はじめに
みなさん、こんにちは。富澤です。
『エルドレインの森』期のスタンダードも終わりが近づくと同時に、『イクサラン:失われし洞窟』の足音が聞こえてきました。毎日更新されるカードイメージギャラリーが楽しみでなりません。今週中には全カードリストが公開になるはずです。
新カードの情報をご紹介したい気持ちをグッとこらえて、今回は『エルドレインの森』期のスタンダード総括をお届けします。
『エルドレインの森』期の振り返り
秋に発売されるエキスパンション同士は間隔が短く、2ヶ月程度で環境がリセットすることになります。実際のところ、『エルドレインの森』によりスタンダードは大きく変化し、多くのデッキがアップデートを果たしました。まずは環境初期から振り返っていきましょう。
軽いボードコントロールであり、中盤以降はフィニッシャーと異なる役割を持つ《執念の徳目》にスポットライトが当たります。ソーサリーながら除去とライフ回復がセットでついており、ミッドレンジからコントロールまで広く採用されました。多くの新カードを得たことでゴルガリミッドレンジが構築され、アグロに対するガードをあげたかった版図ランプにも見事フィットします。
しかしながら、最初の『Standard Challenge』を制したのはそのいずれでもありませんでした。
初週の優勝は《アラーラへの侵攻》と《木苺の使い魔》をフィーチャーしたコンボデッキ「カスケードクエスト」。構築段階でデッキに制限をかけておき、《アラーラへの侵攻》から必殺必中で《木苺の使い魔》の出来事を踏み倒すというものです。圧倒的速度で登場する《偉大なる統一者、アトラクサ》や《原初の病、エターリ》を武器に、9月9日の同大会を制すと、翌10日も準優勝を果たします。
翌週の主役はテンポを意識したデッキでした。カスケードクエストとランプなどの出だしの遅いデッキをメタり、《スレイベンの守護者、サリア》が大活躍します。白単人間は『ジャパンオープン2023』を制し、エスパーレジェンズは勢力を増します。速攻と火力を利用した赤単アグロ、《かき消し》で器用に立ち回るエスパーミッドレンジも同時期のデッキでした。
『エルドレインの森』では《忠義の徳目》がフィーチャーされたのもこのあたりでした。白単人間、エスパーミッドレンジの2マナ域を埋め、消耗戦におけるフィニッシャーとして新たな攻め手をもたらしてくれたのです。その成長速度はほかの追随を許さず、このカード自体を対処しない限り何度でも全体除去を強いるほどでした。
『第29回マジック世界選手権』でも《忠義の徳目》の勢いは止まらず、エスパーミッドレンジはトップメタまで成長します。同大会の決勝戦はミッドレンジとレジェンズとタイプは異なるもののエスパー同士の組み合わせとなり、結果レジェンズが制しました。
そして、話題を呼んだのは2マナのパーマネントでした。複数名の版図ランプとバントコントロールの両者に共通していたのが《豆の木をのぼれ》。新しいアドバンテージエンジンは《力線の束縛》とセットで運用され、カードを得つつテンポを切り返す新たな動きを構築したのです。
トップ8にこそ残れなかったものの、《アガサの魂の大釜》にもスポットライトが当たります。青単では《訓練場》《眠り呪いのフェアリー》《お告げの行商人》に大釜を組み合わせた4枚コンボですが、使用した3名中2名が2日目へと進出しています。さらに、《囁かれる希望の神》を加えたシミックバージョンがトップ8まで後一歩に迫ったのです。
あけた翌週。話題をかっさらったのは世界選手権でトップ8に残っていた「アゾリウス兵士」でした。軽量クリーチャーから繰り出される《イーオスの遍歴の騎士》はアドバンテージとテンポを一手で取り返す新しいフィニッシャーであり、最速3ターン目にプレイされると多くのデッキとって返すのが難しい動きでした。マナ総量は5と決して軽くないものの「召集」によりマナを確保しやすく、《かき消し》や《微風の歩哨》で守ることが可能でした。
また、《雄々しい古参兵》や《天空射の士官》などを抜き部族シナジーを低下させた代わりに、《婚礼の発表》が採用され、単体除去にも強い構築となっていました。
