Translated by Takumi Yamasaki
(掲載日 2025/03/21)
到着
私は2025年最初のプロツアーのために、去年と同じく2月中旬にシカゴへ到着した。ただし、今回はプエルトリコからのフライトだ。そこで数週間、ビーチでのんびりしながら、勉強をしたり、スターバックスでMagic Onlineをプレイしたりして過ごしていた。スターバックスは、誰でも使えるコンセントがある唯一のカフェだった。
そのあと空港でカール・サラップ/Karl Sarapと合流し、ウーバーで事前に予約していたAirbnbへと向かった。そこでは、ステファン・シュッツ/Stefan Schütz、アレン・ウー/Allen Wu、アレックス・フリードリクセン/Alex Friedrichsenが待っていた。カリブ海の砂浜と蒸し暑さのあとでは、シカゴの気候はあまりに寒すぎた。久しぶりに友人たちに会えて嬉しかったが、一面を覆う分厚い雪にはあまり喜べなかった。

最初の夕食はアイリッシュパブを名乗る店でとったのだが、それはあくまで技術的な意味でのアイリッシュパブだった。確かに、装飾にはアイリッシュ系の記念品が多数使われていたし、パブと呼ぶこともできるのかもしれないが、雰囲気はむしろダイナーに近かった。
テーブルはピカピカに磨かれ、白いテーブルクロスが敷かれていた。ソファ付きの清潔な座席が並び、音楽が穏やかに流れている。私がアイルランドで見たパブとはまるで違っていた。本物のアイリッシュパブが野生のオオカミならば、この店は飼いならされた犬といったところだろう。
宿に戻ってドラフトを始めると、カールがパワーの大きい《ガイドライト、雲水核》を「最高速度」でプレイしていた。それを見て私は「これは雲水Canだな。雲水Can’tじゃない」と冗談を言った。その後のドラフトでカールが通常版とフォイル版の《ガイドライト、雲水核》を同じパックで引き当て、「お前なら雲水Canを取る?それとも雲水Can’t?」と聞いてきた。
ドラフトに加えて、使用率の高いスタンダードのデッキ同士の対戦も行った。2日間はあっという間に過ぎ、そのあと残りのチーム全員がそろうと、私たちはもっと大きなAirbnbへ移動した。
その日中に、イーライ・カシス/Eli Kassis、サイモン・ニールセン/Simon Nielsen、ジュリアン・ヘンリー/Julien Henry、ダニエル・ソンダイク/Daniel Sondike、アーネ・ハーシェンビス/Arne Huschenbeth、ジョニー・グットマン/Jonny Guttmanが到着し、ジェシー・ハンプトン/Jesse Hamptonとチャールズ・ウォン/Charles Wongは私がすでに寝た後に到着した。
遊びとゲーム
全員が同じ場所に集まったら、さあ仕事の時間だ!……と言っても、実際には朝から晩まで毎日カードゲームをプレイし、友人たちとはしゃぎ回るという楽しい時間だった。

数日間はスタンダードのテストに集中した。イーライはアゾリウスコントロールを調整していたが、それは10年、20年前のデッキのように見えた。最初のテストプレイでは、イーライ自身がこのデッキを使ったときに勝つことがほとんどだった。そのため、このデッキが強いというよりも、彼のプレイスキルによるものだと疑っていた。
私は新年の抱負として「今年は速いデッキしか使わない」と決めていた。昨年の大会では時間切れによる引き分けに何度も苦しめられたし、自分が特にプレイの速いプレイヤーではないことも分かっていた。私の好きなフィクションのキャラクターがよく言うように「現実的にならなければならない」のだ。プロツアーでは、選択したデッキで十分な練習ができないことも多く、プレイの質を落とさずに素早くプレイできることはほとんどない。
とはいえ、時間があれば適切なプレイを見つける自信はある。まるで自分の脳の中には最新のソフトウェアがあるのに、90年代に祖父がリサイクルショップで買ったWindows 95のコンピューターで動かしているようなものだ。より速いデッキを使えば、古いPentium P5のプロセッサーでもじっくり考える時間を確保できる。アゾリウスコントロールはそのチェックボックスの条件を満たさなかったため、リスクを承知の上で無視することにした。
ジュリアンたちは、一般的なリストに採用されている《収集家の檻》なしの《輝晶の機械巨人》を中心にした緑白のミッドレンジデッキを開発していた。私も少し試してみたが、《輝晶の機械巨人》自体は強力だったものの、デッキ全体のパワーはそれほど高くないと感じた。
