あと2勝――。
長い長いスイスラウンド9回戦に加え、苛烈な準々決勝を勝ち残った松田と渡邉にはすでにゴールが見え始めていた。ゴールとはすなわち、このトーナメントの頂。280名超の参加者が集まったこの第10期モダン神挑戦者決定戦の覇者となることを意味する。
松田はこれまでに目立った成績は残していないものの、準々決勝で奇怪な「4Cレオヴォルド(?)」操る強豪・篠原 厳を破ってこの準決勝の舞台へと足を踏み入れている。フィーチャーマッチテーブルを取り巻く仲間たちの声援を背に受け、「バーン」を手に戦いへと臨む。
対する渡邉は日頃より秋葉原のマジッカーズ・ハイパーアリーナに出入りしつつ、今回共にトップ8へ進出した景山 広樹と「リビングエンド」のプレイや構築について活発に意見を交換し合い、その腕を磨いているという。もちろん今日手にしている得物もまた、研ぎ澄まされた愛刀「リビングエンド」である。
両者相見え、試合前の握手を交わす。いよいよ第10期モダン神挑戦者決定戦、準決勝の幕が開けた――。
Game 1
松田「3ターン目に(《死せる生》を)やられたら負けだけどw」
そう漏らしながら、《ゴブリンの先達》、《僧院の速槍》、《僧院の速槍》とクリーチャーを並べ立てて凄まじいスピードで渡邉に迫る。
そんな「バーン」デッキの鮮やかな、そして殺意に満ちた荒々しい猛攻撃を渡邉はどこ吹く風とばかりに受け入れ、ライフメモに自身のライフを刻んでいく。17、13、土地をショックインして11……その余裕はつまり、すでに渡邉には“詰み”が見えていたからに他ならない。
最初の松田の発言。それは現実のものとなる。松田のターン終了の宣言を聞き届けると渡邉は颯爽とサイクリングを繰り返し、《悪魔の戦慄》から《死せる生》を叩きつける!
瞬く間に形勢が逆転し、渡邉の前に《砂漠セロドン》、《遺棄地の恐怖》、《通りの悪霊》といった面子が立ち並ぶと、松田は力なく笑いながらライブラリートップを確認して第2ゲームへと移行するのだった。
松田 0-1 渡邉
Game 2
先攻の松田が第1ゲームと同様《ゴブリンの先達》でクロックを刻み始め、その能力によって渡邉がライブラリートップを公開する。公開されたのは土地。続くターンの《ゴブリンの先達》の攻撃(これも土地が公開される)にも耐え、計2枚の土地を手札に加えた渡邉はセットランドをしながら第1ターンに「サイクリング」するのみで能動的な動きを見せずにターンを終了する。
……さて。少し脱線するが、ここで《ゴブリンの先達》がモダンはおろかレガシーのバーンでも採用されるほどの“強力なカード”と呼ばれる所以について解説したい。このゲームはすぐに終わることになるので、ちょっとくらい与太話を挟む余裕はあるのだ。
まず1マナ2/2速攻という、《怒り狂うゴブリン》が可哀相になってくる凄まじいスペックの高さ。そしてその攻撃時の誘発型能力である。本来はデメリット能力としてデザインされたであろうそれは、ライブラリートップを”公開させる”ため、初見の対戦相手のデッキを知ることができるのである。
且つ先攻1ターン目に攻撃してきた《ゴブリンの先達》の能力によって土地を手札に加えたプレイヤーは、マリガンをしていない限りセットランドのみでターンを終えると手札が8枚残ることになる。つまり、対戦相手が1マナ以下の呪文をキープしていなかった場合、ディスカードステップにカードを1枚失うこととなり――事実上カードアドバンテージを失うことなくライフだけを霧散させることができるわけだ。
さて、勘のいい方はすでにお気づきかもしれないが、渡邉のデッキは「リビングエンド」である。かつ渡邉は2回土地を手札に加えており、2回のディスカードステップを迎えている。それが意味することとは……
渡邉「ゴブリンがディスカードを運んでくれたw」
そう。無料でディスカードステップに《イフニルの魔神》と《砂漠セロドン》を捨て、「サイクリング」によってさらにもう1枚の《砂漠セロドン》を墓地に置いている渡邉は、すでに勝利への布石を敷き終えていたのだ。松田が会心の《安らかなる眠り》を唱えるのに対応して、渡邉は《猿人の指導霊》を絡めた3マナから《暴力的な突発》!!
当然のごとく捲れる《死せる生》と、その解決によって突如戦場に舞い降りた17点クロック。あろうことか、松田の《ゴブリンの先達》は渡邉の勝利への道先案内人となってしまったようだ。
松田 0-2 渡邉