それ以降本日にいたるまで、アゾリウス兵士は非常に安定した成績を残し続けています。色対策や全体除去の枚数を増やすなどの対策が進みましたが、その勢いには失速する気配がありません。実際のところ、10月に開催された『Standard Challenge』全9回の内、実に5回を優勝しています。
メタゲームはアゾリウス兵士を筆頭に「エスパーミッドレンジ」「ランプ」「ゴルガリミッドレンジ」でメタゲームは形成されるにいたります。対策カードの充実している「赤単アグロ」や「黒系ミッドレンジ」にチャンスはありそうですが、ほかのデッキからのマークが厳しくアゾリウス兵士ほど安定した成績を残せていません。
続いては代表的なデッキを振り返っていきましょう。
代表的なデッキ紹介
カスケードクエスト
「カスケードクエスト」は《アラーラへの侵攻》1枚で完結するコンボデッキです。あらかじめデッキ構築段階でマナ総量が4以下のカードを《木苺の使い魔》とほか最大1枚のみに絞っておくことで、《アラーラへの侵攻》から《木苺の使い魔》の出来事を踏み倒します。当事者カードは唱える際に2つのモードからいずれかを選択するため、《木苺の使い魔》として追放されながらも《初めてのお使い》をプレイできるわけです。
《偉大なる統一者、アトラクサ》や《原初の征服者、エターリ》など当たりは多くありますが、本当の狙いは《墓所の冒涜者》です。除去性能ばかりに目がいきがちな《墓所の冒涜者》ですが、もうひとつ「パーマネントの上からカウンターを取り除く」効果を持っています。これを利用してコンボの起点となった《アラーラへの侵攻》の守備カウンターを取り除けば、瞬時に《大渦の目覚め》としてプレイされ圧倒的なアドバンテージを得ることができるのです。
ゴルガリミッドレンジ
「ゴルガリミッドレンジ」は、高スタッツのクリーチャーを除去でサポートしながら押し込む攻め手の厚い中速デッキです。時間経過とともにトークンを量産してくれる《下水王、駆け抜け侯》や《黙示録、シェオルドレッド》などでボードにプレッシャーをかけていきます。カードパワーは十分ながら適切なデッキが見つかっていなかった《グリッサ・サンスレイヤー》や《向上した精霊信者、ニッサ》も採用されています。
リソースを伸ばせる《苔森の戦慄騎士》と《開花の亀》、防御兼フィニッシャーの《執念の徳目》など序盤から終盤まで相手に息つく暇を与えずにプレッシャーをかけ続けるカードがそろっています。
《眠らずの小屋》は色マナを安定させ、中盤以降はダメージソースとなります。対処手段が限られていることに加えて、たとえ除去されたとしても《開花の亀》のおかげで繰り返し戦場へと戻る厄介な土地カードです。
赤単アグロ
「赤単アグロ」は、序盤からクリーチャーでライフを攻めていく攻撃的なアーキタイプ。《僧院の速槍》や《フェニックスの雛》などの速攻付きのクリーチャーと直接ダメージ呪文の組み合わせにより、ほかのアグロと比べてもダメージ効率の優れたデッキです。《火遊び》や《稲妻の一撃》は除去でありながら、最後の数点のライフを削る役割も持ちます。
新顔は「祝祭」により4/4へと変化する《擬態する歓楽者、ゴドリック》と、赤らしくない器用さが魅力の《魅力的な悪漢》の2枚です。後者はマナカーブを埋め、後続の展開を助けると同時に《擬態する歓楽者、ゴドリック》の「祝祭」を助ける素晴らしい1枚。サイドボード後はプレインズウォーカーの早期着地にも貢献してくれます。
- 2023/9/12
- スタンダード情報局 vol.133 -『エルドレインの森』環境、開幕-
- 富澤 洋平
白単人間
「白単人間」は1マナ域から順次クリーチャーを展開していき、戦線を横へ広げながらビートダウンを目指すアグロデッキ。クリーチャーが並んだ後は《銅纏いの先兵》や《忠義の徳目》でまとめて強化し、一気に打点を伸ばします。デッキの大半はクリーチャーであり、闇雲に攻めるしかないようにも見えますが、《スレイベンの守護者、サリア》をはじめとしたシステムクリーチャーの存在を忘れてはなりません。ミッドレンジやコントロールなどの呪文ベースのデッキにとっては天敵であり、これ1枚で完封されてしまったなんてこともありえるのです。
