By Atsushi Ito
フロンティア、モダン、ヴィンテージ、3柱陥落。
互いに対戦相手のみをメタればいいという通常の大会とは異なる論理が支配する特殊なルールの戦いゆえに
レガシーの「神」についてはもはや紹介すら不要と思えるが、この「神決定戦」という企画が2014年6月に始まって以降、8度の神決定戦すべてで挑戦者を退け防衛を達成し続けている「最古の神」だ。
??「えー、嫌な流れ。これ俺も負けるのかなー」
川北 史朗。
「挑戦者の考える川北像」を逆手に取り、常にデッキ選択段階で挑戦者の裏をかいて一歩先を行くという離れ業を毎回実現してみせている絶対王者は、オカルト的には相当の窮地と言えるこの状況においても負ける気は微塵もないと言うかのごとく、普段通りの飄々とした態度を崩そうとはしなかった。
それもそのはず、川北の真に恐ろしいところは、すべての対戦でフルセットにまでもつれこみながら5ゲーム目を勝利するというこれまでの実績が証明するように、飽くなき勝利への執念とそれを持続させるメンタルの強さにあるからだ。
期 | 挑戦者 | 結果 |
---|---|---|
第2期 | 高鳥 航平 | 3-2 |
第3期 | 入江 隼 | 3-2 |
第4期 | 斉藤 伸夫 | 3-2 |
第5期 | 土屋 洋紀 | 3-2 |
第6期 | 加茂 里樹 | 3-2 |
第7期 | 平木 孝佳 | 3-2 |
第8期 | 川居 裕介 | 3-2 |
第9期 | 折茂 悠人 | 3-2 |
しかもそれに加えて、今回はいつにもまして気合が入る理由があった。川北はこの第10期レガシー神決定戦で勝利すると同時に、新設された「永世」資格の要件を満たして「永世レガシー神」となることが決まっているのだ (「永世」資格の要件は以下の通り)。
条件:同一フォーマットでトータル10期以上在位。
特典:晴れる屋全店舗の同フォーマットの大会参加費が永久に無料。
備考:神決定戦で敗退後は、「永世神」の称号・特典は継続したまま、一般参加者と同様に挑戦者決定戦、神決定戦に出場できる。
年3回ほど開催される神決定戦で「トータル10期以上」という条件を満たすためには、計3年以上もの在位が必要となる。ある意味でこの「神決定戦」の象徴とも言うべき川北のために作られた、おそらくこの先も川北くらいしか要件を満たせないのではないかと思われるほどの前人未到の境地まで、あとたったの一歩。あとたった一人の挑戦者さえ倒すことができれば、川北は神をも超えた存在となる。
そのたった一人の挑戦者。自らが神を目指すと同時に、川北の「永世」を阻止するという大役をも結果的に担うこととなったプレイヤーが、川北の目の前で静かに佇んでいた。
有田 浩一朗。
レガシーでも随一の難易度を誇るデッキ、ANTを己が半身がごとく自在に使いこなし、第10期レガシー神挑戦者決定戦ではスイス最終戦で神へのリベンジに燃えていた斉藤 伸夫を破って予選を1位通過。その勢いのまま優勝まで駆け抜けた姿は記憶に新しい。
だが「熟達したANT使い」というだけでは川北にとって脅威にはなりえない。ANTを使ってくることがわかっているなら事前にメタってくればいい……それがこの神決定戦というフィールドにおける不文律だからだ。
だから川北にとっての問題はむしろ、有田という人物が前回挑戦者の折茂と同様にプレイヤーとしての性向を掴ませない、謎に包まれたプレイヤーであるという一点にこそあった。相手を読み切っての完璧なデッキ選択も、そもそも相手を知らなければ成立しない道理だ。
川北「困りましたよ。今回例によって有田さんのことを身内のレガシー勢に調べてもらったりしたんですが、誰に聞いても『ANT以外使ってるの見たことない』って言うんですよね……」
有田「(笑)」
川北「ちなみに、『土地単』だったらマジで褒めます」
有田「うーん、返答しかねますねw」
対戦前の何気ない談笑からも川北に使用デッキのヒントを掴ませない有田。「普段はMagic Onlineしかやらないので、『対戦相手にデッキを渡す』という行動に不慣れなんですよね……」と言いつつ互いのデッキをシャッフルする。その最中、茨城在住の有田が東京にもちょくちょく来ていることを漏らした部分に、川北が反応した。
川北「え、じゃあ僕のこと見たことあります?」
有田「そりゃありますよw」
川北「いやそうじゃなくて、レガシーの大会で」
有田「会場でもありますよ」
川北「えー、僕は有田さんがプレイしてるの見たことない……」
独り納得した様子の川北に対し、有田は曖昧な微笑をたたえつつも応えない。2人の言がどちらも正しいならば、「川北は有田と同じ空間にいたことがあるが、有田という人物を認識していなかった」ということになる。プロツアー『マジック・オリジン』への出場経験があるとはいえ、スタンダードからの転向組でレガシー歴はそこまで長くなく、挑戦者決定戦での優勝までレガシーにおける目立った活躍のなかった有田は、川北にとってはまだ「名前のない誰か」にも等しい存在だったに違いない。
