推しPWに花束を💐バレンタイン投票キャンペーン結果発表
【キャンペーン情報】
— 晴れる屋 (@hareruya_mtg) February 11, 2024
今年も💖バレンタインデー💖の季節がやってきた‼️
2⃣月1⃣2⃣日(月)より晴れる屋全店にて
『推しPWに花束を🌹バレンタイン投票キャンペーン』が開催されます‼️
推しのPWに投票し、欲しいカードをGETしよう✨
🔽詳細はコチラをCheck🔽https://t.co/EmlScevuRs pic.twitter.com/hondXZCHWg
こんにちは、若月です。2年ほど前まで、晴れる屋メディアにて背景ストーリー解説記事「あなたの隣のプレインズウォーカー」をだいたい月イチで書かせていただいていた者です。すっかりご無沙汰しておりましたが、そうしている間にプレインズウォーカーが大幅に減っちゃったよ。
今回は晴れる屋全店で開催されていた「推しPWに花束を💐バレンタイン投票キャンペーン」の結果発表記事を書いて欲しい!と依頼されました。人気投票企画とか大好きだわよ!そんなん書かないわけないじゃん!!!
というわけで前置きはさっさと終わり。有効投票数6322票からベスト10にランクインしたプレインズウォーカーはどんな顔ぶれなのか、その魅力を語りながら発表します!!!なお、私は背景設定・ストーリー知識に全スキルを振っているような人間ですので、トーナメントでの実績についてはあまり具体的に言及できておりません。そこはご了承ください。
10位:エルズペス・ティレル 201票
凛々しくてかっこよくて強い騎士、そんなキャラクターが人気ないわけないですよ!
エルズペスの初出は2008年の『アラーラの断片』ですが、この初登場時から堅実な強さを見せつけたプレインズウォーカーでもあります。『ローウィン』の5人&同期の3人が持っている小プラス・小マイナス・大マイナスというテンプレをいきなり破ってきた!以来エルズペスは「強い白単色プレインズウォーカー」として繰り返し登場してはトーナメントで活躍してきました。
一方で物語のエルズペスはそんな強さとは裏腹に、初登場時からずっと、戦いの中に身を置きながらも安らぎの場所を求めてきました。自らがどれほど強くとも、頼りにされようとも、名声を得ようとも、慕われようとも、そんなものは欲していなかったのです。
なぜか?それはエルズペスの幼少期にあります。彼女が生まれ育ったのは「カペナ次元」――ファイレクシアを退けた輝く摩天楼のニューカペナではなく、ファイレクシアの残党に支配されたままの小さな地域。言語に絶する恐怖は彼女の心に深く刻み込まれ、プレインズウォーカーの灯が覚醒したことで逃げ延びるものの、その過去を振り払うことは決してできませんでした。
そして運命はそんな彼女に安らぎを与えはせず、容赦なく戦いへと追い立てます。バント、ドミナリア、テーロス、ニューカペナ……一度は死によって安らぎを得たと思われましたが、それも終わりではありませんでした。苦難を乗り越える確かな力を持ち、実際に何度も乗り越え、けれどまた……エルズペスの物語はまるで、このサイクルの繰り返しのようでもありました。ですが、新ファイレクシアとの最後の戦いにて、それもついに終わりを迎えます。
爆発する《金線の酒杯》と共に久遠の闇へと消えたと思われたエルズペスでしたが、ふとどこかで意識を取り戻しました。そして謎めいた優しい女性の声に導かれ、かつて訪れた様々な次元で繰り広げられている凄惨な戦いを垣間見ます。愛する人のいる場所、救いたいと願う場所……そこへ向かいたい、しかし選択できるのはひとつ。そして自らが本当に戦うべき場所を決断したとき、彼女は「本来あるべき姿」と力を得ました。
そこに迷いはありません。天使となって帰還したエルズペス、そしてレンとチャンドラの奮闘によって戦いの趨勢は一気に傾きます。エリシュ・ノーンの独善が急速に露わになるとともに新ファイレクシアは瓦解し、やがてその次元ごと多元宇宙から切り離されることで戦いは終わったのでした。
エルズペスはついに過去の恐怖を克服しました。ですが共に長く戦ってきたコスなどは、文字通り人間離れしてしまった彼女がすっかり遠くなってしまったような、そんな寂しさを抱いていました。エルズペスが過去を振り払い、もはや居場所を求めて彷徨うことはなくなった。それは間違いなく喜ばしいことなのですが、私たちにとってもこれはひとつの大きな別れなのだろうとも感じました。
ところで、どうしても戦う場面の多いエルズペスは、外見や身だしなみに特別気を遣っているようなイメージはそれほどありません。しかし、なにげに物語ではいろいろな衣装に着替えており、実際にアートになっているものこそ少ないながら華やかです。
『神々の軍勢』ではアクロス風のドレスを着ていたり、『ニューカペナの街角』ではクリーニング屋のアルバイト店員をやっていたり。なお後者は「マンガで分かる!『Magic Story『ニューカペナの街角』編」で見られます。かわいいですよ。プレインズウォーカーは複数回登場してもだいたい同じ衣装ですので、非常に新鮮です。豪華なドレス姿の《華やいだエルズペス》はびっくりしましたよ! ちなみにコーディネイトしたのは《蒐集家、ザンダー卿》。素晴らしい審美眼。
そして衣装についてもうひとつ。《大天使エルズペス》の翼はよくある羽毛ではなく、鋭角的でどこか人工的です。そしてボーダーレス版のアートをよく見ますと、全身鎧の下にピンストライプを着ているのがわかります。
これ、ちゃんとニューカペナの天使の特徴なんですよね!!ステンドグラスのような光輪こそありませんが、きちんと故郷の天使に近い姿です。
9位:ガラク 211票
デカァァァァァいッ説明不要!!
7フィート7インチ(約231cm)!!
ガラク・ワイルドスピーカーだ!!!
