チェスとマジックの戦略的原則

Matti Kuisma

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2021/11/24)

はじめに

アレン・ウー/Allen Wuは過去の記事で、ほかのゲームをプレイして得た教訓を我々に示してくれた。そのなかでも個人的に特に響いたのは以下の記述だった。

ほかのゲームを遊ぶことはウェイトトレーニングに例えると良いかもしれません。ターンを用いる戦略ゲームは、情報の非対称性・テンポ・不確実なものの理解など、共通して高度なメカニズムを備えています。

しかし、運動の種類によって鍛えられる筋肉が違うように、こういった要素もゲームごとで重要性が変わってきます。ひとつ例を挙げると、ブラフはマジックにおいてマイナーな要素ですが、ポーカーでは重要な要素です。ブラフを理解しようと思うなら、マジックを1年プレイするよりも、ポーカーを1週間勉強したほうが実りあるでしょう。

『ハースストーン』がリリースされたころ、私は異常なほどのめり込んでプレイし、数か月経つとアレンが指摘する内容と同じことに気がついた。『ハースストーン』のデッキは比較的枚数が少なく、たった30枚しかない。そのうえ、一部のマッチアップではロングゲームになることがしばしばある。そのため、特定のカードを引き込む確率がマジックよりも格段に高い状況に頻繁に遭遇したのだ。そこで、私はマジックでは考えられないほど、未来のドローを想定してそれを判断材料にするようになっていった。

そんな折、ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasのキューブドラフトの動画を観ていると、彼がこれと同じ計算をマジックでもやっていることに気がついた。彼は手札と盤面の状況だけを見れば最善とは思えないが、ひとたび狙いのカードを引き当てれば一気に有利な状況になるようなプレイをしていたのだ。そしてルイスに限っては、統計的に許される以上の確率でそのカードを引き当てていた。

この教訓は強く心に残り、勝機を探さなければそのまま負けてしまう状況でも、幸運をつかみ取れるチャンスを探すようになった。

ここ一年、私はチェスをよくプレイしている。『PogChamps』というイベントを観るのが楽しく、このイベントではチェス初心者である有名配信者たちがチェスのマスターから指導を受け、配信者同士で大会を戦う。コーチ陣が生徒にチェスの戦略を指南するごとに、私はそれをマジックにも適用できないか考えるようにしていた。そこで、今日の記事ではチェスの基本原則を理解すればマジックプレイヤーとして成長できるというテーマで話していこうと思う。

《遍歴の騎士》

遍歴の騎士

チェスの序盤の動きとして「ビショップよりも先にナイトを動かせ」というアドバイスがよくされる。『7版』の《遍歴の騎士》と同じく、チェスのナイトも敏速に戦いに飛び出してゆくべきなのだ。もちろん例外はあるが、ナイトを先に動かすのは柔軟性のある展開をすべきという考えが背景にある。

例として、こちらがE4にポーンを進め、相手が同じくE5にポーンを進めたという古典的な初動を見てみることにしよう。

キング側のナイトが進めるマスは3つあるが、そのほかの2つに比べてはるかに優れたマスが1つある。ナイトはできるだけ動きやすく中央に陣取るのが理想であり、F3マスに進むのが望ましい。他方、Fファイル(F列)のビショップに目を移すと、進めるマスは5つあり、相手の動きに合わせてE2、D3、C4、B5のいずれかに進むのが定石だ。2手使ってコマを動かすのは無駄であり、まずは相手の動きを見て、それから白マスのビショップの配置を決定する。

マジックで柔軟性のある展開というと、とてもわかりやすいものがある。例えば、ドラフトの初手でカードパワーのある多色カードをピックするのではなく、無色のカードをピックする。あるいは自分のターン内にドロー呪文を唱えると決めているなら、ドローしたもの次第でターン内の動きが変わる可能性に備えてドロー呪文を何より先に唱える。ドロー呪文を最後に唱えるのはミスであり、何度目撃してきたことかわからない。そして自分自身も許し難いほど繰り返してきた。

ルーン爪の熊ケンタウルスの狩猟者轟くベイロス

もう少し混み入った例を考えてみよう。4ターン目、自分には土地が4枚あり、手札には2・3・4マナの呪文が並んでいるとする。さて、このときどう動くだろうか?

