レベルプロへの道 ~その1・日本選手権2017~

浦瀬 亮佑

こんにちは。Hareruya Hopesの浦瀬です。

錚々たる面子のTOP8とHareruya Prosの原根 (健太) さんの優勝で華々しく幕を閉じた日本選手権2017 (以下、日本選手権) ですが、勝者の影には敗者がいます

今回は、そんな敗者の視点から日本選手権の調整レポートをお届けしたいと思います。敗戦レポートですから、デッキの解説などは最小限に、思考過程・抽象論がメインです。

1. 準備 (ドラフト)

今環境のドラフトは、グランプリ・京都2017が控えていたこと、Pros&Hopes ドラフト練習会に参加させていただいたことから、フルスポイラー公開直後から精力的に取り組んでいました。結果、プロツアー『破滅の刻』の頃までのMOシングルエリミネーションリーグでの成績は24回中3-0が8回、勝率72%と非常に好調でした。

ところが、プロツアーを境に全くといって良いほど勝てなくなります。プロツアー後の成績はドラフト21回中3-0わずか2回、勝率39%と惨憺たる有様でした。

さすがにここまで勝てないと理由を考えます。

環境初期 (プロツアー前) の私の優位性は、あくまで早めに環境の基本を理解していたということに過ぎませんでした。プロツアーで詳細なカバレージがとられ、国内外のトッププロ達がピック戦略や点数表を記事として公開するようになることで、初期の優位性が失われたのだと思います。その後特に新しい戦略を見つけることができず、周りとの差が詰まり追い越され敗北を重ねていったのです。

ジェイスの敗北

そうであれば取る選択肢は一つ。新しい戦略を見つけることです。

そんな中、ツイッターに流れてきたウィリアム・ジェンセン/William Jensenのツイートが目に留まりました。

(意訳:『破滅の刻』ドラフトはそろそろ終わるけど、この環境は@dustin_sternの言っていることが98%正しいと思うよ。)

@dustin_stern……?

調べてみると、dustin _stern氏は今環境のMOのシングルエリミネーションリーグで3-0を70回と異次元の強さを発揮している人で、ツイッターで独自の点数表やピック理論・ドラフトログ・デッキ画像などを公開していました。

その概要は、

・緑多色 (なるべく緑青軸) と青黒サイクリングの半決め打ちピック

・砂漠を高く取る

・ビートダウン、特に白系のビートはやらない (青赤のみやってもいい)

というものでした。

実際に試してみるとMOで5回中3-0が2回と上々で、この戦略に乗ることを決定。『破滅の刻』環境名人戦でも実践し2-1でした。青赤にバウンス呪文でいいように捌かれて負けたものの、良い感触を得て日本選手権に臨みます。

名人戦ドラフトデッキ

環境名人戦のデッキ。行弘 (賢) さんに指摘いただきましたが、黒を薄くした方が良かったです

2. 準備 (スタンダード)

プロツアー前はラムナプ・レッドを回していましたが、プロツアーを経てラムナプ・レッドがトップメタと認識されたことで、“ラムナプ・レッドの次”となるメタゲーム上最適なデッキを探します。

MOで黒単ゾンビ黒緑エネルギーを皮切りにティムールエネルギー青黒リアニメイト赤黒ミッドレンジ青赤コントロールランプ《王神の贈り物》、果ては白単ライフゲイングリクシス即席まであらゆるデッキを回しました。

ところが、何を使ってもしっくりこず、絶望的なほどに勝てません。

8/12開催のMOPTQ (スタンダード) ではメタゲーム上最適だと感じたティムールエネルギーを使用。しかし結果は0-2dropと惨敗。

ティムールエネルギーは同大会でTop8に4人残るなど、デッキ単位では大勝でした。翌週のグランプリ・デンバー2017 (8/19-20) で決勝を75枚ミラーマッチで争ったブラッド・ネルソン/Brad Nelsonのデッキもティムールエネルギーでした。


ブラッド・ネルソン「ティムールエネルギー」
グランプリ・デンバー2017(優勝)

4 《森》
2 《山》
1 《島》
3 《隠れた茂み》
4 《植物の聖域》
2 《尖塔断の運河》
1 《伐採地の滝》
1 《獲物道》
4 《霊気拠点》

-土地 (22)-

4 《導路の召使い》
4 《牙長獣の仔》
4 《つむじ風の巨匠》
4 《ならず者の精製屋》
1 《不屈の神ロナス》
4 《逆毛ハイドラ》
3 《栄光をもたらすもの》

-クリーチャー (24)-
4 《霊気との調和》
2 《マグマのしぶき》
4 《蓄霊稲妻》
2 《削剥》
2 《領事の旗艦、スカイソブリン》

-呪文 (14)-
4 《否認》
2 《不屈の追跡者》
2 《光輝の炎》
2 《慮外な押収》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
2 《炎呼び、チャンドラ》
1 《削剥》

-サイドボード (15)-
hareruya

メタゲーム上完璧なタイミングで、完璧なデッキを使って全く勝てなかったという事実。これを受け、これまでの”色々なデッキを試す”という方針を変更することにしました。

デッキの乗り換えを繰り返していた頃は、一つのデッキを2リーグ (10マッチ) 回していれば多い方で、早ければ1リーグで切り捨てたこともありました。

“自分はマジックの基礎があるから初見のデッキでもそこそこ回せる”という自惚れがあったのです。しかしそれは単なる勘違いで、端的に言って自分が下手でした。

何を使うにしろ習熟度の低い状態で使っていては勝てないということに遅ればせながら気付き、特定のデッキで”走り込む” (=ひたすら回して習熟度を上げる) 必要性を痛感することとなりました。