そんな有田がしかし、今では挑戦者として川北を倒すべく座っている。もはや有田は「名前のない誰か」ではない。これまで8人もの挑戦者たちが背負って挑みながらも散っていった「神殺し」の願い。その願いを受け継ぐことで、川北の「永世レガシー神」への道を阻む「最後の挑戦者」、有田 浩一朗となったのだ。
「最古の神」川北が、ついに神を超えた存在となるのか。「最後の挑戦者」有田が、挑戦者たちの宿願たる「神殺し」を果たすのか。ここから数時間ののちに待ち受ける未来は、永世レガシー神の誕生か最古の神の陥落、そのいずれかだ。どちらが勝っても神決定戦の、いや日本レガシーの歴史に残るであろう瞬間となる。
やがて戦いに臨む2人が、固い握手を交わした。どのような結果になっても悔いはない、と言うように。
第10期、レガシー神決定戦。始まりを告げるアナウンスとともに、最後の戦いが幕を開けた。
Game 1
ダイス2個で12を出した川北が先攻。だが幸運を使い果たしたのか、7枚を一瞥するや否やマリガンを宣言する。対する有田は「見たことないハンドが来たw」と悩むもキープを宣言。
やがて、緊迫した一瞬が訪れる。この神決定戦の醍醐味の一つでもある、秘中の秘たる互いの使用デッキが開示される1ターン目。マリガンの占術で見たカードを上に乗せた川北は、《Underground Sea》から名刺代わりの1枚、《秘密を掘り下げる者》を送り出す。
グリクシスデルバー。多彩な攻め筋による高い攻撃力と手札破壊/除去/カウンターを散りばめたインタラクションの数々による柔軟な対応力とで、現在のレガシー環境におけるトップメタにまで登りつめているデッキだ。「ANTを使い込んでいる」ということ以外に情報がない有田に対し、川北が出した解答はシンプルに環境最強デッキを使うというものだった。グリクシスデルバーならば、仮に有田がANTであろうとそうでなかろうと関係がない。仮にメインが多少不利でも、サイド後に星を取り返す余地は十分にあるからだ。
他方、得心した様子で「……なるほど」と呟いた有田のアクションは、《Underground Sea》からの《思案》というもの。このアクションだけでは有田のデッキは絞り切れないが、事前の情報と合わせるといよいよANTらしい立ち上がりを受け、川北は「やべー、ANTか……」と漏らす。
だが、《秘密を掘り下げる者》を「変身」させずに1点アタックでエンドした川北は驚愕の事態に遭遇する。返すターン、《Volcanic Island》を置いて《目くらまし》をケアした有田が、《秘密を掘り下げる者》にあろうことか《致命的な一押し》を打ち込んだのだ。
川北「……ANTじゃないなw」
有田「そうですね、たぶんANTじゃないはずw」
川北がたとえANT対策としてもメインからヘイトベアーをとるようなリスクテイクを好むタイプではないということは、これまでの傾向から有田も十分承知していたはずだ。ならばコンボデッキとして完成しているANTに、あえてメインから《致命的な一押し》を入れる合理的な理由は存在しない。にもかかわらず現実には有田の手から《致命的な一押し》が放たれている。となれば有田のデッキは……?
己が推測を確信に変えるべく、川北はマリガン後の占術で《秘密を掘り下げる者》の「変身」を諦めてまでトップに乗せたカードを、先手3ターン目にプレイした。《真の名の宿敵》。これに対して有田のアクションは。
さらに有田は続く自身のターンに《悪意の大梟》までも送り出す。そこで川北はすべてを察した。
川北「なんかこれ、前回の神決定戦の逆じゃん!w」
そう、前回第9期のレガシー神決定戦では挑戦者・折茂がグリクシスデルバーを使用していた。そしてそのときの川北のデッキが、今回有田が使用しているデッキ……4色レオヴォルド。ちょうど前回と使用デッキが入れ替わった格好だ。
だが問題はそこではない。前回勝ったのは、当然川北だった。ということは今回は……?
そんな嫌な予感を払拭するべく、川北は《渦まく知識》、さらにフェッチを置いて即起動から《思案》とプレイし、トップ3枚には満足できずシャッフルとなるも手札を整える。一方有田もエンド前《渦まく知識》からメインで《思考囲い》を打ち込み、川北のスタック《渦まく知識》を釣りだすと、解決後に公開された《意志の力》《意志の力》《目くらまし》《稲妻》という手札内容から《稲妻》を抜き、さらには1マナのフィニッシャーである《死儀礼のシャーマン》を送り出す。
手札には受け呪文しかなくこれを通すとゲームの流れを支配されてしまうと感じたか、これに対して川北は虎の子の《意志の力》を切るのだが……続くターン、有田が送り出したのは《最後の望み、リリアナ》!
