準決勝: 嘉藤 裕樹(東京) vs. 醍醐 利宗(千葉)

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 神に挑むことができるのは、優勝した人間のみ。

 第11期を迎えたレガシー神挑戦者決定戦には300名を超えるレガシープレイヤーが集った。

 彼らが目指すのは、神へ挑む権利。前回の第10期で神討ちを果たして神に就任した有田 浩一朗へ挑むため、熱戦を繰り広げている。

 ここでは、準決勝に駒を進めた嘉藤 裕樹(スゥルタイコントロール)と、醍醐 利宗(赤単プリズン)による一戦をお届けしよう。

Game 1

 嘉藤が《汚染された三角州》、醍醐は《山》を置く。

 続くターンに醍醐が置いた土地は、またも《山》。そして《猿人の指導霊》を手札から追放して赤マナを捻出すると、《月の大魔術師》を唱えた。

月の大魔術師

 これが戦場に降り立てば、嘉藤は動けなくなる。ひとまず《渦まく知識》を唱えて手札を整え、《意志の力》で打ち消した。

嘉藤 裕樹

嘉藤 裕樹

 相手の初動を凌いだ嘉藤は、《真の名の宿敵》を送り出してターンを返す。

 対する醍醐は《山》を3枚並べて、《血染めの月》を唱える。

血染めの月

 これにより嘉藤の動きは制限される。しかし、一度《月の大魔術師》を見ているので、衝撃は少ない。あらかじめ《島》《沼》をフェッチランドで用意しているので、当面のマナに困ることはないだろう。早速、《悪意の大梟》を送り出し、続けて《梅澤の十手》も唱えて攻撃の準備を整えていく。

 醍醐は《罠の橋》を据えるが、手札は4枚。相手のクリーチャーを止めるには、少々潤沢過ぎる。

 相手のロックが決まり、身動きが取れなくなる前に勝負を決めれば良い。嘉藤は《悪意の大梟》《梅澤の十手》を装備させると、《真の名の宿敵》と共に攻撃を加えた。

梅澤の十手

 《梅澤の十手》の上にカウンターが乗る。これはレガシーに於ける敗北の前兆だ。醍醐は《虚空の杯》をX=1で唱えるが、これも動きを緩めることにはならない。次のターン、相手の攻撃を確認し、一言告げてから土地を片付けた。

醍醐「負けですね」

 嘉藤も一度頷くと、サイドボードに手を伸ばした。

嘉藤 1-0 醍醐

Game 2

 サイドボードを終えた両者は、7枚の手札を眺めて即座にマリガンを宣言する。

 醍醐が《山》を置くと、嘉藤は《汚染された三角州》。それを即座に起動し、悩むことなく《島》を用意する。ここでは《思案》を唱えてターンを終えた。

 ここで早速、醍醐が仕掛ける。《裏切り者の都》を置き、さらに《猿人の指導霊》を追放。4マナを用意し、《ピア・ナラーとキラン・ナラー》を唱えた。嘉藤は悩むことなく《意志の力》で拒絶する。

 一度目の動きは凌がれた。しかし、醍醐には二の矢が控えている。

醍醐 利宗

醍醐 利宗

 再び《猿人の指導霊》を追放し、《反逆の先導者、チャンドラ》を戦場へ。そして「+1」能力でマナを生み出すと、《虚空の杯》をX=1で唱えた。

反逆の先導者、チャンドラ虚空の杯

 二の矢が通った。醍醐が《反逆の先導者、チャンドラ》を従えてゲームを支配し、嘉藤のライフを襲い始める。「+1」能力を起動し、ライブラリートップを次々と火力に変える。忠誠度が7に達すると、醍醐は迷うことなく紋章を得た。

 嘉藤も《死儀礼のシャーマン》の能力を駆使してこれに追い縋る。ライフを記すメモに、次々と数字が刻まれていく。さて、嘉藤の残りライフは……。

醍醐「11ですよね?」

 醍醐は1枚の呪文を唱えながら尋ねた。この言葉には、二つの意味がある。

 それを聞いて、嘉藤は自分のメモに一度目を落としてから、その呪文を見つめた。

 11点。これが残りライフだ。

 たしかに何度見直しても、メモにはそう記されている。

 11点。これが相手によって与えられるダメージだ

 たしかに何度計算しても、過不足なくライフが0点になる。

焦熱の合流点

 唱えられたのは、《焦熱の合流点》

 《反逆の先導者、チャンドラ》の紋章で5点。さらに2点ダメージを3回選択し、6点。合計、11点

嘉藤 1-1 醍醐

Game 3

 3ゲーム目は、互いに相手の手札を覗くスタートとなった。まずは嘉藤が《思考囲い》を唱える。醍醐の手札は、《山》《山》《裏切り者の都》《猿人の指導霊》《焦熱の合流点》《虚空の杯》《魔術遠眼鏡》

