By Kazuki Watanabe
プロツアーは個人の戦いである。それと同時に、チームシリーズの戦いでもある。
様々なチームが鎬を削る中、私が注目しているのが日本人のみで構成されたKusemonoである。
- 2017/11/05
- インタビュー: 中村 修平 -嫌いこそ物の上手なれ-
- 渡辺 和樹
前回のプロツアー『イクサラン』で、Kusemonoのリーダーである中村 修平にインタビューをしたところ、『意見を交換し、デッキの調整をして、当日になってみたらスタンダードのデッキが6人バラバラだった』といういかにも曲者らしいエピソードが語られた。
さて、今回はどんな「曲者らしいエピソード」があるのだろう。
そこで、Kusemonoの一員であるHareruya Prosの熊谷 陸に話を伺ってみた。
今回はどうなったのだろう? と熊谷に尋ねてみると、
熊谷「デッキの選択は6人中3人が同じですね。私は違うデッキを使用しましたが、これは調整の段階からチーム内で共有していたことでもあったので、前回とは少し違います」
という答えが返ってきた。ホッとしたような、少し寂しいような……と思っていると、
熊谷「ただ、今回も色々ありまして……」
とのこと。ならば伺ってみよう。曲者たちの”色々”というやつを!
■ スタートは、感覚
――「今回もメンバー間で情報交換や、調整を行ったんですよね? まずはどのようなスタートだったのですか?」
熊谷「ほとんどのメンバーがモダンに慣れていなかったので、現在の環境を把握するところからでした。一番強いデッキは何だ? というところから探っていきましたね。そして、藤村 和晃さんの『トロンかジェスカイ』という言葉がチーム内の共通認識というか、前提となりました」
――「なるほど。藤村さんが環境を分析した結果なんですね」
熊谷「いや、ほとんど感覚らしいです」
――「か、感覚……?」
熊谷「もちろん直近の大会の結果や、デッキリストを分析した上での言葉だと思いますが『感覚』だったみたいですね。ただ、藤村さんの感覚は鋭いというか、メタゲームを読み解く力は信頼できるので、全員が納得しました。まずはその言葉を信じてスタートした形ですね」
――「そしてその前提を踏まえた上で、何を使用するか決めていったわけですね」
熊谷「そうですね。トロンとジェスカイに触れつつ、どのデッキが良いかを各々が詰めていくような状態です。瀧村 和幸さんは好きなドレッジを磨いてましたし、私もトロンに触れて『あまり好きじゃないな』と思って別のデッキを探しましたね」
――「各々が好きなデッキを探したわけですね。最終的にはどのような結論になったのですか?」
熊谷「グランプリ・ロンドン2018にチーム全員で出場しまして、そこから合宿をしたのですが『トロンとジェスカイはほぼ五分』という話になりました。どちらを使うか決めかねるくらい、同じだったんです」
――「そうなるとリーダーの一声で結論が出るわけですか?」
熊谷「いえ、最後は『回してみて、ウルザ土地が揃えられる人はトロンを使おう』ということになりました。揃わないんだったらトロンの流れが来てないから辞めよう、と」
――「天に任せるというか、運というか……」
熊谷「藤村さんは『プロツアー前日にウルザ土地が手に吸い付いたらトロンを使う』と仰ってましたね。『こんなに揃うんだったらトロン熱いんじゃない?』『揃わないから辞めたほうが良いかも』なんてやり取りをしてました。それくらい決めかねる状態だったんですよ」
■ ジェスカイの難しさ。そしてデッキの決定
――「実に曲者らしいですね……。そんな中、熊谷さんはどのような選択をされたのですか?」
熊谷「やはりトロンというデッキがあまり好きになれなかったので、『ジェスカイか、それ以外』という選択になっていましたね。ただ、ジェスカイは想像以上に難しく、辞めた方が良いかも、とも思っていたんですよ」
――「具体的に、どのような点が難しいのですか?」
熊谷「ジェスカイは攻守が明確な相手に対して強いデッキなんです。相手が攻めて来るならば、それを除去する。反対に守りに入るならば、相手以上の力で攻めきる。相手によって切り替えることで勝てるデッキなのですが、攻守がはっきりしない相手と戦うのが、想像以上に難しいんですよ」
――「攻めるべきか守るべきか、という判断が難しいわけですね」