ありがちなミスは、そのターンで最大限のリターンを得ようとして2マナのカードを2枚唱えることだ。しかし、このような状況のとき、基本的には柔軟性のある展開を心がけるべきだろう。

状況が許すなら、私は必ずマナコストがもっとも重いものからプレイし、軽いものはあとにとっておく。そうすることで後々柔軟性をもって動けるからだ。次のターンに土地を引いたら2マナと3マナの呪文を唱えられるかもしれない。あるいは別の2マナのカードを引いたら、前のターンに手札にあった2マナのカードを2枚唱えるよりも、引いた2マナのカード+持っていた2マナのカードでより強いダブルアクションがとれるかもしれない。

自分がドローしたカードや相手の動き方によってプランが変化するパターンは無数にあるが、多くの場合、マナコストの重い呪文を先に唱えておけば、より柔軟に動ける立場になることができる。

除外喪心

もうひとつ別の例をあげよう。相手がクリーチャー呪文を唱え、こちらには《除外》《喪心》という2種の解答が手札にある。あなたならどちらを使うだろうか?私からすれば答えは簡単。カードを1枚引いて2:1交換することが間違いだというなら、私は間違いでもいい。しかし、自分で考える力があるなら、まずはどちらの選択肢が後々の選択肢を増やすかを考えてみるべきだろう。

ただ、どちらが実際に柔軟性があるかは状況による。相手のデッキに伝説のクリーチャーがたくさん入っているなら、信頼性の低い《喪心》を先に消費したほうがいいだろう。また、《除外》を先に唱えることが重要な場合もある。なぜなら、ずっと打ち消しを構え続けるよりも、先々のターンにタップアウトできる選択肢を持つことこそが柔軟性があると言えるからだ。

この例に対する解答は状況によりけりだが、正しい質問を自分に投げかけることを忘れなければ、きっと正しい答えを導けるはずだ。

《締めつける綱》

締めつける綱

チェスエンジンと対戦すると、すぐに次の内のどちらかの状況に陥ることがある。ひとつは、チェスエンジンが黒魔術を使ってこちらのコマをすべて食いつくし、ゲームオーバーの状況。もうひとつは必死になって盤面を見つめ、良い動きはないかと探しているがもはや打つ手がない状況だ。

後者の状況は、人間よりもチェスエンジンが圧倒的に得意としていることであり、完全無欠のエンジンは単なる超人的エンジンよりもさらにそれを得意としている。理想的なチェスエンジンは一見するとなんてことない動きをし、直線的な攻め方をしてこない。じわじわとプレッシャーをかけてきて、こちらのコマが進めるすべてのマスをコントロール下におき、もう少し運要素のあるゲームをすれば良かったと我々に思わせる。真綿で首を締めるように降伏させようとするのだ。

もちろん、人間同士の戦いであっても、同じようなことができることもある。その好例が、1983年の世界ジュニアチェス選手権で行われたLev PsakhisとMark Hebdenのゲームだ。そのゲームの決着時の盤面はこのようなものだった。

よくよく盤面を眺めてみると、黒のコマのプレイヤーは完全に手詰まりになっていて、有効な手を打つことが一切できない。そのため、白のコマのプレイヤーはやりたい放題できた。結局、ポーンがプロモーション(※強力なコマに昇格すること)しやすくなるよう、白のキングが盤面の右下から左上まで移動して決着はついた。