これが《目くらまし》→マナを払うためにフェッチ起動→《もみ消し》→《意志の力》というやりとりの末に着地してしまい、さらに追い打ちをかけるように《トーラックへの賛歌》が撃ち込まれたところで、決定的な差がついたと判断した川北は投了を宣言するのだった。
川北 0-1 有田
川北「いやー疲れてるな……相手の土地が詰まり気味だったから、セットランド前に《思案》を打って《不毛の大地》の受けを残した方が良かった。しかしそのデッキ選択は、『グリデルに強い』と判断したってこと?」
有田「いえ、グリデルは予想デッキの順位としては低かったんですけど グリデル相手もそこそこ戦えるんでこれでいいかなと。もともと見てたのはデスタクとかだったんですよね。『これまで使ってないデッキの中でANTに強そうなデッキ』というのが川北さんのデッキの予想条件だったので……ちなみにエルドラージで突っ込まれたら凹んでました」
互いにデッキの読みを外したことが判明した1ゲーム目は、マリガンからの微妙な回りとなってしまった川北に対しカードパワーで被せた有田がまずは1本を先取する形となった。とはいえデッキの相性差という点から見れば五分五分かあるいは、少し川北が有利にも見える。通常の「グリクシスデルバー 対 4色レオヴォルド」という対戦の図式ならいざ知らず、川北のデッキにはとある特殊なチューンが施されているからだ。
そのチューンとは、《もみ消し》。この神決定戦という舞台では考えづらいこととはいえ、有田が真正面から「ANT」を使ってくる可能性も否定できなかったため、「ANTとそれ以外のデッキ」を同時にメタる必要を感じた川北は、メインに積んでも遜色ないような汎用性の高いANT対策を探し、そしてこのカードに行き着いた。「ストーム」への切り札になるこのカードは、《不毛の大地》と合わせて《秘密を掘り下げる者》デッキの古典的な「マナ否定戦略」の一端をも担うことができる。
有田のデッキ選択に虚を突かれたとはいえ、「デッキ選択の時点で有利をとる」という神の基本戦略は今回もしっかりと生きていた。サイドボードが使用可能となる3戦目の前に星をイーブンに戻すべく、川北は気を取り直して2ゲーム目に臨む。
Game 2
《Underground Sea》から《死儀礼のシャーマン》と快調なスタートを切る川北に対し、有田は《Underground Sea》から《思考囲い》。《稲妻》《渦まく知識》《不毛の大地》《Tropical Island》《霧深い雨林》と土地が多いために《渦まく知識》頼みだった手札を暴露しつつ、当然《渦まく知識》を落とす。
こうなっては時間を稼ぎたい川北、まずは《不毛の大地》即起動でエンド。返す有田は《汚染された三角州》を置いてゴー、ここで川北は《呪文貫き》を引いていたが思いきってエンド前に《死儀礼のシャーマン》の(黒)能力を起動してライフを詰めることを選択するものの、有田は対応してフェッチ起動から《致命的な一押し》。川北の目論見を次々と崩していく。
川北も有田の《思案》を《呪文貫き》しつつ、自分のターンに《コラガンの命令》で「1枚ディスカードと《死儀礼のシャーマン》を回収」を通すのだが、ここで有田のディスカードは何と《渦まく知識》。ならばその手札の密度は一体どれほどなのか……と驚愕する間もなく、さらに返すターンに有田は1ゲーム目の趨勢を決定づけた《最後の望み、リリアナ》を再び通すことに成功する。
対する川北は回収した《死儀礼のシャーマン》を送り出すが、これは「+1」能力で修正を受けて忠誠度を削る力はない。有田は奥義を待つ構えでドローゴー、これに対して川北がエンド前とメインの《稲妻》でどうにか《最後の望み、リリアナ》を落とすものの、有田は構わず《悪魔の布告》で《死儀礼のシャーマン》を処理すると、今度は自身の《死儀礼のシャーマン》を送り出す。
しかも、有田の攻め札はそれだけにとどまらなかった。
そこからなおも有田が繰り出したのは、川北のデッキでは1枚で対処する方法がない《墓忍び》!
これを見てさすがの川北も気力が萎えたか、思わず「なんか負けたくさいね。ダメだ今日……」と弱音が漏れる。それでも川北も1ターン遅れて《グルマグのアンコウ》を出すのだが、有田は引き込んでいた《悪意の大梟》できっちりダメージレースの受けをも作る。
やがて有田が《稲妻》→《瞬唱の魔道士》+《稲妻》で残りライフが少なくなった川北を仕留めにかかると、これは川北の《呪文貫き》に一応阻まれるものの、そんなところに手札を使わされてしまっている時点で、もはや空を駆ける《墓忍び》を止める術は残されていないのだった。
川北 0-2 有田
川北「やべー……ダメだね、全然勝てない。強いねー……ていうかあまり引きが芳しくないんだよねー……」
有田「こっちは引きがめっちゃ強いですねw」
川北「ね、そっち強いよねw」
有田「普段ここまで有利にならないですよね、特に《もみ消し》があると」
川北「いやー……この絶望感!すごいな……こんな感じなんですね、負けるときって……」
4枚ずつの《もみ消し》《目くらまし》《不毛の大地》があったにもかかわらず、先手の利を生かしきれなかった川北はすっかりテンションが下がり、打ちのめされた様子だ。どんなプレイヤーにも”ツイていない日”は存在するし、それは神もまた例外ではない。何より、この神決定戦において川北がメイン戦を2本とも落としたのはこれが初めてのことなのだ。
ともあれ、あっという間に追い込まれてしまったという事実に変わりはなく、川北が防衛するためにはここからのサイド戦を3連勝する必要がある。4色レオヴォルドという、少なくとも大崩れはしそうにない堅牢なデッキを駆る有田を相手に、しかもそのうちの2回は後手が確定している試合を、3回連続で。
