By 富田 翼
オリジナルデッキで結果を残し続ける――これこそがデッキビルダーの夢といっても過言ではない。そしてそれを実行し続けるのがこの男、ジョー・ソー/Joe Soh。グランプリ・神戸2017でオリジナルの白黒エルドラージを駆り、見事に優勝を収めた姿は皆の記憶に新しいことだろう。
そんな彼だが、今回のミシックチャンピオンシップでも新たなデッキを持ち込み、構築ラウンド7-3、総合成績9位と素晴らしい結果を残してくれた。このデッキはどのように生まれたのだろうか?デッキが誕生するまでの経緯を伺うと、彼は快くインタビューに応じてくれた。
激戦の2日目
――「2日目の成績はどうだった?」
ジョー「ドラフトで2-1、構築で3-2だね。ドラフトではマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoに、スタンではリード・デューク/Reid Dukeとジュリアン・ベルトー/Julien Berteaux(どちらも青単)に負けたよ」
――「それは災難だったね」
ジョー「みんなとても強かった。考えてみたら、僕に勝った人はみんなトップ8に進出したね」
(※初日では構築ラウンドで井川 良彦に敗れている)
マルドゥ吸血鬼誕生秘話
1 《沼》
4 《神無き祭殿》
4 《聖なる鋳造所》
2 《血の墓所》
4 《孤立した礼拝堂》
4 《手付かずの領土》
-土地(21)- 4 《薄暮まといの空渡り》
4 《空渡りの野心家》
4 《敵意ある征服者》
4 《薄暮軍団の盲信者》
4 《軍団の副官》
4 《災いの歌姫、ジュディス》
2 《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》
4 《敬慕されるロクソドン》
-クリーチャー(30)-
――「非常に特徴的なデッキを使っていたよね。2人しか使用者がいなくて、残り1人も君の友人だって聞いたけど」
ジョー「そうだね」
――「どういった経緯でこんな構築を思いついたの?『このデッキで決まりだ!』って思える何かがあったのかい?」
ジョー「《災いの歌姫、ジュディス》みたいな非常に攻撃的なカードが好きなんだ。『ラヴニカの献身』の全カードが公開されてから、このカード中心のデッキをたくさん試したよ。最初はラクドスアグロを、次にジャンドアグロを組んでみたけどどっちもダメだった。しばらくの間色々と試してみたけど、上手くいかなかったね」
ジョー「ある日、ネットサーフィンしていたらとあるデッキを見つけたんだ。白ウィニーに《災いの歌姫、ジュディス》をタッチしていて、そこから今回のデッキの発想が浮かんできた。『白にはいいクリーチャーがたくさんいるじゃないか……マルドゥは行けるんじゃないか?』ってね。それからカードを探しに探して、前のWMCのチームメイトからアイデアを得たりもして、何とかこのデッキが出来上がったんだ」
――「このデッキを構築するのに、どのくらい時間がかかったの?」
ジョー「大体1週間かな」
――「1週間!じゃあ今週中ずっと考えてたわけだ」
ジョー「そうだね。まる1週間リサーチを繰り返して、そのあとデッキを仮組みして調整を始めたんだ」
もう1枚の主役
――「キーカードは《災いの歌姫、ジュディス》だよね」
ジョー「うん。《災いの歌姫、ジュディス》は確かにキーカードだけど、実はもう1枚あるんだ」
――「それは一体?」
ジョー「《薄暮軍団の盲信者》だね。カードを1枚引ける吸血鬼なんだけど……」
――「ドローできるカードを必要としてたってこと?」
ジョー「その通り。最初は《アダントの先兵》を入れた吸血鬼デッキを使っていたけど、このデッキにはなにか足りないものがあると感じたんだ。《アダントの先兵》は単体でも強力なカードだけど、このデッキは多くのクリーチャーとロードを並べてシナジーを生み出すことに重きをおいている。そこでなにかないかとカードリストを眺めていたら、《薄暮軍団の盲信者》が目に留まったんだ。クリーチャーを展開しつつロードクリーチャーを探しにいけるこのカードは、とても理にかなっていると思ったんだ。調整仲間は『ジョー、本気でこんなカードを使うのか?』なんて笑ってたけど、このカードを唱えた試合では負ける気がしなかったね」
ジョー「アゾリウスやボロスといった白ウィニーは、大体の場合《ベナリアの軍司令》や《敬慕されるロクソドン》を引きたいものなんだ。《薄暮軍団の盲信者》のおかげでこっちの方が引ける枚数が多く、その分相手のクリーチャーより一回り大きく出来るって寸法だね」
ミシックチャンピオンシップ本戦雑感とそれを受けての変更点
