世界選手権の終わりに vol.3 -勝者と敗者を越える言葉-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 世界選手権2017は、ウィリアム・ジェンセンの優勝で幕を閉じた。

 初日を全勝で終え、その後も勝利を積み重ね、2日間のスイスラウンド全14回戦で喫した敗北は、わずか2回

 圧倒的な強さを見せつけて世界王者に輝いた彼に、改めて拍手を送ろう。

 今更述べるまでもないかもしれないが、彼の”圧倒的な強さ”を証明する事象が、この世界選手権では起きていた。それを目の当たりにした一人の証人として、ここに記しておこう。

ウィリアム・ジェンセンの”完全なる勝利”

 ジェンセンは、とにかく勝ち続けた。

 ドラフトは2回とも全勝。スタンダードもティムール・エネルギーを手に勝利を重ね、ラウンド12を終えた次点での成績は12-0と、まさに向かうところ敵なしであった。

 「このまま全勝で駆け抜けるのか?」と世界中が注目する中、彼はラウンド13で今大会初の敗北を味わう。そして、続く最終ラウンドでも敗れ、結果、最終成績を12-2とした。

 全勝こそならなかったものの、2位のジョシュ・アター=レイトン9点も引き離した、圧倒的な強さを見せつけての1位通過である。

 ここまでは、ありふれた光景なのかもしれない。「全勝は難しい。連戦による疲労もあって、2敗したのだろう」と片付けるのは簡単だ。

 しかし、世界選手権2017の物語は、それでは終わらなかった

 ジェンセンに黒星をつけた2人。それは、ケルヴィン・チュウと、ハビエル・ドミンゲス……そう、ジェンセンが、決勝ラウンドで倒した2人なのだ

 この世界選手権2017で、たしかに彼は無敗ではなかった。しかし、どのプレイヤーにも勝利を収めている。スイスラウンドでの敗北をきっちりと返し、優勝を果たしたのである

 これが、世界王者誕生にまつわる物語である。

2. ハビエル・ドミンゲス -トロフィーと笑顔と祝福と-

 勝利したウィリアム・ジェンセンは、仲間、そして家族と共に喜びを分かち合い、世界中にその言葉を伝えた。生放送をご覧になっていたみなさんも、その暖かい言葉を耳にしたことだろう。

 勝者の言葉は、常に大きく報じられる。それは、あらゆる勝負事が用いる当然の見せ方だ。しかし、勝者の言葉と共に、敗者の言葉が熱いことも、また事実だ。あまり、表舞台には現れないが。

 決勝でジェンセンと戦い、惜しくも敗れてしまったHareruya Prosのハビエル・ドミンゲスは、準優勝のトロフィーを手にして、私のところにやってきた。その表情は疲労と後悔に塗れ、最初の言葉は「まだ頭に血が上っているよ」という熱のこもった一言であった。

ハビエル「悔しいね。最後は、俺のミスプレイだった。他にもたくさんミスがある。いや、ジェンセンは強かったよ。彼こそ、世界最強にふさわしい。あと少し、あと少しだったんだ。ああ、本当に……」

 冷静さを取り戻そうとするかのように、一つ一つ言葉を紡いでいく。その言葉に耳を傾けながら、私は掛ける言葉を失っていた。すると彼は、そんな私に気付き、笑顔を見せてくれた。そして、

ハビエル「しかし、いつまでも悔やんだって仕方がない! あと少しというところまで来たんだ。何より、たくさんの人が応援してくれたことが嬉しいんだ。マルシオ・カルバリョ、クリスティアン・カルカノ、ケルヴィン・チュウ……そして、君もね!」

 と言って、トロフィーを掲げてくれた。

ハビエル「さあ、予定より少し小さいものになってしまったが、今シーズン初めてのトロフィーだ! かっこよく撮ってくれよ!」

 彼とは、数日前に初めて顔を合わせた。インタビューを申し込んだときには、「待ってたよ! さあ、なんでも聞いてくれ」と優しい笑顔を見せ、私が投げかけた拙い言葉での質問を丁寧に返してくれた。

 本来ならば、私は彼を励ます立場だ。それなのに言葉に詰まってしまった私を見て、彼は笑顔を向けてくれた。初めて会ったときと同じ、優しい笑顔を。胸にこみ上げる熱いものと、震える手を押さえ込みながら、私はシャッターを切った。

 おめでとう、ハビエル・ドミンゲス!


 世界選手権では、いくつもの感動的な出来事が巻き起こった。そして、勝者がいれば、敗者もいる。これは勝負の常である。

 しかし、勝敗はその一部、一要素でしかない。本当の感動とは、勝敗を越えたところにある。私はそう信じている。

 そう、決勝の舞台を戦った彼らが、互いの健闘を称え合う……そんな瞬間に

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