決勝: 髙橋 順 vs. 木原 惇希

晴れる屋

By Atsushi Ito

 神決定戦は、いよいよ第10期に突入。

 厳しい挑戦者決定戦を勝ち抜いた挑戦者だけが相まみえることができる「神」の座を巡って、これまで何度も名勝負が繰り広げられてきた。

 だが神決定戦の見どころは、「神」と「挑戦者」の戦いだけに限られない。

 神への挑戦権を獲得するための、挑戦者決定戦の決勝戦。挑戦権を得るために、プレイヤーが乗り越えなければならない最後の関門。そこでもまた、有名無名を問わず数多のプレイヤーたちの縁が交錯し、いくつもの物語が生まれてきたのだ。

 そして今日、この第10期フロンティア神挑戦者決定戦でも。ここまで勝ち上がってきた2人のプレイヤーの運命が交錯することとなった。

 2日前に公開されたHareruyaCOMBATにも出演していた、晴れる屋トーナメントセンター店長・髙橋 順『アモンケット』環境名人戦でも245名の参加者からトップ8に勝ち残っていたのは記憶に新しく、「マジック面接」を機に仙台から上京してきただけあって、「ゲームが強いやつは仕事もできる」を身をもって実証している。

 対するはHareruya Hopes木原 惇希初代スタンダード神の座に戴冠してから3年、レガシー・リミテッドとフォーマットを跨いだ2度のグランプリ準優勝を経て、もはや日本のマジック界で知らぬ者はいないほどの実力者へと成長した。3週間後にはプロツアー『イクサラン』への参加も控え、今シーズンの活躍も楽しみなプレイヤーだ。

 だが「お待たせしてすみません」と、準決勝で宇都宮との熱戦に時間がかかり、決勝の相手である髙橋を待たせたことを詫びる言葉とともにフィーチャーエリアに姿を現した木原が、席に着くなり不安な気持ちを漏らす。

木原「スイスで負けてるんだよなぁ……めっちゃぶん回られたしw」

 どうやらジンクスの面でスイスラウンドでの敗戦を気にしている様子。しかも木原は純然たる除去コントロールであるダークジェスカイを駆ってここまで9マッチ、準々決勝の髙谷との対戦もロングゲームだったこともあって疲労の色も濃く、「やはりジェンセンが板かー」とプロツアー『破滅の刻』の記事で言及されていたフィジカルコントロールの重要性を再認識したようである。

髙橋「後手なんだよなぁ……」

 対する赤単アグロの髙橋は、待ち時間で気勢を削がれた感は否めないもののそこまでの疲労は感じられず、むしろスイスラウンドでの木原との対戦におけるぶん回りと同等のアクションを、はたしてこの決勝という舞台で再び同じようにできるのだろうかという点に不安を感じているようだ。

 やり直しがきかない、大きなものがかかった決勝戦だけに、両者ともに不安の種は尽きない。しかし「もし負けたら」と思う気持ちこそ、2人がこの勝負に心底勝ちたいことの証左とも言える。

 どちらにも物語が、この勝負に懸ける思いがある。

 フロンティア神・松本 友樹への挑戦権を獲得するべく。

 髙橋と木原の、互いを凌駕するための戦いが始まった。

Game 1

 先手2ターン目に木原が送り出した《ヴリンの神童、ジェイス》を髙橋が即《乱撃斬》で除去する立ち上がり。さらに《ドラゴンの餌》でファーストクロックを形成するが、続く木原の《魂火の大導師》を乗り越える術を持たず、やむなく《軍族童の突発》でゴブリン・トークン5体を横に並べ、除去を引き込むのを待つ構えを見せる。

 だが、返す木原はまるで《魂火の大導師》を差し出すような不自然なアタックを敢行。そして髙橋が5体すべてでブロックしたところで、あまりに無慈悲なカードを解き放つ。

 すなわち、《魂火の大導師》を巻き込みながらの《コジレックの帰還》一挙12点ゲイン!!

魂火の大導師コジレックの帰還

 さらに《立身》《魂火の大導師》を釣り上げ、盤面の優位を手放さない。

 髙橋もなおも《僧院の速槍》からの《軍族童の突発》で再展開するのだが、2/3果敢で殴った後の木原のライフを見て、「あぁー、30点は遠い……」と思わず声を漏らす。

髙橋 順

 しかもそこから木原は《魂火の大導師》の能力を起動して悠々と《焦熱の衝動》を疑似「バイバック」。リソースを使うことなく《僧院の速槍》とゴブリン・トークンを片端から処理していく。既にリソースの尽きた髙橋はそれをただ眺めていることしかできない。

 2体目の《魂火の大導師》を追加されたところで《反逆の先導者、チャンドラ》を引き込み、「-3」でそのうちの1体を除去するのだが、焼け石に水。返しの《魂火の大導師》のアタックで忠誠度を削りきられたところで絆魂を反映して木原が呟いたライフは既に30どころではなく「46」と、もはや全く違うゲームの数字を見ているかのよう。

 やがて木原も《時を越えた探索》こそ引かないものの、さらに3体目の《魂火の大導師》を追加。「除去くれー」と呻く髙橋を尻目に、そのまま再利用可能な《焦熱の衝動》を構えての2/2絆魂2体のビートで、髙橋のライフを削りきったのだった。