――「今大会ではいい成績を残せたわけだけど、なにか仮想敵にしていたデッキってあるかい?」
ジョー「絶対に勝ちたかった相手は、シミックネクサスだね。このデッキは白ウィニーよりもクロックが高いんだ。調整段階の《運命のきずな》デッキは《残骸の漂着》が入っていたから、『4ターン目までに勝つか、そうでなければそのまま負けるか』というマッチアップだったんけど、新しい《運命のきずな》デッキ(シミックネクサス)は《残骸の漂着》を入れていなかったから、最も相性のいい相手だと思っていたよ」
ジョー「ミシックチャンピオンシップでの最終戦、相手はシミックネクサスだったけれど、すぐに押し切ることができたよ。1ターン目に1マナのクリーチャーを唱えて、次のターンにはもう2枚、3ターン目には《軍団の副官》とさらに追加のクリーチャーを唱えて……次のターンにはもうリーサル(致死量)のダメージだったね」
――「プロツアーのスタンダードラウンドを経て、事前の準備やデッキの手ごたえはどうだった?」
ジョー「メタゲームはうまく読めてたんじゃないかな。上3つはスゥルタイ、青単、《運命のきずな》デッキになると思っていたからね。実際に当たったのはほとんどこの3つだったし、うまくいったと思う。青単に負けた2回は後手だったのもあるしね」
――「今大会を終えて、デッキに調整を加えたいところはある?」
ジョー「ミシックチャンピオンシップ前は、スゥルタイやグランプリを優勝したビッグレッドを意識していて、後者に採用されている《再燃するフェニックス》への除去を増やしたんだけど、今大会を経て青単、白単が多くなるはずだ。これらのデッキには《議事会の裁き》よりも《喪心》の方が効果的だから、《議事会の裁き》を1枚減らして《喪心》を増量しようと思っているよ」
ミシックチャンピオンシップに向けた練習方法
――「ドラフトも好成績だったね。今回、ドラフトはどう練習してた?MTGアリーナやMagic Online、それとも友人と?」
ジョー「基本的にMagic Onlineだね。MTGアリーナにはまだ慣れてなかったし。あとは近くの店でドラフトをしたり、みんなと議論をしたり……って感じかな。」
――「MTGアリーナについてはどう思う?」
ジョー「Magic Onlineとどっちが流行ってるか次第かな。いずれMTGアリーナがメインになるかもしれないけど、Magic Onlineの方が慣れてるし今のところしばらくはプレイするつもりだよ。特に次のミシックチャンピオンシップのフォーマットはモダンだから、練習はMagic Onlineがメインになるだろうね」
――「他にはどんな風に練習してきたんだい?」
ジョー「基本的には地元のカードショップだね。『Cards & Hobbies』と『Attilan Games』っていうんだ。後は地元のチームメイト(ショーン・クー/Shawn Khoo、ニッキー・ウー/Nicky Woo)と調整をしたり、以前のグランプリ・香港チャンピオン(チェ・ヤンシャン/Chye Yian Hsiang)と議論を交わしたりしていたよ。」
――「なるほど。カードショップでのメタゲームはどんな感じだった?」
ジョー「カードショップだと自分の持ってるカードでデッキを組んで、勝つよりは楽しむことを目的にやってる人が多いね。だいぶメタゲームは変わってくる。前環境のゴルガリをベースにしたスゥルタイが多くて、新しいプレイヤーが入手しやすいようなギルドのデッキがいたりするね。あとは赤単とかかな?ミシックチャンピオンシップとはちょっと違うね。」
最後に
――「最後の質問になるけど、日本のファンたちになにか言いたいことはあるかい?」
ジョー「ちょっと考えさせてね……。日本のファンのみんなに言いたいことか。僕は日本が大好きだけど、仕事が忙しくて去年は日本のグランプリに行けなかったんだ。もう一度日本に行って、日本のプレイヤーに会い、イベントに参加して、そしておいしいラーメンを食べることを本当に楽しみにしてるよ!」
――「ラーメンが好きなんだね」
ジョー「大ファンさ。どこでも食べるよ」
――「この近くにもラーメン屋があるって聞いたけど……」
ジョー「全然日本の味には及ばないよ(笑)」
――「そうかもね(笑)。貴重な時間をありがとう」
固定観念に囚われないカード選択、そして仲間との幾度もの調整がこのデッキを生み出したのだろう。
新たに《災いの歌姫、ジュディス》という強力な味方を手に入れ蘇った吸血鬼デッキ。以前組んでいたという方も、今度はこのデッキを試してみてはいかがだろうか?