はじめに
こんにちは!元パウパー神の長谷川 翔一(@ensoul0714)です。
今月18日に待ちに待った『第7期パウパー神挑戦者決定戦』が行われます。
その矢先、昨日行われた禁止改定によって《きらきらするすべて》と「ステッカー」ギミックが禁止となってしまいました。
そこで今回は、神決定戦へ参加する方に向けた「禁止前までのパウパー環境」と「今後のメタゲーム」についてご紹介する記事をお届けしようと思います。
これを見てパウパー神に出てみようかな?という人が1人でも増えてくれることを願って書きましたので、ぜひお付き合いいただけると嬉しいです!!
《きらきらするすべて》をめぐる攻防
まずは禁止前のパウパー環境を定義していたデッキについてお話しします。
昨年発売した『統率者マスターズ』にて使用可能になった《きらきらするすべて》が、パウパーにて猛威を振るっていたことは禁止改定の結果から見ても明らかでしょう。
当初はアゾリウス親和や呪禁オーラに採用されていましたが、リリースより半年近い時間が経過し研究が進んだことで最も強く使えるデッキと巡り会うことに成功しました。
それが「ボロスシンセサイザー」です。
サンプルデッキ:ボロスシンセサイザー
以前からも存在するデッキではありましたが、今年に発売した『カルロフ邸殺人事件』より《ひよっこ捜査員》を獲得したことでデッキの安定感が格段に向上しました。
《スレイベンの検査官》が計8枚採用できるようになったことで得たメリットを説明すると……
■メリット
① 1枚でクリーチャー+アーティファクトを出せるので《きらきらするすべて》との相性が抜群。《ジンジャーブルート》のようなアーティファクト・クリーチャーでは除去された場合、場のアーティファクトカウントを減らしてしまうがその心配がない。
② 《きらめく鷹》などで戻す選択肢として優秀。場のアーティファクトが増えることはもちろん、手掛かり・トークンによるリソース獲得によって消耗戦にも強くなった。
③ デッキ全体が軽くなったなったおかげでタップインランドが多く入る構成を許容できたり、《実験統合機》がより強力に使えるようになった。1マナのカードが多くなったので、ランダム性のある衝動的ドロー効果をアドバンテージ手段として運用しやすくなっている。
など、たった1枚のカードのリリースがこのデッキの水準を大きく引き上げています。
これまでは主な戦力として《道の探求者》や《逆棘の叩拳》といったカードを複数枚採用していましたが、そういったカードを減らしたことでデッキ全体が引き締まり《きらきらするすべて》に寄せた前のめりな構成へとシフトしていくこととなります。
最終的なゲームプランは、《きらめく鷹》を中心とした飛行戦力でビートダウンしつつ手掛かり・トークンや《実験統合機》でリソースを伸ばし、隙を見て《きらきらするすべて》で強烈な一撃を叩き込みます。そうして減ったライフを《稲妻》や《間に合わせの砲弾》によって削りきる、超高火力なアグロでありながらもオールレンジに戦える強力なデッキだったといえるでしょう。
『サンダー・ジャンクションの無法者』で《擦り減った絶壁》という1点ダメージを与える砂漠土地が登場し、この戦略がより強固なものになったのも大きいです。
ただでさえ対応力に優れたボロスシンセサイザーですが、このデッキの攻略をさらに難しくした要因として「カルドーサレッド」の存在がありました。
サンプルデッキ:カルドーサレッド
1つ前の禁止改定により《僧院の速槍》を失いましたが、新戦力としてポスト速槍ともいえる《ゴブリンの墓荒らし》とサクリファイス&アーティファクトシナジー持った《無謀なる従僕》が加入したことで依然としてメタゲームの一角を担っています。
最近の傾向では、デッキ全体をサクリファイスシナジーに寄せている傾向にあるのが特徴で、メインデッキに《ゴブリンのそり乗り》や《炎の印章》、果ては《大祖始の遺産》を採用するなどさまざまなアプローチが存在するのも面白いポイントです。
これによって《ゴブリンの爆風走り》を安定して3/2威迫として運用できるようになり、《僧院の速槍》亡き後も優れたアグロデッキとして活躍しています。
では、なぜボロスシンセサイザーとカルドーサレッドの2つが環境に変化を与えたのか?その理由について触れていきましょう。
カウンターデッキの没落
この2つの赤いアグロデッキの隆盛により、パウパー環境は明らかに高速化しました。