(書籍『Magic The Gathering The Visual Guide』掲載の最新データではこの数値です。それとどうも「ガラク・ワイルドスピーカー」が本名らしいです)
大きく、恐ろしく、頼もしい――それがガラクです。獣のように獰猛で、獣のように率直。その「緑らしい」わかりやすい強さは登場時から変わりません。歴代カードも多くが安定した人気を保ってきました。プレインズウォーカー・カードが初めて登場したのは2007年の『ローウィン』ですが、初めてというだけあって5枚それぞれが各色を体現するような個性と能力を持っていました。なかでも最初にその明白な強さを見せて人気を博したのが、このガラクだったように記憶しています。
「自然の中に身を置く」緑のプレインズウォーカーは何人もおり、自然や文明との距離感もそれぞれ異なります。特にガラクは人として自然を守るというよりは、自身もそのなかの一体の獣として、捕食者として生きています。「脳筋」と評されることは多々ありますが、決して愚かではありません。野生においては、的確な知識と判断がなければすぐに死に繋がるのですから。
自らが生きるために殺して食らう、ガラクにとってそれは自然の摂理として当然の行いですが、そうではない死をもたらす相手には我慢がなりません。従って『ローウィン』の同輩プレインズウォーカーである屍術師リリアナと出会ったなら敵対するというのは、むしろ当然の成り行きでした。そしてガラクは死と腐敗の呪いをかけられてしまい、長い間に渡って苦しむことになります。
その「呪われた」状態のカードだけで3種類もあるということも、いかに長かったかを示しています。『エルドレインの王権』にてめでたくその呪いから解放されましたが、その間なんと実時間で11年。《野生語りの帰還》のカードを見たときは、先に小説で展開を把握していたとはいえ「ついに……!」と感慨深かったのを覚えています。
以来、ガラクについて新情報はそれほどありません。ですが未訳のコミックからひとつ紹介したいエピソードがあります。
これは2021年から2023年にかけて「BOOM! Studios」から発売されていたコミックになります。舞台は『灯争大戦』少し後のラヴニカ。ヴラスカ・ラル・ケイヤを狙う暗殺未遂事件が同時に勃発し、3人はその謎を解くためにラヴニカだけでなく様々な次元を奔走します。やがてそれは太古のとてつもない存在をほのめかすに至り……というような流れです。
このシリーズは「正史ではない」と確定しているのですが、設定やキャラクターの描写は非常に忠実で、文句なしに楽しめる内容となっています。ジェイスとヴラスカのガチ朝チュンもあるよ(同じ箇所に物語の核心ネタバレがあるので、閲覧は自己責任で)。また、本編では接点のない(少なくともその記述はない)キャラクター同士が出会っていて、思いがけない姿や交流を見ることもできます。
(長い話を強引に端折りますが)あるとき、ガラクは「自然の摂理ではなく戯れに死をもたらす」ティボルトを敵とみなして追跡する中で、チャンドラに、続けてニコに出会います。自然の中に独りで生きてきたガラクですが、群れで狩りをする獣は手強いもの。目的が合致した3人は共闘を決意、やがてティボルトに繋がりのあるダブリエルの協力をとりつけると、向かった先はニューカペナ。ただしダブリエル曰く、しかるべき装いが必要とのことで……
華麗!!ニューカペナにはロウクスやオーガといった種族もいますので、超大柄なガラクの正装もたやすく手に入ったのでしょう。続くページでガラクは《装飾庭園を踏み歩くもの》に乗ってバットを振り回しながらティボルトを追いかけており、真剣な場面なんですけれど笑わずにはいられませんでした。なお、このあとはさらに多くのプレインズウォーカーと共闘し、ラスボスを倒すための力となりました。
そんなことがありましたので、『Magic: The Baseballing』(ベースボールカード風Secret Lair)のガラクを見たときは「バット……もしかしてこの話を踏まえたのか?」と思いましたよ。それとガラクが持っても違和感のないサイズのバットって、実は相当大きいのではなかろうか。
8位:ニッサ・レヴェイン 237票
自然と共に生きる緑のプレインズウォーカーが連続でトップ10入り!初登場はこちらも古くて2009年の『ゼンディカー』。やはり、登場期間が長いプレインズウォーカーにはそれだけ多くのファンがついているということですかね。
ニッサの種族はエルフです。マジックにおいては同じ種族でもその次元によって様々に異なり、都会派のエルフも珍しくありません。それでもニッサは由緒正しい「森の妖精」的エルフです。
「緑単のプレインズウォーカーの代表は?」と聞いて回ったなら、恐らく回答はガラクとニッサで二分されるでしょう。ガラクは主として動物を使役しますが、ニッサが使役するのは植物やエレメンタル、そして大地そのもの。身体はずっと華奢でも、振るう力は時にそのガラクにも負けないほど獰猛です。大地そのものに繋がるだけあって、カード能力はマナを増やしたり土地を起こしたり、わかりやすく強いのも魅力です。
ニッサは故郷ゼンディカーとの繋がりがひときわ強いプレインズウォーカーです。そして自然との対話は息を吸うように容易ですが、他人との上手い接し方はよく知りません。都会はもちろんのこと、他次元の自然であってもゼンディカーとは勝手が違うところがあり、適応にはしばしば苦労しています。なのに正義のプレインズウォーカー・チームの一員として、故郷ゼンディカーを離れて戦い続けています。なぜそこまでして?
次元を食らう無の巨怪、エルドラージ。太古の昔にゼンディカー次元に封じられたそれが解放され、すべてを命なき塵へと変えていきます。ニッサはその様子を目の当たりにしてきました。それもそう、最終的にエルドラージを解放してしまったのはニッサ本人なのです。
もともとニッサは、エルドラージという異物を押し込められた世界が苦しむ声を聞いていました。解放したなら怪物たちはゼンディカーから去っていくとニッサは考えたのですが、それは間違いでした。エルドラージはゼンディカーを蹂躙しはじめ、ニッサは自らの行いが招いた戦いを余儀なくされます。
その戦いは長く苦しいものでしたが、転機がゼンディカーの外から訪れました(ちなみにこの間、『エルドラージ覚醒』~『戦乱のゼンディカー』なので実時間5年。本当に長かった)。ギデオン、ジェイス、チャンドラの3人のプレインズウォーカーが、エルドラージと戦うために馳せ参じました。
ニッサは共闘することの強さを知り、そしてプレインズウォーカーの力はゼンディカーだけでなく、すべての次元のために使うべきだというギデオンの言葉に心を動かされます。たしかに多元宇宙の脅威はエルドラージだけではありません。プレインズウォーカーなのだから、ゼンディカーだけではなく多元宇宙のために力を振るうことができるのです。そうしてニッサは、故郷だけでなくすべての次元の生命を守るために戦うと誓ったのでした。
