Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/03/05)
はじめに
記念すべき第1回ミシックチャンピオンシップが先日開催され、記憶に残るものになったのは間違いありません。トップ8は素晴らしい選手ばかりでしたし、デッキも多様性を見せたのです(青単テンポが3つ、エスパーコントロール・アゾリウスアグロ・イゼットフェニックス・赤単タッチ緑・シミックネクサスがそれぞれひとつずつ)。最終的に栄冠を勝ち取ったのは青単テンポを使ったオータム・バーチェット/Autumn Burchettでした。青単テンポはミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019が近づくにつれて人気を博していったデッキで、私自身も現地に到着する前はこのデッキを使おうと心に決めていました。
MTGアリーナで十分に調整を重ね、ミシックチャンピオンシップの2週間前にダラスで開催されたStar City Games Openでトップ16に入賞しました。しかし、最後の最後になって私はデッキを変え、意外にもトップ8に入賞しなかったデッキ、スゥルタイミッドレンジでデッキ登録したのです。このデッキは『ラヴニカの献身』が発売して最初に手に取ったものだったため、多かれ少なかれプレイの仕方はわかっていました。
どうしてデッキを青単から変えたのかというと、青単ではサイドボード後にスゥルタイミッドレンジに負けることが多かったからです。スゥルタイは一番人気のデッキであろうと考えていたため、青単対策を施したスゥルタイと何度も対戦するハメになりたくなかったのです。また、一般的にスゥルタイはサイドボード前よりも、サイドボード後に真価を発揮するデッキですから、このデッキ変更には大きな自信を感じていました。最終的な結果は8-2であり、私を含む大半のチームメイトが使用したデッキリストは以下のものになります。
4 《繁殖池》
4 《草むした墓》
4 《湿った墓》
4 《森林の墓地》
2 《水没した地下墓地》
1 《内陸の湾港》
1 《愚蒙の記念像》
-土地 (24)- 4 《ラノワールのエルフ》
4 《ハイドロイド混成体》
4 《マーフォークの枝渡り》
4 《野茂み歩き》
1 《培養ドルイド》
4 《翡翠光のレインジャー》
3 《人質取り》
1 《殺戮の暴君》
-クリーチャー (25)-
私はかなりペアリングに恵まれていました。内訳を見てみますと、白単アグロが2回、青単テンポ、ティムール《荒野の再生》、ギルド門ネクサス、スゥルタイミッドレンジ、エスパーコントロール、エスパーミッドレンジ、アゾリウスアグロ、ラクドスミッドレンジがそれぞれ1回ずつであり、負けたのはティムール《荒野の再生》とアゾリウスアグロでした。ティムール《荒野の再生》はかなり相性が悪く、《パルン、ニヴ=ミゼット》や《発展+発破》にすぐにやられてしまいました。
アゾリウスアグロを使っていたクリバラ シュウタとの試合は接戦でした。3本目は実にスリリングで、私はトリプルマリガンをしてしまうものの、2ターン目に《野茂み歩き》、3ターン目に《翡翠光のレインジャー》と動くことで、勝敗がまだわからない状況に持っていくことができたのです。結果的には、相手のライフを1まで落とすことができましたが、彼は盤面をこう着させ、数ターン後にはマッチをものにしました。最終的に負けてはしまいましたが、大会を通じて最高に楽しいマッチだったのは間違いありません!
