挑戦者インタビュー: 倉田 由彦 ~深淵から、頂点へ~

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 みなさんは、『ヴィンテージ』というフォーマットに対してどのような印象を持っているだろうか?

 大抵の場合は「マジックプレイヤーの行き着く先」「深淵」と言った表現がされる。

 《Black Lotus》や各種Moxを使用する戦いは、やはり多くのプレイヤーにとっては憧れであり、「いつかパワー9を使いたいな」という夢を持っている人も多いことだろう。

 しかし、その深淵からマジックの世界に踏み入れるものもいる

 倉田 由彦(神奈川)。

 第9期ヴィンテージ神決定戦の挑戦者である彼は、マジックに出会うと同時にパワー9を始めとする強力なカードたちに出会った。大抵の者が終着点とする深き淵から歩み出し、今、神へ挑もうとしている。

 そして彼は、神・森田 侑と浅からぬ因縁を持つ。

 早速、話を伺ってみよう!

マジックとの出会い -タイプ1と呼ばれていた頃-

――「倉田さんは『ヴィンテージからマジックを始めた』とお聞きしたのですが、実際にそうなのですか?」

倉田「ええ、そうですね。正確には、ヴィンテージというフォーマットの前、“タイプ1”と呼ばれていた頃ですね」

――「た、タイプ1……おいくつのときですか?」

倉田「中学一年生の頃ですね。近くの公共施設に足を運んだら、ラウンジでマジックをしている友人たちがいたんです。それくらいの年齢でカードゲームをやると、『手持ちのカードでデッキを組む』ということがほとんどだと思うのですが、当時からシングルカードを購入してデッキを組む、ということを彼らがやっていたんですよ」

――「少し本格的ですね」

倉田「もちろん、お小遣いの範囲内でしたけど、しっかりとレシピをコピーする、という意識を持っていたのは確かですね。そのコミュニティというか仲間の中に、私が今でも交流がある“師匠”にお会いしたんです」

“師匠”との出会い -やりたいことをやる-

倉田「マジックを始めた頃から今でもお世話になっている方で、ものすごいコレクターなんです。当時からグランプリで海外のバイヤーとやり取りをして、国内のカード事情にも明るい方でした。その人にマジックを教わったので、最初からパワー9、デュアルランドが満載のデッキと対戦していましたね

――「まさにいきなり深淵ですね……当時は、ヴィンテージというフォーマットがなかった頃ですよね?」

倉田「そうですね。もちろんタイプ1というものはありましたけど、師匠は『面白いから』という理由で《Black Lotus》を4枚入れてデッキを組んでましたね

――「……4枚制限は辛うじて守っていたんですね」

倉田「そうですね(笑) ただ、勝ちに行くのではなく、やりたいことをやるというデッキを師匠は組んでいたんですよ。『カードを組み合わせると、こんなことができるんだ!』というのを見せてくれる、といった感じですね。当然、私が持っていたデッキでは勝てないのですが、『打ちのめされてつまらない』と思ったことは一度もないですね。毎回違うデッキ、違うコンボを見せてくれたので、それが楽しくて対戦してました」

――「なるほど……本当に”師匠”という言葉がぴったりな存在ですね」

倉田「そうですね。教え、というと少し恥ずかしい気もしますけど、『マジックでやりたいことをやる』というのは、今でも私の目標ではあります」

タイプ1からヴィンテージへ

――「その後も、そのコミュニティでマジックを楽しんでいったのですか?」

倉田「そうですね。私にとってのマジックというのは、彼らと週末に楽しむものでした。そのうち、『ルールを守ってタイプ1を組んでみよう』と思ってやってみたら、これはこれで面白いな、と」

――「なるほど。当時はどのようなデッキを使っていたのですか?」

倉田「黒単のネクロディスクに青をタッチして、《Ancestral Recall》を使うようなデッキを使っていましたね。当時、たまたま《Black Lotus》が安く手に入る機会があって、分割払いで購入したんです。それを師匠とトレードして、《Ancestral Recall》《Time Walk》《Timetwister》を手に入れました。黒単に《Underground Sea》を加えて、タッチしたようなデッキですね。これが中学卒業した頃です」

Ancestral RecallTime WalkTimetwister

――「す、すごい高校生ですね。高校受験もあったと思いますが、マジックとの付き合いは続くのですか?」

倉田「続きますね。社会人プレイヤーに話を聞くと、『マジックから離れている時期があった』とか、『社会人になって復帰』という人も多いようですが、私の場合は今日までずっと続いています。受験のときにしばらく休止することはあっても、離れることはないですね。高校でも続けて、受験が終わって大学生になり、ちょうどその頃『レガシー/ヴィンテージ』というフォーマットが制定されたんです」

――「当然、倉田さんも始める、と」

倉田「そうですね。より一層、のめり込むきっかけでした。フォーマットとして制定されて、ショップでの大会も増えたんです。結果、『レガシー始めてみたんだ』という友人もできて、一緒にショップに通うようになりました」