およそ不可能ごとにしか思えない、人間業ではない……と、思うだろうか? だが、川北はそんな逆境を幾度も跳ね返してきたのだ。この程度の逆境であっさり負けるようなら川北はとうの昔に神の看板を下ろしている。
これまであれほど執念深く勝利へとこだわってきた川北が、少し引きが悪いくらいで軽々しく勝利を諦めるはずがない。
現地で勝負の行く末を見守るスタッフも、放送を見ているマジックプレイヤーたちも。そして誰より挑戦者の有田にとっても、たぶんその思いだけは共通していた。
挑戦者・有田のサイドボード
■ IN ■ OUT- 4 《意志の力》
- 1 《悪意の大梟》
- 1 《瞬唱の魔道士》
- 1 《トーラックへの賛歌》
- 1 《精神を刻む者、ジェイス》
Game 3
再びマリガンの川北に対し有田は「キープで」と即答。それを受けて川北は「……負けたくさいよーw」「なんか勝てるビジョンが見当たらないんだよなー……」とシャッフル中に不安な胸中を吐露する。
それでも土地1枚という不安要素を抱えながら6枚でキープした川北は、《汚染された三角州》を起動して《Underground Sea》から《思案》で2枚目の土地を求めるのだが、3枚の中にはなく即シャッフル。対する有田の初動は《新緑の地下墓地》を起動、《不毛の大地》ケアの《沼》から《死儀礼のシャーマン》。これを《目くらまし》した川北は続けて《秘密を掘り下げる者》を送り出すが、有田はなおもセット《島》から2体目の《死儀礼のシャーマン》を着地させる。
ここで川北の手札には依然として2枚目の土地はない。しかしこの局面では《秘密を掘り下げる者》を「変身」させて最速でクロックもかけたいという要請もあり、すなわち理想のライブラリートップはドロー呪文ということになる。アップキープにライブラリーを見た川北、はたして結果は……《ギタクシア派の調査》!《秘密を掘り下げる者》を「変身」させつつ引き込んで早速プレイすると、有田の手札は《渦まく知識》《コラガンの命令》《狼狽の嵐》《Badlands》《Underground Sea》という内容。キャントリップで引いたのは《不毛の大地》で、3点アタックからセットしてターンを終える。
一方の有田は見せていない《血染めのぬかるみ》を置いて一旦ターンエンドし、川北のアップキープに《コラガンの命令》を「《昆虫の逸脱者》に2点と《死儀礼のシャーマン》を回収」のモードで攻め手を捌きつつ2体の《死儀礼のシャーマン》でゲームをコントロールしにかかる。
《コラガンの命令》の解決を終え、ドローステップにドローした川北はすぐさまメインで《渦まく知識》。これを有田が通すが、一瞬ののちに「今度はこっちがミスった……」と悔しそうに声を漏らす。他方で《渦まく知識》のおかげでフェッチランドに辿りついた川北は、ついに《グルマグのアンコウ》を降臨させる。
川北「(《渦まく知識》に) 《狼狽の嵐》、打たなかったっすね」
有田「それ。いやーさすがにないっすね、今の通しちゃ……」
川北「勝ってましたよ」
それでも返す有田も《思考囲い》を打ち込んで後続を断とうとするのだが、川北の手札は土地が詰まっていただけあって《死儀礼のシャーマン》《電弧の痕跡》《真の名の宿敵》という濃厚なもの。ここから《真の名の宿敵》を落とし、さらに2体目・3体目となる《死儀礼のシャーマン》の連打でターンを終える。続けて川北に出された《死儀礼のシャーマン》を《致命的な一押し》で処理し、《死儀礼のシャーマン》の(黒)能力によるダメージレースを目論むが、《不毛の大地》を打ち込まれて黒マナが微妙に足りず、《グルマグのアンコウ》が有田に重い一撃を浴びせ続ける。
1体、また1体と《死儀礼のシャーマン》がチャンプブロックに回り、その間に解決策を引き込みたい有田だが、頼む、《悪意の大梟》を引け……と念じながらのドローも土地ばかりで、引いたカードを見るたび苦笑が漏れる有り様。ついには、有田の残りライフは2点まで追い込まれる。
そして川北に《稲妻》を本体に打ち込まれると、これは自身の《死儀礼のシャーマン》に《紅蓮破》を打って「ストーム」を稼ぎながらの《狼狽の嵐》でどうにかかわすも、トップした《渦まく知識》を《紅蓮破》で打ち消され、「負け……」と自嘲した様子で呟いた。
川北 1-2 有田
有田「フラスター (《狼狽の嵐》) ……頼むー、仕事をしてくれー……」
川北「こっちも全然《もみ消し》いいときに引かないんだけどw」
ここまで神を圧倒的に翻弄していた有田が、初めて緊張を露わにした瞬間だった。
《秘密を掘り下げる者》を《コラガンの命令》した直後の《渦まく知識》をきっちりと《狼狽の嵐》でキャッチしていれば、3枚目の土地を引けていない川北は《グルマグのアンコウ》の着地が遅れて先に有田の側に《死儀礼のシャーマン》3体という盤面になり、ダメージレースを制することができたかもしれない。だが川北の空気に呑まれたか、有田は《狼狽の嵐》を打ち込むことができなかった。紛れもない敗着であり、あと一勝というところで悔やんでも悔やみきれないミスプレイ。
一方の川北は相手のミスをきっちり拾ってゲームをモノにできたということで、テンションが復調しつつある。
川北「これで最後かもしれないんで、握手しときましょうw」
依然土壇場には変わりないにせよいつもの冴えを取り戻してパフォーマンスをする余裕が出てきた川北とは対照的に、ミスを引きずっている様子の有田。とはいえ、次の4ゲーム目は有田の先手で始まるサイド戦である。形勢は、まだ川北の方が悪いと言わざるをえない。