今回の記事では、今後みなさんが戦うことになるであろうマッチアップを見ていこうと思います。そのなかでいくつかのアドバイスや小技、そしてサイドボーディングについても紹介していきます。と、その前に、サイドボードと各々のカード選択理由について触れておきましょう。
サイドボードのカード選択
《強迫》4枚
スタンダードで黒を使うデッキであれば、必須のカードです。サイドインする相手も多岐に渡りますし、1マナという軽さはあまりにも大きな意味を持つため、4枚目の《強迫》の代わりに《思考消去》を1枚入れようとは思いません。
《クロールの銛撃ち》3枚
青単テンポがますます結果を出してきているため、緑の多くのデッキがサイドボードに採用するようになってきています。主な役割は青単テンポやイゼットドレイクの対策ですが、コントロールや《荒野の再生》デッキに対してアグレッシブに立ち回る手段としても役立ちます。
《暗殺者の戦利品》2枚
強力なカードではあるのですが、ミラーマッチにおいては相手に余計なマナを与えたくありません。しかし、直線的なデッキやコントロールに対しては、土地を与えても気にならないため、サイドインするマッチアップは多いのです。《荒野の再生》デッキには土地を与えたくないのですが、あまりにも対処しなければならない脅威が多いため、サイドインせざるを得ません。
《軽蔑的な一撃》2枚
この枠に《否認》を入れている、あるいは《軽蔑的な一撃》と1枚ずつ散らしているリストもあるようですが、《軽蔑的な一撃》はスゥルタイミッドレンジにとって厄介なクリーチャーの多くに対応できます。たとえば、《再燃するフェニックス》、《人質取り》、《ハイドロイド混成体》、《生体性軟泥》ですね。それでいて、《荒野の再生》、《運命のきずな》、《実験の狂乱》といった、クリーチャー以外の不安の種となる呪文も対処することができます。
《否認》のひとつの利点としては、ミラーマッチにおいてゲームを決定づける《採取》を打ち消せることです。ですが、そこまでして必要なのであれば、《強迫》でもその目的は果たせます。
ミシックチャンピオンシップで起きた面白い出来事がありました。ギルド門デッキを使っていた相手は《発展+発破》をドローし、私は2マナしか使えない状況でした。そこで相手は私が持っていると予測した《否認》を《発展》でコピーできる保険をかけた上で《荒野の再生》を唱えてきました。しかし、私が持っていたのは《軽蔑的な一撃》だったので、それをコピーしたところで《軽蔑的な一撃》を打ち消すことができない状況になったのです。それこそが私の勝因になりました。
《喪心》1枚
あらゆるクリーチャーデッキに対して有効であり、ミラーマッチにおいても重要性が高い1枚です。
《ヴラスカの侮辱》1枚
主に《再燃するフェニックス》対策ですが、アグロデッキに対してもほとんどサイドインしますし、ミラーマッチでも使います。
《煤の儀式》1枚
このカードをサイドボードに採用することにしたのは、単体でゲームの流れを引き戻す、あるいは勝ちを確定させるカードが欲しかったからです。《採取+最終》は青単テンポに対しては遅すぎることが多く、《大嵐のジン》が2体出てしまうと間に合いません。しかし、《煤の儀式》はその状況から脱出できる唯一のカードであり、《潜水》や《セイレーンの嵐鎮め》といった防御手段もかいくぐることが可能です。
白単には《不屈の護衛》や《アダントの先兵》のような破壊耐性を持つクリーチャーがいますが、それでも《煤の儀式》で除去できるクリーチャーは数多くいます。ですから、《煤の儀式》で対処できないクリーチャーには単体除去を頼りにするといいでしょう。
《殺戮の暴君》1枚
メインデッキにも1枚採用していますが、サイドボードに採用したのも同様の理由で、ミラーマッチ・その他ミッドレンジ・エスパーコントロール・赤単・青単とのゲームにおけるフィニッシャーとして採用しています。《殺戮の暴君》は対処するのが非常に困難であり、このカードがなければミラーマッチで苦戦を強いられてしまいます。
《正気泥棒》0枚
《正気泥棒》は手堅いカードであり、スゥルタイやエスパーで複数枚採用されていることも多いですが、私たちはサイドボードに入れないことにしました。採用するのであれば、唯一《クロールの銛撃ち》が抜く候補になりますが、青単との相性を大幅に悪化させてしまいます。個人的には、今のところ《正気泥棒》の枠はないと考えていますが、メタゲームが動き、単色の直線的なデッキからエスパーやスゥルタイの環境になっていけば、考えが変わってくるかもしれません。
さて、これでサイドボードの解説は終わりましたので、各マッチアップを見ていきましょう!
サイドボードガイド
シミックネクサス
最悪の相性ですが、プレイするのはとても簡単です。相手の《荒野の再生》と《水没遺跡、アズカンタ》による「ロック」がかかる前に相手を倒せるかどうかにかかっていますからね。ですから、いち早く盤面を構築し、相手がコンボを成立させる前に相手のライフにプレッシャーをかけていきましょう。この戦略はティムール《荒野の再生》に対しても使えるものです。あのデッキも同じような戦い方をしてきますからね。サイドボード後は《生体性軟泥》に気をつけましょう!