人間である我々は、相手の妨害をしたほうが効果的な場面であっても、自分のカードや自身のゲームプランの展開に目が行きがちだ

この考え方をマジックに応用したいなら、良い教材がある。「ゲーム展開の掌握」という以前書いた記事を読んでみて欲しい。この記事では、リー・シー・ティエン/Lee Shi Tianとイヴァン・フロック/Ivan Flochのゲームを解析している。このゲームでは、香港の殿堂プレイヤーがスロバキアのスーパースターに効果的なカードの使い方をさせないように徹底している。

そのほかにも、ドローを進めたりマナを加速させたりして自分自身の展開を優先させるか、あるいは相手のそれを妨害するかという選択で悩むことはよくあると思う。

くすぶる卵バーニング・ハンズ

わかりやすい例を示そう。スタンダードで自分はイゼットドラゴンを、相手はティムールトレジャーを使っているとする。こちらの2ターン目、選択肢として《くすぶる卵》を出して自分のゲームプランを進めるか、相手の《厚顔の無法者、マグダ》《バーニング・ハンズ》を放つかという2つの道があるとしよう。

このマッチアップなら、私は自分の計画を推し進めるよりは相手の展開を妨害したい。もっともわかりやすい負け筋は、ティムール側に好き放題させ、《エシカの戦車》《黄金架のドラゴン》を一足早く出されることだ。

ドミナリアの英雄、テフェリー覆いを割く者、ナーセット戦慄衆の秘儀術師

もう少し発展した例を考えてみる。こちらのデッキはヒストリックのラクドスアルカニスト、相手はジェスカイコントロールだ。相手の盤面には忠誠度2の《ドミナリアの英雄、テフェリー》が存在し、相手の手札は《覆いを割く者、ナーセット》のみがある。そしてこちらの墓地には《戦慄衆の秘儀術師》が置かれている。

コラガンの命令

このターン、自分は《コラガンの命令》を唱えようと決めている。最優先事項は《ドミナリアの英雄、テフェリー》に2点ダメージを与えることだ。これは簡単だね。では、もうひとつのモードは何を選ぶべきだろうか?《戦慄衆の秘儀術師》を墓地から戻すか、それとも《覆いを割く者、ナーセット》を捨てさせるべきか?

答えはここでも同じで状況によりけりだ。今回自分に投げかけるべき質問はこうだろう。

「その2つ目のモードでより得をするのはどちらか?」

仮に相手の盤面に変身した《アズカンタの探索》があり、《覆いを割く者、ナーセット》がなくともその起動にマナを使えるのであれば、手札破壊モードは相手の選択肢を大きく制約することにはならない。しかし、相手のリソースが枯渇していてライブラリートップから何らかのアクションを引かなくてはいけない状況だとすれば、《覆いを割く者、ナーセット》を手札から落とすことに大きな価値が出てくる。

その反面、自分サイドにほかのアクションが何も残されていないのであれば、《戦慄衆の秘儀術師》を回収し、ゲームを支配するプランにかけるのが一層魅力的になる。だが、《戦慄衆の秘儀術師》がなくとも、《夢の巣のルールス》をプレイして《ドラゴンの怒りの媒介者》を墓地から唱え、まだ手札に有効なアクションがあるのだとすれば、《戦慄衆の秘儀術師》を回収することは優先事項の筆頭には来ないだろう。

《力の均衡》

力の均衡

チェスの有名な理論として、ポーンは1点、ナイト・ビショップは3点、ルークは5点、クイーンは9点に相当すると言われることがある。たとえば、ビショップとナイトをトレードしたとすると、理論上は3点相当のコマ同士を交換することになる。

しかし、実際は点数が同じように見えるトレードであっても、まったくの等価交換にならないことがほとんどだ。相手よりも強いコマを揃えている状況であっても、貴重なコマが不適切な位置にあれば、ゲームに勝てる可能性は下がってしまうだろう。コマの陣形とコマの強さが均衡状態にあるとき、チェスではそれを「動的均衡(Dynamic Equality)」と呼ぶ。

