By Yuya Hosokawa
「神」と「挑戦者」の一対一の戦い、第9期神決定戦。
スタンダード神決定戦では、長きに渡りその座を守ってきた和田 寛也を新鋭・岡井 俊樹が見事に下し、新たな神として就任した。
5ゲームに渡る激戦はまさに神を決める戦いに相応しく、神決定戦ならではのドラマが生まれた。
そして。
これからまさに始まるフロンティア神決定戦でも、新たなドラマの誕生を期待せずにはいられない。
このドラマの主役となるのは二人。
まずは現フロンティア神。スポンサードを受けているBIG MAGICのシャツに身を包むシルバーレベルプロプレイヤー、その名は松本 友樹。
トーナメントシーンで活躍するプロプレイヤーとしての一面がある一方で、統率者戦などのカジュアルフォーマットを楽しむ松本。フロンティア神決定戦で見事にその二面を融合させたような、強さと遊び心にあふれるデッキを持ち込み、神としてその拳を掲げた。
「好きなカードを使い、マジックを楽しみたい」
この神決定戦への意気込みで、松本はそう答えた。
ここが一対一のフィールドだろうと、神の座がかかった戦いだろうと、松本は意に介さない。マジックをするのならば、それが楽しい場所なのだ。
そんな「楽しむ」フロンティア神に挑む男。
現モダン神にして挑戦者の松田 幸雄である。
前代未聞の神決定戦ダブルヘッダーである松田。今こうして松本に挑むフロンティア神挑戦者でありながら、この後の戦いでは瀬尾をモダン神として出迎える。さらにその瀬尾とは、過去に第3期スタンダード神決定戦で戦ったことがあるなど、トピックに事欠かない男、松田。
そしてこれらが示唆する事実は一つ。松田はあらゆるフォーマットの達人である、ということだ。
スタンダード神挑戦者、モダンでは神として防衛を続け、今回フロンティア神の挑戦者にもなった。松田がなぜあらゆるフォーマットに精通しているのか。
松田「やりたくなるんですよね。マジック楽しいから」
挑戦者もまた、「マジックを楽しむ」男だったのだ。
未開拓の新フォーマットの神決定戦が今、始まる。
マジックを楽しむ二人の男の戦いが。
Game 1
ダイスロールで先手を得た松本が、《吹きさらしの荒野》で《森》をサーチしながら《ニッサの誓い》を置く立ち上がり。松田はとにかく松本のデッキが気になるだろうが、この《ニッサの誓い》が《吹きさらしの荒野》を公開したため、その全貌はつかめない。
相手のデッキが気になるのは松本も同じだが、松田は《血染めのぬかるみ》を静かにセットするのみ。
「デッキ内容を先に明かすのが神の流儀」と言わんばかりに、松本はここから怒涛のアクションを続ける。2ターン目に《密輸人の回転翼機》を唱えると、搭乗人として《ならず者の精製屋》を従え、さらに攻撃後のルーター能力では《守護フェリダー》をディスカードする。これにより、松本のデッキが『サヒーリコンボ』であることが明らかとなった。
この禁止カード2枚の登場にか、サヒーリコンボに対してか、松田は思わず笑顔を見せる。
一方、松田もセットした《霊気拠点》、そして続けてプレイした《導路の召使い》で、自らのデッキを明かす。
松本「《霊気池の驚異》ですか…」
松田「サヒーリコンボですか…」
神と挑戦者の名刺交換は終わった。
《密輸人の回転翼機》の2回目の攻撃には松田が《削剥》で待ったをかけ、お返しと言わんばかりに松本は2体いる《導路の召使い》の内片方を焼き払う。
ここまではお互いにクリーチャーを唱え合い、相手の妨害と似通った動きが続く両者。共通しているのは、二人ともがエネルギーを貯めているということだけだ。
そしてこのエネルギーを有効に活用するのは松田。《つむじ風の巨匠》で戦場にプレッシャーを掛け始める。スタンダードでもおなじみの強力なこのクリーチャーは、エネルギーデッキの貴重なダメージソースだ。
それを見て松本はこちらも盤面に大きなインパクトを与えるカードを唱える。そう、先ほどディスカードした《守護フェリダー》。
まずは戦場に出た時に《ならず者の精製屋》を明滅させる。それだけでも強力な動きだが、この《守護フェリダー》の真の使い道は、もちろん《サヒーリ・ライ》とのコンボだ。