髙橋 0-1 木原

 3年前、スタンダード神決定戦の決勝戦でも、木原は自らのライフを遥かな高みへと押し上げていた。あのときも木原は、八十岡のバーンを相手に、《スフィンクスの啓示》からの《ニクス毛の雄羊》《ヴィズコーパの血男爵》という圧倒的なライフゲイン量で勝利を確かなものとし、神の座へと昇っていった。

 スタンダード神決定戦での「エスパーコントロール」。グランプリ・千葉2016での「青白奇跡」。グランプリ・京都2017、『アモンケット』ドラフトの青黒もそうだ。木原のデッキ選択、環境に合わせて自ら組み上げる「キハラワークス」は、青いコントロールであることが多い。

 対戦相手の目論見を適宜妨害することで、ギリギリまでライフを差し出しながらも、「ゲームに敗北する」という最後の一線だけは決して越えさせない。そうしたプレイスタイルが自分に合っていることを、木原はわかっているのだ。

 そしてだからこそ、そうした青いコントロールが弱点にしがちな「ライフ」というリソースには人一倍敏感になる。

 ましてトップメタの一角を赤系アグロを占めるフロンティア環境において、木原が備えを怠るはずもない。3年前と同じように、だが3年前よりもさらに確かな手応えをもって、木原は頂点に手をかける。

Game 2

 《僧院の速槍》を走らせた髙橋に、木原が挨拶代わりの《強迫》を浴びせる。

山乱撃斬削剥かき立てる炎前哨地の包囲

 「難しい」と一言呟くも、明らかなサイドカードであり着地すれば根本的に対処が難しい《前哨地の包囲》を落としておく。

 返す髙橋は引き込んだ2体目の《僧院の速槍》を追加するのだが、これに対して木原は《致命的な一押し》《焦熱の衝動》と冷静に除去を当て、さらに力強く送り出された《暴れ回るフェロキドン》すらも、エンド前のフェッチ起動で「紛争」達成からの《致命的な一押し》で難なく排除。髙橋のクロックの定着を一切許さない。

 そして木原は逆に自らがクロックとして、絆魂を持つ《才気ある霊基体》を追加すると、土地を引き込めない髙橋を尻目にエンド前、6枚追放の「探査」でわずか2マナの《時を越えた探索》をプレイ!さらに《魂火の大導師》を追加してターンを終える。

時を越えた探索

 だが髙橋も《魂火の大導師》《乱撃斬》で処理すると、返すターンに4枚目の土地を引きこみ、《前哨地の包囲》を「カン」で設置。1ゲーム目とは異なり、リソースを穴埋めする算段を立てることに成功する。

 これに対し木原は《コラガンの命令》で髙橋の手札から《かき立てる炎》を捨てさせつつ《ヴリンの神童、ジェイス》を出し、ターンを返せば変身するぞと回答を迫る。髙橋のターン、《前哨地の包囲》で追放されたのは間が悪く《龍語りのサルカン》。髙橋は仕方なく手札から《反逆の先導者、チャンドラ》をプレイ、「-3」能力で《ヴリンの神童、ジェイス》を除去して事なきを得る。

 ……が、ここで「キハラワークス」の真髄が炸裂。《立身》《ヴリンの神童、ジェイス》を釣り上げた木原は、《出世》で速攻を与え、即起動して《束縛なきテレパス、ジェイス》へと変身。さらに《乱脈な気孔》をセットしてターンを返す。

木原 惇希

 髙橋は《屍肉あさりの地》で墓地をすべて掃除して呪文の再利用を許さないが、その間に木原は《才気ある霊基体》《乱脈な気孔》のアタックでライフを攻めたてつつ、《ヴリンの神童、ジェイス》を追加する。《暴れ回るフェロキドン》《僧院の速槍》で場を止めにかかる髙橋だが、《束縛なきテレパス、ジェイス》の「+1」によって戦闘能力は雀の涙ほどしかない。

 それでもマナをフルオープンでターンを返した木原に対し、《前哨地の包囲》《ケラル砦の修道院長》を追放した髙橋は、さらにプレイした《ケラル砦の修道院長》の能力で《ケラル砦の修道院長》を追放、《暴れ回るフェロキドン》で自らダメージを受けつつもブロッカーを確保し、どうにか耐える構えを見せる。

 だがエンド前に《ヴリンの神童、ジェイス》のルーティング能力を起動した木原は、《致命的な一押し》をディスカードしてから《奔流の機械巨人》《致命的な一押し》を墓地からプレイ。《ケラル砦の修道院長》を除去しつつ髙橋にとっての致命的なアタッカーを確保すると、そのまま《才気ある霊基体》《乱脈な気孔》とともにレッドゾーンへと送り出す。

 どうにかチャンプブロックで急場をしのいだ髙橋だったが、《前哨地の包囲》の解決と通常ドロー、そのすべてが土地であることを確認すると、右手を差し出したのだった。

髙橋 0-2 木原

木原「やはりキハラワークスが板」

 木原は自らの勝利をそう締めくくった。

 グランプリ準優勝、プロツアーへの出場、海外GPへの遠征……この3年間で様々な経験を得て、木原は確実に強くなった。

 そしてその自負があるからこそ、繊細なデッキ構築が求められるコントロールデッキすらも、「キハラワークス」という自分の名を冠したデッキとして、しっかりと1から作り上げることができるのだろう。

 だからきっと、今度こそ。第2期神決定戦で失った「神」の座を、3年ぶりに取り戻してくれるに違いない。

 第10期フロンティア神挑戦者決定戦、優勝は木原 惇希!

 おめでとう!

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