貴族の教主神の怒り

これをマジックに応用してみるとどうか。相手のライフを危険水域まで落とせば、相手の選択肢を大きく制約し、カードを理想的な形で使わせないようにできる。たとえば、相手のライフが1で《貴族の教主》からの一発を食らうわけにはいかないとき、コントロールデッキを使う相手は非力なドルイド1体に対して《神の怒り》を使わなくてはいけない。そのときどきの戦況によって、実質的な(あるいは具体的な)カードアドバンテージにつながることもあるのだ。

Moat

もっと極端な例を考えてみよう。私の一部の友人が「アグロ《Moat》と呼んでいる現象だ。要するに、相手のライフを大きく削っておけば、返しのターンにフルアタックされてライフが尽きてしまうことを恐れ、相手は攻撃ができなくなるというわけだ。相手が攻撃できないのであれば、自軍のクリーチャーよりも敵軍のクリーチャーが強くても関係ない

そしてもし自分が手札を数枚握っているとすれば、相手はその中身が無意味な土地なのかライフレースを狂わせる呪文なのかわからなくなる。そうなれば、本来よりも返しのターンのフルアタックがより一層恐ろしいものになり、状況を打開するカードを引ける猶予が長くなるだろう。もっとも、デッキに打開策があれば、の話だが。

瞬き翼のキマイラ太陽の恵みの執政官

別の例で考えてみると、リミテッドのボムクリーチャーの価値はデッキによって大きく変化する。相応のプレッシャーをかけられるデッキならば、別のクリーチャーに対して除去を消費させることができ、その後に《瞬き翼のキマイラ》のようにそこまで強いクリーチャーではなくてもアドバンテージを獲得して勝利に結びつけられる。

反対に、《太陽の恵みの執政官》のようにもっと強いボムクリーチャーを持っていたとしても、悠長なデッキだとすぐに除去されてしまうだろう。相手からすればほかのクリーチャーに除去を使う理由がなく、最重要な対象に向けて除去を温存しておけるからだ。

這い寄る刃戦場の猛禽

要するに、自分よりも強いカードを持っているリミテッドデッキに勝つための方法のひとつは、相手に理想的なカードの使い方をさせないようにプレッシャーをかけることだ。チェスの言葉で言うならば、動的均衡を目指すのだ。《這い寄る刃》《戦場の猛禽》といったクリーチャーを入れた全速力のアグロを組む必要があるわけではない。そのような極端な構成に必要なパーツが必ずしもカードプールにあるわけではないだろう。

リミテッドにおける攻撃性は誤解されている節があるように思う。リミテッドで攻撃的なデッキをドラフトするといった場合、マナカーブをできるだけ低くし、ゲームへの影響が大きかったり高マナ域のカードよりも弱いカードを優先することだと解釈されがちだ。私の経験から言えば、相手にかけるプレッシャーという点では、期待の薄い2マナ域よりも優秀な5マナ域のほうが上であることが多いように思う。特にシールドで言えることだ。

尊きグリフィン黄金造りの歩哨尊いラマスー

実際、自分よりも遅くて強いデッキに対しては、ややマナコストが重めの飛行クリーチャーをサイドインする手法をよく使う。重いカードというと攻撃的なコンセプトにそぐわないと思うかもしれないが、比較的遅いマッチアップならば、チャンプブロッカーになる《溶岩の撃ち込み》よりも回避能力があるほうが相手にとってよっぽど大きなプレッシャーをかけられる。アグロ寄りのミッドレンジに対しては、マナレシオの優れない飛行クリーチャーは使い物にならないが、遅めのデッキに対してはマナコストよりもゲームへの影響を重視すべきだ。

《脅しつけ》 vs. 《処刑》

脅しつけ処刑

「脅しは実行に移すより恐ろしい」。チェスにはそんな有名な格言があるが、これはコントロールミラーのあり方を的確に表している。その最たる例が、かつてのスタンダードにあったティムール再生ミラーの《荒野の再生》、あるいはヒストリックのジェスカイコントロールミラーの《ドミナリアの英雄、テフェリー》だ。