Game 4
先手の有田が《汚染された三角州》から《Underground Sea》をサーチすると、川北は「《死儀礼のシャーマン》か……」と覚悟するが、「(黒) 1マナ使うのは合ってるけど、『し』しか合ってないw」と言いつつ有田が繰り出したのは《思考囲い》。
公開された手札は攻防のバランスが良い内容だったが、このうち《死儀礼のシャーマン》を落とされた川北は1マナのアクションがなく、やむなく定石を破って後手《不毛の大地》起動スタートという立ち上がり。ここから有田は《Volcanic Island》を、川北は《溢れかえる岸辺》をそれぞれ置いたのち、有田がセット《Bayou》から《死儀礼のシャーマン》で仕掛ける。1マナ立っている有田に対し、川北もエンド前に《目くらまし》構えの《稲妻》で処理しようとするが、そこに有田の《狼狽の嵐》が突き刺さり、《死儀礼のシャーマン》が生き残る。
返す川北はフェッチ起動から引き込んだ《思案》をプレイ。このとき有田が「墓地何枚ですか?」と的確な確認をすると《思案》と合わせて5枚で、もしフェッチを引き込めばそのまま《グルマグのアンコウ》が着地するという状況。しかしそもそも土地が見つからずシャッフルを選択、さらにシャッフル後のドローでも土地を引き込めず、結局このターン川北は2枚目の土地が置けずじまいとなってしまう。
対する有田は《思案》から2体目の《死儀礼のシャーマン》を送り出し、川北の《思案》は《紅蓮破》でカウンター。川北が復帰する前に盤石の体制を築き上げにかかる。なおも土地を引かない川北は《死儀礼のシャーマン》のうちの1体を《稲妻》で除去するのだが、返す有田がみたび降臨させたのは《最後の望み、リリアナ》!! さらに川北が引き込んだ《渦まく知識》も《狼狽の嵐》でカウンターし、あくまでも土地1枚から復帰させない構え。
この時点で有田の手札は1枚しかなく、ライフも川北15 対 有田16とまだ決着は遠いとはいえ、有田の戦場には《死儀礼のシャーマン》と《最後の望み、リリアナ》とが定着し、しかも川北の土地は《Volcanic Island》1枚のみ。生まれてしまった圧倒的なテンポ差を跳ね返すことは、もはや不可能に思われた。
だが。川北の目は、まだ死んでいなかった。
有田が土地セットのみでターンを終えた返し、ようやく《汚染された三角州》を引きこんだ川北は、セットして即起動する。墓地は5枚、このまま優先権を渡すと土地2枚から《グルマグのアンコウ》を出されてしまう有田は対応して《死儀礼のシャーマン》の (黒)能力を起動……を、《もみ消し》!!
これで墓地6枚。フェッチからサーチした《Underground Sea》から、墓地すべてを追放して《グルマグのアンコウ》が降臨する。もし有田がメインに《死儀礼のシャーマン》を起動していれば出なかったはずの、《グルマグのアンコウ》が。
わずかな反撃の可能性をつかみ取った川北は、「+1」能力で3/4となった《グルマグのアンコウ》で次のターンから果敢に《最後の望み、リリアナ》の忠誠度を削りにかかる。戦闘後に追加した《死儀礼のシャーマン》は《コラガンの命令》で、次のターンの《真の名の宿敵》は《湿地での被災》で処理され、その間にも有田の《死儀礼のシャーマン》が(黒)能力で川北のライフを少しずつ蝕んでいくが、一切構わず川北は《グルマグのアンコウ》をレッドゾーンに送り続ける。
そして、有田は選択を迫られる。忠誠度が2まで落ち込んだ《最後の望み、リリアナ》に対する《グルマグのアンコウ》のアタック。川北のライフは10点、戦場には《死儀礼のシャーマン》が2体いるが、このターン(黒)能力を起動できるのはマナの関係上1体のみ。悩んだ末に有田は、《グルマグのアンコウ》への解答を引くための時間を少しでも稼ぐためにチャンプブロックを選択する。
だが戦闘後、川北は《死儀礼のシャーマン》を追加。「《グルマグのアンコウ》+《死儀礼のシャーマン》」と「《最後の望み、リリアナ》+《死儀礼のシャーマン》」。盤面の状況は、ついに逆転する。
さらに、有田がトップした《悪意の大梟》をも《紅蓮破》でカウンターする川北。マナスクリューから復帰した川北が、いつの間にか逆にマナフラッドに陥ってしまった有田の復帰を妨げている。
それでも有田もさるもの、最後の《死儀礼のシャーマン》で《グルマグのアンコウ》をブロックして忠誠度3の《最後の望み、リリアナ》を守ると、川北が《若き紅蓮術士》を追加した返しで「-2」能力を起動。《悪意の大梟》を回収して即プレイすると、引き込んだ《致命的な一押し》で《死儀礼のシャーマン》を除去し、粘り強い受けを見せる。
返す川北のターンは《グルマグのアンコウ》と《若き紅蓮術士》との2体アタックで、《悪意の大梟》が《グルマグのアンコウ》と相打ちしつつ、ついに《最後の望み、リリアナ》が落ちる。しかしここで川北のリソースも尽き、《秘密を掘り下げる者》を追加してセットフェッチ、手札ゼロ枚でターンエンド。すなわち、ここからはトップデッキ対決となる。ただし、有田の戦場には何もないのに対し、川北の戦場には《秘密を掘り下げる者》と《若き紅蓮術士》がいる状況でだ。はじめに川北が《Volcanic Island》1枚で止まって、《死儀礼のシャーマン》と《最後の望み、リリアナ》がアクティブになっていたのと同じゲームとはとても思えない。
有田のドローは土地。対する川北はアップキープに《秘密を掘り下げる者》でライブラリートップの《秘密を掘り下げる者》を確認し、そのまま引きつつ全体除去をケアして手札に温存、3点殴ってゴー。続く有田のドローは……値千金の《渦まく知識》!