そしてゼンディカーを蹂躙していたエルドラージの巨人は、まさしくプレインズウォーカー4人の協力によって倒されました。ジェイスが指示を出し、ギデオンが皆を守り、ニッサがマナを送り込み、チャンドラが焼き尽くす。その素晴らしい役割分担と、組み合わさって発揮される力はニッサだけでなく私たちも驚くほどでした。実際、本当にエルドラージを倒すことなんてできるのだろうか……そう思っていましたから。
こうしてニッサは愛する故郷を旅立ち、多元宇宙のために戦う道を歩み始めたのでした。ゼンディカーをプレインズウォーカーに救ってもらった。ならばほかの次元を救うのはその恩返しでもあるのです。
……そんなニッサですが、『ファイレクシア:完全なる統一』での完成化や《灯の破裂》を経て、故郷ゼンディカーから切り離されてしまいました。問題はそれだけではありません。ゼンディカーには、ニッサととてもよく似た境遇の元プレインズウォーカーがいます。ゼンディカー出身であり、ゼンディカーの守護者として生き、けれど新ファイレクシアに屈し、完成化からの治癒を果たすもプレインズウォーカーの力を失ってしまった――ナヒリです。
エルドラージに続いてファイレクシア。ゼンディカーはまたも次元外からの脅威によって荒廃してしまった。そのどちらも、プレインズウォーカーがいなければゼンディカーに来ることはなかった。ナヒリは、故郷に惨害をもたらすのはプレインズウォーカーであるとして、ゼンディカー次元からプレインズウォーカーを締め出すことを誓いました。
一方のニッサはチャンドラに連れられて領界路をくぐり、故郷を目指す旅に出ました。いずれゼンディカーに帰りつくのかもしれませんが、そのときはどうなるんでしょう……
7位:アジャニ 239票
やっぱりローウィン組は今なお人気ね!多元宇宙に多くの友を持つ頼もしき導師にして、ニコル・ボーラスを敗走させた数少ない人物がアジャニです。上でガラクを「頼もしい」と書きましたが、頼もしさならこちらも負けてはいません。人の姿をしたライオンなんて、かっこよくて強いに決まっているじゃないですか。
『ローウィン』の最初の5人のうち、唯一人間ではないのがアジャニです。以来、様々な種族がプレインズウォーカーとして登場してきました。
アジャニは力強く心優しい戦士です。一方で猫科のヒューマノイドということで、ときどきまぎれもなく猫の動きを見せてくれます。なんせ寝るときは丸くなるんですよ。なおそれを見たチャンドラ曰く「世界一大きな飼い猫」。丸くなったアジャニのカードがいまだに1枚もないのは納得がいかないと思いませんか。
アジャニの強さは自身の肉体的な強さだけではなく、他者に秘められた強さを見抜いてそれを引き出す力にあります。他者の魂を見通す力です。それは天性のものですが、それだけではありません。アジャニは、巨大な存在の暴虐によって大切な相手を失うという悲しみを一度ならず背負ってきました。かつて唯一自分を理解してくれた兄ジャザル、そしてその兄の死の謎を追求するなかで出会った友エルズペス。その悲しみを知るからこそアジャニは皆を導く年長者として寄り添える、戦えるのでしょう。誰かが、その大切な相手を失うことのないように。
……だからこそ『団結のドミナリア』は衝撃でした。
先に《完成化した賢者、タミヨウ》が登場していたことで、プレインズウォーカーもファイレクシア化してしまうとわかっていました。『神河:輝ける世界』以降、次第に濃くなるファイレクシアの気配とともに、多くの人が怖れていたかと思います。そしてよりによって、暴虐を誰よりも嫌うアジャニがファイレクシアの暴虐を振りまく側に。
なおアジャニとタミヨウは友人同士ですが、書籍『Magic The Gathering The Visual Guide』によりますと、まさしくアジャニはタミヨウに誘い出され、その先で潜伏工作員として完成化させられたのだそうです。
最終的にアジャニは生き延びて、ニッサと同じく《生ける治療、メリーラ》の犠牲によって治癒されました。ただそれは本人にとっても、決して素直に喜べるものではないはずです。『機械兵団の進軍:決戦の後に』にてチャンドラはアジャニを探しに行こうとしていましたが、チャンドラはアジャニが殺害してしまったヤヤの直弟子。チャンドラは決してアジャニを恨んでなどいないと思うのですが、アジャニにとっては誰よりも顔を合わせられない相手だと思います。
繰り返しますが、アジャニは暴虐によって兄や友を奪われた傷を負いながら――いえ、だからこそ心優しき導き主として生きてきました。それがファイレクシアの手に落ちていたとはいえ、エリシュ・ノーンという暴君に心酔し、惨害と死をもたらす側に回ってしまった。果たしてこれから、その辛すぎる事実にどう向き合っていくのでしょうか。
ところでその《潜伏工作員、アジャニ》のカードについて、ちょっと語りたいことがあります。アジャニは左目を失っています。プレインズウォーカーになる以前、故郷ナヤでの危難によるものとされています。アジャニの物語でも最古のものであり、プレインズウォーカーとしての覚醒を描いたウェブコミック『Flight of the White Cat』(現在はリンク切れ:magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/flight-white-cat-2008-10-08)の段階ですでに失われていました。ファイレクシア化したことによってこの左目が赤く開くのですが……
よく見てください。通常版とボーダーレス版ではその左目が隠れており、ファイレクシア化されたことが一見わからないようになっているのです。特に通常版はやや不自然にたてがみで隠されているので、そういうアート指示だったのかなと想像できます。これを踏まえて「マンガで分かる!Magic Story『団結のドミナリア』編」)でも、ファイレクシア化が判明するまではアジャニの左目をわざと映さないようにしてもらいました。気になる人は確認してみてね。
6位:テフェリー・アコサ 301票
マジックは30年の歴史を持ちますが、テフェリーの歴史はそのうち27年!「時間」のあらゆる面を自在に操り、敵を翻弄して味方に好機をもたらします。その力は人柄と同様に頼もしく、一方ではどこか老獪でもあります。初登場の『ミラージュ』(1996年)から物語の根幹に関わり、インベイジョン・ブロックのファイレクシア侵略、時のらせん・ブロックの大修復と、ドミナリア次元で重要な出来事が起こる際には必ず登場してきました。
キャラクターとしてはとても、とても古いですが、プレインズウォーカー・カードとしての活躍はむしろ記憶に新しい方です。このフルネームが出たのだってかなり最近です。そして間違いなく、カードパワーが強烈な印象を与えたキャラクターのひとりです。
テフェリーの魅力はたくさんあります。落ち着いた年長者でありながらユーモアを欠かしません。「問題児」時代に培った悪戯好きの面も残っており、ときに仲間からあきれられる様もクスっとします。旧世代プレインズウォーカーには扱いにくい人物も多いですが、テフェリーはとても親しみやすい存在です。
