Translated by Takuma Kusuzawa
(掲載日 2018/03/01)
《約束された終末、エムラクール》が現れて以来、スタンダードは致命的な状態が続いていたが、ついに希望が約束された環境に辿りついたようだ。禁止第一波の後、エネルギーギミックが取って代わって、世界中の大会を支配しつづけた。
マルドゥ機体、黒単ゾンビ、赤単、そしてスゥルタイがプロツアーを制する中、ティムールは一度も優勝しなかった。しかしながら、常に一番使用されるアーキタイプでありつづけ、グランプリやMagic Onlineを呪う元凶となっていた。サヒーリ、霊気池、純粋なエネルギーと色んな形を取ったが、常に環境の最善色だったことに変わりはなかった。自分でプレイする分には考える要素もあったけど、周りでプレイを眺めるとき、またFNMやグランプリに参加する多くのプレイヤーにとっては興味の出るものではなかったはずだ。
さて、《霊気との調和》、《ならず者の精製屋》、《ラムナプの遺跡》、《暴れ回るフェロキドン》を禁止とする最新の改定は多くの人を驚かせた。前者2つは明らかにティムールエネルギーを弱くするためだが、残りの赤いカードにも矢が刺さったのにはビックリしたと思う。ティムールが弱体化すると、今度はラムナプレッドが隆盛しすぎるという予想を元に禁止されたようだが、実際にそうなっていただろうと私も考えている。《遺跡》は、本来の勝ち筋を損なうことなく、長いゲームでの選択肢を増やしてしまい、明らかに強すぎた。ただ《暴れ回るフェロキドン》は、当時すべての赤単に入っているというわけではなかったから、スタンダードに打ち込んでいるプレイヤーの多くが驚いていたと思う。しかし、これも完璧な決定だっただろうな。このカード一枚で《王神の贈り物》やトークン戦略、コントロールに睨みを効かせられてしまうんだから。では、新環境はどうなるのだろうか?
神々の激突
新しくなった環境の反応は良いものの、《スカラベの神》vs. 《熱烈の神ハゾレト》という構図になるだけではないか? という不安もあった。すぐに青黒コントロールも赤単も対策すべき標的となり、様々な形のトークンデッキが両者を睨む形で現れ、そして緑のデッキが出てきた。《翡翠光のレインジャー》はたった3マナでドローを整えつつも肉体が残るという大きなポテンシャルを持っていて、初期の頃からこのカードが入るデッキはないか探されていたからね。
トークンデッキは赤単、青黒コントロール相手にまずまずの相性を持っているとされているものの、白いコントロールや緑のクリーチャーデッキの相手は辛い。青黒は《渇望の時》があるので、赤単相手に相性が悪くなく、《殺戮の暴君》さえ出てこなければ緑のデッキにも勝てる。そもそも、プロツアー『イクサランの相克』がスタンダードではなかったからプロたちの新環境研究が進んでおらず、『イクサランの相克』が発売されてから最初の大きな大会であったグランプリ・メンフィス2018まではどの新しいカードが抜け出てるのか誰も結論が付けられなかった。
赤単が一番使われる結果に
色々なデッキに触れてみた結果、赤単に《屑鉄場のたかり屋》のための黒を足すか、《再燃するフェニックス》を入れて少し重くすれば、依然として強いだろうと思っていたので、赤単が一番使われるという結果はそんなに不思議ではなかった。
デッキリストを眺めると、勝ち上がったプレイヤーは赤単をしっかり意識していた。黒いデッキのほとんどは《ヴラスカの侮辱》をしっかり積み、青黒は《渇望の時》を3,4枚メインから入れて、他の赤いデッキは《マグマのしぶき》を投入していたわけだ。《饗宴への召集》が多くのトークンデッキに採用され、《才気ある霊基体》もよくプレイされてた。私が分析した結論は、赤単はまだ最善かもしれないが、倒そうと思えば倒せるというものだ。結果として、トップ8には一人も送り込めなかったわけだからね。ジョン・ロルフがとても惜しい所まで来ていたけど、15ラウンド目で落ちてしまった。彼は赤単のエキスパートだから、彼のリストを細かく見ていこうか。
3 《絡みつく砂丘》
3 《屍肉あさりの地》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
4 《狂信的扇動者》
4 《地揺すりのケンラ》