セレズニアミッドレンジは、相性の良いデッキに対して圧倒的に有利というわけではなく、苦手なデッキにはかなり厳しい。特にオーバーロードとのマッチアップはかなりきつかった。このデッキは決して弱いわけではなかったが、ほかの選択肢を差し置いてまで使う理由が見当たらなかった。
また、オーバーロードの改良にも少し取り組んだ。マナベースを《魂の洞窟》ではなく、色マナの出る土地に変えるという案があったからだ。かなり相性の良いマッチアップもいくつかあったが、グルール果敢が大人気になると予想していたので、その対策が重要だった。私がこのデッキを使い、アレンのグルール果敢と対戦してみたのだが、8回のメイン戦をすべて負け、サイドボード後も5連敗。ようやく1勝できたところでギブアップした。
もちろん、このマッチはここまで一方的な相性ではない。チームでテストする際の重要なスキルは、異常なテスト結果を認識し、そこから何を参考にするべきかを判断することだ。今回の試合では、私の引きが悪く、アレンのドローが良すぎたのだ。また、オーバーロード側でいくつか新しいプランを試したが、それが明らかに機能していなかった。
とはいえ、オーバーロードの基準値は明らかに低かった。このデッキは動きが遅く、グルールの脅威に対して適切に対応できる解答を持ち合わせていなかったのだ。たとえば、《別行動》のような全体除去でさえ盤面を確実に一掃できず、立て直しが困難だった。この一連のゲームに加え、オーバーロードとのミラーマッチで引き分けた世界選手権での苦い記憶が、このデッキを諦める決定打となった。その結果、オーバーロードはセレズニアミッドレンジと同じフォルダに分類されることに。このデッキが弱いとは思わなかったが、自分がそれを選ぶ未来も見えなかったのだ。
主流なデッキであるエスパーピクシーについても話し合ったが、たしかアレンとジェシーを除いて、チーム内で魅力的に感じている人はいなかった。このデッキは単体で見れば強力だが、メタゲーム上の立ち位置はあまり良いものではなかったのだ。
熟練したグルール果敢使い相手には、世間で言われているほどの有利を感じられず、オーバーロードとの対戦に関しても納得のいくプランを見つけることができなかった。また、オンラインで流行していたゴルガリミッドレンジに対しても不利だった。ブン回ったときは壊れた強さがあるが、安定性に関してはいくつか重要な問題を抱えている。
調整の合間には、ジュリアンとイーライが作ってくれたバターチキンや日本のカレーライスなど美味しい料理を楽しむことができた。ジュリアンはこの旅のために事前にスパイスを調合し、さらには調理用のナイフも持参するという周到な準備をしてくれていた。

ほとんどの時間をスタンダードに費やしていたが、夜にはドラフトも行った。あるときサイモンがMagic Onlineのリプレイを確認し、「見てこれ!」とチームのDiscordに投稿した。それはカールが先日試していたデッキとほぼ同じリストだった。チーム内では「偶然にしては出来すぎてる」と冗談を言っていたが、よく見るとそれはカール本人のアカウントだったのだ。サイモンはカールのユーザー名を覚えていなかっただけだった。
ドラフトを重ねるうちに、誰も赤白のアーキタイプで成功していないことが判明した。画面に表示された赤白デッキを見ながら、サイモンがカールに「どうしてこんな色になったの?」と尋ねると、カールはニヤリと笑って答えた。
「Magic Onlineが最初の14枚を勝手に選んでくれたんだよ」
サイモンが「なるほど、それでか」と呟き、みんなで爆笑した。
一方、イーライはアゾリウスコントロールの支持者を増やし、アレックスとチャールズがそれに加わった。デッキには《食糧補充》が追加され、数日前よりはるかに強くなっていた。しかし私は誘惑に負けず、依然として手を出さなかった。
最後まで迷ったデッキはグルール果敢と召集デッキだった。グルールは調整で安定した結果を出しており、強力なゲームプランがある。ただ、よくあるリストと比較しても大きな改善点がなく、環境内で最も研究され尽くしたデッキでもあった。対戦相手はすでにこのマッチアップを何度も練習しているため、プレイでのアドバンテージを得るのが難しい。どこでエッジを出せるのか?本当にそれが我々にできるベストなのだろうか?