ですが、テフェリーが歩んできた歴史は長く重いもの。彼はドミナリア次元そのものに関わる大事件に何度も深く関わってきました。大きなものを背負っていると自覚し、それ相応の「覚悟」を持って行動する人物であるということ。そこがテフェリーの、信頼おける魅力のひとつだと私は思っています。
『団結のドミナリア』の結末にて、テフェリーは過去へ遡ることを決意します。新ファイレクシアを打倒する鍵、《金線の酒杯》を起動する方法を求めて。
しかしテフェリーにとって、タイムトラベルは人生最大のトラウマです。かつてトレイリアのアカデミーにてウルザの時間遡行実験の暴走に巻き込まれ、それがきっかけでプレインズウォーカーとして覚醒しました。その経験は非常に辛く苦しいもので、テフェリーは決してウルザに感謝などしていません。なのに再び、それも自ら時を遡ろうというのですから、覚悟のほどがわかるというものです。
『兄弟戦争』は、テフェリーが過去に向かうというだけでも驚きでしたが、実際にウルザとの対面を果たすとは……。メインストーリー第5話で語られたその一連の場面は、初期も初期の小説『The Brothers’ War』(1998年)をそのままなぞりながら、テフェリーとウルザの対面を叶えています。ウルザはこの出会いを覚えていない、従って歴史に干渉してはいないはずです。それでも、こうしてテフェリーとウルザが接触した事実がある今、『ウルザズ・サーガ』から始まるふたりの物語を読み返す視点は、必然的にこれまでとは違うものになるわけで……。
新ファイレクシアとの戦いを経て、テフェリーも《灯の破裂》を被りました。故郷ザルファーは多元宇宙に帰還したものの、家族のいるドミナリアには手が届きません。けれど、出会いはごく最近だったとしても、テフェリーにはひときわ印象的な関係を築いた相手がいます。
『モダンホライゾン』で登場したレンが『イニストラード:真夜中の狩り』にてストーリーに初参戦。相棒となる新たな樹木を求めてイニストラード次元、ケッシグの森にやって来たところでテフェリーに出会いました(公開当時は「環境で大暴れしたプレインズウォーカー同士の出会い」としても話題になったわね)。
レンは相棒となる力を備えた若木を見つけるも、それはまだ小さすぎました。レンとテフェリーは森の中で遭遇した怪物を追い払うのですが、その際にテフェリーの魔法が暴走したことでふたりはしばし森を彷徨います。それは悪いことばかりではありませんでした。偶然にも件の若木が魔法の暴走によって急速に成長しており、レンの新たな相棒「七番」となったのです。レンはテフェリーに感謝し、いずれ力になると約束しました。
そして、その約束は『機械兵団の進軍』で叶えられました。チャンドラと共に新ファイレクシアへと突入したレンはひどく傷つきながらも、樹木と繋がるという自らの能力を用いて《侵略樹、次元壊し》を相棒とすると、テフェリーがかつて多元宇宙の彼方に飛ばした故郷、ザルファーを探し出しました。多元宇宙を救うために、もう時間はありません。テフェリーはレンと最後の会話を交わしますが、彼は自分たちが出会ったときのそれを覚えていたに違いありません。
「魔道士、お前の名は聞いたことがある。お前の伝説はお前自身よりも遠くまで旅しているぞ」
「テフェリー、お前に会えて本当に良かった。私がどれほど残るかはわからないが、それでもお前のことは覚えていたいと願う」彼女はそう告げた。
テフェリーの笑みは彼女の痛みを悪化させるだけだった。「私がどれほど残るかはわからないが、友達のことはずっと覚えているよ。レン。彼女自身よりもその名声が先を行く、噂に名高い英雄をね」
レンは次元壊しの力で新ファイレクシアをザルファーと入れ替え、命を賭けて多元宇宙を救いました。そして彼女が残した1つのドングリを、テフェリーはザルファーの土に植えたのです。このレンがいつか大きく育ち、テフェリーをお父さんのように慕ってくれたらいいな……なんて思っています。
5位:ニコル・ボーラス 311票
テフェリーの初出が『ミラージュ』だって?こっちはさらに古い『レジェンド』(1994年)だが???
ニコル・ボーラス、それは並ぶものなき「多元宇宙最古の巨悪」。たしかに物語から、スタンダードから退いてそれなりの時が経っています。かつて保持した旧世代プレインズウォーカーとしての、全知全能の力を取り戻すという野望の果てに、傲慢と過信から敗北へと追いやられました。
けれど、人気はまだまだ健在!ファイレクシア、エルドラージ、そしてニコル・ボーラス。多元宇宙の巨悪として並び称された三者であり、どれも物語上ではある程度対処されたとはいえ、今なおたくさんの根強いファンがついています。
なかでもボーラスは、とてもわかりやすい「悪のドラゴン」だと思います。邪悪なドラゴンを倒して宝と名声を得る、というのはファンタジーの物語における最古の流れのひとつ。そういえばファンタジーの始祖であるダンジョンズ&ドラゴンズの出身だわ(『レジェンド』開発者がダンジョンズ&ドラゴンズで用いていたキャラクターが元ネタらしい)。
かといってボーラスはただの怪物のような、狂暴な破壊の化身としてのドラゴンではありません。人にはとても手の届かない力を持ち、多元宇宙の広範へと深慮遠謀を巡らせる。その存在感は圧倒的で、物語が明確にボーラスとの対決姿勢へと向かう以前も「黒幕はきっとボーラスだろう」「裏でボーラスが関わっているのでは」というような憶測がしばしば流れていました。
「どう見てもボーラス」と当時言われていた人。
なんか最近は探偵やってるようで。
征服欲と虚栄心の強さも、いかにもドラゴンです。「王神(ゴッドファラオ)」なんて称号を名乗ったり、仰々しい像や城塞を作らせたり、部下に額の自分の角のマークを入れたり、それどころか自分の角をひとつの次元のシンボルにしてしまったり。その力に似合う巨大な自己顕示欲は、関係ないところにいる我々はクスっとしてしまうほどです(やられる側はたまったものじゃないのですが)。
ところで2010年代前半だったと思いますが、こんな問答がありました。
Q:ファイレクシアとエルドラージが戦ったらどちらが勝ちますか?
A:ニコル・ボーラス。
ソースを発掘するには至らなかったのですがこれは公式の、少なくとも公式の中の人の発言と記憶しています(たぶんクリエイティブ・チームDoug Beyerのいずこかでの発言か、すでに消失した連載記事『Savor the Flavor』のどこか)。
三つ巴で戦ってボーラスが勝つというわけではなく、二者の戦いを利用して最後にボーラスが残る、ということだとは思いますが。そして実際、ボーラスは三大巨悪の中でも、ほかの二者を明白に認識して利用しようとした唯一の存在でした。
最初のゼンディカー・ブロックにて、ボーラスはエルドラージを解放するように仕向けました。その目的は「そのような巨大な脅威が多元宇宙に放たれたなら、プレインズウォーカーたちがどう動くのかを観察するため」。また、当初は新ファイレクシアをその「巨大な脅威」として見ていましたが、後にエルドラージの方が有用であると判断したとのことです。
なおこれは孵化したばっかりのボーラス&ウギン(こっちは12位。惜しい!)。恐るべきエルダー・ドラゴンにもこんな時期がありました。かわいすぎんか?