熊谷「そのとおりですね。では、『最も攻守がはっきりしない相手』は何か。それはミラーマッチなんです。お互いに攻守を切り替えられるデッキなので、立ち回りが非常に難しいんですよね。少なくとも一朝一夕で身につけられるものではない、と判断して、気になっていた5色人間を詰めていくことにしました」
――「ここ最近結果を残して、このプロツアーでも最大勢力だった5色人間ですね。ちなみにジェスカイとの相性は良いんですか?」
熊谷「はっきり言って悪いですね。5色人間は、当然ではありますが除去が多いデッキ相手は不利なんです。ジェスカイは除去が多いデッキの最たる例なので。ただ、ジェスカイを使っても5色人間を使ってもジェスカイに負けるならば、5色人間の方が良い、と考えたんです」
――「なるほど。5色人間の方が良い点は、やはり他のデッキとの相性ですか?」
熊谷「そうですね。ジェスカイの場合、環境に存在する大抵のデッキに対して6:4、5.5:4.5で有利、というのが利点です。これに対して人間は圧倒的に有利なマッチアップが存在するので、そういった相手に当たることができれば、と考えました。デッキ自体は、まつがん(伊藤 敦)さんがTwitterで掲載していたデッキとほとんど同じです」
リスト変わらず5-0。無限に先手取れて無限にT1Vial置けるのでこのデッキたぶん向いてる
— Atsushi Ito (@matsugan) 2018年1月3日
R1 Dredge WW
R2 Mardu Pyromancer WW
R3 Tron WLW
R4 Eldrazi Tron WW
R5 Burn LWW pic.twitter.com/ayI5ZYcUoJ
――「《幻影の像》が採用されている形ですね」
熊谷「《アヴァブルックの町長》だった枠が《幻影の像》になっているのですが、単純に強くなったと言って良いと思います」
■ サイドボードと、もう一つの型
――「モダンには多くのデッキが存在し、様々な対策カードが存在しますよね。サイドボードの15枚はどのように決めたのですか?」
熊谷「5色人間は自由に色マナが出せる、と思われがちですが、そうではないんです。《魂の洞窟》《手付かずの領土》のマナが使えるのは人間、もしくはクリーチャーに限られていて、ダブルシンボルの呪文は採用しづらいんですよね。なので、そもそも選択肢が狭く、限られたカードしか採用できません。なので、良くも悪くも悩まなくて済んだ、というのが正直なところですね」
――「なるほど。それから、5色人間には熊谷さんのような《霊気の薬瓶》を採用した型と、《集合した中隊》を採用した型がありますよね」
熊谷「ありますね。実はここが心残りというか、《集合した中隊》型をほとんど試せなかったんです。調整時間が限られていましたからね」
――「そうだったんですね。《集合した中隊》型の方が優れている部分もあるのですか?」
熊谷「除去が多いデッキに対しては、《集合した中隊》型の方が優れている場面が多いと思います。《集合した中隊》を唱えれば大抵の場合はクリーチャーを2体出せるので、除去の枚数を上回ることができますから。良し悪しがありますし、個人の好みもあります。もう少し比較できれば良かったかな、とは思うのですが、私の場合は《霊気の薬瓶》型の方が合っていると思ったので、満足はしていますが」
――「これでプロツアーが終わって一段落するわけですが、今後の遠征の予定は決まっていますか?」
熊谷「しばらく長距離遠征はせず、グランプリ・京都2018まで予定はないですよ」
――「では、少しゆっくりできるんですね」
熊谷「そのつもりです。遠征でヨーロッパまで来ると、移動だけで24時間近く潰れてしまいますからね。旅疲れはしない方だと思うのですが、やはり少なからず影響はあるので。少しゆっくりと過ごしつつ、スタンダードにも目を向けていく予定です」
――「ありがとうございました。そして、お疲れさまでした!」
4 《魂の洞窟》
4 《手付かずの領土》
4 《古代の聖塔》
4 《地平線の梢》
2 《金属海の沿岸》
-土地(19)- 4 《教区の勇者》
4 《貴族の教主》
4 《スレイベンの守護者、サリア》
4 《サリアの副官》
4 《翻弄する魔道士》
4 《帆凧の掠め盗り》
4 《幻影の像》
4 《カマキリの乗り手》
3 《反射魔道士》
1 《ケッシグの不満分子》
-クリーチャー(36)-
3 《罪の収集者》
3 《墓掘りの檻》
2 《ザスリッドの屍術師》
2 《イゼットの静電術師》
1 《オーリオックのチャンピオン》
1 《四肢切断》
-サイドボード(15)-