一方、召集デッキには新たに《サンビロウの境界》と《入れ子ボット》が加わり、従来のジェスカイ型ではなくボロス型に寄せることが可能になった。これによりマナベースが大幅に改善された。古いジェスカイのリストは、ファストランドとダメージランドばかりで2ターン目にすべての色を要求されるため、マナベースにやや問題があったのだ。それに比べて新しい2色の召集は、シルクのようになめらかだった。
召集デッキにとって最大の問題のひとつは依然としてグルールとのマッチアップだったが、このマッチを好転させるプランを見つけたときは興奮した。デッキの自由枠に《威厳あるバニコーン》と《幽霊による庇護》を採用したのだが、この2枚はそれ同士で非常に相性が良く、単体でも問題ない性能だ。
加えて、このマッチアップでは《救済の波濤》が素晴らしいことがわかった。ほとんどのグルールには《石術の連射》や《紅蓮地獄》が採用されており、召集デッキに対して《叫ぶ宿敵》も数枚サイドボードに用意されていることがある。《救済の波濤》はこれらのカードを効果的にシャットアウトしてくれるのだ。
なぜ《救済の波濤》が《石術の連射》や《紅蓮地獄》に有効なのかは明白だが、《叫ぶ宿敵》に対してどれだけ残忍な効果を発揮できるかは見逃されがちだ。たとえば、《叫ぶ宿敵》がサイズの大きい《威厳あるバニコーン》をブロックした場合、戦闘ダメージ前に《救済の波濤》を唱えると対戦相手はピンチに陥ることになる。
ダメージを受けたときの《叫ぶ宿敵》の能力は強制なので、必ず対象を選ぶ必要がある。《救済の波濤》の効果で自分と自分のクリーチャーが呪禁を得ているため、相手はダメージを自身か自身のクリーチャーに与えざるを得ないのだ。
これらのアイデアもあり、召集デッキに対する熱が高まったのだが、新たな問題に直面した。ジェスカイ型であれば使えていた打ち消し呪文がないため、オーバーロードに対して苦戦を強いられることになったのだ。ということで、これまでのジェスカイ型のマナベースに戻し、新カードは《入れ子ボット》だけにして《遠眼鏡のセイレーン》を再び採用した。
打ち消し呪文のおかげでオーバーロードとのマッチアップは改善したものの、ここで新たな弱点が生まれた。ダメージランドからの追加ダメージのせいで、エスパーピクシーに負けやすくなってしまったのだ。エスパーピクシーには《望み無き悪夢》と飛行クリーチャーによるクロックがあり、1ゲームごとのわずか2-3点のダメージでマッチアップが大きく変わるのは滑稽だった。
カールとサイモンという我々の召集のエキスパートがこのマッチアップについて研究し、サイドボードのカードについて話し合っていたとき、彼らの一人がこう言った。「ああ、そのサイドカードはあまり役に立たないと思うよ。結局《望み無き悪夢》で最初に捨てるカードになるだけだろう」。実際、そのカードは役に立たなかったのだが、この一言が我々の発想を刺激した。「では、むしろ積極的に捨てたいカードを使うのはどうだろう?」
このことから、私たちは《萎れ葉のしもべ》を最初は1枚、次に2枚試してみることにした。《萎れ葉のしもべ》はエスパーピクシー側をやっかいな状況に追い込み、《望み無き悪夢》を唱えることに大きなリスクを伴わせることができる。もし1ターン目に《萎れ葉のしもべ》が出てくればその時点でゲームオーバーとなり、《望み無き悪夢》のプレイを遅らせるとこちらに《萎れ葉のしもべ》を引く時間を与えることになるのだ。
エスパーピクシーのリストによっては、この問題を軽減するために《望み無き悪夢》をサイドアウトできるものもあったが、それではデッキのゲームプランの一貫性が失われ、召集デッキ側へのプレッシャーが大きく減ってしまう。多くのゲームがダメージレースになることを考えると、これは大きな影響を与える選択になるだろう。
召集デッキにとってエスパーピクシーは不利なマッチであることに変わりはないが、デッキ選択から外れるほど悪いデッキではなかった。
やがて時間がなくなり、決断を下さなければならなくなった。私たちはチームミーティングを開き、最も人気のあるデッキのメタゲームシェアと、それらに対する各デッキ候補の勝率を見積もった。データに基づくと、グルールとオーバーロードに対して相性が良いということで、アゾリウスコントロールが我々の最良の選択となった。