4位:チャンドラ・ナラー 345票
さすがのこの位置!チャンドラも『ローウィン』にて収録された最初のプレインズウォーカー・カードのひとりであり、今なお間違いなくマジックの「顔」のひとりです。今では赤単のプレインズウォーカーもそれなりに増えましたが、その代表は誰だと聞かれたなら大体の人がチャンドラと答えるのではないでしょうか。
見た目の通りに、チャンドラは炎そのものです。あるときは怒り狂ってすべてを焼き尽くす、手に負えない業火。あるときは人々が取り囲み、生きるための熱をくれる焚火。またあるときは闇夜の中に輝き、温かな場所への導きをくれる篝火――その形は様々です。
そしてその通りにといいますか、最初期のコミックや小説で語られたチャンドラの人柄は、自らの目的を達成するなら周囲の被害などあまり気にしないような、少し倫理観に欠けたところも見られました。炎を操る能力も十分に制御できておらず、しばしば多大な損害をもたらしていました。それが転換となったのが『ゲートウォッチの誓い』だと思います。
上で「ボーラスはエルドラージを解放するように仕向けた」と書きましたが、そのために利用されたプレインズウォーカーのひとりがチャンドラです。ジェイス・サルカン・チャンドラの3人はそれぞれ《ウギンの目》へと巧みに導かれ、知らず知らずのうちにエルドラージの封印を解かされてしまいます(封印を解いたのがその3人であり、最終的に解放したのがニッサ)。チャンドラは一旦ゼンディカーを離れますが、少ししてその世界に起こっている惨状を知りました。
自分の与り知らぬところで加担してしまっただけ、それでもエルドラージがゼンディカーにもたらす惨害は、そして友人たちが懸命に立ち向かう姿は、目を背けることのできないものでした。そして、かつて関わったギデオンやジェイスと再会し、新たにニッサと出会い、共に戦う強さを知ったチャンドラはその力を自らの信念のために使おうと決意しました――誓いました。
チャンドラは組織や規則に縛られるのが大嫌いです。だとしても、どんな世界にも暴君がいて、人々を踏みつけている。それはエルドラージと何ら変わらない。だから誰もが自由に生きられるために戦う。友情と大きな目的意識は、その後のチャンドラの歩みを決定づけました。
ちなみに私は当時、「これチャンドラとジェイスは仲良くやっていけるんかなあ」とちょっとだけ不安でした。『DuelDecks:ジェイス vs チャンドラ』という製品があるように、ジェイスと当初は敵対していたんですよ?ずっと後になりますが、『灯争大戦』の続編小説ではそんなジェイスとチャンドラが過去イチ結束していて「なんか……遠くまで来たなあ……」と感慨深くなりました。
以後、チャンドラは多くの次元のために戦ってきました。なかでも私が個人的に印象深いのは『イニストラード:真夜中の狩り』&『イニストラード:真紅の契り』です。
イニストラードでは次第に日が短くなりつつあり、怪物たちがこれまでになく活気づいている。このままでは人類が危ない――そう伝えてきたアーリンの要請に応じ、チャンドラ・ケイヤ・テフェリーはイニストラードへと向かいました。そして日夜のサイクルを取り戻す戦いにチャンドラも身を投じるのですが、何が印象的だったかって、その明るい存在感です。
イニストラードはもともと暗い雰囲気の世界です。その寒々しく重苦しいなか、チャンドラは前向きで諦めない姿勢を貫き、ときおり軽口を叩いて空気を和らげていました。狼男の群れと戦うなか、吸血鬼の軍勢と戦うなか、チャンドラは深刻な状況に光をくれました。まさしく闇の中の炎のように明るく、頼もしく。
とても華やかな、けれどなんか燃えているこのドレス姿も話題になりました。カラデシュっぽいデザインですが、はりきって実家から着てきたのでしょうかね。武装が本気すぎる《霊狩り、ケイヤ》との対比が面白い。
また、チャンドラはあまりソリンを好いてはいません。嫌っている、というほどではなく「積極的に関わりたくはない」という雰囲気を漂わせる程度ですが。それでも戦いが決着したあと、唯一の肉親である祖父と決別したソリンへとチャンドラは労わりの一言を向けました。飾らない言葉で、これが私はぐっときました。
虚勢も権力も無意味だった。二度言われるまでもなかった。怯えた猫のように、エドガーは遁走した。何処へ向かうのかはソリンの気にするところではない。代わりに、彼の目は祖父がたった今まで立っていたその場所を見つめた――死んでいたかもしれなかった場所を。
「あんた、大丈夫?」
あの紅蓮術師だろうか。その声に込められた心配にソリンは驚いた。この娘は決して自分を好いてなどいないだろうに。
『ローウィン』の5人でも、先に挙げたガラクやアジャニはすでにある程度完成した力を持って登場しました(アジャニはその次のアラーラブロックで遡って過去が語られましたが)。ですがチャンドラは能力だけでなく、人としての成長が大きく語られてきたキャラクターだと思っています。
新ファイレクシアとの戦いが終わっても、チャンドラはプレインズウォーカーの灯を保持し続けています。チャンドラは全力を尽くしてファイレクシアからニッサを救い出し、ふたりは晴れて想いを伝え合って恋人同士となりました。そしてプレインズウォーカーの力を失ったニッサを故郷ゼンディカーへと連れ帰るため、領界路を通って旅立ったのです。
しかし、新ファイレクシアの侵略樹を多くの次元に送り込んでいたのはそのニッサなのです。向かう先にはとても辛い物事が待ち受けているでしょう。チャンドラ、しっかり支えてあげなさいよ。
3位:放浪皇 495票(《放浪者》を含む)
不意の白い旋風、剣の一閃。鍔広の帽子の下からわずかな表情を覗かせ、かと思うとまたも不意に消え去る。その正体は――ネオンきらめく神秘の世界、神河の皇。
初登場から10年とか20年の古参プレインズウォーカーがベスト10に並ぶなか、令和に登場のヒロインがこの順位に。これは快挙ですよ!!!(初登場が2019年5月3日正式発売の『灯争大戦』なので、本当に令和)
カードが強いのは大前提ですが、凛々しく美しいその佇まい、決然とした意志と正義感、そして幼馴染である魁渡との関係性。放浪皇はいまどき珍しいくらいまっすぐな正統派ヒロインです。
こんな美しいアニメまで作られたくらいに。ここまでやるかーー!!ていうかアニメ毎回作ってください!!!
今でこそマジックにおいて確固たる存在感を確立した放浪皇ですが、『灯争大戦』で新規プレインズウォーカーの《放浪者》として登場したときは、非常に謎めいてこそいるものの大きく目立っていたわけではありませんでした。鍔広の帽子に顔を隠しているだけでなく、プレインズウォーカー・タイプが空白とは一体?
それから約3年を経て、晴れやかに再登場した「放浪皇」の衝撃は「ネオ神河」の衝撃をさらに大きくするものでした。多くのファンが待ち望んだ神河次元への17年ぶりの帰還、しかも話中で1200年を経て大きく様変わりしたその世界は……未来!サイバーパンク!!ニンジャ!!!