モダンのカードパワーでは物足りない

――「そこからヴィンテージプレイヤーになるわけですね。その他のフォーマットもプレイされるのですか?」

倉田「イベントに合わせて、という感じですが、プレイはしています。グランプリに合わせて組んだモダンの親和はお気に入りのデッキなので、今でも使うことがあります。ただ、やはりレガシーやヴィンテージに比べると物足りないところがあるんですよね

――「たしかに、レガシーやヴィンテージに慣れていると、モダンのカードパワーが物足りなく感じてしまいそうですね」

倉田「そうなんですよ。モダンだと『使いたいカードを使えない』と思うことが多いんです。禁止だったり旧枠だったり……モダンでもやりたいことあるのですが、そのためのドローやカウンターといったサポートが弱く思えてしまうんです。だからこそ生じる駆け引きのような面白さもありますけどね。どのフォーマットでも、できるかぎり同じデッキを長く使いたいという気持ちがあるので、使い込むことに変わりはありません」

メンターとの別れ。そして……

――「なるほど。ではヴィンテージについてお聞きしたいのですが、お気に入りのデッキは何かありますか?」

倉田「これまでは『メンター』を使い続けていました。最初のヴィンテージ神決定戦でも使用していたのですが、これが2017年4月24日の禁止改訂《ギタクシア派の調査》《噴出》が制限されてしまいまして……」

ギタクシア派の調査僧院の導師噴出

――「レガシーの《師範の占い独楽》禁止は衝撃的でしたが、倉田さんにとっても大きな衝撃があったわけですね」

倉田「ありましたね。それからメンターはコントロール寄りのデッキに変わっていったのですが、これが肌に合わなかったんです。《噴出》でブン回るところが好きだったので、少なくとも私が好きなデッキではなくなったな、と」

――「やりたいことをやる、という目標とは離れてしまったわけですか」

倉田「そうですね。じゃあ他のデッキを、と思って色々と探したんですよ。まず、MUDはヘビーコントロールだった時期に触れて、あまり好きになれなかったので、候補から消えました。オースも魅力的でしたが、あのデッキは回すのが難しいんですよね。そうやって手元のカードを眺めていたら、残っている強いカードが《逆説的な結果》しかなかったんです」

逆説的な結果

――「もうこれしかない! と」

倉田「そうですね。これが入っているデッキを探そう、と。ストームはあるけれど、他に何かないかな? と探しているときに、“あのデッキ”の原型に出会ったんです」

――「挑戦者決定戦で使用したデッキですね」

倉田「はい。それが、テゼレッターです」

テゼレッターの衝撃


倉田 由彦「テゼレッター」
第9期ヴィンテージ神挑戦者決定戦(優勝)

2 《島》
2 《Underground Sea》
2 《Volcanic Island》
4 《沸騰する小湖》
2 《汚染された三角州》
1 《トレイリアのアカデミー》
1 《Library of Alexandria》

-土地 (14)-

1 《瞬唱の魔道士》
2 《粗石の魔道士》
1 《荒廃鋼の巨像》

-クリーチャー (4)-

1 《Ancestral Recall》
1 《Time Walk》
1 《Black Lotus》
1 《Mox Sapphire》
1 《Mox Jet》
1 《Mox Ruby》
1 《Mox Emerald》
1 《Mox Pearl》

-パワー9 (8)-
3 《精神的つまづき》
2 《紅蓮破》
1 《力ずく》
1 《撤廃》
1 《渦まく知識》
1 《思案》
1 《ヨーグモスの意志》
1 《Demonic Tutor》
1 《修繕》
1 《ギタクシア派の調査》
1 《商人の巻物》
1 《吸血の教示者》
4 《逆説的な結果》
4 《意志の力》
1 《Time Vault》
1 《魔力の墓所》
1 《太陽の指輪》
1 《魔力の櫃》
2 《オパールのモックス》
2 《師範の占い独楽》
1 《通電式キー》
1 《仕組まれた爆薬》
1 《求道者テゼレット》

-呪文 (34)-
3 《墓掘りの檻》
2 《鋳塊かじり》
2 《狼狽の嵐》
2 《力ずく》
1 《山》
1 《トーモッドの墓所》
1 《硫黄の精霊》
1 《残響する真実》
1 《精神壊しの罠》
1 《真髄の針》

-サイドボード (15)-
hareruya

荒廃鋼の巨像求道者テゼレット修繕

――「このデッキを初めて見たときの衝撃は覚えてます。『こんなに楽しそうなデッキあるの!?』『ヴィンテージの楽しさが詰まってる!』と思いましたよ」

倉田「私も最初に出会ったときに驚きました。これはすごいデッキだなと思って、すぐに回したんです。魅了された、というべきかもしれません」

――「具体的に、どの辺りに魅了されたのでしょう?」

倉田《逆説的な結果》を強く使える、というところでしょうか。時々見落とされるのですが、《逆説的な結果》はアーティファクトだけでなく、《瞬唱の魔道士》《粗石の魔道士》も戻せます」

