By Kazuki Watanabe
テーブルの上に、2つのトロフィーが置かれている。
片方のトロフィーは持ち主が既に決まっており、名前が刻み込まれている。
第13期ミスターPWC、深谷 祐太。第12期に続いて、2期連続での戴冠だ。そして、ここでお届けするPWC Championship 2018決勝戦のテーブルに座る、登場人物の一人である。
深谷が勝利すれば、史上初の二冠達成となる。
もう一人の名は、村栄 龍司。BIG MAGICのスタッフとして、様々な場所で活躍していることをご存知の方も多いことだろう。今回は関西から遠征し、見事この決勝戦に残っている。
かつての二冠達成は、目前で阻まれた。2010年度のことである。ミスターPWCに就任した和田 寛也は、PWCCの決勝戦で斉田 逸寛に敗れているのだ。
深い歴史を持つ、PWC。ミスターPWCという称号と並び、PWC Championshipの王者は、その名をトロフィーと歴史に刻むことになる。
プレイヤーはもちろんだが、ヘッドジャッジの中嶋 智哉を始めとするジャッジ陣の奮闘。そしてホビーステーション川崎店の協力もあり、今年度もスイスラウンドから熱い戦いが繰り広げられた。そして、いよいよ最後の戦いが始まろうとしている。
深谷の「グリクシスコントロール」を手にしてこの場に座り、村栄は「青白《王神の贈り物》」に特殊なサイドボードを採用して、ここまで勝ち進んできた。
あと一つ。勝利し、もう一方のトロフィーを掴み取るのは果たしてどちらか。
Game 1
先攻の村栄はマリガン。6枚の手札を見た上で、ダブルマリガンを選択。深谷は悩みながらも7枚の初手をキープした。
村栄が《査問長官》を唱えて決勝戦が開始される。続くターン、アップキープに能力を起動してから《アズカンタの探索》を唱える。それを見届けた深谷は、《アルゲールの断血》を唱えてターンを返した。
村栄はアップキープに再び《査問長官》の能力を起動。《アズカンタの探索》が瞬く間に変身を遂げる。
ダブルマリガンによって不足していた手札を《水没遺跡、アズカンタ》で補充していく。手始めに《不可解な終焉》を手札に加えた。
さらに《査問長官》で攻撃してから、《航路の作成》。続けて《巧みな軍略》を唱えるが、ここで深谷が動き出す。《至高の意志》で打ち消し、ターンを受けた。
《反逆の先導者、チャンドラ》を戦場に送り出して「+1」能力で赤マナを生み出させると、《マグマのしぶき》で《査問長官》を焼き払った。
続くターンに《反逆の先導者、チャンドラ》がデッキトップの《大災厄》を追放し、これをそのまま唱えた。村栄の手札は《発明の天使》、《復元》、《不可解な終焉》、そして《王神の贈り物》。ここでは《復元》を追放しておく。
村栄は2枚目の《アズカンタの探索》を唱える。
《反逆の先導者、チャンドラ》はここでも「+1」能力を起動し、公開された《至高の意志》は火力に変換する。忠誠度は7まで伸びている。
しかし村栄は慌てることなく《水没遺跡、アズカンタ》を起動。《イクサランの束縛》を手札に加えて即座に使用し、《反逆の先導者、チャンドラ》を追放する。
深谷は再び《大災厄》を唱え、ここでは《発明の天使》を追放する。村栄が《王神の贈り物》を《復元》するが、これも《削剥》で砕いた。
ひとまず1枚目の《王神の贈り物》を処理したが、このままでは墓地を活用されることは避けられない。しかし、メインボードに墓地対策はない。そこで、深谷は《首謀者の収得》を唱えた。サイドボードから手札に加えられたのは《没収の曲杖》である。
これを唱えて、ひとまず対策は完了する。村栄は《王神の贈り物》を唱えて戦闘を開始しようとするが、墓地がすべて追放された。さらに《スカラベの神》を唱えて、深谷はターンを返した。