多元宇宙には多種多様な次元が存在し、その姿に驚かされるのは決して珍しいことではありません。それでも新たな神河は本当に驚きに満ちていました。そして鮮やかなネオンの夜景に時折映る、刀を手にした凛々しい姿。その鍔広の帽子と真白の髪にはどこか見覚えが……そう。謎めいた「放浪者」とは、長く行方不明だった神河の皇。不安定な灯を持つがゆえに長くひとつの次元に留まることができない――この事実は、すでに驚きばかりだった新たな神河に、さらに大きなインパクトをくれるものでした。
と、ここまで「驚き」を連呼していますが、『神河:輝ける世界』の……放浪皇と漆月魁渡の物語もまた、驚きに満ちていました。これまでにないマジックの世界で一体どんな物語が始まるのかと思えば、ド直球のボーイミーツガール。幼馴染ふたりの絆は微笑ましく、けれど別れは唐突に訪れる。そして時は過ぎ、この世界に忍び寄る影が……
『カルドハイム』から1年ほどを経て、またも新ファイレクシアの法務官が他次元に現れたのでした。そして幼馴染と故郷の危機に、放浪皇はついに神河へと帰還します。彼女にとって魁渡は臣下であり大切な友であり、長いことずっと自分を探してくれていた相手。けれど再会の喜びに浸る時間はありませんでした。
ふたりは同じ神河のプレインズウォーカーであるタミヨウの協力も得てジン=ギタクシアスを打破するものの、テゼレットにそのタミヨウを誘拐されてしまいます。放浪皇は魁渡へと友情への感謝を告げたのも束の間、灯に屈してどこかの次元へと消え去っていったのでした。あまりに短い再会の後の、あっけない別れ……は直後に恐怖へと叩き落されたのですが。
このように、『神河:輝ける世界』は本当に驚きばかりでした。放浪皇と魁渡が繰り広げた、再開と別離の熱く切ない物語。そして本格的に動き出した新ファイレクシアの恐怖。放浪皇がマジックに記した足跡は、そのまま『神河:輝ける世界』のきらめきと驚き……そう言えるかもしれません。
そして『ファイレクシア:完全なる統一』で早くも揃って再登場したときもやっぱり驚きでした。詳細が語られなかったのは残念だけれど魁渡とは再会できたんだ、良かったなあ……と思ったのも束の間、プレインズウォーカーの完成化という恐怖に私たちは襲われたのですが。
完成化バージョンもこれはこれで格好いい……今となってはそんなことも言えますが当時は誰もが生きた心地がしなかったと思います。放浪皇は新ファイレクシアへの突入チームに参加するも、その灯の不安定さが祟って戦い続けることは叶いませんでした(だからこそ完成化を逃れたというのはあるかも)。
不本意な次元渡りの末に彼女が辿り着いたのは、多元宇宙の彼方へ行方知らずとなっていたザルファー。そこにはテフェリーもまた、時間遡行の果てに流れ着いていたのでした。放浪皇はテフェリーへと新ファイレクシアの動きを警告し、そしてそれは『機械兵団の進軍』クライマックスでのザルファー軍の突入に繋がります。放浪皇本人も『機械兵団の進軍』序盤にて神河に帰還、戦いへと鮮やかに乱入してまたも魁渡を救うと、完成化したタミヨウを冷徹に切り捨てました。
そして未訳の解説動画によりますと、放浪皇も《灯の破裂》によってプレインズウォーカーの力を失ったのだそうです。不安定な灯に苦しめられてきた彼女にとっては、恐らくそれはありがたいこと。それでも、いずれ再登場したなら、また鮮やかな驚きをたくさんくださいな。
2位:ジェイス・ベレレン 716票
その男へと隠し通せる秘密などない、多元宇宙最強とも言われる精神魔道士。使い方を誤ればたやすく悪へと堕ちる力を持ちながら、英雄であろうと奮闘し続ける……やっぱりプレインズウォーカーといえば今なおジェイスですよ!!
たしかに全盛期ほどの存在感はありません、それでも《精神を刻む者、ジェイス》のカードが残したインパクトは本当に強烈でした。精神魔法に優れるということは、知識や記憶全般に優れるということ。自らの記憶も他者の記憶も自在に操り、冷徹に勝利を収める……カードからはそんな人物像が浮かびます。
一方で物語上のジェイスはしばしば、そのカードが示す強キャラ感とはいい意味でかけ離れています。あるときは人間関係に苦労し、あるときは自らの好奇心から墓穴を掘り……そこで見せる姿は、私たちがとても共感できるひとりの青年です。
ここで、最初期の記事におけるジェイスの解説を見てみましょう。
ジェイスは他人の記憶を読むだけでなく、他人の記憶を破壊することもできるのだ。十分な時間と準備が確保できれば、たとえ巨大なものであっても、彼はひとつの精神をそっくり破壊することができる。どれほどいい子であっても、どれほどまともで健全に育っていても関係ない――そんな力を与えられたのであれば、使いたくなるまでにそれほど時間はかからない。たとえば自分が法律を破ったとして、誰もそうしたことを知らないようにするために、全員の記憶を改竄できる力があるとしたらどうする? 皆が自分のことを傲慢な青二才だと思っている、そう知ったらどうする?
(同記事の別の箇所より)
我々はガラクの粗暴なフェイスプレート(3/3ビーストトークンがうまくやってくれない時に頭突きをするのに最適だ)と、ジェイスの不機嫌そうで陰気な態度(彼は道を外れたタイプの青い魔道士であり、知りたいことを知るために手を汚すことを恐れない)を大いに気に入っている。公式記事『Planeswalkers Unmasked』(掲載:2007年10月)より訳
うつむいて影のある立ち姿。少なくとも「正義の味方」には見えませんよね。他人の秘密をやすやすと手に入れてしまう、そんな能力をもつジェイスは容易に悪の側へ回ってしまえるのですが、そうはなりませんでした。ジェイスの物語はとても長いので詳しくは述べませんが、本当に様々な物語を経て、英雄への道を歩んでいきました。
横暴で悪しき上司テゼレットと決別し(小説『Agents of Artifice』)、不本意ながらも非常に責任ある地位に就き(ラヴニカへの回帰・ブロック)、そしてニッサやチャンドラのところでも書きましたが、ギデオンと出会ったことで、多元宇宙のためにその力を使う正義のプレインズウォーカー・チームを――ゲートウォッチを結成するに至ります(そのギデオンは16位でした。中間集計まではトップ10に入っていたのですが、やはり今生きているプレインズウォーカーのほうが強いですね……)。
以来、ジェイスは心から信頼できるたくさんの友を得て、多くの次元とその人々のために戦ってきました。そこには敗北もあり、けれど辛い過去も乗り越えました。ずっと追いかけてきた身としてはいつしか、「よくぞまっすぐに育ってくれた」とお母さんみたいな気分で見るようになりました。
……とこんなふうに書いて何ですが、現在ジェイスは行方不明中です。新ファイレクシア突入作戦のメンバーとして参加するも、あえなく完成化に屈してしまいました。しかし『機械兵団の進軍』では何やら正気に戻ったような様子でラヴニカに出現、同じく完成化した恋人のヴラスカを救い出そうとし、その後の行方は知れない……という現状です(ちなみにその回のお熱い描写には「ウェブ掲載でここまでやるんか!」と思ったわよ!)。