荒野の再生

ティムール再生が隆盛を極めていたころ、《荒野の再生》をすべてサイドアウトし、完全にインスタントタイミングで動ける構成にすべきだと主張するプレイヤーが散見された。

夜群れの伏兵サメ台風終局の始まり厚かましい借り手

《夜群れの伏兵》《サメ台風》《終局の始まり》《厚かましい借り手》など、瞬速の脅威で勝利を目指し、決してタップアウトしないプランである。

《荒野の再生》を全部サイドアウトするのは、お互いに瞬速によるドローゴーの展開になるのだから、4マナのソーサリータイミングの呪文を着地させるのは難しいという理屈だ。しかし、もし相手がこちらのプランを把握していた場合、そこにつけ込まれる可能性がある。

なぜ4マナのソーサリーがティムール再生ミラーで弱いのだろうか?コントロールミラーはチキンレースであり、最初に切り札を通そうとして打ち消されると、返しのターンに相手は安全に自分の切り札を通せてしまう。再生ミラーもまったく同じだ。《荒野の再生》を通そうとした場合、最大の裏目は打ち消された返しのターンに《荒野の再生》を通されてしまい、それ以降マナアドバンテージに圧倒的な差が生まれてしまうことだ。

《荒野の再生》を4枚ともサイドアウトしてしまうと、相手がタップアウトした隙を突く可能性を捨てることになる。つまり、相手は自由に呪文を唱えるタイミングや方法を選ぶことができるのだ。相手はこちらのエンドステップに何らかのアクションを起こし、返しのターンにアンタップしてから《発展/発破》を全力で打ったり、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を「脱出」させたりできる。負けにつながるようなアクションをこちらが取れないとわかっているからだ。

発展+発破自然の怒りのタイタン、ウーロ

しかし、《荒野の再生》をすべてサイドアウトしなければ、そのような自由を与えることはない。タップアウトには大きなリスクが伴うようになる。

あるいは、《荒野の再生》に対する解答を相手が持ってない場合もあるだろう。解答をまったく引けていないのかもしれないし、限りある解答を枯渇させたのかもしれない。いずれにしても、《荒野の再生》を残すプレイヤーはできるだけ強いアクションを起こせるようにしておくことで勝率を上げているのだ。そして《荒野の再生》+《発展/発破》は、間違いなく《夜群れの伏兵》を唱えるよりも強いアクションである。

ドミナリアの英雄、テフェリー

ヒストリックのジェスカイコントロールミラーにおける《ドミナリアの英雄、テフェリー》にも同じことが言える。お互いに確定カウンターをごくわずかしか採用していないため、メイン戦の《ドミナリアの英雄、テフェリー》は素晴らしい。通ることを期待してシンプルに叩きつける動きが報われることも少なくない。《記憶の欠落》で対応されれば多少テンポを失うかもしれないが、次のターンにまったく同じ動きをとることができる。

チャレンジャー・ガントレットに向けて調整しているとき、「ミラーマッチで《ドミナリアの英雄、テフェリー》を何枚サイドアウトするか」という議論がチーム内で起こった。その大会で圧倒的に多いと思われるマッチアップである。チャレンジャー・ガントレットはデッキ公開制であり、試合の模様も配信されている。そのため、3枚ある《ドミナリアの英雄、テフェリー》のうち2枚以上をサイドアウトする余裕はないだろうと考えた。

ドビンの拒否権神秘の論争

相手がサイドインしてくるであろう《ドビンの拒否権》《神秘の論争》の山を超えて解決するのは難しい。それでもサイドアウトしても1枚までだと考えたのは、先述とまったく同じ理由だ。0~1枚まで減らしてしまうと、相手がそれを脅威に思わなくなってしまうのだ。試合が配信されている以上、相手がこちらのプランを把握していないとは思えなかった。

