ゴールド・レベル・プロ、原根 健太インタビュー -得たものとこれから-

晴れる屋

By Atsushi Ito

 今回、Hareruya Pros/Hareruya Hopesはトップ8プレイヤーを輩出できなかった。そのこと自体は残念だが、嬉しいニュースもある。

 16回戦を終えて12勝4敗、自身4回のプロツアー参加歴における最高成績を叩き出したHareruya Prosの原根 健太が、先月のグランプリ・ラスベガスでシルバー・レベルを達成したばかりだというのに、シーズン終わりのこのタイミングで来季のゴールド・レベルを確定させたのだ!

 激闘を終え、3日目の会場で野良ドラフトを見学していた原根に、この1年のことや今回のプロツアーの感想などについてインタビューしてみた。

原根 健太

2016-17シーズンを振り返って

--「この2016-17シーズンを振り返ってみて、いかがでしたか?」

原根とにかくツイてたなという印象です。まずグランプリ・京都2016でトップ4に入ってシーズン2つ目となるプロツアー『霊気紛争』の権利を得ることができて、しかもそれもたくさん練習したとはいえ、2日目のシールドでものすごいレアが含まれたプールを引けたというバックアップがあったので、最初の入り口から運が良かったなと」

原根「そのあとシーズン3つ目、4つ目のプロツアーと結局出られたわけですけど、早めに (プロツアーに) 出始めないと、計画が立てづらいので。後半が近づくと、漠然としたホームラン狙いみたいな、ちょっと厳しい目標設定になってしまって、そうなると達成しづらくなりますし。後半の無理強いの頻度が少なかったのがありがたかったですね」

プロツアーへの適応と、獲得した精神性

--「原根さんは今回で4回目のプロツアー参加で、プロツアー『マジック・オリジン』で初日敗退、プロツアー『霊気紛争』で9勝7敗、プロツアー『アモンケット』で8勝8敗、そして今回12勝4敗と、順調にではないにせよ、少しずつ成績が良くなってきていると思うんですが、どうでしょう、感触や手応えが変わってくる感覚はあるんでしょうか?」

原根「ドラフトは全然変わらなくて、最初のときは2-1できたんですが、それ以降は、ずーっと1-2を繰り返していて。今回も初日は1-2で、2日目のドラフトでようやく2-1できたというくらいです(笑)」

--「(笑)」

サテュロスの道探しクルフィックスの狩猟者

原根「ただまあプロツアーの雰囲気には慣れてきましたね。最初のプロツアーでは緊張しまくっていて、手札の《サテュロスの道探し》《クルフィックスの狩猟者》を見間違えて、赤単相手に2ターン目のアクションとれなくて負けて。それくらい余裕がなくて、周りに呑まれてまともな神経でプレイできていなかったんですが、そういうところからするとだいぶ成長したのかなと。ただそれはプロツアーの機会が増えたからというよりは、遠征の回数が増えたので、海外のプレイヤーとやる機会が増えたり、見知らぬ国とかに抵抗がなくなってきたからというのが大きいですね。そういう意味では3年という月日をかけて、少しずつ適応してきてるのかなと思います」

--「今回のプロツアーでは、途中までトップ8進出もありうるラインで戦えていたと思うんですが、これに関してはどういった要因が考えられるでしょうか?」

原根「グランプリ・ラスベガスのときに『自分に期待しすぎない』というのを身に着けて。僕はこれまで他のカードゲームでは『いけるいける』っていうスタンスでやってきたんですが、そのスタンスが自分に合ってないということにこの年で気づいて。そういった鼓舞でボルテージとかモチベーションがあがっていく人もいるとは思うんですけど、僕はそういう人だと自分で思い込んでいただけで、そんな期待しすぎずに『まあ負けることもあるし勝つこともあるし』みたいなふわふわした感じの方がパフォーマンスを出しやすい、ということにラスベガスで気づいたんですよね」

--「なんかなかしゅー (中村 修平) さんみたいなこと言いますね(笑)」

原根「(笑) ラスベガスではシルバー・レベルが確定したあと、モダンの方のグランプリでは驚くほど落ち着いてプレイできて。相手がどんなトップデッキしても、『ははぁ。』くらいで済ませられたんですよね。逆に、『いけるいける』でやっていると、相手がトップしたときに『なんで今なんだよ!』とかなっちゃうんで、もちろん人それぞれだとは思いますが、僕の場合は真剣に向き合いすぎない方がやりやすい、合ってるんだなと気づきました。マジックの場合は望んでも得られるわけではないので、続けるための工夫が必要なんだなと」