対 シミックネクサス
青単テンポ
お察しだと思いますが、青単との相性もよくありません。ですが、サイドボード後は大きく改善されます。主に焦点となるのは、《執着的探訪》がエンチャントされたクリーチャーを守る展開にさせないことです。そのため、《野茂み歩き》でダメージレースをするのはあまり有効ではありません。いずれカードアドバンテージでやられてしまいますし、《マーフォークのペテン師》や打ち消し呪文が採用されているため、比較的容易に《野茂み歩き》をさばけるのです。
《ヴラスカの侮辱》や《ビビアン・リード》も除去として機能しますが、マナコストが重すぎますし、《潜水》や《呪文貫き》で回避されてしまった場合にはあまりにもテンポが悪く、負けにつながってしまいます。《採取+最終》も同様のことが言えますが、《クロールの銛撃ち》を再利用するためにサイドボード後も1枚は残すようにしています。
対 青単テンポ
白単アグロ/アゾリウスアグロ
相性はほぼ互角ですが、若干スゥルタイが有利かなと思います。対戦していくなかで気づきましたが、このマッチアップでもっとも負けにつながるカードは《敬慕されるロクソドン》でした。一旦出されてしまうと、折よく《採取+最終》を唱えない限り押し込まれてしまうことが多いのです。最初の数ターン盤面をこう着させ、《ハイドロイド混成体》を連鎖し始めることができれば、間もなく勝利を手にすることができます。
サイドボード後に、相手は《トカートリの儀仗兵》を投入してくるので速度は若干落ちますが、絶対に除去しなければならないカードです。というのも、《人質取り》や《野茂み歩き》といった、相手の動きに歯止めをかける主な手段の一部を封じてくるからです。
対 白単アグロ/アゾリウスアグロ
赤単
赤単との相性も拮抗しています。ゲームの勝敗は、《実験の狂乱》にかかっていることがほとんどです。1本目はエンチャントを破壊できる手段が《ビビアン・リード》しかいないので、スゥルタイがやや不利です。ですが、サイドボード後は、《強迫》などの解答を増加させることができるため、《実験の狂乱》を抑制できます。
ミシックチャンピオンシップでジェレミー・デザーニ/Jeremy Dezaniとオスカー・ガルシア/Oscar Garciaの印象的な対戦を目にしました。オスカーは赤単だったのですが、サイドボード後に後手を選択したのです。それに呼応するかのように、3ゲーム目はデザーニが後手をとっていました。果たしてこの選択が正しいのかどうか、その判断がつくだけの経験がありませんが、赤単と対戦する際には心にとどめておくべきものでしょう。
対 赤単
イゼットフェニックス
大会中に1度も対戦しませんでしたが、そこまで難しいマッチアップだと思いません。《ゴブリンの電術師》は、加速度的に展開を早め、放置すれば巻き返すことも難しくなるので、すぐに除去する必要があります。そのため、《人質取り》を積極的に使うようにしています。イゼットフェニックスがタイミングよく《溶岩コイル》か《標の稲妻》を引いていない限り対処できませんからね。サイドボード後はプランをさらに強化し、《強迫》や追加の除去でドレイクたちを抑え込みます。
対 イゼットフェニックス
エスパーコントロール
1本目は、《野茂み歩き》や《人質取り》といったエスパーコントロールに対して弱いカードが多いため、厳しい展開を強いられます。基本的には、クリーチャーを次々に展開し、できるだけ早く勝つように心がけましょう。もちろん、過度に展開してしまうと《ケイヤの怒り》で大きな損失を受けるリスクがありますが、相手が持っていなかった場合に、その隙をついていきたいのです。
盤面に脅威を展開しつつ、《ケイヤの怒り》で大きな痛手を負うことがないプレイとして、《人質取り》で自分自身のクリーチャーを追放するというものがあります。こうしておくことで、相手が全体除去を使った場合に追放しておいたクリーチャーが戦場に戻るため、返しのターンでも引き続き攻勢に出ることができるのです。
通常であれば《喪心》はコントロール相手には役に立たないカードですが、このマッチアップでは重要です。なぜかというと、相手はサイドボード後に《正気泥棒》や《人質取り》を使ってくるからですね。ぜひとも知っておいていただきたいのですが、《人質取り》の能力がスタックにあるときに《喪心》で除去すれば、能力の対象となったクリーチャーは追放されることがないので、実質的に打ち消し呪文のように機能します。ですから、《ハイドロイド混成体》にすべてのマナを注ぎ込む前に、《人質取り》の存在を忘れないようにしましょう。あなたが有利な状況で、《ハイドロイド混成体》を人質に取ることが相手にとって唯一の希望だとすれば、特に注意すべきです。
対 エスパーコントロール
