あなたの隣のプレインズウォーカー 第78回 灯争開戦

若月 繭子

この先には2019年4月23日発売の書籍「War of the Spark: Ravnica」(もしくは「灯争小説」と表記します)を資料とする「ネタバレ」が含まれていることをご了承下さい。

こんにちは、若月です。

思えばこの連載、ギデオンから始まったんですよね……。『灯争大戦』ではカードで物語の流れが示され、そしてその詳細が語られた小説も発売されました。案の定、カードに登場していない重要なエピソードや人間関係、見ただけではわからない本当の展開が盛りだくさんでした。ギデオンの最期は結局どのようなものだったのか。ジェイスとヴラスカはどう再会したのか。ボーラスとウギンは……実際解説したいことが多すぎて困っています。

そして、5月8日から公式ウェブサイトでもMagic Story『灯争大戦』の連載が始まりました。初回を読むに小説の内容をダイジェストで、視点を変えて送るような感じと思われます。そちらで詳細に語られるものもあるでしょう。そこで、今回はまだ「クリティカルな」ネタバレはなるべく避けて、灯争小説からわかった内容を解説したいと思います。

1. 注目のストーリー・改

『灯争大戦』では、とても多くのカードが物語のワンシーンを表現しています。数えたわけではありませんが、体感的にウェザーライト・サーガの時代に匹敵しそう。これまでは各セットに数枚「注目のストーリー」として通し番号が振られていたものが、『灯争大戦』では「注目の第○章」として、物語的にある程度まとまった場面が各数枚のカードで示されています。

出現領域王神の立像戦慄衆の侵略退路無し

例えば「注目の第1章」はまさしく「大戦の開始」を描いています。ギルドパクト庁舎に《次元橋》が開き、アモンケットから永遠衆の軍団が押し寄せた。一方新プラーフでは《不滅の太陽》が起動された、プレインズウォーカーを逃がさないために……というような。さらに今回『灯争大戦』のプレビューはだいたいこの物語順にカードが公開され、日を追うごとに進行していく様を楽しむことができました。とても素晴らしい試みだったと私は思っています。

裏切りの対価ギデオンの犠牲

クライマックスは過去最高に騒然となりましたが……私はとりあえず立ち直りました。

また過去もそうでしたが、「注目の第○章」でなくとも物語の一場面を表しているカードもたくさん存在します。英語公式ウェブサイトには、各章でもまたさらにに細かく区切った場面ごとにカードを並べてありますので、そちらを見ると流れが更にわかりやすいと思います。

とはいえ、「どうしてこうなったのかがよくわからない」、「実際には何が起こっているのかがよくわからない」ような場面もいくつかありますね。そこはわりと小説で判明しましたし、ウェブの連載でも語られるかもしれません。私も追々説明していくつもりです。

ドビンの拒否権

ちなみに《月への封印》《誘導記憶喪失》のような、「物語の重要シーンでありながら見た目通りの展開ではないカード」は今回こちらでした。いや声出たわこれ。ここから《チャンドラの勝利》に続くのは間違いないのですが……が!

2. ギルドマスターの現状 ラヴニカサイド

『ラヴニカのギルド』、『ラヴニカの献身』で登場したプレインズウォーカーは全員ギルドマスターであり、ボーラスに従っている/影響を受けている立場である、ということになっていました。それが『灯争大戦』でボーラスの侵攻が始まり、様々な変化が起きています。まずは『灯争大戦』開始時からきっぱりとラヴニカ側についていた2人と、少し遅れたもう1人から。

■ラル・ザレック

イゼット副長、ラル

ボーラスとの関わりが最も早くから明かされていたラル。Magic Story『破滅の刻』編ボーラスの口からラルの名が出た時は「まじか……」と思いました。ですが、いざラヴニカ第3期が始まってもラルとボーラスの繋がりは微塵も見えてこず、それどころかラルに関するあらゆる記述で故郷ラヴニカと居場所であるイゼット団への愛が説明されている。

さらに彼は、ニヴ=ミゼットの命令を受けて対ボーラスのために動いていたとも語られました。全ギルドに結束を呼びかけて奔走し、また対ボーラス戦力であるプレインズウォーカーを多元宇宙全体から呼び出す装置を開発する。それ自体は凄いなあ、かっこいいなあと思うのですが貴方本当にボーラス側なの一体どういうことなの……でした。

