By Kazuki Watanabe
プロツアー『破滅の刻』のスタンダードは、赤単が最大勢力となった。
この状況はプロプレイヤーにとっては予想どおりであり、プロツアー会場には「赤単を使うもの」と「赤単を倒すもの」が集っていると言ってよい。
その「赤単を倒すもの」の筆頭が、前回のプロツアー『アモンケット』を制した、黒単ゾンビである。
今回は、「赤単を倒すもの」としてプロツアーに参戦した、ピエール・ダジョンに話を伺った。
数々の名記事を生み出し、「考えること」の重要性を我々に伝えてくれるダジョン。彼がメタゲームを読み解いて選択した、赤単を倒すための黒単ゾンビ、ご覧あれ!
最大勢力に勝つ
--「早速だけど、今回使っている黒単ゾンビについて聞きたいんだ。まずはリストを見せてもらえる?」
ダジョン「ああ、もちろんさ。これが今回使っているリストだ」
20 《沼》 3 《イフニルの死界》 2 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地 (25)- 4 《墓所破り》 4 《戦慄の放浪者》 4 《無情な死者》 2 《金属ミミック》 4 《戦墓の巨人》 3 《呪われた者の王》 2 《ゲトの裏切り者、カリタス》 -クリーチャー (23)- |
4 《闇の救済》 2 《致命的な一押し》 3 《闇の掌握》 3 《リリアナの支配》 -呪文 (12)- |
3 《心臓露呈》 2 《才気ある霊基体》 2 《豪華の王、ゴンティ》 2 《不帰+回帰》 2 《没収》 2 《霊気圏の収集艇》 1 《闇の掌握》 1 《没収の曲杖》 -サイドボード (15)- |
--「では、まず黒単ゾンビを選んだ理由について教えて欲しい。今回のトップメタは赤単だったわけだけど、どうして黒単ゾンビを選んだの?」
ダジョン「まず、赤単を試したんだ。そしてすぐに気付いたよ、『このデッキは強い。多くのプレイヤーが使うに違いない』とね。赤単を使うという選択肢もあったが、“最大勢力の赤単に勝てるデッキ”を選ぼうと思ったんだ」
--「なるほど。そこで候補になったデッキは何があったの?」
ダジョン「3つのデッキが候補に上がった。黒緑、マルドゥ機体、そして黒単ゾンビだ」
--「その中で黒単ゾンビを選んだわけだね」
ダジョン「そうだね。ここが重要で”最大勢力に勝てるデッキ”を選択するだけでは不十分なんだ。その”勝てるデッキ”の中で勝てるデッキを選ばければね。そして、調整を重ねていく内に、黒緑とマルドゥ期待に対して、黒単ゾンビが有利だという結論になったんだ」
--「黒緑、黒単ゾンビ、そして赤単にも有利なデッキを選んだわけだね。他にも候補はあったの?」
ダジョン「最近登場した《王神の贈り物》も有力な候補だった。だけど、赤単との相性が悪すぎるね」
--「なるほどね。ちなみに、黒単ゾンビにとって相性が悪いデッキはある?」
ダジョン「コントロールには絶望的に相性が悪い。ただ、驚異的なスピードで攻撃してくる赤単が流行っている環境で、コントロールを選ぶプレイヤーが多いとは思えなかった。このプロツアーでは一度も対戦していないよ。これも、黒単ゾンビにとっては追い風だったね」
--「今回は”黒単”を選んだわけだけど、ゾンビには様々なパターンがあるよね。例えば、青黒を選ばなかった理由はある?」
ダジョン「もちろん青黒も試したが、そこまで良いとは思えなかった。特にマナベースが致命的で、赤単との対戦では安易なタップインが命取りになってしまうからね」
黒単ゾンビの鍵
--「じゃあ、実際にデッキリストを見ながら聞いていこう。このデッキの鍵となるカードを教えてもらえるかな?」
ダジョン「鍵となるのは、《ゲトの裏切り者、カリタス》だ。サイドボードに採用しているリストがほとんどだと思うが、このカードをメインから採用することで、赤単との相性も改善されている。本当に強いカードだよ」
--「その枠を空けるために、《呪われた者の王》が3枚なんだね」
ダジョン「そうだね。《戦墓の巨人》を減らすか迷ったんだが、こちらは4枚必要だと思ったんだ」
--「なるほど。《ウェストヴェイルの修道院》を採用しているけれど、変身する余裕はなさそうだよね?」
