第9期モダン神決定戦: 松田 幸雄(東京) vs. 瀬尾 健太(埼玉)

晴れる屋

By Hiroshi Okubo

 神決定戦。

 神と挑戦者が壮絶な読み合いと化かし合いを繰り広げ、互いを打ち倒すためだけにその得物(デッキ)を研ぎ澄まし、激しい戦いを繰り広げるエキシビションマッチ。

 それは神決定戦の定義。便宜上の要件。メタ的な認識。

 この日――9月17日()に開催された“それ”は、延べ8回目の“モダン神決定戦”となる。

 ここで行われるのは、いつもの方式で開催される8回目のイベント。第5期の頃から使われている会場に、いつものスタッフが集まって、いつもの動画配信といつものライブカバレージの準備が進められていく。

 さて、8回目の開催ともなれば、当事者はともかく周囲は否が応でもそのイベントに慣れていく。”神の座を懸けた熱い戦い”。その刺激に。その熱量に。それはそういうものなのだと、その変化や感動さえも、事象そのものを一つの単位として、その普遍性はシナプスに刻み込まれていく。

 しかし、だからこそ。今度の神決定戦は新たな景色が見られるのではないか。

 そんな期待を抱かずにはいられなかった。

 神決定戦というある種のルーティン。その中で、際立って異質な巡り合わせ。

 席に着く神と挑戦者。2人は自分たちへとフォーカスが絞られたカメラへと向き直り、互いに差し出した手を握り返す。

松田「久しぶりの握手か……」

瀬尾「たしかにw懐かしい」

第3期スタンダード神決定戦

第3期スタンダード神・瀬尾 健太 vs. 松田幸雄

第9期モダン神決定戦

第9期モダン神・松田幸雄 vs. 瀬尾 健太

 モダン神・松田 幸雄挑戦者・瀬尾 健太

 第3期スタンダード神決定戦、かの戦いから約2年半。互いの立場は入れ替わり、フォーマットも当時とは異なっているが、再びこの舞台へと再びたどり着いた2人は、歳月を超えてこの神決定戦の場で固く握手を交わす。

 あのとき挑戦者だった松田が神の座に。

 あのとき神だった瀬尾が挑戦者の座に。

 運命の悪戯か、稀有な巡り合わせによって戦う松田と瀬尾。神決定戦史上初の“過去に戦った2名が再び神の座を懸けて戦う”という事態は、いつもの(・・・・)神決定戦では見られなかったものだ。

 かつてスタンダード神だった瀬尾は松田を下して神の座を守ったが、今度は松田が瀬尾を待ち受ける番だ。世にも珍しい2年半越しのリベンジマッチ、2人を待ち受ける結末は――?

Game 1

 先攻の瀬尾は《怒り狂う山峡》《黒割れの崖》とプレイし《漁る軟泥》を戦場に送り込む。

怒り狂う山峡黒割れの崖漁る軟泥

 瀬尾のデッキ選択は「ジャンド」。モダン環境随一のカードパワーを武器に戦う強靭なフェアデッキだ。手札破壊からスタートできなかった点は惜しかったが、返す松田もゲーム開始から惜しみなく動き出したため、そのデッキ選択は間もなく明らかとなった。

 松田は1ターン目に《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》をセットランド。これを見た瀬尾からは「ヴァラかー」とため息が漏れる。

溶鉄の尖峰、ヴァラクート

 松田の選んだデッキは「タイタンシフト」。今回瀬尾が選択したジャンドデッキにとっては御しづらい相手だ。瀬尾も当然、瞬時に自身の置かれた状況を理解する。ならば最善の選択を――冷静沈着に、かつ迅速に自身を敗北から遠ざけるベく動き出す。

 松田が第2ターンに《大祖始の遺産》をプレイするのみでターンを終えるというやや悠長な動きを見せている隙に、瀬尾は3ターン目に《大爆発の魔道士》! 即座にその能力を起動し、松田の《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》を破壊する。

大爆発の魔道士

 いつも即断即決でスピーディにゲームをする松田も、メインから《大爆発の魔道士》を見せられては一瞬手が止まる。露骨なまでの土地対策カード――すなわちそれが意味するのは松田が土地コンボを選択する可能性を見据えたカード選択である。どうやら楽には勝たせてもらえないらしい。

松田 幸雄

松田 幸雄

 とはいえ、もちろんこれだけで一筋縄に負けてしまう松田ではない。まずはセット《森》から《遥か見》を唱え、土地を回復する。《大爆発の魔道士》による土地破壊もあくまで1対1交換であり、大勢に影響はない。