このカードが戦場に残っている限り、松田は常に除去を構え続けなければならない。フルタップになった瞬間、《サヒーリ・ライ》が登場しただけで、何点のライフがあろうとも松田は一瞬でライフが0になってしまう。
もちろんそれを理解している松田は《守護フェリダー》に躊躇なく《蓄霊稲妻》を打ち込み、コンボの成立しないこのタイミングで、《龍王ドロモカ》を召喚する。
巨大な飛行クロックと《つむじ風の巨匠》を前に、松本はうめく。手札にはまだコンボが揃っていない。戦場には《密輸人の回転翼機》が並んでいるが、能力を使用するためには《龍王ドロモカ》に突っ込まなければならない。力なくターンを返す。
そして松田も除去を持っていない。追撃手段もなく、盤面のクリーチャーをレッドゾーンに送り込ませるのみ。後は松本のコンボが揃っていないことを祈るだけ。
カードを引いた松本は――静かに《守護フェリダー》を戦場に置く。そしてその対象は、今タップしたばかりの土地。この後何が出てくるかは、明らかだった。
間もなくして、無数の《守護フェリダー》が戦場を埋め尽くしたのだった。
松本 1-0 松田
Game 2
このゲーム最初の呪文を唱えたのはまたしても松本。《霊気との調和》でエネルギーと基本地形を確保する。
戦場に最初に現れたのは松田の《ならず者の精製屋》。これに対し松本も《ならず者の精製屋》をプレイし、睨みを利かせる。
松田はノータイムで攻撃。戦場に一度出た《ならず者の精製屋》は松田からしてみればただの3/2だが、松本は《守護フェリダー》で明滅することができるため、これはもちろんスルー。
と、ここで松田がプレイしたのは《逆毛ハイドラ》。手札に《サヒーリ・ライ》を控え、なんとかこれを生き残らせたい松本は苦しい表情。
とはいえ4ターン目をただパスするわけにはいかない。見た目上は《逆毛ハイドラ》をブロックして《サヒーリ・ライ》を生き残らせることができるため、意を決してプレイする。
仮にここで《ならず者の精製屋》に《蓄霊稲妻》を使用してくれるのであれば、《守護フェリダー》を除去できる貴重なカードを《ならず者の精製屋》に使わせることができる。もし《サヒーリ・ライ》が生き残ればそれで良いという、どちらに転んでも松本があまり損をしない一手だ。
だが、松田は完璧な対抗策を持っていた。その名は《栄光をもたらすもの》。
ブロッカーの《ならず者の精製屋》が焼き払われ、《逆毛ハイドラ》で《サヒーリ・ライ》を失い、7点ものダメージを受けてしまう。
《つむじ風の巨匠》に助けを求める松本だったが《逆毛ハイドラ》にチャンプブロックすることしかできず。やがてエネルギーは枯渇し、そのまま《逆毛ハイドラ》が松本のライフを0に落とした。
松本 1-1 松田
Game 3
互いに一本ずつを取り合い、ここからサイドボードを使用可能な第3ゲーム。
ゲームの主導権を掴んだのは先手の松本だ。《霊気との調和》から《密輸人の回転翼機》と繋げ、一方で松田は2枚目の土地を置いて静かに松本のアクションに備える。
3ターン目にも《霊気との調和》を唱え、続けて搭乗者として《導路の召使い》を召喚する松本。だが《蓄霊稲妻》で《密輸人の回転翼機》を失うことを嫌い、攻撃はせず。ターン終了時にこの《導路の召使い》には《マグマのしぶき》が撃ち込まれる。
ここでようやく松田は能動的なアクションをする。少考の末に《不屈の追跡者》をキャスト。本来は手がかりを生み出さないまま除去されてしまうのがもったいないため、唱えたターンで土地をセットできるようにしておくのだが、戦場にクロックがないことの方が不安なのだろう。クリーチャーというプレッシャーがないと松本の《サヒーリ・ライ》を生き残らせてしまうからだ。
除去がなければ松田が有利。除去があればイーブン。
そして松本は《不屈の追跡者》を除去――できなかった。
その代わりに、4マナを生み出して1枚のカードを唱える。
《霊気池の驚異》を。
そしてエネルギーをすべて使い、この伝説のアーティファクトを起動。
6枚のカードを見て、その中にあった1枚の――松本のデッキに1枚しか入っていないカードを唱える。
松田を投了に追い込むには、それ以上何もする必要がなかった。
松本 2-1 松田
Game 4