特に2マナ以下のカードがデッキの大半を占めるこれらのデッキを捌くには、同じ速度で動いたり、軽い全体除去を採用せざるを得ません。ライフ回復といった戦略もありますが、生半可な回復では追いつかないほどに高いダメージで押し切られるケースもあり、有効とは言い難いのが現実です。
これが何を意味するかというと、《対抗呪文》のようなカウンターで相手を捌くという戦略が有効ではないということです。以前のような3~4マナ域が採用される環境であれば素晴らしいカードではありますが、1マナのカードに対してカウンターを撃っていてはテンポアドバンテージを取られてしまいます。また、相手側が2アクションで攻めてくることも向かい風です。
さらに状況を複雑化していた要因があります。ボロスシンセサイザーが《きらきらするすべて》による“点による攻め”を行うのに対し、カルドーサレッドはトークン戦略を主軸とした“面での全体攻撃”を得意としているという問題です。
たとえば《喪心》や《殺し》で《きらきらするすべて》に対抗しようとするとカルドーサレッドに有効ではなく、《息詰まる噴煙》や《悲哀まみれ》では大きくなった《きらめく鷹》を止めることはできません。どちらも強力なアグロデッキではありますが、対策が全く異なるという点が攻略をより困難にしていたのです。
こういった背景がほかのデッキに対し、構築段階から大きな制限を与えており、ボロスシンセサイザーの隆盛へと大きく影響しました。デッキ強度が高く安定感があり対策も難しい、そして一撃のダメージの大きさによるワンチャンスを掴む力に長けたデッキであったためです。
ただ、この条件を満たしながらカウンターを採用したデッキで有力なデッキも存在しました。
それが「ディミーアフェアリー」です。
サンプルリスト:ディミーアフェアリー
ディミーアフェアリーはフォーマットにおける元祖クロックパーミッションであり、上記2つに対応することができる数少ないカウンターデッキとして活躍していました。1マナの呪文への最高の解答となる《呪文づまりのスプライト》を有しており、除去+クリーチャーの追加を行うことで事実上の2アクションを可能にしている点もこの環境では価値が高かったといえます。
歴史の長いデッキですが、高速化によって大きく変化した点がいくつかあります。
まずドロースペルの削減です。《渦まく知識》を始めとしたドロースペルですが、アグロ相手には撃つ余裕がなくテンポロスになってしまうので、最近では減少傾向にありました。アグロ以外に対しては有効なカードなので過度に減らしたりはせず、4-5枚に抑えるリストが多く見られるようになります。
もう1つは除去の採択がかなり散っている点です。紹介したサンプルデッキだと5種類の除去が採用されており、シチュエーションに応じて対応できるように意識していることが伺えます。《自白勧告》が最たる例で、《きらきらするすべて》が付いたクリーチャーを絶対に倒したいという意志が伝わってきます。
サイドボードの除去の選択もメインに入れているものとは別のカードが入れられており、より細かなシチュエーションを想定しているのも特徴的です。
そして最後が《暗黒の儀式》の採用です。
カードアドバンテージを犠牲に、テンポアドバンテージを獲得するこのカードの採用によって、通常では追いつけない速度への対抗手段としています。
個人的に《暗黒の儀式》はディミーアにおける最終手段だと思っていて、これが採用される環境はかなり禁止が出る確率が高いので一種の判断基準だと感じていました(前回の採用はターボイニチアシブ環境です)。
こういった点は歪んだ環境に適応するためのものですので、今後はあるべき姿へ戻ると思われます。
上記のようにカウンターを主軸としたデッキが環境から締め出された影響で、コンボデッキが流行するという事態が発生していました。
隆盛するコンボデッキ
メインデッキからカウンターが減ったことにより、各コンボデッキが環境で猛威を振るうこととなります。
5月にMOで開催された『Pauper Challenge』ではさまざまなコンボデッキがトップ8に入賞しており、7回の開催でなんと13回入賞!しかも、決勝進出はなんと驚異の4回という成績を残しており、これは明らかに異常です(決勝はスプリットの可能性があるので上位2名を参照)。
サンプルデッキ:ゴブリン頑強
以前僕も使用したことがあるゴブリン頑強ですが、このデッキは除去に非常に強いコンボデッキだったこともあり注目されていました。