 松田がまっすぐに《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》の噴火を目指すとなると、瀬尾の採るべきゲームプランは定まった。松田が土地を並べきる前に素早くビートダウン、である。《漁る軟泥》でクロックを刻み続け、《コラガンの命令》でさらにダメージを加速させながら、《粉砕》のモードで松田の《大祖始の遺産》を戦場から排除。

コラガンの命令タルモゴイフ

 無論松田もこれに対応して《大祖始の遺産》を起動するが、ようやく気兼ねなく墓地をリソースとして活用できる体勢を整えた瀬尾は《タルモゴイフ》《渋面の溶岩使い》を戦線に送り込み、早期決着を狙う。

 しかし、ようやく瀬尾が攻め手を盤面に揃えたころには松田も十分に土地が並んでいた。6枚の土地が寝かせられ、盤面に叩きつけられたのは《原始のタイタン》

原始のタイタン

 これによって《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》《山》がサーチされ、瀬尾の盤面が吹き飛ぶ。返す瀬尾はこの盤面を切り返す手段を持たず、ターンを終えることしかできない。

 松田が《原始のタイタン》に攻撃の指令を下すと、《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》の噴火を止められる者は誰もいなかった。

松田 1-0 瀬尾

瀬尾「なんで《ヴェールのリリアナ》引かないかなー。引いてれば勝ってた……」

 第1ゲームを終え、悔しそうに声を漏らす瀬尾。たしかにこのゲームで瀬尾は《ヴェールのリリアナ》をはじめとした“圧をかけられるカード”を引けておらず、序盤から中盤にかけて《漁る軟泥》による2点クロックでしか松田を攻撃できずにいた。

ヴェールのリリアナ

松田《ヴェールのリリアナ》はたしかに厳しい。引かれてたら《原始のタイタン》出せなかっただろうし」

 そんな第1ゲームを冷静に振り返る松田。デッキそのものの相性もあってこのゲームは松田が勝利することができていたが、《大祖始の遺産》を処理した後の瀬尾の展開力は見事なもので、もしあと1ターン《原始のタイタン》のプレイが遅れていたら松田のライフが先に尽きていたはずだった。

大爆発の魔道士コラガンの命令

 特に瀬尾のメインボードから搭載されていた《大爆発の魔道士》は松田にとって綾となりえる懸念材料である。サイドボード後にはさらなる土地対策が搭載されるであろうことも容易に想像がつくため、メインボードで拾えるだけ勝利を拾いたいところだろう。

 最大で五番勝負まで長引き得る神決定戦の開幕戦を終えて第1ゲームの所感を交換したところで、両者とも十分に肩が温まったといった様子だった。全ては最高の試合をするために、2人はシャッフルを終え、第2ゲームへと臨む。

Game 2

 先攻の瀬尾が1マリガン後の初手から第1ターンに《コジレックの審問》を打ち込み、明かされた松田の手札を見て瀬尾が思わず呻き声を上げる幕開けとなった。その内約たるや……

山山森吹きさらしの荒野遥か見遥か見召喚士の契約

 というもの。少なくとも5マナまではほぼ確定で伸びそうな松田のハンドから、瀬尾は1枚の《遥か見》を捨てさせた。

遥か見

 対する松田は第1ターン、第2ターンと土地を並べて《遥か見》。予定通り戦場に土地を並べ立て、瀬尾に無言のプレッシャーを与えていく。

 だが、瀬尾も負けじと《闇の腹心》を叩きつける! 松田の手札に除去がないことはすでに確認済みであり、戦場にはブロッカーになるクリーチャーもいない。

闇の腹心

 つまりその奸謀も攻撃も止めることができない。思わず松田も「この《腹心》は強すぎるな……」と漏らすほど、絶好のタイミングで戦場に降り立ったこの《闇の腹心》。これが、この後のゲームを大いに狂わせることとなる。

 瀬尾が最初にめくったのは《コラガンの命令》。続くターンには《大渦の脈動》。そして3ターン目には《漁る軟泥》

コラガンの命令大渦の脈動漁る軟泥

 よりによってこのマッチアップでほとんど(少なくとも単体では)意味をなさないカード群を手札に加えながら、8点ものライフを失う瀬尾。これまで土地からのライフロスも合わせて瀬尾のライフはすでに9まで落ち込んでいる。なおかつ松田の動きを阻害したりそのライフを大きく削るようなドローにはたどり着けていない――。

瀬尾 健太

瀬尾 健太(埼玉)

 すなわち、この間にもコツコツと土地を伸ばし続けていた松田は無事に《原始のタイタン》へとたどり着く。

 《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》2枚をサーチし、すでに戦場に出ていた3枚目の《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》とフェッチランドを合わせて、瀬尾のライフを一手で9点削り去った。

