『霊気紛争』ドラフトの感覚 -八十岡と高橋が、まず挑戦したもの-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 「『霊気紛争』のドラフトとは?」

 その疑問に対する答え……言わば「環境の結論」を出すために、プロプレイヤーは試行錯誤を積み重ね、晴れるーむ合宿でドラフトを繰り広げている。現段階で結論を出すのは、やはり早すぎだろう。





合宿の風景

 「リミテッドは言語化しにくい」と言われる。それは、リミテッドの技術の大半が「経験則から来るもの」であることが大きい。何度も何度もドラフトを重ねることで自然と身についていくものが重要であるため、言語化しようとすると、膨大な時間と文章が必要なのだ。

 しかし、その過程ならば。感覚としてぼんやりと把握されているものを言葉にしてもらうことは、結論が定まった後にすべてを言語化するよりも、わずかながら容易であるはずだ。

 『霊気紛争』環境で何度かドラフトを経験し、意見を交換したプロプレイヤーたちのドラフト感覚。今回は、

高橋「コントロール寄りのデッキを組みたいのですが、上手く行かないですね」

八十岡「コントロールを組みたいのは一緒だね。上手く行かないのも、まったく一緒」



 と、「この環境初期、まずはどうするべきか?」という疑問に対する共通の答え……“コントロールへの挑戦”を選択し、“上手く行かない”という感想を吐露した2人のプラチナ・レベル・プロに話を伺った。



■ 高橋「セオリーのようなもの」


 まず気になるのは、「なぜ、コントロールを組みたいと思ったのか」ということだ。その理由について、高橋は答えた。

高橋「コントロールを組みたい理由は、”『霊気紛争』はドラフトだと弱い”からです。コモン・クリーチャーのサイズも軒並み小さくて、少し力不足なんですよね」

 この見解は、どうやらトッププレイヤーの共通認識のようだ。【まつがんが解説したとおり】である。




高橋「クリーチャーを中心に”カードが弱い”という場合は、“呪文を駆使してアドバンテージを稼いで勝つ”というプランが効果的、とまずは考えるんですよね。これはセオリーのようなものです」

 そう述べながら、高橋はこれまでの対戦結果を記すホワイトボードをじっくりと見つめて続けた。

高橋「ですが、これまでの成績を見るとビートダウンできる組み合わせの方が良さそうですね。赤が強めなので、赤緑……コントロール寄りの構成は難しい、というのが現状です。もちろん、まだまだ分かりませんけどね」

 クリーチャーが弱めの環境であるとは言え、限られた戦力を活かしてシンプルにビートダウンする戦略が、合宿の序盤で良い結果を残している。とはいえ、高橋の見解も「まだ結論を出すのは早い」というもののようだ。


 たしかに、リミテッドで主力となるコモン・クリーチャーのサイズは軒並みサイズが小さく、力不足を感じる。しかし、忘れてはならないのが、これが“環境全体の特徴”であること。対戦相手の使用するクリーチャーも力が不足しているわけだ。「殴り切られないならば、コントロールの出番!」とセオリーに従う展開になりそうなのだが、そう簡単には行かないのが、この環境の特徴らしい。



■ 八十岡「1枚でゲームを決められるカードが存在しない」


 『霊気紛争』のリミテッドでコントロールが難しい理由を、”コントロール・マスタ―”八十岡が語ってくれた。

八十岡「その理由も“カードが弱いから”、だね」

 「カードが弱い環境ならば、コントロールの出番」なのに、「カードが弱い環境だから、コントロールの出番がない」。

 一見矛盾しているようだが、この言葉こそ、八十岡がこれまでの対戦で得た『霊気紛争』ドラフトの所感なのだろう。これまでのドラフトを振り返り、その理由を解説してくれた。




八十岡「簡単に言えば、“コントロールで使うカードも弱い”ということだよ。まず、リミテッドのコントロールには、クリーチャーが入らないわけじゃない。序盤を支えてくれる“壁”と、ゲームを決めてくれる“フィニッシャー”は絶対に必要なんだ。そして、『霊気紛争』にはそれらが欠けている。だからコントロール寄りのデッキは難しくなっているんだよね」

 たしかに、リミテッドのコントロールは構築で見られるような「クリーチャーが《奔流の機械巨人》4枚のみ」といった振り切った構成ではない。コントロールにも必要なクリーチャーが存在し、それらが弱くなってしまっているため、コントロールの難易度も上がっているようだ。


領事府の空船口歯車襲いの海蛇禁制品の黒幕


八十岡「『カラデシュ』には《領事府の空船口》《禁制品の黒幕》なんていう壁の選択肢があったし、《歯車襲いの海蛇》という強力なフィニッシャーが居たんだけど、これらが3パック目になってしまったから、コントロールを選択するのはなかなか難しい。とくに《歯車襲いの海蛇》に出会える可能性が少なくなってしまったのが大きいね」

 八十岡は手元のカードを見つめつつ、続けた。

八十岡「その他の呪文も、正直言ってかなり厳しいんだけどね。とにかく、1枚でゲームを決められるカードが存在しないんだ。ドローも弱めだよ、《テゼレットの野望》も『カラデシュ』だからね。呪文ならば《置き去り》《金属の叱責》《不許可》、フィニッシャーならば《霊気海嘯の鯨》というコントロール向けのカードは確かに存在するけどね」



八十岡が5thドラフトで使用したデッキ


 この合宿で、八十岡は《霊気海嘯の鯨》をフィニッシャーに据えたデッキを使用している。「この合宿の意味は、環境の理想形を探すこと」とまつがんも語っていたが、八十岡の理想形探しも現在進行系のようだ。




 合宿は折り返し地点。アーキタイプの評価もまだ定まっていない状態だ。プロプレイヤーが環境の定義を打ち出すには、まだまだ時間がある。

 今後のプロプレイヤーの言葉に注目しよう。



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