千年嵐次元間の標

そして実のところ、最新情報でもラルとボーラスの関わりについてははっきりしませんでした。

『灯争大戦』Bundle付属小冊子P. 10より訳

ニヴ=ミゼットの失踪後、イゼット団のギルドマスターとなったラルは、過去にニコル・ボーラスへと気紛れに仕えていた。だが最終的にはボーラスと対決する英雄の側に引き寄せられる。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター4より訳

だがラル自身にもボーラスとの暗い過去があり、

嵐の伝導者、ラル稲妻曲げラルの発露

気紛れに仕えていた、と訳しましたが原文は「flirted with serving nicol bolas」。Flirt with、手元の辞書では「戯れる、ふざける、面白半分に手を出す」のような意味でした。何か若気の至りとかあったんでしょうかね。過去のこと、ときっぱり割り切ってなのか、ラル自身もこれ以上はボーラスとの繋がりについて言及はしていません。

そして侵略が始まると率先して前線に立ってはその稲妻で永遠衆を対処し、《次元間の標》を止めてさらなる犠牲の拡大を防ぎ、またケイヤと共に全ギルドの戦力を結集すべく走り回りました。ラヴニカの勝利に絶対不可欠な要素、ニヴ=ミゼットを再誕させるため。

火想者の器ニヴ=ミゼット再誕

《火想者の器》フレイバーテキスト

ニヴ=ミゼットの死を都市全体が嘆いたが、彼は再誕に必要な要素を残していた。

立ち上がる民衆

「ニヴ=ミゼットの死」。おい、いつ死んだ!? プレビューの割と初期に公開された《立ち上がる民衆》にもニヴ=ミゼットらしき絵を民衆が掲げていてこれは一体?と思われていました。『ラヴニカのギルド』、『ラヴニカの献身』のメインストーリーが掲載されていたアートブックでも一切の言及はありませんでした。灯争小説は「精霊龍(Spirit Dragon)とドラゴンの霊(dragon spirit)の会話」というシチュエーションで始まるのですが、後者が一体誰なのか気が付くまでしばらくかかったよ。読み進めて&アートブックの記述とすり合わせるに、ニヴ=ミゼットはニコル・ボーラスの到来直後に殺害されていたようです。おいー!

なおマローによれば「元々は『ラヴニカの献身』でニヴ=ミゼットが死亡する場面のカードがあったが、何が起こったのかはわからない」とのこと。一体何があった……。

まあそれはともかく、《火想者の器》のフレイバーテキストにあるようにニヴ=ミゼットは自らの死に備えて様々な根回しを行っていました。そのひとつが自らの霊体を保持しておくこと。これにはオルゾフ組の技術?魔法?が関わっているようです。お陰で死後も完全に消滅することはなく、小説冒頭にあるようにウギンと(はい、精霊龍といえばウギンです)来たるラヴニカの大戦について会話を交わしていました。そしてその中で、彼はラルについて言及します。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター1より訳

「ザレックが役割を果たすであろう。あれには強くなってもらう為に厳しくしてきた。だが我が教えを守ってくれるであろう」

何気に、ニヴ=ミゼットがラルについて他の誰かへと言及する場面というのは初めてな気がします。この言葉に滲み出る信頼。ラルに聞かせてやりたいですね、凄く報われたって感じるよきっと。

……ああ。ラルについてはもうひとつ説明してくれないか、って多くの人が思っていますよね。

高名な弁護士、トミク

「空飛ぶ弁護士」、「土地に強い弁護士」とカード名と能力だけですでにキャラが立っていたトミク。そんな彼が「ラルの恋人である」という情報が突然流れてきて、ほとんどの人が驚いたのではないかと思います。私も灯争小説で知りつつ喋らずにいたのですが、発売から3-4日くらいで日本にも広まりましたね。

その通り、彼はラルの秘密の恋人(原文:secret lover)。小説を読むにオルゾフらしい貪欲さが微塵もなく、育ちの良さが漂う穏やかな気質に、それでいて芯の強い人物です。例えるならオルゾフから黒要素をすっかり抜いたような。その実直さゆえか、新たにギルドマスターとなったケイヤにも気に入られていました。