--「続けていくための精神の持ちようについて、一つの境地に至ったと。大会に出る際のメンタル面について武器を得た、ということですね」

原根「まだ模索中ですが、今のところは、ガツガツしない方が自分に合っていると思いました」

課題だったドラフトについて

--「課題だったドラフトも今回ようやく2-1ができたわけですが、今回掴んだものは何かありますか?」

スカラベの神

原根「2-1できたのはただ《スカラベの神》引いただけなんで……《ラザケシュの儀式》でチューターして出すのを5回やって5本とって、引かなかったゲームは負けたっていうそれだけ(笑) なので、課題は引き続き継続ですね」

--「《スカラベの神》はさすがに強かったと(笑)」

原根「ドラフトの学びについては、すごく細かい話になってしまうんですが、Magic Onlineとかだと強制ですけど、練習の際にはピック中に自分がピックしたカードを見ながらドラフトするじゃないですか。それで都度全体図を把握しながらピックしていたんですけど、いざ競技ルール (パックの間しかとったカードが確認できないルール) でドラフトをしたときに、『あ、そういえば今こんな感じだったな』っていう見落としが結構発生するなと気づいて、練習時から意識を高めないと直らないなと思いました」

--「練習時からあえてブラインドの状態でやった方が本番の練習になると」

燃え拳のミノタウルス王神の贈り物

原根「ですね。こないだのグランプリ・京都2017のときも、セカンドドラフトの1パック目の時点で土地を切り詰めた赤黒のアグロを目指す感じになっていて、2パック目の初手で《燃え拳のミノタウルス》引けたらいいなーと思ってたら《燃え拳のミノタウルス》《王神の贈り物》があって、『うおぉーーーっ!どうするーーー!!(シャカシャカ)』ってなって。ただそれまでのピックと方向性が合ってないから、仕方なく《王神の贈り物》は流したんですが、冷静に流した後で考えてみたら、1パック目で《ラザケシュの儀式》を2枚ピックしていたことに気づいて。これで毎回サーチしたら絶対勝てるじゃん!っていう(笑) ただそのときは『このドラフトはプロツアーの練習にあてよう』と思っていて、気づいていても結局流した可能性が高いですが、それでもそれを考えられていないことはただ技術が低いだけなので」

--「自分のピックをブラインドで記憶できていないと、プロツアーやグランプリでは正しいピックができないわけですね」

原根「そうです。今回も青黒サイクリングでカード30枚くらいピックした結果、方向性に迷ってデッキ構築も時間かかっちゃうし、挙句の果てに9回戦目で下家のPatrick Dickmannのすごくきれいな青赤にカットを全然していなかったせいでボコボコにされて、『俺は何をしていたんだ!』と。そういうわけで方法論的にブラインドでやるというのもそうですし、本番を見据えた練習をしていかないと意味がないなと思って。漫然とただドラフトするだけだと意味がないので、たとえばMagic Onlineのリーグドラフトもあまりやらないようにしていきたいなと。カード取れすぎちゃっておかしくなりますし。なるべくリアルで人を集めて、本番に近づけた練習をすることが必要だなと思いました」

構築のデッキに関して

--「スタンダードに関しては、チーム”Musashi”の面々と調整された黒単ゾンビということですが、原根さんが9勝1敗 (1勝はトス) という成績を収める一方で、他の同じデッキのプレイヤーはあまり振るわない結果になってしまったわけですよね。その点も含め、デッキ選択はいかがだったんでしょうか?」


原根 健太「黒単ゾンビ」
プロツアー『破滅の刻』(9-1)

20 《沼》
2 《イフニルの死界》
2 《ウェストヴェイルの修道院》

-土地 (24)-

4 《墓所破り》
4 《戦慄の放浪者》
4 《無情な死者》
3 《金属ミミック》
4 《アムムトの永遠衆》
4 《戦墓の巨人》

-クリーチャー (23)-
4 《闇の救済》
2 《致命的な一押し》
3 《闇の掌握》
4 《リリアナの支配》

-呪文 (13)-
3 《ゲトの裏切り者、カリタス》
3 《精神背信》
3 《最後の望み、リリアナ》
2 《失われた遺産》
1 《致命的な一押し》
1 《闇の掌握》
1 《霊気圏の収集艇》
1 《領事の旗艦、スカイソブリン》

-サイドボード (15)-
hareruya

原根黒単ゾンビというデッキ選択はすごく良かったです。ただ使う前から”Musashi”の方々と『ちょっとでもコケたら終わりだね』とは話していたんです。上の方に行ければ勝ち続けられるけど、そうじゃないと雑多なデッキに当たって負けてしまうだろうと」

