Translated by Daijiro Ueno
(掲載日 2018/05/25)
新しいデッキの模索
プロツアー『ドミナリア』に向けて、スタンダードをたくさんプレイしている。新セットによって、色々と魅力的なことが巻き起こっているよね。だけど、今日のところは頭の片隅に留めておく程度にしておきたいんだ。
僕が最後に参加したのは、グランプリ・バーミンガム2018。そこでは、僕が最も好きなフォーマットであるレガシーをプレイした。
Arrived in Birmingham for #GPBirm lets crush at some Legacy action!#hareruyapros
— Marc Tobiasch (@MarcTobiasch) 2018年5月10日
最近のレガシーは、騒乱の最中にある。新しいデッキが次々と現れて、メタゲームが動き続けているんだ。
「4C《秘密を掘り下げる者》」や「4Cコントロール」に採用されている《死儀礼のシャーマン》が最も警戒すべき敵である、というのは変わっていない。だけど、これらに対して《暗黒の深部》が大きく注目され始めて、「ターボ・デプス」や「土地単」が今や強力な選択肢となっている。そして、さらにこれらのデッキに対抗するべく、《古えの墳墓》で《虚空の杯》や《血染めの月》を高速展開するようなデッキも少しずつ流行し始め、ついにグランプリを制覇することになった、といった感じだ。
「リアニメイト」や「《実物提示教育》」はまだ健在だから、高速で着地する《グリセルブランド》を見かけることもあるし、《虚空の杯》を採用したデッキや、お馴染みの《死儀礼のシャーマン》入りクロックパーミッションが環境に存在する、と予想されるから、僕が記事を書いた「ストーム」は最良の選択肢ではないと感じていたんだ。
そこで他のデッキを探してみた。求めていたのは、高速で決着をつけることができ、妨害手段に長けているとともに《罰する火》で対処されない脅威を叩きつける、というデッキだった。「グリクシスデルバー」をアップデートすれば良さそうだったけど、このデッキはあまり好きではないんだ。
僕の見出した答えは、《死の影》だ。このカードはモダンで大活躍して世間に認められることとなったんだけど、その後は勢いを失っていた。とはいっても、これはモダンの環境だからこそ起こった変化であって、実のところ、レガシーには当てはまらない。勢いを失った理由というのは、《死の影》がクリーチャー主体のゲームでは真価を発揮できないからなんだ。もし相手がこいつをチャンプブロックする手段を持っていれば、返しの攻撃でこちらは防御一辺倒の窮地に追い込まれることになってしまうだろう。これは、モダンで「人間」と対峙すると良くわかることだね。相手は無数のクリーチャーたちでこちらの攻撃を食い止めることができるし、こちらのライフはもともと少ないので、ダメージレースで勝つことはおよそ不可能に思えてしまう。
しかし、レガシーでは大半のクリーチャーが小粒で、サイズよりも能力が重要視されることがほとんどだ。《死儀礼のシャーマン》や、《秘密を掘り下げる者》はダメージレースに優れているわけではないし、そもそもクリーチャーで殴ることに特化したデッキというのはこのフォーマットにはほとんど存在しないからね。「エルフ」は例外かもしれないけど、環境的に恵まれているわけではない。
《死の影》の素晴らしいところは、「大型のクリーチャーで数回殴れば勝ち」といったプランを取らない相手に対して、ひたすらプレッシャーを与えることができる、という点だ。
以上をまとめると、レガシーは《死の影》が輝ける最高の舞台なんだ。フェッチランドを起動して、デュアルランドを”ショックイン”すれば、混乱する相手の顔を見ることになるだろうね。
デッキリスト
1 《草むした墓》
1 《Tropical Island》
1 《Underground Sea》
4 《汚染された三角州》
3 《霧深い雨林》
1 《新緑の地下墓地》
4 《不毛の大地》
-土地 (17)- 4 《死の影》
2 《死儀礼のシャーマン》
3 《通りの悪霊》
3 《グルマグのアンコウ》
-クリーチャー (12)-
さて、デッキリストを眺めると、《死儀礼のシャーマン》を2枚しか採用していないことが、すぐに目に留まるだろうだろう。
このカードを一切採用せず、《グルマグのアンコウ》の数を増やすことだって可能だ。2枚、という数に至った理由はたくさんある。まず、このデッキは「大型のクリーチャーで殴り勝つ」というのが基本的なコンセプトだ。《死儀礼のシャーマン》で攻撃したり、能力で2点のダメージを稼いだりするのは、ほとんど意味を成さない。また、マナ基盤もまったく問題がないので、マナを生産する能力も活かしにくいんだ。つまり、《死儀礼のシャーマン》を複数引いてしまう、というのは基本的に避けたいんだ。マナクリーチャーとして《死儀礼のシャーマン》が活躍してくれるのは最初の数ターンのみ。こちらのマナカーブは、2マナでストップしているからね。2~3マナのカードを何枚も採用する「グリクシスデルバー」と比べると、こちらのデッキはかなり低マナ域に寄っていると言える。
このデッキにおける《死儀礼のシャーマン》は、主に次の2つの役割を果たす。
- 1) 相手の《死儀礼のシャーマン》を封じ込めることができる。お互いの《死儀礼のシャーマン》が対峙している場合、基本的にどちらも動くことができないから、最も警戒しなければならないマナ生産能力を封じることができる。
- 2) 相手は《死儀礼のシャーマン》を除去しようとするから、除去呪文を引きずり出すことができる。結果、こちらのフィニッシャーが生き延びやすくなる。