そのトミクですが、完全に今回突然出て来たわけではなく、一応初出は2019年1月初頭に発売されたラヴニカアートブックです。つまり設定自体は以前からあって、ただ表に出ていなかったというだけなのだと思います。そのアートブックでは絵こそありませんでしたが詳細な人物像が説明されていました。そのまま訳します。

「The Art of Magic: the Gathering: Ravnica」P.50より訳

テイサの弟子トミクは契約、口頭約定、物理的障壁を操る防護魔道士です。両親は著名な弁護士、高位の支配者でした。2人は事故で死亡するも、すぐに霊となって息子を育て続けました。両親は愛をもって彼を育て、最も興味のある物事を学ばせました――すなわち物質的な富と口頭契約の両方を守る魔法です。

トミクは法を尊んで育ちました。法の抜け穴を操作することが好まれるこのギルドでは稀なことです。テイサ・カルロフの弟子として能力を磨き、彼女が幽閉されていた間は外部と繋がる唯一の手段となりました。トミクはテイサの知己と連絡を取り、密かに同盟を育み、幽閉の間にはテイサの右腕を務めていました。

テイサ・カルロフ

テイサは(『ラヴニカのギルド』前にその地位や権限を剥奪されましたが)オルゾフの生者では最高の地位にあり、極めて有能な弁護士としても活躍していました。その弟子ということで、トミク自身も相当な家柄の生まれかつ高い能力を持っていると思われます。同じくアートブックでテイサの側の記述を見てみましょう。

「The Art of Magic: the Gathering: Ravnica」P.39より訳

計画を簡単に諦めてなるものかと、テイサは弟子にして密使のトミク・ヴロナの手を用いて古い知己(ボロス軍のタージク、イゼット団のラル・ザレックを含む)との繋がりを深めていました。そのお陰でテイサは外の世界での出来事や、他ギルドで起こった奇妙な幾らかの事件を把握できていました。

なるほど、ここでラルの名前が出ている。秘密の関係である2人は、どちらのギルドからも離れた街区でひっそりと同棲生活をしてきました。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター23より訳

単なるイゼットのギルド魔道士がオルゾフの跡取りの補佐役と恋に落ちる権利などない。そしてラルは可能な限り、トミクとの恋愛関係を否定してきた。だがそれは終わった。その手頃な幻想を維持する意味はもはや無かった。真実は単純だった。今、トミクは彼の人生において最も大切な存在だった。

ラルからトミクへの想いはこのように、すごく真剣なんですよ。ジェイスに対して見せるようなツンデレのツンもデレもなく。異なるギルド員同士の恋愛については別に禁止はされていないのですが、それを各ギルドがどう見るかはまた別です。トミクの所属するオルゾフ組は、特に高い地位となれば家柄や血筋が重要視されるのであまり喜ばれないでしょうね。だから我々にすら隠していたのかもしれない……その手に結んだ相手の色の布以外には。奥が深い。

■ケイヤ

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター7より訳

「ボーラスは幽霊議員オブゼダートを始末するために、幽霊暗殺者ケイヤを雇いました。彼女は最後の一体までを首尾よく倒しました。ですが予期せぬ結果として、ケイヤは望まぬうちに新たなギルドマスターになりました」

カーンが言った。「オルゾフの新たなギルドマスターは死者なのですか?」

ラヴィニアは困惑したようだった。「え? 違いますが」

「幽霊暗殺者、と仰いましたよね」

「幽霊の殺害に特化した暗殺者、という意味です。幽霊であり暗殺者、というわけではありません。彼女は生きています」

カーンは渋い顔をした。「でしたら『幽霊暗殺者』という肩書は実に不正確ですね」

オルゾフの簒奪者、ケイヤ

ちょっとクスっとする場面から始めてみました。ボーラスの依頼を受けて《幽霊議員オブゼダート》を暗殺し、ケイヤはオルゾフ組のギルドマスターとなった……『ラヴニカの献身』での説明はそこまででした。