溶鉄の尖峰、ヴァラクート溶鉄の尖峰、ヴァラクート溶鉄の尖峰、ヴァラクート

松田 2-0 瀬尾

瀬尾「こいつ(《闇の腹心》)は俺の友達じゃないみたい」

松田「たしかに食らい過ぎてたね。災難……」

 絵にかいたような“ボブ死”に思わず松田も同情の声を寄せる。1度でも土地が捲れていればプレイ次第であと1ターン伸ばすことができていたのだが、現実は無常である。

 とはいえ、ここまではもともと不利だったメインボードのゲームが2回終わっただけに過ぎない。瀬尾のサイドボードには伝家の宝刀である《血染めの月》も採用されており、土地コンボへの対策も十分だ。

瀬尾「やはり俺が親和を使うべきだったか。松田さん親和かランタン使ってくると思ってたから外したな……」

松田「サイド後キツイからね、親和。ランタンもわりとアリだったけど読まれてるだろうしね」

瀬尾「しかし松田さんのデッキはトロンじゃなくてタイタンシフトだったか……ここまでボッコボコにされてるしキツイわw」

 不運に見舞われた瀬尾もすぐに気を取り直して、サイドボードの最中にはお互いのデッキ選択の”答え合わせ”を行っていた。聞けば2人は過去の第3期スタンダード神決定戦で戦って以来親しくしており、トーナメント会場で顔を合わせれば構築やプレイについて語り合う仲だという。

 神決定戦が結び付けた友情。だがそれは、この場では因縁でもある。入念にサイドボードを行い、デッキをシャッフルするころには、2人の表情は旧交を温める友人同士から一転して勝負師の顔つきへと変貌していた。

 注目の第3ゲーム、勝利をつかむのは果たして――!?

Game 3

 先攻の瀬尾のファーストアクションは第2ターン目の《闇の腹心》。先のゲームでは瀬尾に牙を剥いたが、さすがに今度は”良い腹心”となるか?

闇の腹心

 対する松田はタップインを処理しながら、第2ターンに《大祖始の遺産》をプレイ。瀬尾のデッキにはそれなりの数の墓地利用カードが含まれる上、瀬尾がサイドインした《外科的摘出》への解答にもなる1枚。こちらも悪くない立ち上がりだ。

 だが、今回の瀬尾を倒すには“悪くない立ち上がり”以上のパフォーマンスが求められるようだった。第3ターンに瀬尾のもとに現れたのは《ヴェールのリリアナ》! 颯爽と「+1」能力で松田の手札を減らしていく。

ヴェールのリリアナ

 松田にとっては非常に苦しい展開だ。《ヴェールのリリアナ》に対して何らアクションを起こすことができず、続く瀬尾の《集団的蛮行》によってライフと手札を攻められながら戦場には《漁る軟泥》も追加される。

 返す松田はまだ身動きを取ることができず、やむなしに《大祖始の遺産》をドローへと変換する。しかし、これによってようやく墓地を利用できるようになった瀬尾は手札の《タルモゴイフ》2枚を立て続けにプレイし、自身の手札がなくなったところで再び《ヴェールのリリアナ》の「+1」能力を起動。

 リソースを奪われ続けた松田はやっとの思いで《原始のタイタン》にたどり着くが、今回の瀬尾のライフは致死圏外。やむなしに《闇の腹心》《漁る軟泥》を処理するが、それでもなお瀬尾の盤面には忠誠度6となった《ヴェールのリリアナ》と3/4の《タルモゴイフ》が2枚残されている。

タルモゴイフタルモゴイフ

 万事休す。瀬尾の《ヴェールのリリアナ》《原始のタイタン》を除去し、《タルモゴイフ》たちが松田に襲い掛かると、残された2点のライフを《集団的蛮行》が奪っていった。

松田 2-1 瀬尾

 ここまで不運に見舞われてきた瀬尾だったが、もう後がないというところまできてジャンドの真骨頂である“消耗戦に持ち込んでパワーカードで磨り潰す”豪快なプレイを見せつけた。

 松田はすぐに切り替えて素早くサイドボーディングを行う。それを受け、瀬尾もサイドボードに手を伸ばす。

 ここまでの疲労や緊張、そしてマッチが終了に近づくにつれて徐々に増していくプレッシャーからか、2人はこれまでのように明るく言葉を交わすことはなかった。

 代わりに対戦席を満たしていたのは静寂と研ぎ澄まされた集中力、そして一刻も早く次のゲームを始めたいという2人の熱い闘争だった。次に松田が勝ってマッチが終わるか、あるいは瀬尾が勝ってこのマッチのさらに続きが見られるのか。それはまだ誰にもわからない。