コンボ自体は《授業初日》をプレイしたターンに《スカークの探鉱者》で《朽ちゆくゴブリン》を何度も生贄にすることで無限の赤マナを生み出し、《闇住まいの神託者》の効果でデッキ内から《間に合わせの砲弾》を唱え勝利します。
コンボを始める際に場にあるゴブリンを《スカークの探鉱者》によって赤マナに変換することができるので、ターン中に複数回コンボを仕掛けられるのがこのデッキ最大の特徴です。
あらかじめ場に《朽ちゆくゴブリン》があれば2マナでコンボが始動できるので、残りのマナから《強迫》や《催眠の悪鬼》でバックアップしたり、《発掘》でリカバリーすることが可能になっており、相手が中速デッキであれば豊富なドロースペルでリソースを伸ばすことでターン中に妨害+コンボを複数行うなど、その器用さはゴブリンとは思えないほどです。
このデッキは除去に対してはめっぽう強いものの、カウンターに弱いという弱点を抱えていました。重要なコンボパーツである《授業初日》はサーチしづらいこともあり、今まではカウンターされた場合2枚目を持つ必要があったためです。
ですが、カウンターデッキが減ったことで唯一の懸念点がなくなりポジションを上げました。最速3ターン目に決まるコンボデッキはアグロにとっても脅威だったに違いありません。
このデッキも高速アグロへの解答を用意することができ、《ゴブリンの女看守》からサーチできる《クラーク族のシャーマン》によってトークン戦略を咎めます。
そのほかにも、序盤はブロッカーとして使用しつつマナが伸ばせる《衝動的なこそ泥》は、無限マナ後の黒マナ生成に役に立つ縁の下の力持ち的な存在です。コンボ開始時に場にあると単体で2マナ分になるので、場に残すことでもコンボの手助けとなっていました。
ゴブリン頑強以外にもアゾリウスファミリアやリアニメイト、壁コンボにサイクリングストームといったさまざまなコンボデッキが勝っており、まさに無法地帯だったといえるでしょう。
禁止改定後のメタゲームについて
上記の流れの大本となる2つのアグロデッキの隆盛が、禁止改定によって解消されたことで予測できる可能性は以下の通りです。
① カウンターデッキの復権
特にディミーアテラーや青単テラーといった、直近でメタゲームから弾かれていたデッキが再び活躍できる可能性が高いです。隆盛していたコンボデッキに対して有効な手立てとなることは容易に想像できるので、今後の動向にはチェックが必要だと思います。
② カルドーサレッドに対し有効なデッキの流行
全体火力を搭載したジェスカイブリンクや、イゼットコントロールのようなデッキは立ち位置を挙げる可能性があります。そのほかにも、《墓所のネズミ》+絆魂を与えるカードを採用したタイプのカルニブラックや呪禁オーラなども勢力を伸ばすことが考えられます。
③ コントロールデッキの存在価値が上がる
環境の速度が落ちたことにより、適正なゲームレンジを行うデッキが増えてくれば、アゾリウスゲートやディミーアコントロールのようなデッキにも勝機は見えてくると感じました。
これは当日のフィールド次第な部分ではあるので、カルドーサレッド対策はある程度意識しておくべきでしょう。残りの短い期間でも日々変化が起きているので、直前での情報のチェックはお忘れなく!勝っているデッキには必ず勝つ理由があると思うので、それを考えてみるのがおすすめです。
複雑なメタゲームですが悔いのないデッキ選択をして当日に臨みましょう!
おわりに
今回の記事はここまでになります。
直前の禁止改定によって大きな変化の中にあるパウパーフォーマットの指針になれば幸いです。
最近のパウパーは、コモンだけでプレイするゲームとは思えないほどメタゲームが目まぐるしく動いています。たった1枚のカードによってさまざまな変化や新たなアーキタイプの誕生が起こる、本当に素晴らしいフォーマットであると私は思います。
この記事で少しでもパウパーに興味をもっていただけたなら、神決定戦じゃなくても構いませんのでぜひ大会に参加してみてください!晴れる屋さんではデッキ販売も行っていますので、気になったデッキがあればすぐ購入してプレイすることも可能です。
もちろん、自宅にあるコモンカードだけで十分プレイできるフォーマットなので好きなカードからデッキを組んでもいいと思います。来月には『モダンホライゾン3』の発売もありますし、ますますパウパーが盛り上がることは間違いないハズです!
もし当日対戦することがあればよろしくお願いします!それではまた!
長谷川 翔一(X)
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