ラクドスミッドレンジ
ラクドスミッドレンジは、ジョディ―・ケイス/Jody Keithが広めたデッキです。彼は、ミシックチャンピオンシップに先駆けて何度か好成績を収めていて、そのなかにはミシックチャンピオンシップの前週に行われたグランプリ・メンフィス2019の優勝も含まれています。
このマッチアップでもっとも手を焼くのは《再燃するフェニックス》ですが、スゥルタイが持つ解答は、ラクドスミッドレンジのあらゆる脅威を対処できるようになっていると思います。《宝物の地図》や《恐怖の劇場》には《ビビアン・リード》、《再燃するフェニックス》には《ヴラスカの侮辱》、必ずしも明確な回答にはならないものの《宝物の地図》や《再燃するフェニックス》には《人質取り》がいます。相手の《人質取り》に対する解答は、《溶岩コイル》ぐらいなので、安心して展開することができます。
全体としてみれば、スゥルタイにとって有利なマッチアップだと言えるでしょう。気をつけるべきは、《凶兆艦隊の向こう見ず》で《採取+最終》を唱えられたり、《炎鎖のアングラス》で《ハイドロイド混成体》を奪われることです。また、《包囲攻撃の司令官》は問題になり得ますが、ゴブリントークンはゲームの大勢に影響がありません。ですから、《包囲攻撃の司令官》のトークン生成能力がスタックにあるときに《喪心》で除去することが、もっとも効果的な対処方法になります。以上のすべての点に気をつけておけば、ラクドスミッドレンジに対して大きく手こずることはないはずです。
対 ラクドスミッドレンジ
スゥルタイミッドレンジ
私が思うに、ミラーマッチはプランを立てるのが明らかにもっとも難しいマッチアップです。ときには運がよく6ターン目にゲームが終わることもありますが、その場合は主に下記2つのパターンになることが多いです。まずは《野茂み歩き》と《翡翠光のレインジャー》をたくさん出し、対処されず、相手を圧倒するパターン。そして2つ目は、早々に《殺戮の暴君》を出し、素早く決着をつけてしまうパターンです。
ですが、大抵の場合、ゲームはかなり長引きます。そうなった場合、往々にして《人質取り》で勝敗が決まります。そういった意味で、《喪心》はミラーマッチにおけるキーカードであり、サイドボード後に相手が《正気泥棒》を投入してくるのであれば、その傾向はより一層強まります。先ほどエスパーコントロールでお話したことと重なる内容ですね。
《人質取り》に関連して覚えておいてもらいたいプレイがひとつあります。相手の《人質取り》を《人質取り》で追放し、その《人質取り》を唱えて今度は自分の《人質取り》を対象に取ります(他によりよい対象がいないと仮定して)。そうすることで、相手は《人質取り》を対処しなければいけないのですが、仮に対処したとしても追放している《人質取り》はこちらのものなので、それが戦場に帰ってきてもう一度能力を誘発させることができるのです。もし対処できなければ、こちらにはのちに必要な際唱えられる《人質取り》が控えていることになります。相手は《喪心》を持っていない限り《ハイドロイド混成体》を唱えるのが非常に難しくなるでしょうね。
チームメイトから重要なことを教えてもらったのですが、それは《ハイドロイド混成体》を唱えない方がいいタイミングがあるということ。もし自分が有利な状況であると考え、かつ《人質取り》への解答がない場合、《ハイドロイド混成体》を唱えない方が正しい可能性があるのです。《ハイドロイド混成体》を奪われてしまえば、相手に逆転の可能性を与えてしまいますからね。
対 スゥルタイミッドレンジ
終わりに
記事の最後に、ミシックチャンピオンシップでスゥルタイを使ってみてどうだったのかを話そうと思います。デッキ選択に関してはとても満足でした。多大なる協力をしてくれたチームメイトにはとても感謝しています。スゥルタイはサイドボード後に有利ではないマッチアップはほとんどないので、これからも最高のデッキ選択になると私は考えています。
ミシックチャンピオンシップが終わり、デッキに調整を加えるか考えてみましたが、サイドボードにある4枚目の《喪心》をメインデッキに移し、《マーフォークの枝渡り》を1枚減らすのもありかなと思います。ですが、今まで試してみた経験からすると、その選択に確信は持てません。もしこの変更を加えるのであれば、サイドボードに4枚目の《クロールの銛撃ち》を採用できます。青単がトップ8に3つも入賞したので、明らかに目下の仮想敵になっていますからね。
今回の記事はいかがだったでしょうか。ぜひみなさんもこのスゥルタイミッドレンジで楽しんでみてくださいね!
それではまた次回お会いしましょう。
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