《呪文書売り》と《執念の徳目》はマナカーブを埋めつつ、単色デッキの弱点であった中盤以降のリソース不足を解消してくれる救世主となります。
- 2023/9/19
- スタンダード情報局 vol.134 -ミッドレンジとの終わりなき聖戦-
- 富澤 洋平
エスパー系
エスパーカラーのクリーチャーデッキは伝説のクリーチャーに寄せボードでの圧力を高めた「レジェンズタイプ」と、インスタントを多用して攻めと受けの両立を目指した「ミッドレンジタイプ」に分かれます。
「エスパーレジェンズ」はエスパーミッドレンジの中でもクリーチャーに寄せた構築であり、序盤からの展開を重視しボードへの圧力を高めたアーキタイプです。《離反ダニ、スクレルヴ》から《スレイベンの守護者、サリア》《策謀の予見者、ラフィーン》へと繋ぐ黄金パターンは相手に干渉を許さず、強固なミッドレンジやコントロールの牙城すらも崩す必殺の動きです。
エスパーミッドレンジは2~3マナ域のクリーチャーを《策謀の予見者、ラフィーン》や《婚礼の発表》でバックアップしていく攻撃的な中速デッキ。打ち消しや除去、《放浪皇》とインスタントトリックが多彩であり、展開と妨害の両立こそがこのデッキの目指すゲームプランなのです。《忠義の徳目》は膠着したゲームを打破し、ボードの再構築を容易にしてくれる新たな脅威です。
版図ランプ
「版図ランプ」はマナ加速呪文を使って土地を増やし、早期に高コストカードをプレイすることを目的としています。《装飾庭園を踏み歩くもの》や《ゼンディカーへの侵攻》で7マナを目指し、《偉大なる統一者、アトラクサ》や《怒りの大天使》のカードパワーをもって相手を圧倒します。マナコストの差から生まれるカードパワーの差を利用してゲームを進めるため、ミッドレンジなどの中速デッキを得意としています。モダンやレガシーには劣るものの、《豆の木をのぼれ》は十分すぎるほどの追加のカードを引けるため採用されています。
- 2023/9/26
- スタンダード情報局 vol.135 -世界選手権で見えたもの-
- 富澤 洋平
アゾリウス兵士
「アゾリウス兵士」は、白の軽量クリーチャーを青のインスタントでサポートしていくクロックパーミッションの一種。《徴兵士官》や《毅然たる援軍》などの低マナ域からクリーチャーの展開を始め、《かき消し》や《微風の歩哨》でバックアップしていきます。デッキは《婚礼の発表》と《人狐のボディガード》《イーオスの遍歴の騎士》を除いてすべて2マナ以下のカードで構築されており、4ターン目以降は極力メインフェイズにマナを使わない設計となっています。
このデッキの主役であり、ボードにおけるテンポの切り返しとリソース面を一手に引き受けているのが《イーオスの遍歴の騎士》です。マナ総量が5と重いにもかかわらず、「召集」によりほとんどマナを使わずに早期にプレイできます。高スタッツとカードアドバンテージの2軸の脅威であり、クリーチャーをコストにあてることで打ち消し呪文用のマナを確保でき、隙を作らずに着地させることも可能です。
- 2023/10/4
- スタンダード情報局 vol.136 -最前線をゆくアゾリウス兵士-
- 富澤 洋平
- 2023/10/11
- スタンダード情報局 vol.137 -兵士を包囲せよ-
- 富澤 洋平
本編で紹介しきれなかったデッキ
ここではメタゲームの潮流を変えるにはいたらなかったものの、特定の戦略を突き詰めて精鋭化したデッキをご紹介します。
ボロス召集
パイオニアでお馴染みの「ボロス召集」のスタンダート版が登場しました。ボロス召集はその名の通りクリーチャーを並べて「召集」コストを稼ぎ、早期に《イーオスの遍歴の騎士》を着地させるデッキです。これまでスタンダートにはフィニッシャーとなる《敬慕されるロクソドン》が不在でしたが、《イモデーンの徴募兵》を得て構築が可能となりました。《魅力的な悪漢》のおかげで《上機嫌の解体》が安定してプレイできるようになった点も見逃せません。
グルールアーティファクトアグロ