村栄のアップキープ。《アズカンタの探索》でデッキトップの《機知の勇者》を墓地に落とし、それを《王神の贈り物》で即座に蘇らせる。4枚ドローし、《機知の勇者》を捨て、それを「永遠」。膨大なドローを稼いでいく。深谷も《アルゲールの断血》でドローをしながらターンを受けた。
《王神の贈り物》と《スカラベの神》が墓地を見据える。クリーチャーが墓地に落ちた途端に、戦場が慌ただしくなるだろう。
《排斥》で《スカラベの神》を追放してから、《機知の勇者》を唱えて《発明の天使》と《聖なる猫》を墓地に落とす。しかし深谷も《削剥》で《王神の贈り物》を砕いて応戦する。
《アルゲールの断血》でドローを進めながら、《ヴラスカの侮辱》で《機知の勇者》を追放。さらに《破滅の刻》で戦場を一掃し、深谷が攻め立てる。
しかし、村栄が《王神の贈り物》を唱えたことで決着が付いた。《アルゲールの断血》で反撃の糸口を探すが、。
深谷 0-1 村栄
さて、サイドボードだ。ここからは、まったく別のゲームが始まると言っても良い。
その理由は、村栄のサイドボードにある。ことの次第は、こちらのカバレージを読んでいただくとして、一応デッキリストを掲載しておこう。
マジックの歴史に残るであろう、字面の強さである。
このデッキと初めて対戦し、サイドボード後に《原初の夜明け、ゼタルパ》や《蝗の神》が現れたとしたら、誰でも動揺するであろう。
しかも、今回はさらに事情が異なる。というのも、深谷と村栄はスイスラウンドで一度対戦しているのだ。深谷はその時の感想を漏らしながら、サイドボードを決めていく。
深谷「普通とは違う、ものすごい軸から攻めてくるんですよね……見慣れないやつが、とにかく出て来る」
もちろん、このサイドボードを今日初めて使用する村栄も「見慣れない」という点においてはまったく同じだ。スイスラウンド、準々決勝、準決勝を通して少しずつサイドボーディングが固まってきているらしく、
村栄「ようやく分かってきたんですよ」
と笑顔を見せながらカードを選び抜いていく。
村栄は殿堂サイドボードを活かして勝利を目指す。深谷は強力なカードが多数採用されている「グリクシスコントロール」で、神とエルダー・恐竜を捌き切る。
お互いのシャッフルが終わった。2ゲーム目が開始される。
Game 2
互いに《アズカンタの探索》を置き、深谷は《没収の曲杖》、村栄は《巧みな軍略》と動き出す。
深谷が4枚目の土地、《霊気拠点》を置いて《反逆の先導者、チャンドラ》を戦場に送り出すと、村栄が唱えたのは、《周到の神ケフネト》。サイドボードから投入された神だ。《島》を置き、手札は5枚になる。
神には神を。深谷は《反逆の先導者、チャンドラ》で赤マナを捻出し、《蠍の神》を唱える。
ターンを受け、村栄は《周到の神ケフネト》の能力を起動して手札を補充し、《反逆の先導者、チャンドラ》に攻撃を仕掛ける。大きく忠誠度を削り取るが、倒し切ることができない。深谷は生き残った《反逆の先導者、チャンドラ》でマナを捻出し、《川の叱責》を唱えた。
《アズカンタの探索》と《周到の神ケフネト》が手札に戻り、更地の戦場を《蠍の神》が駆け抜ける。
再び展開を余儀なくされた村栄は、まず《周到の神ケフネト》、《航路の作成》と続けて、《スカラベの神》を墓地へ送り込むが、ここで深谷が《没収の曲杖》を起動して墓地を追放する
《ヴラスカの侮辱》で《周到の神ケフネト》を追放し、《蠍の神》が村栄のライフを削る。
ターンを受けた村栄は、深谷に尋ねた。
村栄「手札は何枚ですか?」
深谷ははっきりとした口調で答える。
深谷「1枚です」
《蠍の神》を止めなければならない。意を決した村栄は一度頷き、《イクサランの束縛》を唱えた。
机に伏せてあった1枚の手札……《至高の意志》が公開されると、もう一度頷いてから村栄は盤面を片付けた。
村栄「負けました」
深谷 1-1 村栄
Game 3
3ゲーム目は、初動から慌ただしい展開となった。
