白緑オーラとプロツアー『イクサランの相克』

Christian Calcano

Translated by Atsushi Ito

原文はこちら
(掲載日 2018/02/14)

プロツアー『イクサランの相克』は、私たちにとってはとても素晴らしいイベントとなりました。

なんと私たちのチーム“Connected Company”から、ようやく初めての (遅すぎるくらいの) トップ8入賞となったハビエル・ドミンゲスと、3度目のトップ8となるアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucci (8位で彼の名前が呼ばれたときは劇的でしたね) という2人のプレイヤーを3日目に輩出したのです!

私は2人の最高の友人たちがともにトップ8に進出したのを祝福したいがあまりに、興奮しすぎて声が枯れそうになりました。チームの調整というものはまさしくこの瞬間に立ち会うためにあったと思えるほどであり、厳しい練習が報われたと思うと感動もひとしおです。

さて、チームメイトの彼らはどちらも5色人間をプレイしていましたが、私はというと独り異なるデッキを使用していました。白緑オーラです (“ボーグル”とも呼ばれていますね)。

怨恨ぬめるボーグル夜明けの宝冠

最終的な私の成績はモダン6-4のドラフト4-2で10-6というものでした。そこで今日は、プロツアーに向けて用意したドラフト戦略と、なぜどのようにして白緑オーラを選択したのか、そして今後のメタゲームにおけるこのデッキの立ち位置についての私の考えなどを説明していこうと思います。

それでは細かい話は抜きにして、こちらが私のプレイしたデッキリストです。

プロツアーが近づくにつれ、私は親和を使う気満々になっていきました。2~3回トーナメントに参加して、Magic Onlineでの数回のリーグと同様、良い結果を収めることができたからです。また、私はリミテッドフォーマットが大得意なのですが、親和はドラフトのデッキに近い使用感があったこともその理由でした。

ですが、現地のスペイン・ビルバオに借りた調整部屋に着いた途端、すべてが様変わりしてしまいました。私の親和は、チームメイトたちがぶつけてくるありとあらゆるデッキにものの見事にボコボコにされてしまったのです。5色人間やバーンといった、それまで全く負けたことのなかったデッキたちに対してさえ、何ゲームも落とす有り様でした。かくしてあまりの負けっぷりとアンドレア・メングッチからのアドバイスを受けて、ついに私は親和を使わないことを決めたのです。

水曜日になって私は、どちらも能動的に対処を迫るためにゲームプランが立てやすいデッキということで、バーンもしくは5色人間を使おうと決めました。そして人間の方がメタられているだろうし、人間だとあまり相性が良くないトロン/ランタンコントロール/その他コントロール系に対しても有利という理由で、バーンにより重点を置いて調整することにしました。

ですが、その日バーンを回すのにほとんどの時間を費やしたところで、バーンというデッキは土地1枚の初手をしばしばキープしますがその際2枚目を引けるかどうかにゲームの勝敗が帰着したり、もしくは普通の初手でも土地を引きすぎて負けてしまうことが多々あったりするということがわかったのです。また、土地や火力呪文をプレイする順番も極めて重要であるところ、はたして自分自身がそれについて正しい判断ができるかどうか、ついぞ自信が持てませんでした。

水曜日の夜になってもまだ、使うデッキは決定できていませんでした。そんな折、深夜0時をまわってバーンのサイドボードの仕方について議論している際に、白緑オーラを使うという考えが唐突に舞い降りてきたのです。そしてバーンマスターのヤン・ウィンチュン/Yam Wing Chunに、「バーン側は白緑オーラに対してどのようにサイドすればいいか?」と尋ねてみたところ、彼は非常にシンプルな答えを返しました……「このマッチアップで勝つのはほぼ無理だよ、そもそも白緑オーラなんて誰も持ち込まないだろうけどね」と。