ダジョン「ああ、ほとんど変身しなかったね。ここまでで1回だけだ。それでも、ゲームを決めてくれることに違いはないよ」
--「黒単ゾンビというアーキタイプ自体は、『破滅の刻』が発売される前から活躍していたよね。新たに増えたのは《イフニルの死界》の使用感はどう?」
ダジョン「かなり良い。マナベースに負担も掛けないし、除去としても機能する。今回黒単ゾンビが活躍できているのは、このカードが登場した恩恵も大きいはずだよ」
サイドボードプラン
--「さて、赤単に有利、という理由でこのデッキを選択したわけだけど、サイドボードプランも簡単に教えてもらえる?」
ダジョン「赤単と対戦するならば、《才気ある霊基体》2枚、《霊気圏の収集艇》2枚の絆魂でライフを戻しながら、《闇の掌握》と《不帰+回帰》2枚を増やす。この7枚がサイドイン候補だ」
--「除去を増やすわけだね。そうなると、何と交換するの?」
ダジョン「まず《致命的な一押し》は2枚とも抜く。赤単のサイドボード後は、少しコントロール寄りになることがほとんどだ。《栄光をもたらすもの》や《反逆の先導者、チャンドラ》が入ってくるわけだが、これらに干渉できない。それから5マナという重さが気になるから、《リリアナの支配》も抜いて良いだろう」
--「軽めにして、その枠を除去に充てるわけだね」
ダジョン「そういうことだ。それから、《金属ミミック》2枚と《呪われた者の王》2枚。赤単相手にクリーチャーを並べている余裕はほとんどないと思って良い。《呪われた者の王》は単なる2/3であることがほとんどだから、それならば《才気ある霊基体》の方が良いだろう。これで7枚。赤単相手のサイドボードは、こんな感じだよ」
--「なるほど、ありがとう。他のサイドボードについても解説してもらえるかな?」
ダジョン「他は非常にシンプルだ。《心臓露呈》はコントロールとランプ相手にサイドインする。《没収》は《王神の贈り物》と、《奔流の機械巨人》を指定するためだ。ただ、これらを活用してもやはりコントロールとの相性は悪いから、今後のメタゲーム次第ではあるな」
--「今後のメタゲーム次第、とのことだけど、プロツアーが終わったらメタゲームはどう変わっていくと思う?」
ダジョン「そうだな……赤単は変わらず強いだろうし、ゾンビも増えるだろうね。あとは《静電気式打撃体》を使用するデッキも増える気がするな。エネルギーが強力なのは変わらないからね」
限られた時間で最大効率を
--「さて、そろそろ時間だけど、1つ聞いておきたいことがあるんだ。君が書く記事は相変わらず素晴らしい。最近の先手後手の決め方に関する記事も話題になったし、レガシーのグリクシスコントロールの解説も素晴らしかった。さらに、トーナメントでも勝ち続けている。その原動力はどこにあるの?」
ダジョン「正直に言ってしまうと、普段はほとんどマジックに使える時間がないんだ。仕事もあるし、ボクシングもやっていてね。だから、プロツアー直前の1週間が勝負だ。そうなると、限られた時間で最大効率を目指すしかない。普段から思考を続けることで、頭を活性化している、という感じなのかな。そんなに素晴らしいことを書いている、という自覚はないんだけど」
--「いやいや、一人の読者として感動しながら読んだよ。でも、忙しい中でトーナメントに参加する、というのは本当に大変だよね?」
ダジョン「ああ、たしかに慌ただしい。ただ、それを言い訳にすることだけは嫌なんだ。仕事が忙しいなんていうのは当たり前だし、プライベートの時間も当然確保しなければならない。でも、それを理由に『勝てない、負けた、運がなかった』なんていうのはプロ失格だろう?」
「そう言えることも、素晴らしいよ!」と筆者が伝えると、「ありがとう。これからも応援してもらえるように頑張るよ」と少し照れくさそうに笑った。
そして、「最後に日本のファンに向けてメッセージを」と伝えると、彼は笑顔でこう答えてくれた。
ダジョン「いつも記事を読んでくれてありがとう。Twitterで感想がツイートされて、メッセージを送ってくれる人もいるんだが、日本語が分からなくてね……悔しい思いをしている。返事ができなくて申し訳ない。これからも応援してもらえるように活躍して、様々な記事を書くから、期待していてくれ」