《一つの指輪》がモダンにもたらしたもの

Piotr Glogowski

Translated by Riku Endo

原文はこちら
(掲載日 2023/07/08)

はじめに

プロツアー・バルセロナは、私にとって悲しさとわくわくが入り混じったものになりそうです。アテネの地域チャンピオンシップで十分な結果を残せなかったことで参加資格を得られず、この6年間で初めてプロツアーレベルのイベントをスキップすることになってしまったからです。

競技レベルでモダンをプレイすることがずっと好きでしたし、今回も楽しみにしていました。MPLの制度があったときは、モダンで競う機会は多くはありませんでしたから、なおさら楽しみにしていたのです。ただ出場できないとはいえ、大会を追ってメタゲームを解き明かすことにわくわくしています。

『指輪物語:中つ国の伝承』はモダン向けのセットで、最初はあまりパッとしない印象でしたが、このセットはモダンを席巻しているようです。それも原因となっているのは、たった1枚カードなのです。

《一つの指輪》

The One Ring

『指輪物語:中つ国の伝承』でモダンへ追加されたもっとも強力なカードとして、《一つの指輪》ほどふさわしいものは思いつきません。多少フレーバーに欠けるのは、このカードがゲームにおいて実際どのように使われているかということです。

指輪によるライフロスは必ずしも無視できるものではないのですが、優秀なのはそれが遅れてやってくるという点です。指輪の効果ですぐにドローをしても、ライフロスが起きるのは次のアップキープのときのみです。つまり、新たに3枚のカードを得るのは1点支払えばいいだけで、6枚得るには3点支払えばいいだけなのです!

どれだけ重荷カウンターがあなたにダメージを与えても、プロテクションのおかげでそれ以上にダメージを軽減できることも少なくありません。そればかりか、蓄積した重荷カウンターによってダメージを追いすぎないための確実でベストな手段もあります。そう、2枚目の《一つの指輪》をプレイすればいいのです。レジェンドルールによって重荷カウンターの乗った指輪を墓地において、さらにもう1ターンプロテクション得ることができます。そういった意味で、《一つの指輪》の「伝説の」という特殊タイプは利点になっているのです。

覆いを割く者、ナーセット大魔導師の魔除け

《一つの指輪》は伝統的なドロースペルを伴った戦い方をも否定します。通常であれば、比較的大きなカードアドバンテージを得ようとするターンというのは、そのプレイヤーにとって最も無防備なターンとなるはずです。しかし、《一つの指輪》戦場に出たときのプロテクションで時間を稼ぎながら、新たなカードを引き込むことができるのです。そのたった1つの能力が、特にハンマータイムのように、スタック上で相手に干渉する手段をほとんど持たず、マナアドバンテージを利用して細い勝ち筋を見出すデッキにとっては大打撃となっているのです。

指輪に誘惑されたデッキ

真珠三叉矛の達人衝撃の足音僧院の速槍

《一つの指輪》が無色であることから、どうやらモダンプレイヤーは採用できそうなすべてのアーキタイプにこのカードを入れるほどのところまで来ています。マーフォーク、カスケードクラッシュ、赤単果敢でさえ指輪入りのものを目にしましたが、ある1つのデッキがもっとも自然でなじむ場所であるようです。

4色オムナス

レンと六番創造の座、オムナス時を解す者、テフェリー

私は概して相手の行動にリアクションを取ることに大きな比重を置いたミッドレンジに対して懐疑的ですが、種類の異なる4色オムナスが最近行われた週末のモダンチャレンジで4回の内3回優勝しています。

この支配的な状況は、カードの利用可能数の問題によりまだ抑えられているほうです。現在、MOは深刻な《一つの指輪》不足に直面しており、その値段も不当なほどに上がっています。オールアクセストークンが先週マジックオンラインで発売されたことにより、近いうちにさらに多くの4色デッキを目にすることでしょう。

《空を放浪するもの、ヨーリオン》の禁止は4色デッキに穴ができてしまいした。常に存在してくれるようなカードアドバンテージ源がないと非常にフラッドしやすく、長期戦を戦おうとするこのデッキにとっては致命的でした。《一つの指輪》は、そこへついに現れたアドバンテージを生み出すカードなのです。一度場に定着してしまえば供給してくれる大量のリソースによって勝利は確実なものとなります。

《一つの指輪》《創造の座、オムナス》のマナを生み出す能力とライフゲインととても相性が良く、《孤独》とそれほど頻繁ではないですが《激情》を攻撃的にピッチスペルとして唱えやすくしてくれます。《一つの指輪》のすべてがデッキにとても合っているのです。

このデッキリストでは、Harry13は主として終始ミッドレンジデッキとして立ち回ることをメインプランとしていて、カスケードクラッシュやトロン、あらゆるコンボデッキに対する対策カードがサイドボードに依然として入っています。

Delighted HalflingTeferi, Time Raveler

また、彼はこのアーキタイプが新たに手に入れた《喜ぶハーフリング》から《時を解す者、テフェリー》へとつなぐワンツーパンチを採用しています。これには《否定の力》でさえ対処できないので、リビングエンドやカスケードクラッシュといったデッキに対して文字通り壊滅的な一手となります。

同様に《喜ぶハーフリング》は、《対抗呪文》をあからさまに構えてパスしたがるようなあらゆるデッキに対して即座に対応を迫ります。除去できなければ、打ち消すことのできない脅威によって大変な目にあうことを覚悟しなければなりません。

アゾリウスコントロール

McWinSauceのリストはよりアゾリウスコントロール寄りの構築で、《喜ぶハーフリング》の採用を控える代わりに打ち消し呪文やメインから《虚空の杯》を採用しています。

ゼイゴスのトライオーム力線の束縛

こういった最近の結果を見ると、本当に多くの4色デッキのバリエーションがあるのですが、そのなかでもよく目にする新たな定番なのは、トライオームで黒をタッチして《力線の束縛》を使っている形です。《力線の束縛》は破壊不能をもつ《一つの指輪》へのきれいな解答となる数少ない除去呪文の1つなので、これは理にかなっています。この新たな脅威がある状況では、《稲妻》《虹色の終焉》の昔ながらの組み合わせは当てにならないのです。

覚えておくべき重要なルールとして、《一つの指輪》のタップ能力は重荷カウンターを乗せてから、そのあとにカウンターの数の分ドローするということです。《力線の束縛》で指輪をその能力のスタック上で追放すると、新たに重荷カウンターが加えられることはありません。こちらから《力線の束縛》を先に使わずに辛抱強く待てば、指輪を1対1でトレードすることが可能なのです。

トロン

解放された者、カーン

トロンデッキもまた過去数年間より注目を浴びています。結局のところ《一つの指輪》はマナコストの重い無色カードですし、メタゲームが動いてくなかで《解放された者、カーン》はかつてとは違う評価になってきています。

私の個人的な経験則では《一つの指輪》はトロンと組み合わせるのがベストだとはそれほど思わないのですが、十分に脅威ではあり、たったの4マナというのは《耐え抜くもの、母聖樹》によって土地が崩壊したときでもまったく問題なく唱えられます。指輪がその後もドローをもたらして、もう一度トロンを完成させるのを助けてくれるでしょう。

大いなる創造者、カーン

《大いなる創造者、カーン》は今のメタゲームにおいてとても効果的です。コンボデッキを止め、相手の《一つの指輪》を使えなくするだけではなく、ときにはあなたの指輪を破壊不能の4/4にしてしまうのですから!

トロンについていえるもう1つの素晴らしい点は、4色デッキに対して有利なデッキだということです。4色デッキ側は、トロンの脅威に対して太刀打ちするための打ち消し呪文や《耐え抜くもの、母聖樹》といった多くの対策カードが必要になります。特に《大いなる創造者、カーン》からアクセスできる《隔離するタイタン》は非常に有効です。

リビングエンド

最後になりますが、メジャーデッキのなかで新セットによって変化がもたらされているのがリビングエンドです。通常、リビングエンドはとてつもなくパワフルだという見方をされているものの、対策を取るのも簡単で、それは《気前のよいエント》《オリファント》といった新たな土地サイクルを得た後も変わっていません。

Generous EntOliphaunt

ただ、この2枚はリビングエンドの安定性において非常に大きなアップグレードとなっています。土地と入れ替えることで土地を14~15枚まで切り詰めることができ、これによってフラッドしたり、墓地にいるクリーチャーが少なくて《死せる生》が効果的に使えないまま抱え続けるといった機能不全に陥ることがはるかに少なくなります。

そして、そのスタッツも非常に良いのです!《オリファント》は効果込みで合計8点分のトランプルを誇り、《気前のよいエント》は到達とライフゲインによって容易にダメージレースに影響を及ぼします。

依然として対策をされることはありますが、従来よりもしたい動きを安定して通せるようになっているのです。また《一つの指輪》の入ったデッキが本来望むような試合展開でも無理なく戦うことのできるデッキでもあり、《一つの指輪》をただの枷にもしてしまうことができます。圧倒的な盤面の前では、1ターンのプロテクションは大きな意味をなさないのです。

縞カワヘビ緻密

個人的に気になっている構築は、モダンチャレンジではあまり見られていないのですが、土地サイクリングによってできた枠をより相手への干渉手段に割いているものです。先に述べた通り、《喜ぶハーフリング》から繋がる《時を解す者、テフェリー》はリビングエンドにとって厄介です。この動きに対抗するために、私が最近遊んでいるリストでは《縞カワヘビ》を完全に抜いて、メインから《緻密》を入れています。

力線の束縛インダサのトライオーム

サイドボードの《力線の束縛》《インダサのトライオーム》のパッケージは自信のない部分です。それぞれ4枚採用している《霧深い雨林》《気前のよいエント》でトライオームを探すのは比較的容易です。対策カードへの解答は幅広いですが、サイド後には《秘法の管理者》《力線の束縛》《厚かましい借り手》《忍耐》《緻密》をハードキャストで唱える疑似的な瞬速プランで何度か勝つことができました。自信をもってオススメできる方法ではありませんけどね。


『指輪物語:中つ国の伝承』が今後このフォーマットにどのような影響を与えていくのかとてもワクワクしていますし、プロツアー・バルセロナに参加する競技者によって新たな発展が見られるのを心待ちにしています!

ピオトル・グロゴゥスキ (Twitter / Twitch / Youtube)

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Piotr Glogowski マジック・オンライン上でkanisterとしてその名を轟かせ、Twitchの配信者としても人気を博す若きポーランドの雄。 2017-2018シーズンにはその才能を一気に開花させ、プロツアー『イクサラン』でトップ8を入賞すると続くワールド・マジック・カップ2017でも準優勝を記録。 その後もコンスタントに結果を残し、プラチナ・レベル・プロとしてHareruya Prosに加入した。 Piotr Glogowskiの記事はこちら