By Kazuki Watanabe
プロツアーでは、様々な出来事が起きる。
単純な「勝利と敗北」によって齎されるものもあれば、そうでないものもある。
「勝者の影には敗者がある」とは使い古された言葉ではあるが、マジックの大会を眺め、取材をしていると、否が応でも脳裏に過るのだ。
グジェゴジュ・コヴァルスキが3-0で1stドラフトを終えて、その羅針盤を提示してくれた裏で、悔しさを滲ませながら声を掛けてくれたプレイヤーもいる。
ペトル・ソフーレクだ。
1stドラフトを1-2という成績で終えた彼は、自身のデッキを広げながら言葉を紡いでいく。
とは言っても、彼の言葉は少し明るい。「もっとこうすれば……いや、こうだったのかもしれません」と真剣な表情で言葉を積み重ねる姿は、次なる戦いを見据えて成長をしているように思えた。
その場に同席していた者として、彼が紡いだ言葉をお届けしていこう。
■ ある程度の指針を持ち、流れに沿って評価
ペトル「今回は残念ながら1-2という成績で終わってしまいました。悔しいですけど、プレイミスがあったので仕方がありません」
9 《平地》 8 《沼》 -土地 (17)- 3 《女王湾の兵士》 1 《猛竜の相棒》 1 《司教の兵士》 1 《アダントの先兵》 1 《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》 1 《無情な無頼漢》 1 《プテロドンの騎士》 1 《血潮隊の聖騎士》 1 《凶兆艦隊の侵入者》 1 《輝くエアロサウルス》 1 《選定された助祭》 2 《女王の工作員》 -クリーチャー (15)- |
1 《鉤爪の切りつけ》 1 《卑怯な行為》 1 《弱者成敗》 3 《崇高な阻止》 1 《闇の滋養》 1 《薄暮軍団の弩級艦》 -呪文 (8)- |
デッキを並べ終えると、自身のピック、そしてゲームを振り返った。
ペトル「白黒、という組み合わせは好きなんです。今回は初手で《卑怯な行為》を取り、そこから《アダントの先兵》、《崇高な阻止》、そして《選定された助祭》といったカードが手に入ったのですが、全体的に少し重すぎましたね」
《薄暮軍団の弩級艦》と《輝くエアロサウルス》を横に倒し、「もう少し軽いカードにして、アグレッシブにするべきでした」と続けた。そして、《アダントの先兵》と《選定された助祭》を手に取り、こう言った。
ペトル「この2枚は好きなカードです。《選定された助祭》は吸血鬼を扱う上でのベストカードだと思いますし、《アダントの先兵》も良いですね。乱用はできませんが、破壊不能に助けられた場面は想像以上に多いんです」
そこで、「この環境のベストコモンはなんだと思いますか?」と私が投げかけると、彼は答えた。
ペトル「《縄張り持ちの槌頭》でしょうね。この1枚だけ飛び抜けています。ただ、これ以外のカードの評価が非常に難しくて、この環境では、卓によって、そして、自身のピックによって評価が変化するんです。なので、ある程度の指針を持った上で、自分の置かれている状況、流れに沿って評価しなければいけません」
「それが本当に難しいんです。言葉で説明できれば良いんですけど……」と悔しそうに呟いた姿が、目に焼き付いた。そして、自分の思考を整理するように一呼吸置いてから、彼はこの環境におけるドラフトの秘訣を教えてくれた。
ペトル「大切なのは、色、そして部族が空いていると思ったら、飛び込むことだと思います。中途半端なピックを続けるのではなく、『これは空いている』と思ったら勇気を出す。しっかりと読み解くためには環境の理解が必要ですが、まずは恐れずに。そうしていく内に、きっと上手くなれるはず……そう思っています」
前回のプロツアー『破滅の刻』の最終日。豪華なメンバーとドラフトに興じている彼に、短いインタビューを行った。そのとき私が投げかけた「強くなるために必要なことは?」という問に、「練習と思考を止めないこと」を語ってくれた。
あの場面から3ヶ月。今この瞬間も、彼は練習と思考を止めていない。
デッキを片付けながら、ちょっとした雑談に。アメリカでの過ごし方や、母国での出来事といった取り留めのない話をしつつ、プロツアー後の予定について聞いてみた。「いつチェコに戻るの? 月曜日?」と。
すると、23才の若きプロプレイヤーは、
ペトル「すぐには戻らないんですよ。プロツアーが終わったら、友人たちとグランド・キャニオンまで行くんです。そのあとはアメリカでグランプリに出場して、それから帰国します。とっても楽しみなんですよ。ずっと行ってみたくて……」
と目を輝かせながら話してくれた。
プロツアーでは、様々な出来事が起きる。
単純な「勝利と敗北」によって齎されるものもあれば、そうでないものもある。
そして、私は”そうでないもの”を常に追い求めている。勝者と敗者を越えた、人と人との間に起こる何かを。
例えば、実に楽しそうに旅行の予定を話す若き青年の姿を見て、この数日で抱えていた疲労が少しだけ和らぐ……そんな瞬間だ。
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