これが大体日本選手権3週間前で、“走りこむ”デッキとして白羽の矢を立てたのがラムナプ・レッドです。

熱烈の神ハゾレト

【A】プロツアー前に長く回していたので既にある程度習熟していること

【B】今のトップメタはティムールエネルギーだが、今後3週間の間でおそらく攻略され、メタゲームが一周してラムナプ・レッドに戻ってくるだろうという読み

上記2点がその理由でした。

その後ティムールは4色化するなど進化を続け、白単エルドラージ白緑ランプといった新たなデッキもいくつか台頭してきましたが、「習熟度を上げる」という意識であくまでラムナプ・レッドに固執して3週間回し続けます。

しかし勝率は芳しくなく、特にティムール相手の後手を捲るプランをついぞ発見できず。”メインをなんとか取って、サイド後の後手番は諦めて3本目先手を確実に勝つ”というプランと呼べないような状態のまま時間切れとなりました。

正直に言ってラムナプ・レッドを回し続けている中で何度も違うデッキに乗り換えようと思いましたが、“自分の習熟度が低いだけかもしれない”という言い訳で乗り換えることができませんでした。

使用したリストはこちら。


浦瀬 亮佑「ラムナプ・レッド」
日本選手権2017

15 《山》
4 《ラムナプの遺跡》
4 《陽焼けした砂漠》
1 《屍肉あさりの地》

-土地 (24)-

4 《ボーマットの急使》
4 《村の伝書士》
4 《ファルケンラスの過食者》
4 《地揺すりのケンラ》
3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《アン一門の壊し屋》
4 《熱烈の神ハゾレト》

-クリーチャー (27)-
4 《ショック》
4 《削剥》
1 《焼夷流》

-呪文 (9)-
4 《過酷な指導者》
4 《反逆の先導者、チャンドラ》
3 《ピア・ナラー》
2 《栄光をもたらすもの》
1 《木端+微塵》
1 《焼けつく双陽》

-サイドボード (15)-
hareruya

ラムナプ・レッド

3. 日本選手権2017 本戦

スタンダード

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 1ティムールエネルギー ×〇×

メインを落とし、練習の通りにサイド後に先手で勝って後手で負け。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 2赤黒エルドラージ ××

マナトラブルが激しく、ミスもありました。

最速で2敗してTOP8の目なしに。ただ賞金の目はあるため続けます。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 3ティムールエネルギー (4色) ×〇〇
Round 4ティムールエネルギー 〇×〇

スタンダード2-2でドラフトラウンドへ。

ドラフト

2パック目の初手で《蝗の神》を引く幸運もあり、目論見どおりにかなり強そうな緑多色が完成。十分3-0が狙えそうです。

日本選手権2017ドラフトデッキ
ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 5青赤 ××
Round 6白黒タッチ赤 〇〇
Round 7青赤タッチ《蠍の神》 ××

結果は1-2。青赤に2回負けていて、前週の環境名人戦と合わせて青赤に対して3連敗です。緑多色というデッキは構造上《送還》のようなテンポを取るカードに弱いですが、それがモロに出た形となりました。

送還

4敗となったため日本選手権は終了です。 (宿を取っていたので2日目もやりましたが省略)

4. 反省と教訓

ドラフト

周りと差を付けられる明確な戦略を持って臨むという方針自体は良かったと思いますが、戦略の根拠が”勝っている人が言っているから”にとどまり、内面化できていなかったのが問題でした。自分の頭でしっかり考えていれば、青赤相手に弱いことに気付きそのフォローを考えたより精緻なピックができたはずです。

また、より根本的な問題ですが、私はリミテッドのプレイングがまだまだなようです。上手い人のプレイ、特にプロツアー中継などをしっかり見て学びなおすことを決意しました。

スタンダード

習熟度が低いまま色々なデッキを触っても意味がないというところに気付いたところまでは良かったのですが、そこから逆側に振れ過ぎました。デッキが弱い (勝てない) とわかっているのに使い続けるのは間違っています。

今回はラムナプ・レッドに絞ってから3週間あったわけですが、1週間程度使って手ごたえが得られなかった時点でプランBを考える柔軟性を持つべきでした。

総括として、

【A】自分の習熟度を適切に把握すること

【B】一度決めたことでも途中で変える柔軟性を持つこと

の2点を心に刻んだ大会となりました。

特に限られた時間で準備せざるを得ない状況において、“【A】習熟度の把握”は自分がいまどういう練習をするべきなのかを判断するための必須の能力でしょう。よくプロがメタゲーム上最適なデッキを一度も回すことなく大きな大会に持ち込みそのまま勝つというエピソードを聞きますが、それはプロだからできることです。“走り込み”“メタゲームの洞察”を車の両輪として、自分の実力に応じた適切なバランスを取りたいものです。

意識したからといってできるようになるわけではないのが難しいところですが、全く意識しないよりはマシだと思って今後も気長にやっていきたいと思います。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。需要があるなら今後も (できれば”敗戦”レポートではないモノを) 書き続けていきたいと思います。

浦瀬

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