セレズニアギアハルクはオーバーロードとの相性がひどかったため、成績が非常に悪く、最後までこのデッキを支持していたメンバーでさえ諦めることになった。グルールと召集デッキはどちらも良い成績だったが、特に目を引くほどの結果ではなく、アゾリウスコントロールに慣れていないチームメイトはこの2つの選択肢に分かれた。
グルールと召集は”客観的”に見ればほぼ同じような選択肢だったため、最終的な判断は個々のプレイヤーにとってどちらが適しているかという点に委ねられた。
私はその決め手として、対戦相手がどちらのデッキに対する練習量が少ないかを考えた。グルールは数ヶ月にわたって環境のトップデッキであり、誰もがこのマッチアップを徹底的に練習し、しっかりとした対策を用意していると分かっていた。おそらく、多くの対戦相手は私が彼らのデッキに対して練習した量よりも、グルールに対する練習を積んでいるだろう。私はデッキがほかより明らかに優れていないかぎり、そういった状況は避けるようにしている。
一方で、召集デッキはほかのプレイヤーの意識の外にあった。このデッキを選べば、ほとんどの試合で私のほうが相手よりもこのマッチを練習している状態になり、それだけでも精神的な安心感が得られると考えたのだ。
最終的に、サイモン、カール、ステファン、ダニエル、ジョナサンは召集を選び、一方でアレンとジュリアンは安全策としてグルールを選択。イーライ、ジェシー、チャールズ、アレックス、アーネはアゾリウスコントロールを選択した。
デッキ提出の締め切り後、みんなで紙のドラフトをいくつか行い、リミテッドのミーティングをしたり、スタンダードのデッキに必要なカードをどうやってそろえるかを確認した。その後はパーティー、そしてカールの誕生日ディナーへ。食事が運ばれてきたあとも、サイモンはブースターパックを開封し、座席でドラフトのシミュレーションを続けていた。

新たな日の幕開け
大会1日目の朝、もう少し睡眠をとればよかったと思ったが、大会に向けた準備には自信があった。ホテルのカフェで朝食をとり、会場へ向かう。今回は次のプロツアーの出場権を得るために良い成績が必要だったにもかかわらず、珍しくリラックスしていた。アムステルダムでの成績が振るわなかったため、ラスベガスのプロツアー権利を得るには9勝7敗が必要だった。

最初のドラフトでは、1パック目の初手で《壮大な玉突き衝突》を引き当てて喜んでピックした。白青のアーティファクト・コントロールは、このフォーマットの中でも特に好きなアーキタイプだったし、競争率の高い緑のカードを巡る争いに巻き込まれたくなかった。ただ《壮大な玉突き衝突》はあまり柔軟なピックではなく、ほかの白のアーキタイプにはあまり合っていない。だが、そもそもほかの白のアーキタイプをドラフトする気はなかった。
1パック目では白が比較的空いていると感じたものの、2色目をどれにするかが難しかった。つづく2パック目で、白青のコントロール戦略にピッタリの《霊気吸引機》を引き当てて興奮したが、それ以外に青のカードはほとんど流れてこなかった。
そのあと《爆弾車》をピックでき、赤のダブルシンボルではあるが、2色土地も何枚か取れて《運送の魔道士》でサーチできるため、タッチすることにした。そもそもデッキパワーが足りておらず、ゲームを締めくくる手段が必要だったのだ。最終的なデッキには満足できなかったが、どうすれば良かったのかは思いつかなかった。

1回戦が始まると、対戦相手が初手5枚までマリガンをし、自分の手札には《壮大な玉突き衝突》があったので、幸先は良さそうに思えた。しかし、それも長くは続かなかった。
相手は《不死の操縦士》を2体展開し、こちらの妨害だらけの手札を嘲笑うかのようだった。さらに《巡回する軟泥》まで繰り出され、やむなく《壮大な玉突き衝突》を使うことに。手札には《爆弾車》があり、次の脅威を除去するつもりでいたが、出てきたのはさらに巨大な《巡回する軟泥》だった。こちらにできるのは《爆弾車》の「消尽」で8点ダメージを与えること。目の前には10/10のウーズ。私の負けだ。