後がなくなった松田。だがそれ以上に、4ターン目の《約束された終末、エムラクール》が衝撃的だったようだ。
それもそのはず。スタンダードで禁止カードに指定されている《密輸人の回転翼機》で手札を循環させてサヒーリコンボを決めてきたかと思えば、今度は《霊気池の驚異》と《約束された終末、エムラクール》のタッグだ。たまったものではないだろう。
そんな松本のデッキに気圧されたのか、松田は《導路の召使い》を先行して唱えることはできたものの、これが《蓄霊稲妻》で焼かれてしまうと、土地がストップ。アクションを起こすことができない。
一方の松本は何もない戦場に悠々と《サヒーリ・ライ》を着地させ、占術を行う。
《サヒーリ・ライ》が生き残ってしまうと、《守護フェリダー》を除去するための2マナを松田は常に残さなければならない。そのため、《サヒーリ・ライ》にプレッシャーをかけるクリーチャーを唱えることができないのだ。土地は引き始めたものの、忠誠値が上がっていくのを見つめるのみ。
焦る必要のない松本は、《密輸人の回転翼機》を唱えて様子をうかがう。ここに松田は《削剥》を打ち込むが、《サヒーリ・ライ》の前に動けない事実は変わらない。《蓄霊稲妻》を構えながらの行動を続ける。
《導路の召使い》を唱えて《蓄霊稲妻》を構える松田に、松本は仕掛ける。《サヒーリ・ライ》のマイナス能力を《ならず者の精製屋》に使用する。ここに除去を打ちたくない松田は仕方なくこれを受け入れる。
松本の後続である《霊気池の驚異》には《軽蔑的な一撃》で対処したものの、この《ならず者の精製屋》とコピーのビートダウンが痛い。《サヒーリ・ライ》に睨まれている間にライフはあっという間に危険水域に9に。
ここで5枚の土地と《導路の召使い》により6マナを自由に使えるようになった松田は、ついに行動を起こす。ブロッカーとして《ならず者の精製屋》をプレイし、松本の攻撃に備える。
が、松本には秘策があった。数多のスタンダード禁止カードを使用していた松本が、ここまで一度も使っていなかった5枚目の禁止カード、《反射魔道士》。
まずブロッカーの《ならず者の精製屋》を排除し、更に《サヒーリ・ライ》でこの《反射魔道士》をコピー。
たまらず松田は《蓄霊稲妻》を《反射魔道士》に打ち込むが、手札から松本は2枚目の《反射魔道士》を唱える。
見えている《サヒーリ・ライ》と《反射魔道士》でブロッカーを並べても排除されてしまう松田。この状況を逆転する術を模索する。
選んだのは《霊気池の驚異》。即座に起動して回答策を探しに行く。この状況を打破できるのは《約束された終末、エムラクール》と《龍王シルムガル》。
めくった6枚で松田は熟考する。そして苦しい顔で公開したのは、《宝船の巡航》だった。強力な1枚だが、この状況を解決するカードではない。
松本の《ならず者の精製屋》を《削剥》で倒すも、これで残りライフは2。そして《密輸人の回転翼機》と《つむじ風の巨匠》が松本の手札から飛び出し、ついにラストターン。
おびただしい数のサイコロが、戦場には置かれている。それは2人のコントロールするエネルギーの数を示すものだ。
松田は《霊気池の驚異》で解決策を探すために、このエネルギーをすべて使い果たす。
新たに見た6枚にも回答は、ない。
そして松本も、エネルギーを使う。
フロンティア神初の防衛のために。
松本 3-1 松田
松田「いや~、《霊気池の驚異》まで入ってるなんて思わなかった。やっぱりあれが予想外でした」
戦いが終わってすぐに松田が漏らした言葉だった。4ターン目に《約束された終末、エムラクール》が現れた3ゲーム目だ。
松本「エネルギーたくさん出るし、入れちゃおうと思って。《約束された終末、エムラクール》がめくれたのはできすぎでしたね」
大当たりを引き当てた松本は、笑顔を見せる。
スタンダードで禁止された5枚のカード。それらをすべて使用して勝利した松本。
「使いたいカードで、好きなカードで楽しむ」
その言葉どおりのデッキを組み、そして見事に今こうして、フロンティア神を防衛した。
おめでとう!フロンティア神、松本 友樹!
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