この3ドローが《瞬唱の魔道士》と《最後の望み、リリアナ》をもたらし、3枚引いた段階で「フェッチ2枚/《赤霊破》/《瞬唱の魔道士》/《最後の望み、リリアナ》」という、「いや強いのは認めるんだけど、そう来られるとキツイ……」と思わず口にするほどの贅沢な内容。ここから「《瞬唱の魔道士》→フェッチ」の順にドローできるようにトップに積んで《最後の望み、リリアナ》をプレイ、《赤霊破》を構えながら《秘密を掘り下げる者》を「+1」能力で処理する。
すなわち、このままでは《若き紅蓮術士》も次のターンの「+1」能力で屠られてしまう上に手札の《秘密を掘り下げる者》もほとんど死に札となったため、川北は「何か」を引く必要がある。だが、有田はなおも《瞬唱の魔道士》という余力をライブラリートップに残しているのだ。仮に《最後の望み、リリアナ》を処理できる「何か」を引いたとしても、有田を仕留めきるだけのリソースが足りるはずがない。
今度こそ、終焉か。誰もがそう思った。
この局面で。川北はすべてを受け入れるように、するりとカードを引いた。その1枚は。
まさしく「これしかない」というカードを引き込んだ川北は、《若き紅蓮術士》の2点アタックで《最後の望み、リリアナ》の忠誠度を削ったのち、
川北「これで打ち消されたら負けなんですけど……ありますか、カウンターは?」
有田「……ないです」
それはほんの一手順の差だった。もし有田が《渦まく知識》で
他方で、客観的にはほんのわずかな噛み合いの結果《最後の望み、リリアナ》を落とすことができたに過ぎないとはいえ、川北視点ではこの一連のやりとりは「有田が何も持っていなかった」と勘違いをするには十分だったのだろう、川北はここでタイミング良く (悪く) トップした《真の名の宿敵》を、温存していた2体目の《秘密を掘り下げる者》の代わりに戦場に追加してしまう。
川北「……いや、そっか《瞬唱の魔道士》がありうるな……間違えた!」
出してから即気づくが後の祭り、注文通りの《瞬唱の魔道士》《湿地での被災》「フラッシュバック」を受け、川北は展開していたすべてを失ってしまう。
しかしそれでも、一旦引き戻した流れは止まらない。返す川北の《秘密を掘り下げる者》からの《渦まく知識》は有田の《赤霊破》でキャッチされるも、有田の《瞬唱の魔道士》アタックでもまだライフは川北5 対 有田8。そして、有田が土地しか引いていないのに対し、川北は連続でスペルを引き込んでいた。《電弧の痕跡》からの、ダメ押しの《グルマグのアンコウ》!
最後のドローを確認した有田が土地2枚の手札を公開してカードを畳み、長い長い4ゲーム目が決着したのと同時に。「よしっ!」という、神防衛に成功したときのような川北の気合の入ったかけ声が響いたのだった。
川北 2-2 有田
やはり、こうなる運命なのか。
一時は0-2にまで追い込まれた川北だったが、有田のミスを突いた3ゲーム目と、大熱戦のシーソーゲームを制した4ゲーム目を経て、ついにゲームカウントはイーブンとなった。すなわち、これまでの8度のレガシー神決定戦の例に漏れず、最終5ゲーム目にまでもつれこむこととなったのだ。
有田「こうなると3ゲーム目の《狼狽の嵐》がより悔やまれる……あれは間違いなかったからなー」
川北「にしても、なんかそっち土地並ぶよね」
有田「このデッキ土地並ぶんですよ……アレが起きると大体負ける」
川北「けど面白いね!良い勝負をありがとう!!」
一時は敗北を覚悟したであろうギリギリのゲームを拾い、追い風に乗る川北のテンションは、極度の緊張状態から一時的に解放されたこともあり最高潮に達していた。何より、川北はこれまで5ゲーム目を負けたことがないのだ。先手か後手かにかかわらず、驚異的な勝負強さでもって川北は、挑戦者たちを最終ゲームでねじ伏せてきた。今から始まるのは、そんな5ゲーム目なのだ。
対し、サイドボードに悩む有田の表情は優れない。サイド後の2戦を落としたということは、サイドボードのインアウトが間違っている可能性が高いということでもある。3ゲーム目と4ゲーム目でサイドに残しておいたカードを見直し、慎重にサイドボーディングを考え直していく。
川北「サイドボードわかんないっすよね有田さん!助けてください(?)!」
そしてそんな有田にも、川北はテンションが高すぎてウザ絡みしていく。
川北「ていうかもう疲れたよ!全然楽しくないよこのゲーム!」
しかもさっきと言ってることが違う支離滅裂ぶりである。テンションがオーバーヒートしてしまうほどに有田との対戦が充実していたのかもしれないが、何よりここまでの名勝負を川北に繰り広げさせるほどの真の強敵たる有田に対し、思わず本音が出てしまったということなのだろう。
川北「有田さん……本当にありがとう!」
そして最後に。そう言ってもう一度、川北は有田と締めの握手を行った。「どちらが勝っても悔いが残らないような良い戦いにしたい」という互いの意思を確かめ合うように。
やがて神と挑戦者の、最後のゲームが始まった。
Game 5