2ゲーム目ではマナが止まってしまい、《壮大な玉突き衝突》をサイクリングするしかなかった。このままでは相手の大型の緑クリーチャーを処理できず、最終的に負けると思っていたが、奇跡的に巻き返してなんとか勝利をもぎ取った。だが、3ゲーム目では幸運に恵まれず、相手のデッキの質の高さとプレイの上手さを前に敗北した。
再利用隔室
2回戦で私はレイ・チャン/Rei Zhang(MOではcftsocという名で有名)と対戦し、遅いコントロールデッキ同士の戦いとなった。1ゲーム目では、後手で引ければほぼ勝てるであろう土地1枚の手札をキープしたが、2枚目の土地を引けず、レイが《霊気吸引機》を最速で展開したため投了した。2ゲーム目も短く、今度はこちらの《霊気吸引機》に対し、レイが早々に投了した。
3ゲーム目では、一部の人には狂気、ほかの人には天才的と思われるような選択をした。普通であればほとんど使い物にならない《再利用隔室》をサイドインしたのだ。しかし、《霊気吸引機》を引くことがこのマッチアップで勝つためのベストな方法だと考え、それをサーチできるなら、たとえ信頼性が低く手間がかかるとしても採用する価値があると判断した。
ゲームが始まり、お互い盤面に展開しながらカードを交換していった。そして、ついに《再利用隔室》を引いてプレイした。レイはこれに対して興味深い反応を見せた。そのあと、プラン通りに《霊気吸引機》をサーチし、「速度」を上げていった。
一方で、レイは《武勇の旗艦》を大量のXでサイクリングし、突然私は窮地に立たされた。しかし、すべきことは明白だ。デッキを掘り進め、運よく《壮大な玉突き衝突》がライブラリーの上のほうにあったため、操縦士・トークンによる敗北を免れ、盤面を一掃することに成功した。
安心したのも束の間、レイは《呪い布の包帯》というさらなるやっかいな一手を繰り出してきた。しかも、こちらの《霊気吸引機》の効果で相手の墓地は肥えている。私は盤面を固めて戦闘ダメージを防ぐことはできたものの、レイは墓地にアーティファクトが大量にある状況で《契約人形の恐怖》を「不朽」してきた。
ここからのゲーム展開は熾烈を極めた。私は毎ターン《霊気吸引機》でレイのライブラリーアウトを狙い、レイは《呪い布の包帯》でアーティファクトを「不朽」して《契約人形の恐怖》でライフをドレインする。私は彼のライブラリーを数え、墓地を確認してデッキの残りの内容を把握しようとしたが、最終的にはそんなことは関係ないと気づいた。
その瞬間、フィンランドの伝説的バンド「Leevi and the Leavings」のある曲が脳内で流れた。彼らの代表曲のひとつ「Teuvo, King of the Country Roads」は、ラリードライバーが「怖がっていてはレースに勝てない」と語る歌だ。
『霊気走破』の精神に則り、私はアクセルを踏み込み、最後までライブラリーアウトを狙い続けることにした。たとえ切削で私を敗北に導く最後のアーティファクトを墓地に送る可能性があったとしても。
最終的にレイのライブラリーには3枚のカードが残り、私のライフは1点。私は《霊気吸引機》をアンタップした状態でターンを渡した。お互いにデッキにまだ少なくとも1枚はアーティファクトである《残骸の木人》が残っていることを理解していた。すべてはこのターンにかかっている。私は息をのみ、指を交差させて祈った。
レイはカードを引き、考え始めた。これは良い兆候だった。もし引いたのがアーティファクトなら、即座にプレイされ、私は即死していたはずだ。考える必要などない。しかし、思案するということは、あまり良い兆候でもない。もし引いたのが単なる土地であれば、考えるまでもなくプレイするだけで済むはずだからだ。
やがてレイはマナをタップし、《機敏な海賊》を唱えて「消尽」で最後のアーティファクトを探しにいった。これに対応し、私は《霊気吸引機》を起動して残りのライブラリー2枚を切削。その結果、《機敏な海賊》によるドローがレイにとって致命傷となった。
ふう…………なんてゲームだ。
その後のドラフト最終ラウンドは、まったく盛り上がらなかった。対戦相手が2ゲームとも《奔流川の記念碑》をプレイし、それに対処できずダメージレースでさえも勝つことができなかった。
まあ、昼食の時間はたっぷりできたから、それでよかったとしよう!