『灯争大戦』Bundle付属小冊子P. 10より訳

雇われの幽霊暗殺者として、ケイヤはオルゾフ組の長である幽霊議員の暗殺をボーラスから請け負いました。今や、どうしてか、ケイヤは自身が驚くほど高い地位にあり、ギルドを率いていることに気付いたのです。

ですが、灯争小説でそのケイヤがギルドマスターとなった真の経緯が明かされました。幽霊議員を1体倒すごとに、彼らが保持していた魔法的契約がそのままケイヤの魂へと降りかかっていきました。何千という魔法的契約が。そして《幽霊議員カルロフ》を倒した時、オルゾフ組のギルドマスターという責務が、凄まじい重みとともにケイヤの魂に課せられたのでした。

幽霊議員オブゼダート幽霊議員カルロフ

ボーラスはその重荷からの解放を提案しますが、その対価として下僕となるよりも、ケイヤはしばし契約を背負って生きることを選択しました。また彼女は債務を負い続ける幽霊を憐れんで解放するのですが、その行動に対するオルゾフ組内からの反発は大きいものでした。特にテイサからは。そのテイサが今やギルドマスターの地位を狙っていることは明らかであり、自分達の同盟は終わった、とケイヤは感じました。

死者の災厄、ケイヤケイヤ式幽体化

そして、ケイヤはそれ以上ボーラスに従うことは選びませんでした。彼女は「生者の世界は生者のためのもの」として、生者の世界に害を成す死者を嫌っています。幽霊ではないにしても、永遠衆という死者の軍団を使役するボーラスのことが気に入るはずはありません。『ラヴニカの献身』版のケイヤはオルゾフ衣装でしたが、『灯争大戦』では暗殺者衣装に戻り、物語でもラルと共に率先して永遠衆と戦っています。

そして不承不承その座に就いたとはいえ、ケイヤはオルゾフ組のギルドマスターとして他ギルドから協力を取り付けるために奔走しました。また、ラルの項目でも書いたようにケイヤもトミクを気に入っており、しばらく彼の姿が見えなくなっていた時にはラルと共にとても心配していました。彼ら2人の仲も察していたかもしれない。ああ大丈夫、トミクはちゃんと生きていましたよ。エピローグではテヨが見ている前で……まあこれは余談。

ケイヤの誓い

そしてこれまで割と一匹狼として生きてきたケイヤですが、ラヴニカでの総力戦とゲートウォッチの理念や戦いに感銘を受けたのだと思います。自らの力を多元宇宙のために用いることを誓いました。色的にはギデオンとリリアナが抜けた分の補填もあるんだろうな、と少し邪推しつつ。

また、「誓い」シリーズのフレイバーテキストにはそれぞれが何のためにゲートウォッチに加わるのかが短く述べられています。ケイヤはこちら。

《ケイヤの誓い》フレイバーテキスト

「そうね、すべての人に然るべきものが与えられるように、私はゲートウォッチになる。」

「誓い」はたいてい、物語の方でその全文が述べられていますが、ケイヤもありました(ウェブ連載の方で出るかもしれませんし、まだここでは取り上げないでおきます)。ちなみに《テフェリーの誓い》だけ全文が存在しなかったのですが、今回それぞれの「誓い」を繰り返すとても熱い場面があり、そこで明らかになっていました。大戦を生き延び、力強いチームの一員となったケイヤが今後どう動いていくのかは……ごめんこれもウェブ連載待ちで。中途半端ですまない。

■ヴラスカ

ゴルガリの女王、ヴラスカ

これまでの物語的伏線が回収されることを期待されてきた『灯争大戦』。その中でも誰もが気になっていた、ある意味最優先事項と言っても差し支えなかったでしょう、「ジェイスとヴラスカはどうなるの!?」

危険な航海誘導記憶喪失

元々敵同士としてラヴニカ次元で出会った2人でしたが、イクサラン・ブロックで思わぬ友情と信頼を育みました。ラヴニカにボーラスの魔の手が迫っていることを知ると、ジェイスはヴラスカの記憶を消してイクサランでの出来事を隠すことで互いの身を守り、然るべき時にその記憶を返してボーラスへと立ち向かう約束を交わしました。