後手の川北が通算3度目となるマリガン、占術は上。有田《血染めのぬかるみ》ゴー→川北《Volcanic Island》ゴー→有田《島》ゴーという静かな立ち上がりで、《もみ消し》と《不毛の大地》をケアしてまずは足場となるマナベースを固めたい有田に対し、長引けば不利になる川北はフェッチ《Underground Sea》から《死儀礼のシャーマン》で仕掛ける。
対して有田はエンド前《渦まく知識》からセット《汚染された三角州》で即起動、これにはスタックで川北の《もみ消し》が飛ぶが、有田もスタック《血染めのぬかるみ》起動から《紅蓮破》で打ち消し。《島》《沼》《Badlands》と並べてマナベースをまずは安定させにいきつつ、さらに《死儀礼のシャーマン》には《致命的な一押し》を当てて盤面を処理。一方川北は《不毛の大地》で《Badlands》を割り、有田に3マナを定着させない。
有田も《Tropical Island》を置いてエンドから川北がフェッチを置いたエンド前に《瞬唱の魔道士》で仕掛けるが、これは《紅蓮破》。ならばと送り出した《死儀礼のシャーマン》も《稲妻》される。川北の《死儀礼のシャーマン》も有田が《稲妻》で処理し、互いに土地以外のパーマネントが定着しない一進一退の攻防が続く。
状況が動いたのは6ターン目。川北が《秘密を掘り下げる者》を送り出した返し、デュアラン素引きが多いせいで(黒)(黒)が出ていなかった有田だったが《汚染された三角州》を引き込み、《トーラックへの賛歌》を打ち込む。これにはスタックで《稲妻》が本体に飛んで有田のライフを14点としつつ川北の手札が一時的に空に。
だが有田の手札も1枚しかなく、ゲーム開始時に互いが所持していた手札とドローは早くもすべてリソースとして交換し尽くされた結果、ゲームは再びトップデッキ対決の様相を呈することとなった。川北の《秘密を掘り下げる者》は「変身」せず、1点アタックでエンド。返す有田は抱えていた《湿地での被災》でこれを処理。それを見て川北は《真の名の宿敵》を送り出すが、有田も《瞬唱の魔道士》からの《湿地での被災》「フラッシュバック」で応じるギリギリの攻防。
ここで川北が引き込んだのは《思案》。見えた3枚は「《秘密を掘り下げる者》《目くらまし》《不毛の大地》」で3/2飛行を作ろうと思えば作れるトップだが、《島》《沼》《Tropical Island》《Volcanic Island》《Badlands》と色のバランスは悪いとはいえ、既に有田の場には5枚の土地がある。ひとしきり悩んだ川北は、むしろここは3ゲーム目と4ゲーム目で勝利をもたらした《グルマグのアンコウ》を是が非でも引きたい局面だと「シャッフル」を選択。
だが今度は《グルマグのアンコウ》を引き込めない。仕方なく《秘密を掘り下げる者》を送り出してターンを終える。
そして先に決定打を引いたのは、有田だった。
《コラガンの命令》。4ゲーム目で川北に勝利をもたらしたこのカードが、今度は有田に味方した。《秘密を掘り下げる者》を処理しつつ、序盤に《紅蓮破》でカウンターされていた《瞬唱の魔道士》を墓地から回収する強烈なムーブが実現する。
もちろん川北も譲らない。回収された《瞬唱の魔道士》には《紅蓮破》を当て、返すドローで《思案》から《グルマグのアンコウ》にたどり着く。
しかし有田は《グルマグのアンコウ》にスタックで2枚目の《コラガンの命令》!既に消耗戦の段階に入っているにもかかわらず、「ディスカードと《瞬唱の魔道士》回収」で川北とのアドバンテージ差をじわじわと広げていく。さらに《死儀礼のシャーマン》を追加した有田は手札に《瞬唱の魔道士》(墓地に《コラガンの命令》) を抱え、もはや《グルマグのアンコウ》1枚では対抗できないように思われた。
だがさすがと言うべきか、ここで川北が起死回生の一手を放つ。有田が5マナ立っているところに戦闘前に《不毛の大地》を起動。《コラガンの命令》を「フラッシュバック」できなくした上で《グルマグのアンコウ》でアタックして《瞬唱の魔道士》からの《稲妻》「フラッシュバック」を誘い、本来腐るはずだった《呪文貫き》でカウンターしたのだ。《グルマグのアンコウ》を処理できる当てがなくなった有田はやむなく《瞬唱の魔道士》2体と《死儀礼のシャーマン》でのトリプルブロックを選択し、盤面は再び更地に戻る。すなわち、状況は再び五分に戻る。
川北が《死儀礼のシャーマン》を引き込めば有田は《致命的な一押し》を。《秘密を掘り下げる者》を送り出せば《悪意の大梟》を。お互い無駄ドローなしで一歩も引かない展開が続く。
そんな状況で、今度は川北が先に「詰めろ」をかける。2体目の《グルマグのアンコウ》をプレイし、アタックせずにエンド。《悪意の大梟》は戦場に健在なものの、もし次に《秘密を掘り下げる者》が《稲妻》などの除去スペルをめくることができれば強烈なスウィングが発生し、ゲームは一気に決着に向かうことになる。
対する有田のドローは《思案》。そしてプレイで3枚を見てから
それでも、自分の信じたプランを突き進むしかない。アップキープ、《秘密を掘り下げる者》の公開は……再び駆け付けた、《コラガンの命令》! 前のターン、除去ドローによる最大のリターンを信じてクロックを温存したのが生きた。即プレイし、「《悪意の大梟》に2点と、《グルマグのアンコウ》回収」のモード!