ポーカーをしている人にとっては、「搾取的なプレイとゲーム理論最適のプレイ」の話に似ていると思ったかもしれない。まだ実力が伴っていないプレイヤーの場合、リスクを回避し、絶対にタップアウトしないようにする傾向が見受けられる。そういった相手に対しては、その傾向につけ込んで《ドミナリアの英雄、テフェリー》《荒野の再生》をすべてサイドアウトするといったプレイスタイルに調整することが考えられる。

しかし、対戦相手が強豪である場合、相手につけ込まれることのないいわゆる「ゲーム理論最適戦略(Game Theory Optimal Strategy)」こそが最良の戦略だ。すなわち、相手に手札に幅があると脅せるようなバランス型戦略であり、マナコストが重いがパワフルなソーサリースピードの呪文をすべてサイドアウトせず部分的に残すのだ。

《未来予知》

未来予知

2か月ほど前、Crokeyzが『PogChamps』に向けて練習している風景を観ていた。対戦を反省していると、ポーンがE7からE5に進んだことで相手の評価値が上がったことに納得がいかない様子だった。コンピューターが良しとする手は大差はないものの、もっと慎重なE7からE6という手だったのだ。

初心者にとって、これはかなり理解しがたいことに違いない。ポーンをより遠くまで進めれば、盤面中央にある重要なマスから相手のナイトを追いやることができてテンポがいい。そして、中央に進んだポーンをすぐに脅かす脅威もない。

この一手の問題は、「バックワードポーン」と呼ばれる状態、ほかのポーンに守られていないポーンを作り出してしまうことにある。このバックワードポーンは長期的に見ると弱点になってしまう。すぐにそのポーンを取られることはなくても、D列のポーンが弱いという状態を解決するのは難しい。

先読み

この「ゲームの行く末を予測する」という力は極めて重要だ。有名なチェスのYoutuberで、GothamChessとして知られるLevy Rozmanは、チャンネル登録者たちが送ってくる棋譜を見て、彼らのプレイぶりからレーティングを推測するという人気コンテンツを作っている。プレイヤーのレーティングを物語る最大のヒントは、おそらく彼らが打つ手の裏に何らかのプランがあるのかどうかなのだろうと思う。

レーティングがもっとも低いプレイヤーは無駄な動きばかりをする。たとえば、攻撃してもその攻撃を回避されてより良いマスに進ませてしまうコマを攻撃してしまったり、無防備なコマをそのまま放置してしまったり、単純なトリックや戦略にコマをとられるなどしてしまう。一方、中級者になると柔軟性のある展開を狙うなど、意図のある手を打つようになる。

Sacrifice Play

上級プレイヤーはさらにその上をいく。相手のプランや狙いを察し、相手がコマを進めたいと思っていたマスを封じる。また、自分のゲームプランを進めるうえで、多少の犠牲を払ったり、ナイトを取るためにルークを差し出すという不利な交換をするタイミングをわきまえている。彼らは一般的に正しいとされる定石でそれぞれのコマを評価するのではなく、プラン遂行をするうえで各コマがどれぐらい重要かで評価しているのだ。言葉を換えるなら、彼らはコマの評価を固定的ではなく、柔軟に行っている。


話をまとめよう。ここまで数々の考え方を一文に要約するとこうなる。

このターンでのベストなプレイはするな。目指すべきは、ゲーム全体を通してのベストなプレイだ

前もってプランを練り、未来に向ける目を養うこと。マジックプレイヤーとして成長したいなら、これこそが培っていくべき最重要なスキルだろう。

マッティ・クイスマ (Twitter)

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Matti Kuisma ワールド・マジック・カップ2016でチームの一員としてトップ8に輝いた、フィンランドのプレイヤー。 プロツアー『霊気紛争』で28位入賞を果たしたものの、2016-17シーズンはゴールドレベルに惜しくも1点届かなかった。 2017-18シーズンにHareruya Hopesに加入。2017年は国のキャプテンとしてワールド・マジック・カップに挑む。 Matti Kuismaの記事はこちら