Deck Tech: 熊谷 陸の「赤黒アグロ」 -絶望の末に見出した算段-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 メタゲームブレークダウン雑感でも述べられているとおり、出場者の50%がエネルギーデッキを選択した。

つむじ風の巨匠霊気との調和スカラベの神

 プロツアー『イクサラン』はティムールを筆頭に、スゥルタイ、4色と様々なエネルギーデッキで埋め尽くされている。これは紛れもない事実である。

 しかし、残りの50%、つまり、エネルギーデッキを使用することを選ばずに、彼らを倒す側に回った者たちがいるのもまた事実だ。

 熊谷 陸は、その一人だ。

 赤単と同じく《熱烈の神ハゾレト》を使用するデッキの一つである赤黒アグロは、エネルギーデッキが蔓延るメタゲームの中で、活躍を見せ始めているデッキだ。熊谷はこのデッキを手に、アルバカーキでの戦いに身を投じている。

 彼が赤黒アグロを選んだ理由……その背景には、ティムールエネルギーによって味わった絶望があった。

■ 19回の悪夢

――「早速、赤黒アグロを選んだ理由について教えていただきたいのですが、どのような経緯で使用することになったのですか?」

熊谷「『イクサラン』発売直後に遡るのですが、前回のプロツアー『破滅の刻』でも使用して、その後も使っていた赤単を調整するところからスタートしました」

――「まずは慣れているところからですね」

熊谷「そうですね。いつもどおりMagic Onlineの競技リーグに5回参加しまして、そして19回、ティムールと当たったんです

――「19回!? リーグ5回ということは全25戦だから、相当な確率ですね。結果はどうだったのですか?」

熊谷「見事に18敗を喫しまして……1850くらいあったレートが1600まで下がりました

漂流者の絶望

――「な、なるほど。赤単を諦めるきっかけですね……」

熊谷「『さすがにこれはダメだな』という結論になりました。ではどうしようか、ということで、まずは“ティムールに勝てる動き”を考えることにしたんです。そこで思いついたのが、《不死の援護者、ヤヘンニ》《熱烈の神ハゾレト》《バントゥ最後の算段》という動きでした」

不死の援護者、ヤヘンニ熱烈の神ハゾレトバントゥ最後の算段

――「盤面を一掃しつつ、大ダメージを与えられる強力な動きですね」

熊谷「こうやって動くと、クリーチャーを並べてくるデッキには負けない、ということで形を練り上げていきました。黒を足すことで《屑鉄場のたかり屋》を使えますし、ローテーションで赤単が失った《ファルケンラスの過食者》の枠を《戦慄の放浪者》で補えます。サイドボードに《強迫》も詰めて、《豪華の王、ゴンティ》も使えるので、これは良いかもしれない、と思いました」

屑鉄場のたかり屋戦慄の放浪者強迫

――「ティムールとの相性は赤単と比べていかがですか?」

熊谷「赤単では『絶望』に近かったものが、『どうにか戦える』というところまでは改善されています。先ほどの動きができれば勝てますからね。ただ、ティムール側が『除去からクリーチャー、そして次のクリーチャーに繋げる』と理想どおりに動かれると厳しいですし、圧勝できるほど改善されているわけではないですね」

■ ティムールを使う、という選択肢

――「一つお聞きしたいのですが、『自分もティムールを使う』という選択肢はあったのですか?」

熊谷「ええ、もちろん選択肢の一つでした。『やはり最適なデッキはティムールだろう』とは常に考えていましたからね。ですが、ティムールが最大勢力であることは多くのプレイヤーの共通認識だと思うので、そうなるとミラーマッチを制する工夫が必要になります。どれだけ工夫を凝らしても、ミラーマッチの勝敗は五分五分、というのが今のところの結論なのですが、それが少し気になったんですよね。あと、『ティムールに有利なデッキを多くのプレイヤーが持ち込む』とも考えたので、使用するのは止めておこう、と」

 「ですが」と続けて、熊谷は悔しさを噛み締めつつ、苦笑いを浮かべながら続けた。

熊谷「これまでの対戦を振り返ってみると、ティムールを持ち込むのが正解だったのだろうな、とも思っているんです。ミラーマッチは五分五分、という前提を受け入れて飛び込むべきで、それが、今回のプロツアーだったんだろうな、と」

■ 旋風になり得るデッキたち

――「今回のプロツアーを語る上で、開催時期の変更は外せない要素だと思うのですが、どのような影響があったとお考えですか?」

熊谷環境の理解は、間違いなく進んでいますよね。例えば、私が使用した赤黒や、アブザントークンのようなデッキは、これまでのスケジュールでプロツアーが開催されていたら、旋風になり得たデッキだったと思います」

――「『こんな動きがあるのか!』と驚かれるデッキですね」

熊谷「今回はそういったデッキの動きもすべて解明されています。結果は、メタゲームブレイクダウンのとおり、事前情報で最有力のデッキが、最大勢力を誇り、勝利を重ねているわけですから」

――「たしかに、目新しいデッキの活躍! というのは少なかった印象ですね」

熊谷「そうですね。ただ、私自身はスケジュール変更の恩恵も少なからず受けているんです。これまでのスケジュールだと、私の場合はドラフトの練習に割ける時間がプロツアーの直前だけだったので時間が少なく、さらにそれよりも前にスタンダードの練習をしなければなりませんでした。ですが、今回はまずドラフトの練習をしっかりやって、それからスタンダードに時間を使うということができました。1stドラフト2-1、2ndドラフトで3-0できたのはそのお陰かもしれません」

■ プロツアーに出場し続ける

――「では最後に、新たなシーズンが始まりましたが、今シーズンの目標を教えていただけますか?」

熊谷プロツアーに出場し続けることが、私にとって最大の目標です。なので、ゴールド・レベルを維持するためにも、目の前にある一つ一つの大会に向けて、しっかりと準備をして挑みたいですね」

――「プロツアーが終わったあとの話になりますが、来週のグランプリ・上海2017にも参加されるのですか?」

熊谷「はい、その予定です。グランプリ・香港2017からの連戦なので少し大変ですが、今のところ体調も崩していないので……帰国したら一息ついて、また練習を始めたいと思います」

――「ありがとうございました。今シーズンも頑張ってください!」


熊谷 陸「赤黒アグロ」
プロツアー『イクサラン』

10 《沼》
3 《山》
2 《泥濘の峡谷》
4 《霊気拠点》
4 《竜髑髏の山頂》

-土地 (23)-

4 《戦慄の放浪者》
4 《ボーマットの急使》
1 《夜市の見張り》
4 《屑鉄場のたかり屋》
4 《光袖会の収集者》
3 《不死の援護者、ヤヘンニ》
4 《熱烈の神ハゾレト》

-クリーチャー (24)-
4 《致命的な一押し》
3 《削剥》
2 《木端+微塵》
2 《バントゥ最後の算段》
2 《霊気圏の収集艇》

-呪文 (13)-
4 《強迫》
3 《暴れ回るフェロキドン》
2 《ピア・ナラー》
2 《ヴラスカの侮辱》
1 《豪華の王、ゴンティ》
1 《チャンドラの敗北》
1 《大災厄》
1 《バントゥ最後の算段》

-サイドボード (15)-
hareruya

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