ですが……
「『カルロフ邸殺人事件』第7話」。連続殺人事件の謎に取り組む探偵アルキスト・プロフトは、ゴルガリ団のアイゾーニから情報を仕入れた直後に不審な人影を発見し、追いかけます。しかしプロフトは昏倒させられ、そして自らの精神世界の中とおぼしき場所で謎めいた人物に出会いました。
この場面、《思考への侵入》は「注目のストーリー・カード」の1枚となっています。つまり物語上、非常に重要だということ。殺人事件の解明においては一見関係のないエピソードだというのに?そして他者の精神に入り込む能力。「ラヴニカは経由地であって目的地じゃない」という、まるで次元を渡り歩く者のような発言。フードをかぶった外見。これはあからさまにジェイスでは、と言われていますが果たして本当にジェイスなのか。ジェイスだとしたら何が目的なのか……
さて。ここまで来れば、1位はあの人しかいませんよね。
1位:リリアナ・ヴェス 764票(《オニキス教授》を含む)
いやあ、やっぱりすごい!!プレインズウォーカー・カードの始まりからマジックに君臨し続ける、さながらそれは死の女王。そういうわけでリリアナが第1位に輝きました。予想が当たった人も多いのでは?ちなみに投票期間中は長いことジェイス1位・リリアナ2位(・放浪皇3位)で推移していたのですが、かなり最後の最後にリリアナが逆転しました。
説明するまでもないかもしれませんが、リリアナもまた『ローウィン』で最初にカード化されたプレインズウォーカーのひとりです。登場から今年でなんと17年、ほかの4人と同じく何度もカード化され、物語にもそれだけ長く関わってきました。
美しく、強く、恐ろしい。リリアナは死を支配しながらも、死に触れさせようとはしません。紛れもなく邪悪な力をためらわずに振るいますが、脆さと影を隠してもいます。それは自らの過ちから兄を失った過去であったり、利用するだけのつもりの相手を本気で愛してしまった未練であったり……。
リリアナは、明確に「悪役」として登場しました。悪に傾いてしまいそうな危うさを漂わせていた初期のジェイスや、意図せず他者に危害を与えてしまう初期のチャンドラとも異なって、明確に。そしてそんな自分に迷いはなく、目的のために邪な力を振るうことをためらいません。
デーモンとの契約で力と若さを得ている、という設定も当初からのものです。若々しく美しいながら、その実年齢は200歳以上。ニコル・ボーラスと同じく、かつて全知全能に近い力を振るった旧世代プレインズウォーカーのひとりです。世界法則の変化によって多くの力と不老不死の肉体を失ったのですが、4体のデーモンとの契約によってある程度のそれを取り戻りました。
ですがデーモンと契約するということは、支配され束縛されること。リリアナは力を保持したまま、その契約の破棄を目指します。そしてこれまでに挙げてきたプレインズウォーカーも、その多くが仲間との出会いによってその運命を大きく変えてきましたが、リリアナもそうでした。
イニストラード次元にエムラクールが襲来したことがきっかけとなって、リリアナはゲートウォッチの一員となります。共闘することの強さ、プレインズウォーカーの灯という特別なものを持つ意味と使命感から……ではなく、目的を達成するには彼らの力を利用するのが一番だと判断したため。一応フォローしますと、旧知の間柄でありかつて恋人同士だったジェイスの傍にいたいから、というのはありましたが。
とはいえ、そのままリリアナが正義の道を歩んだわけではありません。たしかに善行は増えたかもしれませんが、常にそこには因果応報がありました。何かを得るたびに、そこには代償がありました。
これはゲートウォッチに加わる以前ですが、リリアナは契約主であるデーモンの一体を倒すために、古代の謎めいた秘宝《鎖のヴェール》を入手します。そしてその力を用いて目的は達するのですが、今度はそのヴェールの囁きと誘惑から逃れられなくなってしまいます――デーモンよりも遥かに危険な力。
のちにリリアナは仲間の力を借りてデーモンをすべて片付けますが、それは契約の相手がボーラスに移るという結果をもたらすだけでした。自由など得られず、仲間にも見放されてしまいます。最初から利用するつもりだったと自らに言い聞かせながらも、共に過ごして生まれた愛着がリリアナを苦しめます。
そして迎えた『灯争大戦』はボーラスとの決着であると同時に、リリアナの長い物語の決着でもありました。多元宇宙の至るところからラヴニカに集まるプレインズウォーカーたち、前代未聞の収録数36枚(BOXプロモの《橋の主、テゼレット》を入れて実際には37枚)。そのなかでも最も話題になったのが、言うまでもなく天野 喜孝氏のリリアナでした。
もはやここで書くまでもないことですが、とんでもない衝撃でしたよ。本当にこれまでにないクライマックス、それに相応しい驚きでした。そして結末もまた……。
(ちょっと駆け足で書きますが)戦いの中でリリアナは悟ります、このままボーラスは勝利し、自分はその下僕として永遠に生きる。けれどそんなことは、死ぬより嫌だと。リリアナはボーラスに反逆し、永遠神をボーラスに向かわせます。それは死を意味し……ですが、かつての仲間たちがリリアナを見放した中で、ただひとりギデオンだけは彼女を信じ続けていました。
ギデオンはリリアナの死を肩代わりして消滅し、生きながらえたリリアナは永遠神を使役してボーラスを倒しました。間もなくして、リリアナはラヴニカから姿を消します。そしてしばらくカードの方は静かにしていました……が、世を忍ぶ仮の姿として『ストリクスヘイヴン:魔法学院』で再登場。
びっくりしましたし笑いましたよねえ。こちらも公開時にはかなりの話題をかっさらいました。タイプ欄は正直である。
《オニキス教授》として再登場した当初は、(地の文はともかく)屍術師リリアナ・ヴェスという正体を隠し、礼儀正しく厳格な教授という外面を保っていました。ですがケンリスの双子に関わり、またオリークの脅威に立ち向かうにつれ、だんだんと自由奔放な本性を表していったように思います。リリアナがストリクスヘイヴンに向かったのは身を隠すためですが、別の目的もありました――自分の身代わりになって死んだギデオンを蘇らせる、その手段を探すために。
《過去対面法》でリリアナが対面しているのは《ギデオンの犠牲》。こんな辛い出来事、対面したくて対面しているわけがありません。それはきっと、自分を救ってくれた相手への負い目から来るもの。そんな人間性とはほとんど無縁に生きてきたリリアナがそんなものに悩まされるというのは、本人にとっては理不尽かもしれません。でもそれもまた因果応報なんじゃないかなと。
リリアナが今なおプレインズウォーカーなのかどうかはわかりません。とはいえ、もし力を失ってしまっていたとしても、今のリリアナにはストリクスヘイヴンの教授という立場と責任があります。とても厳しい教授として怖れられながらも慕われており、『機械兵団の進軍』では完成化しなかった数少ない教授のひとりとして学び舎を守りました。引き続き教授として後進を導く人生を送るのも、それはそれでありだと思いますよ。