消えゆく光
構築ラウンドに入ると、状況はさらに悪化した。私はエスパーピクシーと対戦し、後手で次のような手札でマリガンすることになった。
理想的な手札ではないが、大きなポテンシャルを秘めていた。それに《望み無き悪夢》を4枚採用しているデッキ相手に、5枚までマリガンするのも気が進まなかった青マナの出る土地か、《ひよっこ捜査員》《入れ子ボット》《毅然たる援軍》のいずれかを引けば十分に戦える。場合によっては、《内なる空の管理人》から《威厳あるバニコーン》につなぐことで、相手の遅い手札に対して奇襲を決めることもできる。
しかし、私は一度も呪文を唱えることなく敗北した。
2ゲーム目も状況はほとんど変わらなかった。マリガン後の手札は以下の通りだった。
白マナを引く必要があったが、デッキ内には十分な数の白マナの出る土地があり、《遠眼鏡のセイレーン》の地図・トークンを使えばそれを探しに行くこともできた。その後、《ひよっこ捜査員》を出して《上機嫌の解体》を唱えることも可能だ。相手の引き次第では、1ターン程度の空振りなら許容できるかもしれない。
だが、白マナを引いたのが遅すぎた。またしても何もできずに敗北。ただし、今回はわずかに呪文を唱えることはできた。
2試合連続で惨敗し、戦績は1-3。状況は絶望的だった。次のラウンドまでの時間は十分にあり、私はミシガン湖に沈む夕日を眺めながら、自分のプロキャリアも同じように沈んでいくのではないかと考えていた。2日目進出は遠い夢のように思えたのだ。
引退という考えも、まったく魅力がないわけではなかった。2月はシカゴよりも暖かい場所で過ごし、6月をラスベガスよりも涼しい場所で過ごすのも悪くない。9月ならアトランタ以外のどこで過ごしてもいいと思った。2025年に開催される3つ目のプロツアーがアトランタと聞いたとき、最初の感想は「まあ、行ったことのない都市だからいっか!」だった。
しばらくして、実は以前にもアトランタに行ったことがあるのを思い出した。ただ、いろいろなところに遠征して忘れていたんだ。アトランタのみなさん、すまない。
フィンランドの家族や友人ともっと一緒に時間を過ごすのも悪くない。仕事の有給休暇をすべてマジックの大会に費やすのではなく、普通にリラックスした休暇を取るのもいいだろう。プロツアーでプレイし、練習することも愛しているが、テストハウスで過ごす数週間をリラックスできるとは言えない。
とはいえ、まだ戦うべき試合が残っていた。これまでにも、もっと過酷な状況から立て直したことはあった。
次のラウンドでは、セレズニアギアハルクと対戦した。試合の詳細はほとんど覚えていないが、2ゲーム目で相手が非常に不可解な攻撃をしてきたことだけは覚えている。私の盤面には、飛んでいる《内なる空の管理人》、《威厳あるバニコーン》《イーオスの遍歴の騎士》、そして《内なる空の管理人》の能力で7~8体タップした小型クリーチャーが並んでいた。
そこに相手は全軍攻撃を仕掛けてきた。なかには《幽霊による庇護》がついたクリーチャーも含まれていた。私は相手を討ち取り、こちらのクリーチャーが生き残るようにブロックした。
戦闘後、相手は《別行動》を唱え、アンタップ状態のクリーチャーをすべて破壊。この動きで攻撃の意図が判明したが、私には理解しがたかった。攻撃せずにタップ状態のクリーチャーを破壊するほうがよかったかもしれない。そうすれば、自軍のクリーチャーを失わずに済み、こちらの《内なる空の管理人》の起動をしづらくして、《威厳あるバニコーン》のサイズも大幅に抑えられただろう。最終的に、戦場にはもう1体の《内なる空の管理人》が残り、そのままゲームを決めた。
つづく6回戦はディミーアミッドレンジとの対戦だった。もし全ラウンドの対戦相手を選べるなら、間違いなくこのデッキを選ぶだろう。ドローにも恵まれ、相手のサイドボードには軽い全体除去がなかったため、速やかに勝利を収めた。
3勝3敗になると、数時間前までの絶望が嘘のように世界が明るく見えた。7回戦ではグルールと対戦し、これにも勝利。2日目進出を確定させた。最終ラウンドではオーバーロードを使うセス・マンフィールド/Seth Manfieldに敗れたが、少なくとも翌日も戦えることが決まった。4勝4敗、まだ終わりではない。
2日目
2日目のドラフトでは、ふたたび青のコントロールデッキを組んだ。今回は1パック目の遅い手番に《呪われし運転手、ウィンター》が流れてきたため、明確にこの色が空いているサインということで青黒になった。またエスパーカラーはアーティファクトとのシナジーが多いため、マナ基盤の安定化を優先してピックした。ただ、結局タッチしたのは《全損事故》のみだった。

