By Kazuki Watanabe
プロツアー『イクサランの相克』は、構築のフォーマットがモダンである、という点に注目が集まりがちだ。
しかし、プレイヤーたちがまず挑むのはドラフトである。
プロツアー取材は、海外プレイヤーに話を聞くことができる貴重な機会だ。そして、ドラフトについて話を聞くとすれば、彼以上の存在は居ないだろう。
リミテッドの達人、マルシオ・カルヴァリョ。
世界選手権2017でもリミテッドアナライズを披露してくれたマルシオ。今回もラウンド間のわずかな時間ではあるが、彼に話を聞くことができた。
さて、『イクサランの相克』が発売されてからプロツアーまでの二週間。彼にどれくらいドラフトをプレイしたか聞いてみると、
マルシオ「正確な数は覚えていないけれど、少なくとも80回はやっているよ」
と笑顔で答えが帰ってきた。早速話を伺ってみよう!
■ マルシオ「できる限りアグレッシブに」
――「早速だけど、この環境のドラフトについて教えて欲しいんだ。まずは色、種族について教えてもらえる?」
マルシオ「では、色の順位から。今のところ、青>赤>黒>白>緑という順位だ。種族はデッキの完成度によって上下するけれど、海賊、マーフォーク、吸血鬼、恐竜だ。環境屈指のコモンである《砲撃》、そして《帆凧の海賊》が使える青赤海賊が一番かな。でも、海賊、マーフォーク、吸血鬼は僅差だよ」
――「なるほど。僅差の中でも海賊が一番になった理由はあるの?」
マルシオ「まず、青緑マーフォークと白黒吸血鬼は人気が高くて、中途半端になったり、そもそもピックできなかったりする。そして、『もし完璧なデッキを組めるとしたら?』と考えた場合、青赤海賊が一番アグレッシブで、マーフォークや吸血鬼をあっという間に倒すことができるデッキなんだ。何度かドラフトしているけど、この破壊力は群を抜いているよ」
――「理想のデッキを考えた場合の強さ、ということだね。では次に、『イクサランの相克』のドラフトで重要なことを教えて?」
マルシオ「できる限りアグレッシブに。これが重要だよ。『イクサラン』に比べても、環境はかなり速くなっている。恐竜の順位が低いのは、この速さが原因だ。『序盤を凌いで、大型恐竜を出す』というものが恐竜のイメージだろうけど、大抵の場合は序盤を凌ぐことができずに終わってしまうからね。早いターンから動き出せるかどうかは、とても重要だよ」
――「その場合、低マナ域のクリーチャーが重要になってくるよね?」
マルシオ「そうだね。『イクサランの相克』最大の特徴と言っても良いのが、2マナ域のクリーチャーなんだ。基本的にスペックが高い。だから、3ターン目に相手の2マナを止められるかどうかが一つの分かれ目なんだ。止められなかったら引き離されて追いつけない、というゲームも多いだろうね」
――「なるほど。恐竜を出せる頃には手遅れになっているわけだ」
マルシオ「どうにか耐えて重たいクリーチャーを出したとしても《粉砕する潮流》や《オラーズカからの排斥》で簡単にバウンスされてしまうこともあるからね。この2枚は忘れた頃にやられるカードだ。青いデッキと戦うときは、頭の片隅に置いておくと良いと思うよ」
柔軟な考え。そして、経験
――「ありがとう。もっと聞きたいところなんだけど、そろそろ次のラウンドが始まってしまう。だから最後に『リミテッドが上手くなりたい!』と思っている読者に向けて、アドバイスを貰えるかな?」
マルシオ「アドバイス、か。そうだな……柔軟な考えを持って、固執しないこと。これは俺が常に考えていることさ。この環境でも同じだよ。例えば『イクサラン』に引き続き『イクサランの相克』でも種族が存在する。ただ、その種族に固執しないことが重要なんだ」
――「種族のカードを集めることに夢中にならない、ということ?」
マルシオ「そのとおりだよ。中途半端な種族デッキよりも、色に合わせた優秀なカードを集めたデッキの方が強い、なんてことはよくある話だ。もちろん完成度の高い種族デッキの強さは驚異的だ。でも、種族を決めてからカードを集めるというプランが可能なドラフトは限られている。種族というのは、あくまでも評価点の一つだ。『デッキにとってベストな色、種族は何だろう?』と考えて、カードの流れを見ながら最良のピックをするんだ」
――「なるほど。『種族が合ってるから』ではなくて、『このカードが一番だからピックする』ということだね」
マルシオ「そうだね。できるならば、常に最高の海賊やマーフォークを組みたい。だけど、そうならないのがドラフトだ。そこが面白いんだけどね」
――「そうやって考えながら経験を積んでいけば、上手くなれるわけだね」
マルシオ「もちろんなれるさ! リミテッドで重要なのは、やはり経験だ。ただし、これは前も言ったと思うけど、漫然とした100回よりも考え抜いた1回の方が良い。そして、考え抜いた100回ができるならベストだが、もちろんそんなことができる人間は限られている……俺だって無理だよ。だからできる限り真剣に考えて、そして回数を重ねるのさ。最初は勝てないと思うけど、1ラウンドが終われば1ラウンド分強くなっているはずだよ」
次のラウンドが開始されるアナウンスが流れ、立ち上がったマルシオは笑顔で言った。
マルシオ「じゃあ、1ラウンド分強くなってくるよ!」
世界最高峰のリミテッドの達人は、まだまだ強くなるようだ。
次に話が聞けるのは、3ヶ月後になるだろう。そのときには、さらに強くなった彼に出会えるに違いない。