ヤン・ウィンチュン/Yam Wing Chun
Image Copyright: Wizards of the Coast

それを聞いて今度はハビエル・ドミンゲスのところへ行き、私たちが想定したメタゲームにおいて白緑オーラはどのようなスコアを残しているかを確認しました。すると驚くべきことに、5色人間/親和/バーン/ストーム/ジェスカイといった想定トップメタのほぼすべてに対して相性が良く、トロンやエルドラージトロン、白青コントロール、ランタンコントロールといった相手には多少不利、というものだったのです。早速齋藤 友晴にお願いして、様々なデッキの有利不利や想定されるメタゲームに対するスコアを記載したスプレッドシートに、白緑オーラを加えてもらいました。その結果は私の予想通り、私たちの調整で最も高いスコアを示していた白青コントロールと同等の数値を示していたのです。

ここに至ってようやく私は白緑オーラをプロツアーで使用することを決断し、ハビエルとアンドレアも良い選択だと太鼓判を押してくれました。数年ほど前にグランプリで回したことがあったので、このデッキの最も難しいポイントはマリガン判断であり、次いでオーラを付ける順番であると熟知していました。

メインとサイドの構成について

白緑オーラのMagic Onlineでの最近の5-0リストを見直そうという段になって、私は他ならぬStainerson (Thomas Ashton)5-0していたことに驚きました。彼の名前はあまり知られてはいないでしょうが、アメリカのプロの間では非常にリスペクトされているプレイヤーで、彼のリストをもとに数枚を変えればうまくいくだろうと思いました。ちなみに彼もプロツアーで白緑オーラを使用し、8-2という成績を残しています。

ハイエナの陰影結束のカルトーシュ

メインはあまりいじるところがなく、《三つ目巨人の視線》《ひるまぬ勇気》を減らして2枚目の《ハイエナの陰影》 (ハビエルいわく少なくとも6~7枚は「族霊鎧」が欲しいとのことでした) と2枚目の《結束のカルトーシュ》 (ダメージレースにおけるチャンプブロッカーを提供してくれるのと《ヴェールのリリアナ》避けとしてよく機能します) を入れた程度です。

またこのデッキのサイドボードについては、トロンやリビングエンド、白青コントロールといった比較的厳しいマッチアップに備えて、大量の強力な対策カードを搭載できるのが良い部分と言えます。

石のような静寂天上の鎧安らかなる眠り

《石のような静寂》は言うまでもなく上質のサイドカードですが、《天上の鎧》の修正値にカウントできるのも忘れてはいけません。同じことはリビングエンド対策の《安らかなる眠り》についても言えますね。

ガドック・ティーグ

《ガドック・ティーグ》はトロンに対して《石のような静寂》の次に効果的なカードです。プロツアーではトロンとコントロールが私の予想より多く、特にコントロールに対しては《謎めいた命令》《仕組まれた爆薬》《神の怒り》系のカードをまとめて封殺できて非常に効果的なので、後から考えると3枚目を入れた方が良かったと思います。

流刑への道

《死の影》のようなデッキに対してはダメージレースに勝つために《死の影》を除去する必要があることもあり、3~4枚目の《流刑への道》を採用しています。

魂の絆

《魂の絆》はバーン相手に信じられないほど強力な働きをします。このカードのライフゲイン効果は誘発型能力であって絆魂とは異なるものなので、《魂の絆》《夜明けの宝冠》の両方がエンチャントされている場合、与えたダメージの2倍のライフを得ることができます。また、もう一つ覚えておきたい重要なポイントとして、《魂の絆》を相手の《大歓楽の幻霊》にエンチャントするとゲームが崩壊します。《大歓楽の幻霊》の能力が誘発するたびに2点ゲインできることになるので、相手はこちらを焼き殺したいと考えるなら自分自身で《大歓楽の幻霊》を除去しなければいけなくなるのです。

エーテル宣誓会の法学者弁論の幻霊

合わせて2枚の《法の定め》能力を持つクリーチャー、《エーテル宣誓会の法学者》《弁論の幻霊》は対ストーム用というだけでなく、コントロールに対しては追加のクリーチャーとしてオーラを付ける先にもなります。

原基の印章

《虚空の杯》《罠の橋》を出されただけで投了する羽目になるのは避けたかったので、《原基の印章》も1枚だけ差すことにしました。

サイドボーディングの一般的なルールとして、多くのマッチアップでサイドアウトするのは《神聖の力線》《グリフの加護》《霊魂のマントル》《ひるまぬ勇気》になります。他のカードはデッキの核なので、滅多にサイドアウトすることはありません。