このドラフトラウンドについて最も変わったことは、デッキ的に後手を選択することになったことだ。このデッキは先手で相手にプレッシャーをかけることが難しく、《不気味なガラクタ》や豊富な2マナ域のおかげで、後手でも序盤に押し切られる心配がなかった。《不気味なガラクタ》はサイドボードにもう1枚あり、3試合すべてでサイドインした。
1日目と同じく、またしても自分のコントロールデッキでは対処できない「記念碑」を持つ相手と当たった。今回は《忍耐の記念碑》だ。青赤の対戦相手がこれをキャストしたとき、私は顔をしかめた。さらに2枚目を続けざまにプレイされ、サイクリングでアドバンテージを稼がれると、もはやこのトンネルの先に光は見えなかった。ということで即座に投了を選択。しかし、残りの2試合は楽な展開となり、《悪魔憑きエンジン》が活躍して6勝5敗まで巻き返した。
構築ラウンドでは、《残響の力線》型のグルールと対戦した。召集デッキにとって通常のグルールよりもさらに厳しい相手だったため、最初は警戒していた。力戦型のグルールはほとんどテストしておらず、大半のプレイヤーは《亭主の才能》を採用していると考えていたからだ。このバージョンは速攻性が高く、早期に盤面を制圧することが可能だ。しかし、意外なことに、私たちが採用した《幽霊による庇護》には非常に脆いことが判明し、2-0で勝利した。
次の対戦相手はエスパーピクシーだった。2ゲーム目に1ターン目から《萎れ葉のしもべ》を戦場に出せたおかげで、すぐに8勝5敗まで到達した。
続くラウンドでは、珍しくフィンランド人のプレイヤー、アルニ・ランタマキ/Aarni Rantamäkiと対戦した。アルニは昨年のシカゴでプロツアーに初参加し、その後も連続して権利を獲得している実力者だ。
彼はTeam Rampant Growthのメンバーとともに、《名もなき都市の歩哨》と《塔の点火》を4枚ずつメインに採用したグルールを使用していた。《無鉄砲》も数枚入っていたが、これまで見たことがなかった。ただ、マッチアップ自体には大きな影響を与えなかった。また、彼らのチームがサイドボードに《紅蓮地獄》を採用していなかったことは、私にとって朗報だった。
1ゲーム目はすぐに勝利できたが、2ゲーム目ではミスを犯したと思う。私の初手の呪文は以下の通りだった。
アルニが1ターン目にタップインランドを置いたのを見て、私は《尖塔断の運河》をアンタップインして、《塔の点火》を構えた。1ターン目にタップインランドを置いたということは、2ターン目に2マナのクリーチャーをキャストする可能性が高いと考え、《塔の点火》を温存したのだ。これにより、《イーオスの遍歴の騎士》を展開するプランが変わることもなかった。
しかし、アルニは《心火の英雄》をキャストし、私がターン終了時に《塔の点火》でそれを焼こうとした瞬間、《巨怪の怒り》で守られてしまった。その後、私はトランプル持ちの《心火の英雄》を止めることができずに敗北した。この選択にはメリットもあったが、結果的には失敗だった。彼は私の除去を読んで上手く立ち回ったのだ。
振り返ると、私は1ターン目に《遠眼鏡のセイレーン》を出すべきだった。1マナのクリーチャーを引けば、2ターン目に《塔の点火》を撃ちつつ、3ターン目には《イーオスの遍歴の騎士》を展開できた。《上機嫌の解体》を引けば、2ターン目から《イーオスの遍歴の騎士》を唱えることも可能だ。
仮に何も引かなくても、2ターン目に《毅然たる援軍》を出し、3ターン目には《イーオスの遍歴の騎士》と《塔の点火》の両方をプレイできる。《遠眼鏡のセイレーン》を先に出せば、《塔の点火》のダメージを「協約」で3点にでき、《巨怪の怒り》をケアすることもできただろう。
幸い、3ゲーム目ではアルニがミスを犯した。彼は《叫ぶ宿敵》で攻撃してきたが、私は《イーオスの遍歴の騎士》で喜んでブロック。この結果、相手の4/5の《名もなき都市の歩哨》を《門道急行の事件》で処理できる状況が生まれ、その後は盤面を横に広げながらゲームを優位に進めることができた。
最終ターン、アルニは《多様な鼠》を引けば勝てる状況だった。《岩面村》+《巨怪の怒り》+《無鉄砲》の組み合わせでリーサルだったが、幸いにも引かれることはなかった。こうして私は勝利し、9勝目を確保。同時に、ラスベガスのプロツアー権利も獲得した。