村栄が最初に唱えたのは《機知の勇者》。そして、《王神の贈り物》と《原初の死、テジマク》が捨てられる。
その2枚を見て、深谷はわずかに声を漏らしてからターンを受けた。
《復元》があれば、《王神の贈り物》が戦場に戻り、《原初の死、テジマク》まで蘇ってくる。それを阻止するために、深谷は《大災厄》を唱えた。
公開されたのは、《氷河の城砦》《巧みな軍略》《航路の作成》、そして、《復元》が2枚。
深谷は苦笑いを浮かべながら、《復元》を追放した。ターンを受けた村栄は《復元》で《王神の贈り物》を戦場に戻し、《原初の死、テジマク》を蘇らせる。
4/4、接死。元のサイズよりも小さくなっているが、このまま戦場に残すのは危険過ぎる。深谷は手札の呪文を投入して盤面を処理し始める。《削剥》で《王神の贈り物》を砕き、《破滅の刻》で《原初の死、テジマク》を焼き払った。
序盤の動きは灰燼に帰した。ここから再び動き出さねばならない。《航路の作成》で《機知の勇者》を墓地へ送り込み、深谷の唱えた《スカラベの神》は《イクサランの束縛》で追放する。対する深谷も消費した手札を補充するために、《アルゲールの断血》を唱えて、起動していく。
村栄は《機知の勇者》を「永遠」で蘇らせて、4枚ドロー。そして、《島》と《原初の夜明け、ゼタルパ》を捨てた。
2枚目のエルダー・恐竜を見つめながら、《アルゲールの断血》でドローを進める。ここまでの攻撃、そして《アルゲールの断血》によるダメージで、ライフは4まで落ちていた。
《アルゲールの断血》が変身し、《永遠衆の墓所》で1点回復。さらに《川の叱責》で《イクサランの束縛》を手札に戻し、《スカラベの神》を取り戻す。
再び《イクサランの束縛》が唱えられるが、これに対応して《アクロゾズの神殿》で《スカラベの神》を生け贄に捧げ、ライフを5点回復。《信義の神オケチラ》を村栄が唱えれば、深谷は墓地から手札に舞い戻った《スカラベの神》を唱えて応える。
何度でも蘇る《スカラベの神》と、クリーチャーを生け贄にしてライフを回復する《アクロゾズの神殿》。この組み合わせは、想像以上に厄介だ。除去に対応してライフを回復されてしまう。マナさえ許せば、これが果てしなく続くことになる。
では、戦場に居座らせればどうなるか。《スカラベの神》が能力を起動し、“原初の夜明け”がやって来る。
夜明けよりも早く。村栄は《王神の贈り物》を唱えて追い縋るが、《至高の意志》で打ち消されてしまい、《アズカンタの探索》を唱えてターンを終えた。
そしていよいよ、その時が来た。《スカラベの神》が《原初の夜明け、ゼタルパ》を蘇らせた。
さらに《機知の勇者》も蘇らせて手札も潤沢になり、深谷を阻むものは何もなくなった。
願いを込めて唱えた《王神の贈り物》が《削剥》で破壊されると、村栄は手を伸ばし、握手を求めた。
史上初の二冠を達成した、ミスターPWCに。
深谷 2-1 村栄
勝利した深谷を拍手が包み、友人たちが声をかける。敗れた村栄も悔しそうに反省点を述べながら、仲間と言葉を交わした。
その声を掻き分けるかのように、ヘッドジャッジの中嶋のアナウンスが響く。
中嶋「今年度のPWC Championshipは、史上初の二冠で幕を閉じました。2010年度、目前で達成が阻まれた二冠が、ついに達成されました」
誰よりもPWCを愛し、誰よりも側でPWCを、そして数多のプレインズウォーカーを見つめてきた中嶋の言葉。そこには、深い歴史と共に、様々な熱い思いが散りばめられていた。
だからこそ、このカバレージを締めくくるのも、彼の言葉が相応しいであろう。
彼はこの日を締めくくるために、勝者の名前を高らかに讃えた。その後に響いた拍手の音をここで記すことはできないことが心苦しいが。
中嶋「PWC Championship 2018、優勝は第13期ミスターPWCとの二冠、深谷 祐太さんです。おめでとうございます!」