だがそこに、有田の《狼狽の嵐》が突き刺さる。
しかも、ならばと「変身」した《秘密を掘り下げる者》のみでアタックして《グルマグのアンコウ》の道を開けようとしたところで、ダメ押しに有田が3枚目の《コラガンの命令》をプレイする。
川北「何枚入ってんだよ……」
再び《瞬唱の魔道士》と《コラガンの命令》による疑似循環が始まることが確定したことで、川北のうんざりしたような言葉とため息が響く。さしもの川北も心が折れかかっているのだろう、《秘密を掘り下げる者》を送り出すも、《瞬唱の魔道士》から《コラガンの命令》、「《秘密を掘り下げる者》に2点と《瞬唱の魔道士》を回収」。有田の懐は一切痛まず、川北のリソースだけが削られていく。
それでもなお、川北は諦めない。引き込んだ《電弧の痕跡》で《グルマグのアンコウ》へのブロッカーとなっていた《悪意の大梟》を《瞬唱の魔道士》もろともターゲットに取り、有田が手札に構えた《瞬唱の魔道士》を《狼狽の嵐》「フラッシュバック」の用途でプレイするよう強要する。有田は他に有効な手がないか逐一墓地全体を眺めて確認するが、諦めて《狼狽の嵐》を「フラッシュバック」して《悪意の大梟》を守る。
勝利への執念。《瞬唱の魔道士》によるスペルの循環はようやく止まり、状況はもう何度目かのイーブンまで持ち直した。
この局面で、有田が3ターン前の《思案》で見えなかった4枚目のカードに手をかける。
《最後の望み、リリアナ》。《グルマグのアンコウ》への直接の解決策ではないにせよ、《瞬唱の魔道士》と《悪意の大梟》が戦場に出ている現状、それは川北の最後の希望を塗りつぶすに等しいカードだった。
さらに続くターン、ドローゴーで返した川北の《グルマグのアンコウ》が、川北に残された土地以外で唯一のパーマネントが、《残忍な切断》によって屠られる。
そしてついに、「本当にこれで合っているのか、何か負ける目はないか」と丁寧に検討を重ねた有田の手で、《瞬唱の魔道士》がゆっくりとレッドゾーンに送り出された。戦闘後には《最後の望み、リリアナ》の「-2」能力によって墓地から回収された《死儀礼のシャーマン》が戦場に蘇る。
返すターン、川北は引き込んだ《渦まく知識》をプレイする。
1枚。2枚。3枚。この局面への解答はない。あるはずもない。
だから、カードを戻す代わりに。川北は一つ、別の答えを導き出した。
川北「……ありがとうございましたっ!」
「最古の神」、川北 史朗。
その長きにわたる戦いに、ようやく終止符が打たれたのだった。
川北 2-3 有田
有田「11月から数えて400マッチ以上やりましたよ」
対戦を終えて一息ついた有田は、「どれくらい練習したのか」という川北の質問に対しそう答えた。Magic Onlineで回数をこなしやすいとはいえ、恐るべき練習量であることに変わりはない。それほど有田は神になりたかったし、それほど川北が強敵だと認識していたということなのだろう。
そしてその認識は正しかった。それでもなお川北は有田の予想を裏切り、《もみ消し》入りのグリクシスデルバーという有田にとって決して好ましくはないデッキ選択と、どんなにリソースを削られても立ち直ってわずかな可能性を掴みにいく勝利への執念に基づくプレイングで、最後まで結果がどうなるかわからないほどの大熱戦を演じたのだ。
思えばレガシープレイヤーとしての実力もさることながら、川北という男はおそらく誰よりもこの「神決定戦」のルールとフィールドに向いていた。もし川北と1対1でブラフが絡む心理戦を行った場合、勝てる人間はなかなかいないだろうからだ。
2014年の7月に初めて神になってから、3年半。川北はこの「神決定戦」において常に我々を予想外のデッキで翻弄し、予想外の逆境に憂慮させ、そしてまた予想外の逆転で魅了し続けてきた。
だが、どんな物事も永遠には続かない。神はいつか必ず挑戦者に破られ、人に戻る。そして今度は、川北が人に戻る番が来たのだ。
ありがとう、川北 史朗。ありがとう、「最古の神」。
間違いなく君は最強のレガシープレイヤーで……同時に、最高のエンターテイナーだった。
そして最後に、月並みだが。
3年超にも及んだ挑戦者たちの宿願を果たし、見事誕生した新たなるレガシーの「神」に、祝福の言葉を送ろう。
第10期レガシー神決定戦、有田 浩一朗がレガシー神に就任!!
おめでとう!!!