この良い気分のまま迎えた次の試合だったが、ショーン・ゴダード/Sean Goddardの《全知》コンボに完膚なきまでに叩きのめされた。
最終戦ではコバヤシ アキラと対戦した。彼は日本人であり、聴覚障害を持っていたが、ジェスチャーを使って非常に明確に意思を伝えていた。私は紙に「頑張って!」と書き、試合前に彼へエールを送った。この試合は、その日で最も楽しい試合だった。
最後のプロツアーチェインを賭けたバブルマッチ、晴れる屋プロのmattの召集にイーオス連打されて大気圏まで吹き飛ばされ終了!最終成績9-7でした。最高に楽しい時間だった… pic.twitter.com/Q5raBcwNQW
— へいか (@enzyutuheika) February 23, 2025
コバヤシはマジックに深い愛情があり、その情熱は私にも伝染した。試合は接戦で彼はとても上手かったが、3ゲーム目に彼の《一時的封鎖》の誘発に対応して《邪悪を打ち砕く》ことができ、それが決め手となって私の兵士たちは勝利を手にし、最終成績は10勝6敗となった。
Team Handshakeは構築戦とリミテッドの両方で高い勝率を記録したものの、今回はサイモンも含めて誰もトップ8に進出できなかった。しかし、非常に惜しい結果だったのがアーネで、スタンダードでアゾリウスコントロールを駆使し、圧巻の9-1の成績を収めたが、最終的に12勝4敗となり、タイブレーカーでトップ8を逃してしまった。
それでも、13人全員が2日目に進出し、そのうち12人が次のラスベガスの出場権を獲得することができた。
大会の締めくくりとして、チーム恒例のディナーをレストランで楽しんだ。

チーム内でアゾリウスコントロールを使用したメンバーは、スタンダードで驚異的な勝率を記録し、ほぼ70%に達していた。後手時のリスクが高まるとはいえ、自分もそちらを選んだほうが良かったのかもしれないと考えてしまう。とはいえ、ジェスカイ召集で7勝3敗という成績を残せたので、自分としては十分うまくいったと言えるだろう。しかし、全体的に見ると、召集デッキの勝率はコントロールよりも明らかに低かった。
日曜日の決勝ラウンドは大会を側から見守り、マット・ナス/Matt Nassが《魂の洞窟》を削ってマナ基盤を安定させたオーバーロードで優勝するのを目の当たりにした。もしかすると、我々もその方向性をもっと追求すべきだったのかもしれない……。
エピローグ
旅が終わりに近づくにつれ、シカゴは暖かくなり、最後に残った雪は大通りから姿を消し、ひっそりとした路地裏に後退していた。私はようやく周囲を見渡す余裕ができ、シカゴの美しさを改めて実感した。シカゴには独特のスタイルとアイデンティティがあり、豊かな歴史を大切にしている。アンソニー・ボーディン/Anthony Bourdainの言葉を借りればこうだ。「シカゴで目を覚まし、カーテンを引けば、すぐに自分がどこにいるの分かる」
頑丈な金属製の建造物と鉄道の響く音は、まるでスチームパンクのゲームを思い出させ、昔ながらの街灯の金色の光は、特に夜の冷たい冬の空気に暖かいコントラストを与えてくれた。

以前、「アール・ヌーヴォーの建物はまるでエルフが建てたように見え、アール・デコの建物はドワーフが建てたように見える」というミームを見たことがある。アール・デコ様式で有名なシカゴは、まさにドワーフが築いた街のように見える。

今年はこれまで以上にマジックをプレイする時間がありそうで、その時間を使ってプレイヤーとして成長し、自分がどこまで行けるか試してみたいという気持ちがある。最高レベルの舞台で全力を尽くすスリルが大好きだからだ。
もう一方で、悲観的な考えも浮かぶ。プロツアーがすべてアメリカで開催され、10勝6敗の賞金では飛行機代を賄うのがやっととなると、このライフスタイルを続ける意味を見直したくなる。何週間も努力してプロツアーに挑むより、自宅でアリーナ・ダイレクトをプレイしたほうが収益的には合理的かもしれない。
ただ、ひとつ確かなのは、マジックの最高の部分は「Gathering(集まり)」だということ。プロツアーの翌月曜日には、かつてゼン・タカハシとして知られていたゼン・ミヤジ=ソーンの遅めのバチェラーパーティーに参加した。世界中の友人や異なるチームの仲間が集まり、最後にふさわしい最高の時間を過ごして旅を締めくくった。

マッティ・クイスマ (X)
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