | 18 |
9位~18位のデッキに注目
トップ8を逃したなかにも、注目すべきデッキはあります。複数名権利を獲得していたのはラクドスミッドレンジ、緑単信心、アブザンパルへリオン、イゼット独創力、ラクドスサクリファイスの5アーキタイプ。機体戦略2つを含め、アンチラクドスミッドレンジが成功したことになります。
ラクドスサクリファイスは「生け贄に捧げることでメリットを生むカード」と「それらを生け贄に捧げるためのカード(以下、サクリ台)」を組み合わせてデッキを循環させていきます。わずか1マナの《初子さらい》はテンポよくクリーチャーを奪い、サクリ台である《命取りの論争》や《魔女のかまど》でリソースへと変換します。これらのカードに加えて、横に《波乱の悪魔》がいればパーマネントを生け贄に捧げるたびにダメージが誘発し、ボードは一掃されてしまうというわけです。
単体除去が機能しにくく、《黙示録、シェオルドレッド》以外のクリーチャーはすべて《初子さらい》の対象となってしまいます。リソースを伸ばすカードが多く、手札も尽きません。ボードを捌きながら有利な立ち回りを目指すラクドスミッドレンジとしては、非常にやりにくい相手となります。
イゼット独創力はクリーチャーかアーティファクトのトークンへ《不屈の独創力》をプレイし、4~5マナで大型クリーチャーを呼び出す踏み倒しコンボの一種です。
フィニッシャーは《世界棘のワーム》と《歓楽の神、ゼナゴス》を使ったワンショット型、《偉大なる統一者、アトラクサ》のアドバンテージで押しつぶすアトラクサ型、《マグマ・オパス》+《奔流の機械巨人》によるボード制圧を目指すオパス型に分類されます。
もともとは手札破壊以外で妨害できないワンショット型が有名でしたが、メタゲームが変化してほかのアーキタイプの数が増えたことで、アドバンテージ勝負やミッドレンジプランを持つオパス型に人気が集まるようになりました。
実際権利を獲得したのはアトラクサ型とオパス型が1名ずつでした。前者は《偉大なる統一者、アトラクサ》によるダメージレースと圧倒的なアドバンテージを軸に構築されています。フリースロットが多く、ドローや火力、《サメ台風》を採用できるのが魅力です。
後者は瞬間的にボードを制圧し、手札も補充してくれます。カードアドバンテージ面では《偉大なる統一者、アトラクサ》に劣りますが、ボードでやりとりをする対クリーチャー戦では《マグマ・オパス》のあるこちらに軍配が上がります。コンボには《マグマ・オパス》が墓地ある必要があり、一部の墓地対策を苦手としています。
いずれのデッキも、仮想敵であるラクドスミッドレンジを強く睨んだ構築となっていることがわかりますね。
おわりに
今回は『チャンピオンズカップファイナル サイクル3』の結果を中心にご紹介しました。ラクドスミッドレンジの人気に陰りなしと言いたいところですが、あらゆるデッキから目の敵にされてしまい包囲網を築かれてしまっています。今までと同様にいかず、勝ち切るのは至難の業となっているようです。今後はどのようなメタゲームの変遷をたどるのでしょうか。
チャンピオンズカップファイナルが終わったことでこれでパイオニアも一区切り、といきたいところですが、現在開催中の『チャンピオンズカップ シーズン2 サイクル1』の予選フォーマットもなんとパイオニアです。戦士たちに休息なく、パイオニアでの戦いは続きます。