「グルールアーティファクトアグロ」は、アーティファクトと相性の良いクリーチャーや呪文から構築されたシナジー重視のデッキです。《生歯の子ワーム》や《継ぎ接ぎ自動機械》展開後、アーティファクトをプレイして育てていきます。ここに《打ち砕かれた尖塔、オゾリス》を挟めば成長速度は2倍となります。
意外なことに、このカラーボードにあってリソースを伸ばすカードが充実しています。《実験の狂乱》と《ミシュラの研究机》は衝動的ドローで使えるカードを増やしながら、先ほどのクリーチャー陣へ+1/+1カウンターが配置されます。
デッキの大半がアーティファクトであるため、条件付きの高火力が優先的に採用されています。この構築ならば《力線のうねり》や《塔の点火》の追加コストに困ることもありませんし、横に《食事を終わらせるもの、ジンジャー卿》がいれば生贄に捧げることすらも+1/+1カウンターへと変換されるわけです。
グルールジャイグロアグロ
「グルールジャイグロアグロ」は、クリーチャーを出してオーラや装備品で強化していくだけのシンプルなビートダウン戦略です。《僧院の速槍》や《騒音の悪獣》をベースに《ミラディンの悪断》を張り付けたり、《巨大化》で瞬間打点を稼いだりと、ライフ20点をいかに早く削りきるかを目指しています。デッキの内訳はクリーチャーと強化呪文のみであり、このカラーにしては珍しく火力は採用されていません。最速3ターンキルが狙える圧倒的な速度が魅力です。
このデッキで安定した打点を期待できるのが《ピクニック荒らし》です。条件を満たせば4点、自身のパワーが4以上ならば8点と2マナ域とは思えないダメージ量を稼いでくれます。《無鉄砲》か《ミラディンの悪断》とセットで運用することで毎ターン二段攻撃を得られ、相手にブロックか除去呪文を強要します。仮にライフで受ける選択をしようものなら、《巨怪の怒り》と《巨大化》の2枚で一撃で20点に届きます。
青単テンポ
「青単テンポ」は、軽量ドロー呪文で巨大な《傲慢なジン》や《トレイリアの恐怖》の高速召喚を目指すややトリッキーなアーキタイプです。《考慮》でデッキを掘り進め、打ち消し呪文でゲームをコントロールし、少数精鋭のフィニッシャーで攻めていくクロックパーミッション戦略に分類されます。軽量の打ち消しや保護呪文が多いためクリーチャーを守りやすく、重いパワーカードで勝負してくるミッドレンジやランプ戦略には強いアーキタイプです。
《手練》と《考慮》で序盤の動きが安定し、《錠前破りのいたずら屋》を手に入れたことで《知識の流れ》へアクセスしやすくなりました。しっかりと土地を伸ばして《知識の流れ》へと繋げるのが明確な勝ちパターンとなったことで、フィニッシャーは《傲慢なジン》のみへと変更されました。
シェオルレスエスパーミッドレンジ
エスパーミッドレンジの名手である強豪Moggedによって広まった《黙示録、シェオルドレッド》を抜いた構築。10/15(日)の『Standard Challenge』で入賞し話題となりました。
構築の根底にあるのはインスタントアクションの徹底であり、《敬虔な新米、デニック》と3マナ域のパーマネントを除くと、残りはインスタントか瞬速持ちのみです。
ボードにダメージソースを展開し、その押し切りを目指すエスパーミッドレンジにとって《太陽降下》や《告別》は天敵。全体除去や高マナ域に対処すべく打ち消し呪文を採用しているわけですが、《黙示録、シェオルドレッド》をプレイする際に生じる隙が致命的なものとなっていました。
そこでMoggedは《かき消し》を構えられる6マナまで待つよりも、デッキ自体を軽量化することで展開時のリスクを可能な限り抑える方向を目指したのです。
おわりに
今回は『エルドレインの森』期のスタンダードの総括をお届けしました。
メタゲームは毎週目まぐるしく動き、次から次へと登場するデッキはどれも使いがいがあるものばかりでした。はじめからおわりまで充実したスタンダードライフだったように思います。『イクサラン:失われし洞窟』リリース後も楽しみですね。
次回もスタンダードの情報をお届けしたいと思います。それでは!