瞬唱の魔道士粗石の魔道士

――「なるほど。パワー9を戻したマナ加速のみならず、《瞬唱の魔道士》《逆説的な結果》をフラッシュバックして……といった動きもできるわけですね」

倉田「そうですね。ストームと比較すると、ある程度リカバリーが効く構築になっているのも好感触でした。いずれにせよ、一度《逆説的な結果》が通れば、ほぼ勝てます。《求道者テゼレット》の奥義でも勝てるし、《荒廃鋼の巨像》もある。そして、《Time Vault》《通電式キー》のパッケージも大きいです」

――「《求道者テゼレット》も合わせた、無限ターンエンジンですね」

Time Vault通電式キー

倉田「ええ。《Time Vault》《通電式キー》の組み合わせは本当に好きで、制限された《噴出》《ギタクシア派の調査》の枠に入れて、メンターを回したこともあるくらいなんです。そのときは形にならなかったので、そのリベンジもできるな、と」

――「何から何まで、倉田さんが好きな要素が詰まっているデッキなのですね」

倉田「自分のターンが長いデッキ、好きなんですよ。ストームも好きなのですが、こちらの方が気に入っています」

「波が来てる」

――「少しデッキ相性について教えていただきたいのですが、このテゼレッターが苦手なデッキってあるのですか?」

倉田「ありますね。天敵とも言えるのが、MUDです。噛み合わないと厳しい戦いになりますね」

――「なるほど。MUDを使用しているプレイヤーはかなり多いと思うのですが……」

倉田「そうですね。ただ、その点も含めて、言い過ぎかもしれませんが、“波が来てるな”と思ったんですよ。挑戦者決定戦、トライアルも含めて、MUDと対戦したのは、2回だけだったんです。その内の一回は、挑戦者決定戦の準決勝で対戦したHareruya Prosの高橋 優太さんで、『これは厳しい……』と覚悟したのですが、自分でも驚くくらいのブン回りで完封できたので、『これはひょっとして』と」

――「おお……それは確かに”波が来てる”と思えますね」

倉田「もちろん、ヴィンテージ挑戦者決定戦のメタゲームが少し特殊で、長野のオースプレイヤーが参戦することでMUDが振るい落とされているという事実もあると思いますけどね。決勝で対戦した高橋 研太さんのように、本当に強いスペシャリストが参戦していますから」

第9期ヴィンテージ神挑戦者決定戦: 高橋 研太 vs. 倉田 由彦

――「なるほど。そういった要素もあるわけですね。ちなみに、MUDと対戦したもう1回というのは?」

倉田「これは、”対戦した”と言って良いのか分からないんですよね。トライアルの決勝戦なのですが、私はトスしてもらって、挑戦者決定戦の不戦勝を獲得したんです。時間もあるので『せっかくなのでフリープレイを』ということで対戦したら、見事に負けてしまって……」

 倉田は少し苦笑いをしながら、その相手の名前を告げた。

倉田「それが、ヴィンテージ神・森田 侑さんです」

神との邂逅

――「トライアルの決勝で、まさか神と対面することになるとは……森田さんとはその時が初対戦だったのですか?

倉田「対戦は初めてでしたね。ヴィンテージは大会が限られているので隣に座ったこともありますよ。名前を知ったのは、森田さんが神になったときです」

――「そうなのですね。その神にこれから挑むわけですが、ヴィンテージを長くプレイしている倉田さんから見て、森田さんの強さはどのようなところにあるとお考えですか?」

倉田「端的に言ってしまえば、ヴィンテージのセオリーが”頭に入っている”を通り越して、“身体に染み付いている”んですよね。挑戦者決定戦での解説を聞けば分かるのですが、ヴィンテージのすべてを把握されているんだと思います」

――「たしかに、あの解説は本当に見事ですよね。何もかもが森田さんの言葉どおりになりますから」

倉田「年季という意味では良い勝負かもしれませんが、森田さんの方がやはり一枚上手かもしれません。これからデッキを組むわけですが、考えることは山ほどあります。ただ、一つ森田さんの言葉から、学んだことがあるんですよね」

神の言葉に学ぶ -構えずに、仕掛ける-

倉田「解説で、『ヴィンテージは、下手に構えるくらいなら、仕掛けに行ったほうが良い』と仰っていて、これはプレイ中だけでなく、今の自分にも当てはまるな、と。色々考えすぎて思考が固まってしまうのも嫌ですから」

――「なるほど。倉田さんが師匠から学んだ『やりたいことをやる』、ですね」

倉田「そうですね。今は下手に色々なことを考えて構えるのではなく、せっかく手に入れたチャンスを活かして、仕掛けに行きたいと思います。そして、第8期はどのフォーマットも”神の防衛”で終わりましたから、牙城を崩したいですね」


 倉田の目には、彼が初めてマジックに触れたとき味わい、今も彼が目標とする師匠からの教え……「やりたいことをやる楽しさ」が宿っている。

 彼が今もっともやりたいこと……それは、その頂に神として座すことだ

 マジックの深淵から歩き出した倉田が、今、神の頂へ!

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