3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《アン一門の壊し屋》
1 《ピア・ナラー》
4 《熱烈の神ハゾレト》
3 《再燃するフェニックス》
-クリーチャー(27)-
2 《凶兆艦隊の向こう見ず》
2 《ピア・ナラー》
2 《マグマのしぶき》
2 《削剥》
2 《霊気圏の収集艇》
1 《再燃するフェニックス》
1 《ヴァンスの爆破砲》
-サイドボード(15)-
《陽焼けした砂漠》の代わりに《屍肉あさりの地》と《絡みつく砂丘》が採用されているのが面白くて、正しい選択だと思う。王神とマルドゥのアーティファクト戦略も重要視しておらず、メインは《削剥》1枚になっているが、これも正しいと思うよ。そして、《再燃するフェニックス》を入れる代わりに《損魂魔道士》を抜くことで、デッキが遅く長いゲームに強くなっている。
このリストはミラーマッチと青黒に対して良く調整されていて、素直にオススメできるリストだ。
青黒コントロールとグリクシスも強力
大会前に悩んだのは、純粋な青黒を使うべきか、除去のために赤を足すべきか、それとも《つむじ風の巨匠》を入れたエネルギー戦略を取るか、というものだった。青黒がトップ8に二つ、グリクシスが三つとどの戦略もグランプリでは良い結果を残していて、未だに結論を出せていないね。
3 《本質の散乱》
3 《渇望の時》
4 《不許可》
4 《ヴラスカの侮辱》
3 《天才の片鱗》
2 《ヒエログリフの輝き》
2 《暗記+記憶》
3 《アズカンタの探索》
-呪文(28)-
3 《否認》
2 《強迫》
2 《アルゲールの断血》
1 《巧射艦隊の追跡者》
1 《原初の潮流、ネザール》
1 《渇望の時》
1 《バントゥ最後の算段》
1 《黄金の死》
-サイドボード(15)-
根っからのコントロールプレイヤーである身として、このリストは本当に好きだ。エリック・フローリッヒは完璧に近いデッキを作ったと思うね。赤単相手に強いプレイをして、《廃墟の地》と《暗記+記憶》のコンボで脅威を退けてきた。
彼は緑のデッキのために《慮外な押収》や《幻惑の旋律》を取ることはせず、またトークン対策になる《川の叱責》も採用していない。これが正しいかどうかはっきりとは言えないけど、面白いアプローチになるかもしれないね。
重要なメモ:このデッキは《殺戮の暴君》に悩まされるのが常だが、この恐竜を「打ち消す」方法が存在する。《殺戮の暴君》がスタックに乗ったら、《暗記》して、《廃墟の地》で強制的にデッキをシャッフルさせるんだ。もちろん安定する対策ではないが、勝利を掴むには十分だ。
2 《山》
2 《沼》
3 《異臭の池》
3 《泥濘の峡谷》
4 《尖塔断の運河》
3 《竜髑髏の山頂》
3 《水没した地下墓地》
4 《霊気拠点》
-土地(26)- 4 《光袖会の収集者》
4 《つむじ風のならず者》
2 《豪華の王、ゴンティ》
2 《スカラベの神》
2 《奔流の機械巨人》
-クリーチャー(14)-
トップ8には異なる三種類のグリクシス・エネルギーデッキが入賞したわけだが、これが一番直球的な作りで《光袖会の収集者》や《つむじ風の巨匠》といったエネルギー要素はそのままに、《奔流の機械巨人》と《アズカンタの探索》といったコントロール要素を詰め込んでいる。ここに採用されていなくて面白そうで試してみたいと思うのは、いい動きができるようになる《凶兆艦隊の向こう見ず》だな。
緑クリーチャーの隆盛
これまでのところ、緑についてはそんなに強いと思っていなかったので、一言留めておくのみだった。しかし実際にはグランプリ・メンフィス2018で二つの緑のデッキが決勝戦に残り、俺の考えが間違っていたと知らしめられたわけだ。では、勝ち上がったデッキを見てみよう。
このデッキは基本的に黒緑の二色で、1枚だけ青いカードがメインに入っているわけだが、その青いカード、《ハダーナの登臨》3枚がデッキの強さを保っているのだろう。《巻きつき蛇》で対戦相手を素早く倒し切ることもあるけど、珍しいケースだろうね。
デッキの勝ち筋は序盤にダメージをある程度与えておいて、《逆毛ハイドラ》や《顕在的防御》で守られたクリーチャーを《ハダーナの登臨》で倒せるサイズまで強化しつつ送り込むというものだ。