暗殺者の戦利品

そして『ラヴニカのギルド』、『ラヴニカの献身』では、ジェイスがまだラヴニカ次元に戻って来ていない関係から、そちらについての進展はありませんでした。それどころかヴラスカが過去の遺恨からアゾリウス評議会のギルドマスター、イスペリアを暗殺したことにより各ギルドの信頼は崩れ去り、ラヴニカの情勢は極めて不穏な状態となってしまいました。

論議を呼ぶ計画

そして『灯争大戦』。物語に沿って進むプレビューの中で公開された《論議を呼ぶ計画》が文字通り論議を呼びました。なんかジェイスとヴラスカ(とラル)が一緒にいるんだけど!!? 雰囲気は特に悪そうじゃないけどどういうことなの? 記憶は返せたの? とはいえこの2人が一緒に、無事な様子で写っている姿に多くの背景ファンが安堵したものでした。そしてカードで物語の流れが大体把握できるこのセットですが、ジェイスとヴラスカ2人の様子がわかるものはこの1枚だけでした。

そんなわけで小説待ちだったのですが、実はヴラスカは「ゴルガリの女王」という立場を維持するためにボーラスに仕え続けなければならず、ある時そのために(すでにラヴニカ側となっていた)ラルとケイヤを裏切ることになります。そしてラルの稲妻を浴びせられ、ぎりぎりのところでプレインズウォークで逃亡していたのでした。

そして物語中盤も過ぎたところで、ヴラスカはようやくラヴニカへと帰還します。ジェイスとは……すまない! ウェブ連載の方が完結してからじっくり喋らせて! とりあえず、小説ではきちんと再会の場面がありました! 思わずニヤニヤするようなやり取りがありました! そしてエピローグでは……

群集の威光、ヴラスカ神秘を操る者、ジェイス

ここはあえて日版を並べる。君たちー!

3. ギルドマスターの現状 ボーラスサイド

そして、侵略が始まってもボーラス側を貫き続けたプレインズウォーカー兼ギルドマスターもまた存在します。それも、その一方は侵略される側のラヴニカ生まれだという……。

■ドムリ・ラーデ

混沌をもたらす者、ドムリ

ボーラスの助言?を受けてギルドマスターの座を勝ち取り、グルールの衝動に従うように文明を破壊してきたドムリ。けれど日々公開されていくカードではグルール一族も他ギルドと同じように、それどころか他ギルドと手を携えてラヴニカのために戦っていました。

砲塔のオーガ激情の絆ゴブリンの突撃隊

確かにグルールはギルドとしての結束は緩く、決して一枚岩ではありません。ドムリがギルドマスターという地位に就いたことに反発する者も多く存在します。それでも、この状況でボーラス側を貫いているとしたらドムリは孤立してしまっていないか? 例えるなら『タルキール覇王譚』でのズルゴのように皆の信頼と忠誠を失ってしまっていないか? と私は心配になっていました。

ボーラスの壊乱者、ドムリ

『灯争大戦』でのドムリのカード名もやはりボーラス側だと主張しています。そして公開順序はカードよりもずっと後になりましたが、物語でドムリがボーラスをどう見ていたかがわかるやり取りがこちら。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――絢爛の聖堂へ」より引用

「グルールよ、俺達は違う側に味方してた。あのドラゴンは全部ぶっ潰してくれる。ギルドを! ラヴニカを! 俺達はずっとそれを望んでいたんだろ? ギルドが倒れたなら混沌が満ち、混沌が満ちる時、グルールが支配する! いいか? あのドラゴンと一緒に戦うぞ!」

(略)

「ラーデ、お前はあの主人に仕えているのか?」

「相棒で仲間だ。仕えてるんじゃねえ!」

これには読者全員が思った。あかん。そしてドムリの運命も、残酷なほどにはっきりとカードで示されていました。

魂の占者灯の収穫

《魂の占者》フレイバーテキスト

永遠衆の冷たい指に喉を締め付けられながら、ドムリは自分がどんな主人の下に馳せ参じてしまったのか、やっと気付いた。

《灯の収穫》フレイバーテキスト

ドムリの灯を収穫した古呪は、ボーラスの神格化の糧となり始めた。

ボーラスの狙いはプレインズウォーカーの灯を収穫すること、とは早期に明かされていました。ボーラスの部下であった彼が真っ先にその餌食となってしまった……そしてマローが「永遠衆に灯を抜かれたなら死ぬ」とはっきり回答していました。なんということだ……。『灯争大戦』ではこれまでにカード化されたプレインズウォーカーが3人死亡していますが、その1人目となってしまったのでした……。