 だが、確かに。

 第9期モダン神決定戦。その終焉のときは少しずつ近づいてきていた。

    瀬尾 健太のサイドボード

    サイドイン

  • 変更なし
  • サイドアウト

  • 変更なし

Game 4

 先攻の松田が《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》を設置してターンを終えたのに対し、瀬尾は《思考囲い》で1ターン目から果敢に動き出す。明かされた松田の手札は……

風景の変容ムウォンヴーリーの酸苔ウッド・エルフ桜族の長老樹木茂る山麓山

瀬尾「つっよ……」

 嘆息交じりに《桜族の長老》を指定し、続くターンも《コジレックの審問》《ウッド・エルフ》を抜いていく瀬尾。初動を抑えることには成功しているが、ここから先が鬼門だ。

 松田は第4ターン目に《ムウォンヴーリーの酸苔》で瀬尾の土地を攻め始める。すでに見えていた脅威とはいえ、これによって松田はさらに土地が伸び、2マナで土地が止まってしまっていた瀬尾は緑マナの供給源を失うこととなる。

ムウォンヴーリーの酸苔

 瀬尾にできることはもう多くはない。再びの《思考囲い》で松田の手札を覗き込み、そこにあった《風景の変容》と2枚目の《ムウォンヴーリーの酸苔》の二択からやむなく《風景の変容》を抜く。次のターンには土地を失うことになるが、とりあえず敗北は免れる……。

 そう思われたが、松田が次のターンにプレイしたのは《ムウォンヴーリーの酸苔》ではなかった。トップデッキから捲れた《召喚士の契約》をノータイムでプレイした松田はそのままライブラリーから探し出した《原始のタイタン》を叩きつけ、一気に松田が王手をかける。

召喚士の契約原始のタイタン

 万事休すか――これが最後のターンになるかもしれない。思わず、カードを引く手に力がこもる。

血染めのぬかるみ

 引いたのは値千金の土地。これによって2マナを得た瀬尾は手札から《終止》

 これによってなんとか望みをつないだ瀬尾。ライフもマナも差をつけられ、圧倒的不利な形勢に変わりはないが、《原始のタイタン》さえ除去すればまだ瀬尾にも可能性はわずかに残される。返す松田のターン、アップキープに契約コストを支払い、ドローを行う松田の姿を祈るように見つめる……

松田あっ引いた。24点、プレイヤーで

風景の変容

松田 3-1 瀬尾

松田 幸雄

 不思議な因果で結びついた2人の戦いは、冗談のようにあっけなく幕を閉じた。

瀬尾「ダメだ、デッキ選択で負けてたww」

松田「俺も(瀬尾が)ジャンドで来るとは思ってなかったけどね」

 かつて神だった者は、いつしかその座を追われた。

 やがて彼は挑戦者として生まれ変わり、かつて自身へと挑んできた者――神となった旧友と、その座を懸けて争った。

 まるで寓話のようなスケールの話にも思えるが、実際にそこにいたのは松田 幸雄というマジックマニアと、瀬尾 健太というトーナメントプレイヤーただ2人だけで、勝負を終えた彼らは神でも挑戦者でもない、親しい友人同士でしかなかった。

 たとえば盆も正月も、あくまで地球の自転の1周期に過ぎなくて。

 日々はとりたてて退屈でも、かといって特別でもない。

 日は昇りも沈みもせず、太陽はただ太陽系の中心にあって、我々は見かけ上移動している地表からそれを観測しているに過ぎない。それらの事象に意味を付け加えるのは、いつだって我々自身なのだ。

 松田と瀬尾。かつて神決定戦を争った2人が再び刃を交えた稀有な戦いも、一義的には2人のプレイヤーがモダンというフォーマットでマジックをプレイしていたにすぎない。その勝敗に懸かっている称号も栄誉も、あくまで形而下的なものでしかない。

 そして松田は、あくまで高次的にマジックそのものをプレイしている。彼にとってのイシューは、「マジックをプレイすること」「そして勝つこと」なのである。神決定戦であれフリープレイであれ、競技フォーマットであれフロンティアであれ、彼がプレイするそれらは紛れもなくマジックそのものなのだ。

 第9期モダン神・松田 幸雄を支える強さは、その確固たる軸にあるのだろう。

第9期モダン神・松田 幸雄

 第9期モダン神決定戦、松田 幸雄が防衛達成!!

 おめでとう!!!

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