おわりに
久しぶりに記事を書けて楽しかったです。『ローウィン』の最初の5人は今なお存在感が大きい!と実感した結果でした。昔から登場している=カード的にもストーリー的にも長い歴史が存在する、と考えれば妥当ですが、そうすると放浪皇の人気はすごいですね。
それでは、またどこかで。
(終)
全投票結果
順位 | PW名 | 投票数 | 代表的なカード |
---|---|---|---|
1位 | リリアナ・ヴェス | 764票 | 《ヴェールのリリアナ》 |
2位 | ジェイス・ベレレン | 716票 | 《精神を刻む者、ジェイス》 |
3位 | 放浪皇 | 495票 | 《放浪皇》 |
4位 | チャンドラ・ナラー | 345票 | 《反逆の先導者、チャンドラ》 |
5位 | ニコル・ボーラス | 311票 | 《プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス》 |
6位 | テフェリー・アコサ | 301票 | 《時を解す者、テフェリー》 |
7位 | アジャニ | 239票 | 《群れの統率者アジャニ》 |
8位 | ニッサ・レヴェイン | 237票 | 《世界を揺るがす者、ニッサ》 |
9位 | ガラク | 211票 | 《野生語りのガラク》 |
10位 | エルズペス・ティレル | 201票 | 《大天使エルズペス》 |
11位 | カーン | 181票 | 《大いなる創造者、カーン》 |
12位 | ウギン | 152票 | 《精霊龍、ウギン》 |
13位 | アショク | 144票 | 《夢を引き裂く者、アショク》 |
14位 | ナーセット | 132票 | 《覆いを割く者、ナーセット》 |
15位 | オーコ | 114票 | 《王冠泥棒、オーコ》 |
16位 | ギデオン・ジュラ | 109票 | 《正義の勇者ギデオン》 |
17位 | ソリン・マルコフ | 105票 | 《吸血鬼の王、ソリン》 |
18位 | テゼレット | 102票 | 《ボーラスの工作員、テゼレット》 |
19位 | サルカン・ヴォル | 90票 | 《龍語りのサルカン》 |
20位 | タミヨウ | 89票 | 《月の賢者タミヨウ》 |
21位 | グリスト | 87票 | 《飢餓の潮流、グリスト》 |
22位 | ウルザ | 84票 | 《護国卿、ウルザ》 |
23位 | サヒーリ・ライ | 83票 | 《崇高な工匠、サヒーリ》 |
24位 | ヴラスカ | 77票 | 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》 |
25位 | レン | 75票 | 《レンと六番》 |
26位 | ナヒリ | 70票 | 《石術師、ナヒリ》 |
27位 | テヨ・ベラダ | 67票 | 《幾何学の戦術家、テヨ》 |
28位 | ムー・ヤンリン | 58票 | 《天界の風、ムー・ヤンリン》 |
29位 | ダク・フェイデン | 54票 | 《ダク・フェイデン》 |
30位 | ヤヤ・バラード | 48票 | 《ヤヤ・バラード》 |
31位 | ヴェンセール | 46票 | 《造物の学者、ヴェンセール》 |
32位 | ティボルト | 45票 | 《無頼な扇動者、ティボルト》 |
33位 | ローアン・ケンリス | 36票 | 《不敵な火花魔道士、ローアン》 |
34位 | タイヴァー・ケル | 26票 | 《歓喜する喧嘩屋、タイヴァー》 |
35位 | ルーカ | 24票 | 《銅纏いののけ者、ルーカ》 |
36位 | ヴロノース | 23票 | 《覆面の審問官、ヴロノース》 |
36位 | 漆月魁渡 | 23票 | 《漆月魁渡》 |
36位 | ラル・ザレック | 23票 | 《ラル・ザレック》 |
39位 | ウィンドグレイス卿 | 21票 | 《ウィンドグレイス卿》 |
39位 | アミナトゥ | 21票 | 《運命を変える者、アミナトゥ》 |
41位 | ニコ・アリス | 20票 | 《ニコ・アリス》 |
42位 | ドムリ・ラーデ | 19票 | 《混沌をもたらす者、ドムリ》 |
43位 | ケイヤ | 18票 | 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》 |
43位 | ゼナゴス | 18票 | 《歓楽者ゼナゴス》 |
45位 | セラ | 16票 | 《慈悲深きセラ》 |
45位 | アーリン・コード | 16票 | 《群れの希望、アーリン》 |
45位 | ファートリ | 16票 | 《統一の詩人、ファートリ》 |
48位 | キオーラ | 15票 | 《ビヒモスを招く者、キオーラ》 |
49位 | ビビアン・リード | 14票 | 《怪物の代言者、ビビアン》 |
49位 | コス | 14票 | 《レジスタンスの火、コス》 |
51位 | コメット | 11票 | 《Comet, Stellar Pup》 |
51位 | ダブリエル・ケイン | 11票 | 《はぐれ影魔道士、ダブリエル》 |
53位 | サムト | 9票 | 《造反の代弁者、サムト》 |
53位 | フレイアリーズ | 9票 | 《ラノワールの憤激、フレイアリーズ》 |
53位 | ジェスカ | 9票 | 《三度の再誕、ジェスカ》 |
56位 | テヴェシュ・ザット | 8票 | 《愚者滅ぼし、テヴェシュ・ザット》 |
56位 | ジャレッド・カルサリオン | 8票 | 《ジャレッド・カルサリオン》 |
56位 | クイントリウス・カンド | 8票 | 《クイントリウス・カンド》 |
56位 | ケイリクス | 8票 | 《運命の手、ケイリクス》 |
60位 | ウィル・ケンリス | 7票 | 《ウィル・ケンリス》 |
61位 | オブ・ニクシリス | 6票 | 《敵対するもの、オブ・ニクシリス》 |
61位 | ダッコン | 6票 | 《影の処刑者、ダッコン》 |
63位 | ダレッティ | 5票 | 《屑鉄の学者、ダレッティ》 |
63位 | カズミナ | 5票 | 《謎の賢者、カズミナ》 |
65位 | ジアン・ヤングー | 3票 | 《野生造り、ジアン・ヤングー》 |
65位 | ドビン・バーン | 3票 | 《支配の片腕、ドビン》 |
65位 | アングラス | 3票 | 《ミノタウルスの海賊、アングラス》 |
68位 | エストリッド | 2票 | 《仮面使い、エストリッド》 |
68位 | バスリ・ケト | 2票 | 《バスリ・ケト》 |
68位 | ジアドロン・ディハーダ | 2票 | 《意志を縛る者、ディハーダ》 |
71位 | シヴィトリ・スカーザム | 1票 | 《ドラゴン使い、シヴィトリ》 |
71位 | ガフ提督 | 1票 | 《ガフ提督》 |