--「勝ってくるデッキに対して強い、2日目勝てるデッキということですね」

原根「ですね。逆にランプとか青白モニュメントとか、そういう下の方にいそうなデッキに当たるとまずいというのは覚悟の上でした。結果、みんなドラフトの成績が振るわなくて上のゾーンに行けずにそれらのデッキに当たって討ち死にしていって。ただ、僕もドラフト1-2したんですが、たまたま4回戦5回戦が赤単で。それが他のデッキだったら僕も負けてたかなと。なので、最初のドラフトである程度勝つ前提だとデッキはすごく良かったと思います。構築面でも、《呪われた者の王》を抜いて《アムムトの永遠衆》が入っていたのも赤単に対して強くて良かったですし」

--「《呪われた者の王》《アムムトの永遠衆》に関しては、後者の方が良いということですか」

呪われた者の王アムムトの永遠衆

原根「赤単側に聞いてみると『ツーアクションとりつつ3点火力で焼けるよ』とか強がるんですけど、実際にやってみると1マナのカードはほぼほぼ早いターンに処理しちゃうので、そんなにうまくいかずに地上を止められるんですよね。これが《呪われた者の王》だと、《削剥》《焼夷流》で処理されて押し込まれるっていう展開になってしまうんですが、《アムムトの永遠衆》だと相手がちょっと無理をするかワンクッションおかざるをえなくなる。で、赤単相手に交換していくと《地揺すりのケンラ》とかで押し込まれちゃうんですが、《アムムトの永遠衆》だと殴り返して攻守を逆転できるんです。赤単側は守るカードは《熱烈の神ハゾレト》しかないわけですが、ゾンビは《熱烈の神ハゾレト》を簡単に処理できるので、赤単相手はめちゃめちゃ相性が良いなと思いました

--「赤単相手に強いというのは、今回のプロツアーでは明確なアドバンテージでしたね」

原根「あとはナベ (渡辺 雄也) さんがゾンビ使うのすごく上手で、『ここが要所だよ』というのをメンバーに共有してくれたのがとても助かりましたね」

今後のスタンダードについて

--「ちなみに今回プロツアーが赤単の隆盛という結果に終わったわけですが、今後スタンダードのメタゲームはどういう風に進展していくと思いますか?」

原根「赤単のブームはすぐ終わって、まずゾンビが一時的に増えるだろうなと思います。9勝1敗はChristian Calcanoと僕のゾンビで、またプロツアー裏のMOPTQもゾンビが優勝したそうですし、この時点でのベストデッキはたぶんゾンビですね。ただゾンビも全体除去に弱いという欠陥を抱えているので、黒緑の《ヤヘンニの巧技》などもありますし、そうなるとランプなども立ち位置が良くなってきて、うまくメタが回っていくんじゃないかと予想しています。赤単は多角的ですごく良いデッキですけど、圧倒的というほどではないので」

来年の目標について

--「さて期せずしてゴールド・レベルに到達したわけですが、来年の目標については、プラチナ・レベルということになるのか、ゴールド・レベルを維持という形になるのか、その点についてはどう考えているんでしょうか?」

原根「それがちょっと難しくて……もともと3年計画の続きは『そのシーズンのプロツアーに全部出る』というものだったんですが、そもそもシルバーが目標だったのは、シルバーならシーズン1つ目のプロツアーに必ず出られるので、1つ目が出られるなら残りも出られる可能性があると。それでマジックはどんなに勝率が高いプレイヤーでも70%ないくらいなので、1回2回プロツアーに出たくらいで大きく勝つのは難しいと思っていて、出続けないと成果にはつながらないと思っているので、まずはすべてのプロツアーに出られるくらいのポテンシャルを獲得することが大事だろうと思って『全部出る』という目標を考えていたのですが……」

--「始まる前から達成してしまったと(笑)」

原根「そうですね。一つでも多くチャンスを作るために『プロツアーに全部出る』というのをイメージしていたんですが、ちょっと考え直さなきゃいけないですね。ただ、高すぎる目標は身を滅ぼす可能性があるから、ここは慎重にいきたいです」


 練習の方法やメンタリティなどについて大舞台での経験則から語る原根の姿は、2年前のインタビューのときと比べてもプロプレイヤーとして見違えるほどにたくましく、原根は自身が理想とするプロプレイヤーの姿に一歩ずつ着実に近づいているように見受けられた。

 2017-2018シーズン、ゴールド・レベル・プロとしてさらなる進化を見せてくれるであろう原根の活躍に期待したい。

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