《死儀礼のシャーマン》を一切採用しない構築も考えようと思っているけど、みんなはこれ以上減らしたくないかもしれないね。とはいえ、「《死儀礼のシャーマン》よりも優先されているカードがある」ということで、このデッキのパワーレベルがいかに高いかが分かってもらえるんじゃないかな? そして、豊富なドロースペルで史上最高のクリーチャーたちを探しに行ける。そういったクリーチャーたちに比べると、《死儀礼のシャーマン》は少し見劣りするんだ。
さて、このデッキの妨害手段は、普段レガシーで良く目にするラインナップと同じだ。
ドローソースも同様だね。レガシーでお馴染みの面子が揃っている。
これは、このデッキには最強の妨害手段があり、それらを簡単に手札に加えることができることを意味している。早いクロックを戦場に叩きつけ、早ければ3ターン目ぐらいに勝利できる。《死の影》の速度は、コンボのようなアンフェアデッキに対して最良の解答と言えるね。
しかし、デッキの中のクリーチャーの数が比較的少ない、というのは問題になり得る。フェアマッチでは相手の除去や《悪意の大梟》のようなカードに苦しめられることになると思うよ。
そこで、この問題に対する解答として、サイドボードに《苦花》と《最後の望み、リリアナ》を採用しているわけだ。
この強力な2枚は《悪意の大梟》に対して非常に効果的だし、コントロールデッキ対策としても欠かせないものだ。
《剣を鍬に》はもちろん厄介なカードだね。ライフを回復させられることによって、こちらの《死の影》が複数体同時にやられてしまう、というのが実に痛い。
でも、こういったカードに対する立ち回りももちろん可能だ。《頑固な否認》は明確な解答になるし、《思考囲い》や《ギタクシア派の調査》は相手の除去を事前に察知するのにぴったりだ。
これまでの経験上、「奇跡」に対しては《剣を鍬に》が入っていることも相まって五分五分の戦いになる。そして、「デス&タックス」は相性がかなり悪い。どうにかして《剣を鍬に》を対処したいところだけど、相手はそれを上回ってくる。その上、厄介なクリーチャーたちにも対処しなければいけないんだ。幸い、今のレガシー環境では「デス&タックス」があまり強くないし、熱狂的な「デス&タックス」マニアでさえデッキを見限っているのが救いではあるけどね。
サイドボードの素敵な1枚を紹介しておこう。《地の封印》だ。このカードは《死儀礼のシャーマン》や《瞬唱の魔道士》に依存しているフェアデッキにとって、実に強烈な対策となる。《壌土からの生命》や「リアニメイト」のような相手に効くのは言うまでもないよね。他のフェアデッキは《死儀礼のシャーマン》か《瞬唱の魔道士》、あるいは両方とも採用しているから《地の封印》を使うことができない。ここでも、《死儀礼のシャーマン》に依存しない、というこのデッキの利点が活きてくるわけさ。
グランプリ・バーミンガム2018で、《虚空の杯》を採用したデッキが優勝し、それ以降、このアーキタイプは流行の兆しを見せている。対策としては、やはり《死儀礼のシャーマン》を抜いて、4枚目の《グルマグのアンコウ》や、《突然の衰微》をもう1枚採用することだろう。
フィニッシャーは7枚のみだけど、8枚目を加える必要はないかもしれない。ゲームに負けるとしたら、ただ単にフィニッシャーを探せなかったか、唯一の1体を除去された場合が大半だからね。《虚空の杯》も、フィニッシャーに関する問題の要因にはならない。たしかに、《グルマグのアンコウ》が複数初手にあるのは窮屈な状態だよね。でも、素早く2ターン目に戦場に出せることもあるし、1体目を出して、すぐに2枚目を出すというのも悪くない展開だ。《渦まく知識》でライブラリーに戻してシャッフルすることもできる。4色のデッキは《稲妻》や《致命的な一押し》、《突然の衰微》のような除去しか持っていないし、《悪魔の布告》でしか対処できない(そして大抵メインには入っていない)。だから、《グルマグのアンコウ》は現時点で最上級のフィニッシャーの1つ、と言えるだろう。
モダンと同じで、このデッキは基本的に《頑固な否認》というユニークな打ち消し呪文で除去をかわして、フタをする戦法をとる。フィニッシャーは少数だけど、打ち消し呪文のおかげで、最速で展開してそのまま勝つという理想のパターンを築くこともできるんだ。《目くらまし》の採用率を見れば明らかだけど、「獰猛」を達成せずに《魔力の乱れ》でしかなかったとしても、《頑固な否認》は有効なんだ。
まとめ
以上を振り返ってみると、このデッキはレガシーのデッキを選択する際に、非常に強力な選択肢の1つだと捉えられるべきだと思っている。デッキの長所を最大限発揮することで、各種「デルバー」がやりたい戦法を、より高いレベルで実践することができるんだ。「デルバー」が持つ柔軟性を失っているは確かだけど、レガシーのような何かに特化したデッキが強いフォーマットでは、このデッキの方向性は確かな手ごたえを与えてくれるはずだよ。
サイドボードの候補も多彩で、こちらにとって嫌な戦法をとってくる相手に対しても、サイド後は計算を狂わせることができる。緑の部分を赤に変えることも可能なんだ。《紅蓮破》や《紅蓮地獄》といった、現環境でかなり強力なサイドボードカードを利用することができるからね。
《突然の衰微》があまりにも強いから、緑を選択したほうが良いと個人的には思っている。だけど、環境に合わせて微調整すること自体は、非常に簡単なんだ。
レガシーのように歴史があり、膨大なカードプールを持つフォーマットでも、まだまだ革新的なデッキを作る余地はたくさんある。このデッキだって、まだまだたくさん改良の余地があるはずさ。
さあ、思う存分デッキ構築を楽しんでみよう!
マルク・トビアシュ