『ギルド門侵犯』当時に語られた彼の覚醒エピソード(その1その2)は、とても若々しい希望に満ちたものでした。文明に覆われた世界で生まれ、プレインズウォーカーとして覚醒して真の大自然を知り、それでも故郷への愛を持ち続けたドムリ。それが、ただただ可哀そうなことになってしまった。

■ドビン・バーン

大判事、ドビン

そもそも秩序を愛し、公正な物の見方で知られる彼がなぜボーラスの手下となってしまったのか。カラデシュ領事府に入り込んだテゼレットの背後にさらなる黒幕があると察したドビンは自力でニコル・ボーラスへと辿り着き、忠誠と引き換えにアゾリウス評議会を改良する機会を与えられた……とは第75回で書きました。

書籍「The Art of Magic: The Gathering – Ravnica」P.225より訳

ドビンは正直で論理的、鋭い観察力を持っています。彼が気付かないひとつの欠点は、彼自身にあります。称賛に値する指導者に出会ったなら、ドビンは腰を低くして従ってしまうのです。至上最高の知性と完璧な策略家を感嘆させるという挑戦を提示され、ドビンはラヴニカの構造を再編成し組み直す仕事へと熱心に取り組んでいます――最大にして最も困難なパズルを。

支配の片腕、ドビン

『カラデシュ』、『霊気紛争』当時も、お前みたいに有能な奴がなんでよりによってあのテゼレットに従ってるんだ……とは言われていました。いやテゼレットも横暴とはいえ有能ではあることは間違いないのですが。『灯争大戦』版のドビンはよく見ると飛行機械の上に乗っているのがわかります。いいバランス感覚をしている。

さて侵略が始まると、ドビンは《不滅の太陽》の防御にあたりました。

退路無し島

元々製作者が同じだけあって、アゾリウス評議会の上に輝く円と三角のマークはすごく馴染んでいるなあ……いやそんな呑気に感嘆している場合ではないのですが。《不滅の太陽》ラヴニカにやって来たプレインズウォーカーを逃がさないための重要設備。逆にラヴニカやゲートウォッチ側から見れば、ボーラスの野望を挫くためには何としてもクリアしなければならない問題です。小説ではチャンドラ・サヒーリ・ラヴィニアをメインとした「攻略チーム」が組まれていました。

ドビンの拒否権チャンドラの勝利

そしてこの2枚の場面に繋がります。上で「《ドビンの拒否権》は見た目通りの展開ではない」と書きました。《ドビンの拒否権》からの《チャンドラの勝利》、それは確かなのですが。一度は打ち消されながらも炎がドビンを襲う? うむ……

マローのBlogatogより訳

《チャンドラの勝利》について非常に多くのメールをいただいている。この戦いで何が起こっているのかを明かしたくはない(「War of the Spark」を読むのだ)。だがカードアートのチャンドラはドビンを拘束しているのであり、殺害しているのではない。

マローがこう言っているので、私もまだここで詳細は書かないことにします。ドビンはこの戦いに敗北しますが、死ぬには至らずプレインズウォークで逃走しました。残された不滅の太陽は一旦「オフ」にされ(そう、これオンとオフが効くのです)、多くのプレインズウォーカーがようやくラヴニカを去ったようです。ドビンの行方は今のところ不明ですが、これで終わりではないことは確かです。

4. まだまだ語り足りません

今回はギルドマスター5人に絞って書きましたが、取り上げたい内容はまだまだあります。リリアナとギデオンの詳細な結末、ゲートウォッチ及び協力者各人の顛末、他プレインズウォーカーもそれぞれどのような活躍をしていたのか、新キャラ達はどんな人物なのか、ボーラスとウギンは……とりあえず、あと2回は『灯争大戦』を取り上げていく予定です。とはいえ『モダンホライゾン』も気になるのであくまで予定。すまない。

盾魔道士、テヨ

私の一押し、期待の新人です!!

(終)

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若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら