プロツアー連続トップ8! ~チームとそろえるウルザトロン~

Javier Dominguez

Translated by Riku Endo & Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2023/08/10)

はじめに

やぁ、みんな!

トップ8フィニッシュをしたこの前の『プロツアー・機械兵団の進軍』の後、残りのシーズンはよりリラックスできるものになりそうだと感じていた。続く2つのプロツアーと世界選手権への参加資格を得ていたからだ。2019年にも同じような感覚があり、プレッシャーがより少ないことで準備を十分にできずに結果も奮わないのではないかという心配があった。

結果からみれば、これは杞憂だったのかもしれない。プロツアー・指輪物語』でまたトップ8入りをできたのだから!

プロツアーハウスについて

プロツアーハウスについては簡単に触れたことは以前もあったけど、僕自身がどう考えているかについては実際のところあまり語ったことがなかったね。今回のプロツアーも前回に引き続き強力なチームである「Team Handshake」とともに調整したのだけど、今回は少し異なる部分もあった。バルセロナは幾分有名な観光地で、チーム内のアメリカ人たちが大会前に観光したがっていたので、今回はチームメンバー全員が調整用の家に集まって何日間か時間を過ごした。

実際に集まる前にも多くのマッチアップについて研究することができて、情報共有もスムーズだったので、オンライン上での調整作業も実のところ上手くいっていたと思う。けれども、個人的な見解では、調整するための家(プロツアーハウス)こそ魔法(Magic)が起きる場所だと感じている。

この点については自分が多少古いタイプの人間だからバイアスがかかっているかもしれないということは分かっている。1日中同じタスクについて集中して取り組む中で、個々人の間で生まれるポジティブな化学反応が合わさることで、チームがフォーマットやデッキに対する理解について非常に高いレベルに達することができるというのが僕の印象だ。

楽しむこと、そしてそういった時間を一緒に過ごすことで、より生産的になれると本当に思っているんだ。

また、いくらか紙でドラフトをすることもできた。この点では僕は構築のときほど古い考えは持っておらず、紙のドラフトは少し過大評価されていると感じている。実際にカードに触れるのは良いことだと思うから数回やるのは好きだけど、時間がとてもかかるし、リミテッドに関する研究の大部分は先に済ませて、構築に割く時間をより多くとるべきだ。紙のドラフトがあまり好きじゃない人もいれば、大好きな人もいる。好みによるところだろう。

リミテッド

今回のプロツア―全体の感想はX(Twitter)に投稿した所感で話している。

そこで、そのほかのことと合わせて、プロツアーのドラフト部門に向けた練習がやや準備不足だったことについてどう感じているかを語っている。『指輪物語:中つ国の伝承』のリミテッドはプレイングの観点から見て非常に複雑で、かなり小さなミスのせいで何度も負けていることに気づいた。早い段階から1日2回くらいドラフトをやってみて、自分がどのように感じるか見てみようと決めていたのだ。どのアンコモンも十分に試すことができたので、おそらく試行回数は十分だっただろうとは思うが、すべてのレアを使ってみるには不十分だった。

チームの確かな結論はほかのみんなと似ていて、すべてのベストコモンを持ち合わせている黒がダントツのベストカラーだということだ。

Claim the PreciousDunland Crebain

ベストコモンがそろっているだけでは十分ではないとしても、黒は本当に層が厚く、いずれのコモンもある程度はプレイアブルで、アンコモンの大多数も最高の部類に入る。

黒以外だと、赤も良い色で青と白はただただプレイアブルな色だ。多くのプレイヤーは緑が最弱だと考えていて、これが一般的な色別で見たこのドラフトの全体像だ。

『プロツアー・機械兵団の進軍』を振り返った記事の中で僕は、そのドラフトでは白が好きじゃない色だと言ったうえで「まったくの予想通り、結局2回白をドラフトした。」と言うに至った。さて、みんななら今回のドラフトでどうなるか分かるよね?

そう、2回このプロツアーで緑白と別の色をタッチしたデッキをドラフトで使った。結果は5-1だ。実際のところ、ほかの色と比べても緑はそんなに悪いとは感じなかったけど、しっかりとした黒のデッキが組めていたなら間違いなくもっとハッピーだっただろう。

人の子の女王、アルウェン統一王、アラゴルン

ハイライトは2回目のドラフトで《人の子の女王、アルウェン》《統一王、アラゴルン》を3ターン目と4ターン目にマナカーブ通りにプレイできたことかな!

『指輪物語:中つ国の伝承』のドラフトは『機械兵団の進軍』よりもプレイした。最大の理由は今回のチームにより多くの時間があったからだけど、たとえ前回のプロツア―と同じくらいしか時間がなかったとしても、前回よりはドラフトを多くプレイしていただろう。「指輪があなたを誘惑する」のメカニズムはプレイするにも評価するにも極めて難しく、結果としてこのフォーマット全体をかなり複雑なものにしていたからだ。

最終的には、何枚かのあるカードについて評価する際にはチームメイトを信じて頼った。「指輪があなたを誘惑する」のメカニズムは結局それほど気に入りはしなかったけど、調整の最後数日間はよりチームメイトたちがしていたようにドラフトをするようにしてみて、それが功を奏したと思う。

ドラフトを前回と同じく5-1できて、自分のリミテッドの出来にはとても満足している。結果が同じだからと言って前回から進歩がなかったというわけじゃない。今後は、調整段階の少し早い段階からほかの人のドラフトを多少マネてみようと思っている。

誕生日の旅立ち

リミテッドフォーマットに対する好きなアプローチの方法は、まずそのフォーマットに対して自分の考えが持てるくらいにプレイしてみて、それからほかの人たちと話して比較してみる、というやり方だ。今回は残された時間をちゃんと把握できていなかったために、《誕生日の旅立ち》のようなとても強力なのにずっと過小評価してしまっていたカードを試す時間を十分に得られなかった。

構築

大会1週間前にチームで集まるまでは、プロツアーに提出するデッキがどれになるか分からなかった。たいていはそのころまでに1つか2つに候補を絞ろうとするが、モダンではデッキ選択がとても難しく、細部によって選択を左右されるように感じた。

以下が調整と研究の日々を終えてチームメンバーのほとんどが選択したデッキのリストだ。

トロンをプレイする決断は容易なことではなかった。僕にとってそうであったし、確実にチームのほかの何人かのプレイヤーにとってもそうだった。トロンはゲーム内のプレイ選択ではなく、自分のドローがどれほど強かったかによって頻繁に勝敗が決まってしまうから「運要素の強いデッキ」とも言える。腕に覚えのあるプレイヤーたちにとって、こういった本来持てるはずの技術的な面でのアドバンテージがなくなってしまうかもしれないようなデッキのプレイに気乗りしないというのは普通なことだ。

個人的にはこの種の考え方は誇張されていると思う。けれどもまったくないというのも賢明じゃない。今回のケースについていえば、トロンをプレイする明確な理由が必要で、僕たちにはそれがあった。

衝撃の足音ウルザの塔

研究段階を終えたのち、異なるデッキをいくつか試した。1つはカスケードクラッシュで、大会で倒すべきラクドス想起に有利なことからチームの多数が気に入っていた。けれども、対トロンが期待していたよりもはるかに不利だった。多くのデッキを試してみるなかで、ラクドスを対峙したときを除いて、トロンは手ごわい強敵であり続けた。

ある時点で、もしトロンをラクドスともまともに戦えるようにできれば、素晴らしいデッキになることが明らかになったのだ。

僕は長い間トロン愛好家で、グランプリレベルでのプレイ経験もある。使っていて楽しいデッキで、デッキパワーの高さ的にとても良いとは思えないときでもあちこちで使っている。

四肢切断湧き出る源、ジェガンサ

このアーキタイプの《四肢切断》はずっと気に入っていたカードで、何試合かした後にまさに必要としているものだと感じた。しかし、《四肢切断》を採用するのは《湧き出る源、ジェガンサ》を諦めるということだ。

マナは大量に生み出すことができるからほとんど確実に唱えられて、タダ同然の《湧き出る源、ジェガンサ》はトロンにおいて強力な1枚だ。理論上はすべての消耗戦を改善してくれて、いつでもアクセスできる5/5はゲームにインパクトをもたらしてくれるはずだが、実際はその通りには機能しなかった。とりわけ、本来ならもっとも効果的であると期待していた対カスケードクラッシュとラクドスにおいて、ゲームが《湧き出る源、ジェガンサ》を唱えられるようになる前に勝敗が決してしまうことがよくあった。

研究段階の数試合で、《湧き出る源、ジェガンサ》をプレイするのを忘れてしまうことまであった。チームメイトの1人に「良いカードなら忘れないはずだし、忘れるということは重要じゃないってことだ」と指摘され、彼の言う通りだと感じた。《湧き出る源、ジェガンサ》には長所もあるけど、《四肢切断》のほうが強く感じたのだ。

反発のタリスマンファイレクシアの変形者歪める嘆き

このデッキリストには、《反発のタリスマン》のようにデッキの機能を改善する目的で1枚採用のカードがたくさん入っている。いつもと同じく、何が正しかったかを知るというのは難しい。僕がこのデッキリストについて気に入っているのは、チームのほぼ全員がこのデッキの調整に取り組んで、その結果が実際のところ直接的にデッキの最終形に影響を及ぼしているところだ。このデッキはチーム全員によって作り上げられたリストなんだ。

《ファイレクシアの変形者》《歪める嘆き》といった1枚採用のカードの多くが、それぞれ別のメンバーによってデッキに加えられた。デッキは数人の手によって作られて、それをほかのプレイヤーが採用するという場合がほとんどだが、今回はほぼ全員が何かを加えて最終構成ができたように感じた。

ウルザの物語

とは言うものの、大きな改善となったのは《ウルザの物語》だろう。

トロンにとって《ウルザの物語》を使えるということは、メインからこちらに干渉しようとしてくるデッキに対してミッドレンジのゲームを挑めるということだ。このカードの大きな欠点は《血染めの月》系の効果に弱いことなので、連続でプレイする場合は気をつけたほうがいい。

塵への崩壊対抗呪文

そういった効果のカードがないなら、2枚の《ウルザの物語》《森の占術》&《探検の地図》の計7枚の土地サーチによって、トロンは《塵への崩壊》や複数枚の《対抗呪文》を使われても勝ててしまう。

《ウルザの物語》が1枚あれば効果で《探検の地図》を持ってきて、それによって2枚目の《ウルザの物語》を持って来ることができる。このように、たった1枚の《ウルザの物語》があるだけで最大4体のトークンを得られ、これだけでも十分試合を終わらせることができるのだ。

ちょっと待ってハビエル、7枚の土地サーチって言った?

ああ、《森の占術》は3枚だからね。なんでかって?

もっと言えば、なんで4枚じゃないのかって言いたいんだよね?

森の占術

公式カバレージで述べたデッキ解説の通り、チームのアプローチはトロンを微調整することじゃなかった。トロンを新しいアーキタイプとしてゼロから組み上げることだったんだ。《一つの指輪》がとてつもなく強力であることは分かっていた。だからこそ、昔ながらの考え方でトロンを組むのはもはや正しくないんじゃないかと疑問を抱いた。

一つの指輪大いなる創造者、カーン

2013年ごろのトロンの構築を見てみると、《大いなる創造者、カーン》以外の部分では、今の僕たちの持っている考えとほとんど同じ考えを持っているのが見て取れる。だが今は、《大いなる創造者、カーン》《一つの指輪》の両方が組み合わさったことで、デッキのコアがかつてのトロンとは異なっている。またウルザランドのセットがなくても唱えられるこれら2つのボムによって、試合自体の展開も異なる。

思うに、この2023年にトロンを正しく組むのに2013年のトロンの組み方を必ずしも信じる必要はないだろう。こうして僕たちはデッキのすべてのスロットに疑問を投げかけていった。ほぼすべてのキャントリップやアーキタイプを成立させるカードも含めて検討したんだ。

《探検の地図》を減らすことは一度も考えなかったけれど、すべてが検討の対象だった。ほとんどのチームメイトがとにかく4枚採用していた《森の占術》も根拠もなく何枚か減らしてみたりもした。結果的に3枚になったことから見て、これはTeam Handshakeのメンバーたちがいかに柔軟であるかを表している。

大会では、僕たちのトロンは非常にいい位置にいるように感じた。トップ8に入った大会について話す中でこう言うのが簡単なことなのは分かっている。けれども自分がトップ8に入ったほかのモダンのプロツアーと比べても、違いをしっかりと感じていた。

創造の座、オムナス悲嘆死の国からの脱出

今回の大きな違いは、ラクドスのような相性が悪いマッチアップがある一方で、4色オムナスのような大会でもっとも使われていたデッキたちに対して相性が良かったことだ。ラクドスに関しては、依然として運もある程度必要ではあるがまともに戦えるようにはなっていた。僕はというと、対ラクドスで重要なダイスロールにも運良く勝つことができて、大会全体を通して考えていたプランが機能していた。

トロンの性質上、4色オムナスと同様に多少の干渉手段が大きな問題になるジェスカイブリーチのようなあまり対戦しない相手と対戦することはあまり重要じゃないと感じていた。

「運要素の強いデッキ」というラベルについても少し話しておきたい。トロンはドローがゲームを頻繁に決定するというのは確かに正しい。トロンに関して注目すべきなのは、瞬く間に決着がつかずに複雑になったゲーム展開だ。

忘却石大いなる創造者、カーン

たとえば、複数の《忘却石》が絡んだり、相手のアタッカーを前に《大いなる創造者、カーン》を出さざるを得なかったり、そういう展開になると信じられないほど複雑になる。例として、最後に僕がプレイしたMOCSではトロンを使って、負けたのは自分自身のミスによる2回のみだった。たとえそれが良く起こることではなくても、それほどこのデッキには難しいゲームがあるんだ。

プロツアー本番

僕は今36歳だけど、20年前に感じた16歳のときの経験を今でも忘れないでいるし、これがすぐに変わらないことを願っている。

ゴンドールの角笛

自分の最初のドラフトのデッキにあまり喜べずに最初のラウンドを負けるとこからスタートしたけど、このデッキはそれなりに良くてマナフラッドに見舞われた最終ラウンドも非常に強力な《ゴンドールの角笛》を持つ相手に勝つことができた。

石の脳徴用黒曜石の焦がし口

そのあとは構築部門を友人であるマルコ・デル・ピーヴォ/Marco Del Pivoのカスケードクラッシュに負けるところからスタートした。3ゲーム目では先攻2ターン目に《石の脳》をプレイしたところに《徴用》をキャストされてしまった。相手は2ターン目に《石の脳》の効果を使える状態になり、トロンを揃えられないことが確実になってしまった。また、置く土地を間違えて相手が《黒曜石の焦がし口》をプレイできるようにしてしまう大きなミスも犯した。このミスがなくてもどっちにしろ負けていただろうけど、言っておきたいことがある。たとえ上手くいった大会でも、全然ミスをしないというのはとても難しいことなんだ。

2-2になって雲行きはあまりよくはなかったが、どうなるかなんて誰にもわからない。何度か3ターン目にカーンたちをプレイした数時間後には、6-2で初日を終えた。

人の子の女王、アルウェン

2日目は何人かの強いプレイヤー、そしてチームメイトでもあり友人でもあるネイサン・ストイア/Nathan Steuerと同じ難しいポッドに入った。彼もまた初日はまずまずの結果だった。《人の子の女王、アルウェン》からドラフトをスタートして、入った色はどの色も混んでいなくて最終的に緑白タッチのデッキを組んで3-0した。

2日目は本当にすべてが自分の思い通りにいった。《敏捷なこそ泥、ラガバン》を相手がプレイしたときには《四肢切断》を持っていて、相手が勝つための呪文を唱えるために土地が必要な時には引けずにいた。

何ラウンドか戦った後には、13-2の成績でまたもトップ8に入ることができた!

10月の地域チャンピオンシップソフィアの前は、プロツアーの参加資格すら持っていなかった。けれども今は、連続でトップ8に入ることができて、次のシーズンのすべてのプロツアーへの参加資格も得て、2か月以内にある世界選手権にも出場できる。はたから見ている人たちからすれば、僕はいつもこういった場所にいたように感じるかもしれないが、自分はそうは感じていなかった。まるでジェットコースターのようだったよ。大会で次のイベントへの参加資格を得られるくらい上手くいくチャンスが今年3回あった。そのいずれもこれが最後だという感覚があって、同時にもうこういう大会には出られないんじゃないかというプレッシャーも感じていたんだ。

だからこそ、地元開催のプロツアーでトップ8に入賞できたのは格別な体験になった。またしてもモダンというフォーマットは僕に微笑んでくれた。土曜日は喜びで胸がいっぱいだったよ。

最終日、前回と同じく準々決勝で敗退となった。ドミニクのアミュレットタイタンはトロンが非常に苦手とする相手で、1ゲームこそ勝利できたものの、特に接戦という展開にはならなかった。トロンみたいなデッキは、相性の悪い相手にぶつかったら基本的にまともに呪文を唱えられずに負けてしまう。こればかりは仕方ないね!

今回のプロツアーを振り返って、この週末に起きたすべてのことに感謝している。サポートしてくれた人、プロツアーの舞台を設計・運営してくれた人。不測の事態が起きてもプロツアーなどのイベントが変わらず魅力を失わないのは、そうしようと動いてくれる人がいるからだ。

家族や友達にも感謝したい。環境を整えてくれたからこそ、大会直前になっても練習に集中することができた。

それから、ここまで読んでくれたみなさんにもね。ありがとう。

ハビエル・ドミンゲス (X / Twitch)

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Javier Dominguez スペインを代表するプレイヤー。 グランプリトップ8入賞は6回。【グランプリ・パリ2014】と【グランプリ・ロッテルダム2016】で優勝も経験している。 プロツアーでもその力を発揮し、【プロツアー『戦乱のゼンディカー』】と【プロツアー『破滅の刻』】では9位に入賞を果たすなど、輝かしい戦績を誇る。【ワールド・マジック・カップ2016】では母国スペイン代表のキャプテンを務めた。 Javier Dominguezの記事はこちら