このデッキは《ハダーナの登臨》なしには《スカラベの神》やトークン戦略を乗り越えられないし、赤単と競う速度も出せない。それにもし決勝戦を見ていたなら、この戦略の本当の弱点を見たはずだ。どのような戦況でもドローがうまく噛み合わずに負けてしまうし、長期戦を勝ち切るためには《光袖会の収集者》か《翡翠光のレインジャー》でドローを加速させなければならない。
正直に言って、デッキの真の勝ち筋が広く知られてしまった今となっては、この戦略は選択肢から消え去ってしまったよ。
7 《森》
4 《隠れた茂み》
4 《根縛りの岩山》
2 《ハシェプのオアシス》
-土地(24)- 4 《地揺すりのケンラ》
4 《マーフォークの枝渡り》
3 《立て直しのケンラ》
4 《翡翠光のレインジャー》
2 《不屈の神ロナス》
1 《ピア・ナラー》
4 《再燃するフェニックス》
4 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(26)-
2 《貪る死肉あさり》
2 《打ち壊すブロントドン》
2 《殺戮の暴君》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《チャンドラの敗北》
1 《マグマのしぶき》
1 《顕在的防御》
1 《帰化》
1 《捲土+重来》
-サイドボード(15)-
このデッキリストを見たときは「この束が勝つなんてことがあるんだろうか?」という感じだった。重いクリーチャーしかいないし、明確な勝ち筋もなく、コントロールにも赤にも立ち向かうすべがない、とね。
まぁ、何度でもいうけど私が間違っていたんだ。このデッキには《マーフォークの枝渡り》や《翡翠光のレインジャー》というエンジンが搭載されている。ドローを安定させるし、運が良ければ《地揺すりのケンラ》と《立て直しのケンラ》を墓地に落としてカードアドバンテージを得ることさえある。初めはすごいと思えないかもしれないが、《栄光をもたらすもの》、《再燃するフェニックス》、《不屈の神ロナス》などの強力なクリーチャーが居ればこれ以上素晴らしいことはないさ。
このデッキは噛み合わないドローばかりになると思っていたんだが、ちゃんと燃料を投入する方法もあるし、環境に存在する強力な除去呪文で他の戦略を蹴散らすこともある。対策しないといけないデッキではないけれど、ある程度メタゲームに残るデッキな気がするね。
ブラッド・ネルソンが選んだデッキ
さて、最後に紹介したいデッキはロアノーク(StarCityGames.com)のメンバーによって開発された青黒ミッドレンジだ。すごく研究されているのは分かるつもりだし、皆も知っているとおりブラッド・ネルソンは地球最強のスタンダードプレイヤーだ。しかし、ちょっとこのデッキに入れ込みすぎた気もするね。
3 《島》
4 《異臭の池》
4 《水没した地下墓地》
4 《霊気拠点》
3 《廃墟の地》
-土地(26)- 2 《歩行バリスタ》
4 《光袖会の収集者》
3 《才気ある霊基体》
3 《機知の勇者》
2 《豪華の王、ゴンティ》
1 《貪欲なチュパカブラ》
3 《スカラベの神》
2 《奔流の機械巨人》
-クリーチャー(20)-
勘違いしないでほしいのは、このデッキは1,2枚挿しのカードがメインにもサイドにも散りばめられていて、傑作だ。私が思うに、対戦相手はこちらの手の内が分からない、という戦略を取りたかったのだろう。カウンターの種類を増やして《奔流の機械巨人》を活かしたり、様々な脅威に抗うクリーチャーを入れて、そして万能に働く《光袖会の収集者》を残してエネルギーギミックを完全に切り捨てなかったりね。
このデッキは《スカラベの神》の能力を悪用できるデッキだと思うが、同時に様々なことをやろうとしているので、どれも十分ではないと思っている。今までも何度もブラッド・ネルソンの作ったデッキをプレイしたし、これからもプレイするだろうけど、今回ばかりはパスすることにするよ。それでも、このデッキは対戦相手が一番ミスを犯しやすくなる形になっているし、ものすごく複雑な盤面を作ることになるので、それを望むのであればオススメするよ。
次の大会は来週あるグランプリ・マドリード2018の予定だ。スタンダードの担当だから、この記事で考えたことをベースに環境をもっとしっかり見据えて、この新しくも魅力あふれる環境の中で正しいデッキにたどり着けるように頑張るよ。
オリバー