プロツアー本戦 -ドラフトについて-

ドラフトに話を移すと、私の成績は2-1が2回で4-2というものでした。『イクサランの相克』ドラフトは『イクサラン』×3の環境とはまるで正反対と言えます。『イクサラン』のときは軽いクリーチャーとオーラをひたすらかき集めて可能な限りアグレッシブに振る舞うのが最良でしたが、『イクサランの相克』ドラフトは逆に可能な限りコントロールに寄せたい環境となっています。

Calcano

Image Copyright : Wizards of the Coast

色としては黒がこの目的に最も合致しており、黒赤-黒白-黒緑のいずれも文句のない組み合わせです。黒青もありえますが、私の考えでは青はこの環境で最弱であり、しかもコントロールを組んでいると3パック目の『イクサラン』で取りたい青いカードがあまりないのが問題です。

黒をやれない場合は、白緑も強力な選択肢になります。総じてピックの方針としては除去を優先し、良質なブロッカーともし黒をやっているなら《復活》系のカードを確保して、あとはゲームを速やかに終わらせることができるフィニッシャーを少なくとも2~3枚取る、というものになるでしょう。

太陽冠のプテロドン

1stドラフトのデッキは黒緑ベースに《太陽冠のプテロドン》(こちらの記事で触れられているように、私たちのチームでは“チキン”と呼んでいました) と《光明の縛め》のために白をタッチしたもので、2ndドラフトも白黒吸血鬼に2枚の《太陽冠のプテロドン》が入ったものを構築しました。

ご存知のように私はこの”チキン”を極めて高く評価しており、それによりチームメイトたちの多くを驚異的なドラフトラウンドのスコアに導くことができました。タフネス5の飛行クリーチャーはこの環境において基本的に最も優秀なブロッカーです。しかも別の恐竜をコントロールしていれば、警戒のおかげで相手がアタックできないのを尻目にゆっくりと対戦相手のライフを削っていくことが可能になるのです。

光明の縛め

白のコモン/アンコモンの中では《光明の縛め》が最も点数が高いカードということに変わりはありませんが、《太陽冠のプテロドン》は明らかに2番目に点数が高いカードであり、他のカードとは比較にならないと考えています。他の白のアンコモンすべてよりも優先すべきことはもちろん、あらゆるデッキに積極的にタッチしたいカードです。実際1stドラフトでは、黒緑が確定しているけれども2枚の《放棄された聖域》が取れているというところで、2パック目の初手で《略奪者の急襲》よりも優先してピックしました。私はこのタイプのデッキでかなり多くの成功を収めることができていますし、プレイしていて非常に楽しいこと間違いなしです。

終わりに

全体としてとても楽しかったプロツアーでしたし、最後2連敗しての10-6という成績ではありましたが、今回のデッキ選択には満足しています。当たりたいと思ったデッキとほとんどマッチアップしなかった (5色人間と親和とはなんと1回も当たりませんでした) のは不運でしたが、これもモダンの多様性ならではといったところでしょう。

白緑オーラというデッキについて言えば、なぜこれほどまでにプレイしている人が少ないのか理解ができません。このデッキに関する否定的な決まり文句は筋が通っていないように感じます。なぜならこのデッキは他のあらゆるモダンのデッキと同様きちんとしたコンセプトがあり、しかもそのコンセプトは環境においてちゃんと成立しているからです。

ただ今後については、トロンやランタンコントロール、あるいはその他のコントロールデッキが今よりも多少隆盛するだろうと見込まれるので、白緑オーラのポジションは少し悪くなる可能性はあります。けれどももし黒赤ディスカードが流行るようなら白緑オーラは変わらず良いポジションであり続けるでしょう、なぜならこのマッチアップは渡辺 雄也の言葉を借りるなら「10-0でオーラが有利」だそうですからね!

ぬめるボーグル虚ろな者

さて、楽しんでいただけましたでしょうか。何か質問やコメントがあれば英語版の方に英語で、お気軽にお寄せください。

読んでくれてありがとう!

クリスティアン・カルカノ

この記事内で掲載されたカード


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