山山裏切り者の都猿人の指導霊 焦熱の合流点虚空の杯魔術遠眼鏡

 先ほど思わぬ大ダメージを与えてきた《焦熱の合流点》のテキストを確認してから、《虚空の杯》を墓地に落とす。

 ターンを受けた醍醐も《魔術遠眼鏡》で手札を覗き、メモを取る。公開された6枚の手札の中に、呪文が5枚。《渦まく知識》《渦まく知識》《突然の衰微》《トーラックへの賛歌》《トーラックへの賛歌》をメモに記してから、ここでは《精神を刻む者、ジェイス》を宣言する。

渦まく知識渦まく知識突然の衰微 トーラックへの賛歌トーラックへの賛歌

 嘉藤が次に唱えた《トーラックへの賛歌》で、先ほど公開された《焦熱の合流点》《猿人の指導霊》が手札から落ちて行く。

 《魔術遠眼鏡》で確認した結果、打ち消し呪文はなかった。醍醐はこれを好機と見て《反逆の先導者、チャンドラ》を唱える。しかし、嘉藤は《渦まく知識》を唱えてから、《意志の力》でこれを打ち消した。

意志の力

醍醐「引きますか……」

 2枚の手札を握りしめ、力なくターンを返す。その2枚、《削剥》《血染めの月》も、次の《トーラックへの賛歌》で墓地へと落ちてしまった。

 そして、嘉藤が《タルモゴイフ》を唱える。

タルモゴイフ

 両者が墓地を手に取り、現在のサイズを確認する。

 土地、クリーチャー、インスタント、ソーサリー、エンチャント、アーティファクト、プレインズウォーカー……。

タルモゴイフの上に、ダイスが乗る

 7/8。部族カードこそないが、

醍醐「完全体!?」

 醍醐が叫んだのも無理はないであろう。

 醍醐の戦場にクリーチャーはなく、用意するのが生半可なチャンプブロッカーでは意味がない。

 少し肩を落とした醍醐が、力なくライブラリーに手を掛け、ドローを確認する。

 そしてそのカードを唱えた。歓喜と感謝を込めて、胸を張り、力強く。

 この場を凌ぎながら、勝利を目指す力を醍醐に与えるものが、戦場に現れた。

 敗北を遠ざけ、勝利を齎す劇的なドロー。

 時に人は、それをこんな言葉で表現する。「神引き」と。

 それは「神がかった引き」「神のような引き」という意味だと思われるが、ここでの醍醐のドローは、やはり「神引き」であった。

 しかも、先ほど紹介した意味に、もう一つ別の意味が込められている。

 「神を引いた」という、また別の意味が。

熱烈の神ハゾレト

 ドローしたのは、《熱烈の神ハゾレト》

 《タルモゴイフ》のサイズがどれほど大きくなろうが、「破壊不能」で止めれば良い。醍醐は小さく一言、「よし」と呟いてから神と共に戦いを継続する。

 《熱烈の神ハゾレト》の能力を利用して、手札の《山》、続けて《古えの墳墓》を惜しみなく火力に変換していく。これ以上のマナは不要だし、手札も不要だ。なぜならば、《罠の橋》をプレイするからだ。

罠の橋

 嘉藤もそれをただ見ているわけではない。まずは《突然の衰微》《虚空の杯》を割り、《死儀礼のシャーマン》を戦場に送り出す。

死儀礼のシャーマン

 《熱烈の神ハゾレト》の能力で2点。

 《死儀礼のシャーマン》《削剥》を追放して2点。

 互いに2点のダメージを見舞い続ける中、嘉藤は《真の名の宿敵》を送り出す。しかし、《罠の橋》によって動くことはできない。醍醐は《熱烈の神ハゾレト》で火力を見舞ってターンを返す。

 お互いのライフは、あとわずか。

 戦場を見つめた嘉藤は、勝利を掴み取るために1枚のカードで罠を外した。

突然の衰微

 《突然の衰微》《罠の橋》を砕く。

 これを見て、醍醐も大きく唸る。ロックが外れた。《熱烈の神ハゾレト》も万能ではない。《タルモゴイフ》は受け止められるのが、《真の名の宿敵》に触れることは不可能だ。

 《真の名の宿敵》が通る。残りライフはわずか。それが即座に蝕まれると、醍醐は知っている。

死儀礼のシャーマン

 何度も何度も能力を起動し、自分のライフを奪い去ってきた《死儀礼のシャーマン》が居るからだ。

嘉藤 2-1 醍醐


 神を従えることはできても、プレイヤーは神ではない。相手の手札を完璧に読むことはできない。当然、ミスもする。だからこそマジックには勝敗があり、喜びと悲しみがあり、物語がある。

 それらは、やはり人間だからこそ生まれるものだ

 神ではない人間は、神を目指すことができる。この挑戦者決定戦で勝利し、神の牙城に迫ることができる。

 勝利した嘉藤は、荷物をまとめて立ち上がる。次の戦い――決勝戦へ挑むために。

 その嘉藤に対し、醍醐は一言声を掛けた。その声は、少し熱が込められていたように思う。

醍醐「おめでとうございます、頑張ってください!」

 悔しさはもちろんある。しかし、それを勝者への敬意が上回っていた。

 この熱さも、人間だからこそ、であろう。

 神に挑むことができるのは、優勝した“人間のみ”、なのだから。

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