なかしゅー世界一周 プロツアー『霊気紛争』本番編

中村 修平

(前編は↓こちらをご覧ください)

ここからは楽しい楽しいプロツアー。

……と行きたかったのですが、今回のプロツアーはデッキ調整の上でもそれはもう苦難の連続でした。

少しだけ時間を戻して、合宿初日あたりから進めていきます。

グランプリ前の火曜日~金曜日

プラハ到着初日は即ベットとお友達となっていた私が見た合宿2日目の光景は……

サヒーリ・ライ

《サヒーリ・ライ》時代。

それも3色のバージョンではなく4色フェリダー系。どれだけニッチやねんと思いましたが、確かに前回のホノルルでも青緑赤「現出」を延々と回していたマニア集団が我が調整グループです。

青緑赤 (おまけに白) ベース、クリーチャー主体、なんかカチャカチャするとなればもちろん首ったけ。初期リストから始まって徐々に進化なのか深化なのか、あるいはただの劣化なのか解らない改造の数々を世に送り出していました。

記憶の限りでジェイコブ・ウィルソン、ヘインちゃんあたりが気に入った発言をした作品を紹介すると……

◆ エントリーナンバー1番

「4色フェリダー、《霊気池の驚異》ソースに深きタコを添えて」

守護フェリダー霊気池の驚異老いたる深海鬼

初期の4色フェリダーデッキはほとんど《霊気池の驚異》とのハイブリットだったと記憶しているのですが、そこで問題になったのは「素では《絶え間ない飢餓、ウラモグ》が出せない」という点。そのくせウラモグがなければ《霊気池の驚異》の大当たりが少なくなってそもそも存在意義が問われる……といったジレンマに一挙に解決を図った意欲作。

生け贄要員なら事欠かないこのデッキなら《老いたる深海鬼》を出すのにも最適。相手の妨害を土地を強制的に倒すことにより無効化と、方向性的には合っている。おまけに相手のアップキープに《霊気池の驚異》を起動するという玄人っぽいギミックまで搭載。ただ問題はスロットが圧迫されすぎて、相手への介入手段がメインは《蓄霊稲妻》2枚しか採れないこと。

さらっと流しましたが重要なのでより簡潔に表現しましょう。

結論: 速さがないのに実質マグロ

ネクスト

◆ エントリーナンバー2番

「4色フェリダー、サヒーリとタミヨウのPWミルフィーユ仕立て」

実地研究者、タミヨウ

ほのぼのファミリーに突如現れた、我々の秘密デッキスレッドに無限コンボアイデアを延々と上げてくるたぶんマッドなジョエル・ラーションが送り出した怪作。

新要素が既存のスロットを圧迫するっていうなら、それが複数の役割を兼ねれば問題なかろうというコンセプトの元に、相手の減速、ドローソース、もしかすれば決め手ともなりうる《実地研究者、タミヨウ》を投入した逸品。「-2」能力から《守護フェリダー》《実地研究者、タミヨウ》再利用へと繋げるパターンで相手主力戦力を凍らせる。コントロール相手には「+1」連打の《知恵の蛇》モードにより圧倒的なアドバンテージを創出。つまり理論上最強

問題は色々できるように見えてもやっぱりマグロなこと。サヒーリフェリダーされたらどうしようもありません。

結論: 色々やっても実質マグロ

ネクスト

◆ エントリーナンバー3番

「4色フェリダー、驚異的でタコにダブルPWなクアトロ・フォルマージュ」

霊気池の驚異老いたる深海鬼実地研究者、タミヨウ

何かがスパークしてしまって生まれたハイブリット生命体。もはや何がなんだか、ちなみに相手のアップキープに《霊気池の驚異》を起動して《実地研究者、タミヨウ》さんが悲しくこんにちはして撃沈を目撃する事例多数。そりゃ、タコさんに比べてプレインズウォーカーは2倍入ってるからね!

結論: つまりマグロどころか形容し難いなにか

もうそろそろいいかな?

◆ エントリーナンバー4番

「4色フェリダー、ええい、殴ればええんやろ殴れば。」

通電の喧嘩屋ならず者の精製屋

《通電の喧嘩屋》《ならず者の精製屋》と軽快に殴ってるところに《守護フェリダー》という、ブン廻ったところで……となるラインナップに何を語れば良いのやら。ちなみに仮想敵の黒緑は《巻きつき蛇》から《ピーマの改革派、リシュカー》により、2マナと3マナでそれぞれ4/4以上の生物が出てきます。


「ええい、殴ればええんやろ殴れば。」

5 《森》
4 《霊気拠点》
4 《植物の聖域》
4 《感動的な眺望所》
4 《尖塔断の運河》
2 《要塞化した村》
1 《獲物道》

-土地 (24)-

4 《通電の喧嘩屋》
4 《ならず者の精製屋》
4 《呪文捕らえ》
4 《守護フェリダー》

-クリーチャー (16)-
4 《蓄霊稲妻》
4 《ニッサの誓い》
4 《キランの真意号》
4 《サヒーリ・ライ》
4 《実地研究者、タミヨウ》

-呪文 (20)-
hareruya

終了。ここでグランプリ・プラハのためにスタンダード練習の一時休止が入りますが、見てのとおりの大迷走。進捗、駄目です。

そろそろ余裕がなくなってきた月曜日

とりあえずこの時点での私の感想としては、「贅沢は言わないのでとりあえずメタゲームで中心となるであろう黒緑ビートダウンとジェスカイ・サヒーリに勝てればなんでもいい」でしょうか。

ではその主役たる黒緑かジェスカイ・サヒーリはというと、可能な限り使いたくないですね。誰もが意識するであろうメタの中心のデッキは持って行きたくないという心理がありますし、黒緑系デッキに関してはそもそも既存のリストに全く魅力を感じませんでした。

△ 黒緑の欠点その1

完成度はもとよりデッキの速度帯が狭すぎるのです。

《巻きつき蛇》というパワーカードがあるがゆえに逆説的になりますが、デッキの方向性がなくなってしまっていて、決して最速ではないけれども2マナからスタートする中サイズクリーチャー、縦軸のデッキ。

ゼンディカーの代弁者、ニッサ

もう一方のサヒーリコンボが小さなアドバンテージを重ねるプレインズウォーカーというシステムを否定する方向に環境を規定しているのは事実ですが、そもそも《巻きつき蛇》がある以上、黒緑は自分から《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》以外のプレインズウォーカーを否定してしまっているのです。

△ 黒緑の欠点その2

さらにこの拒否感を突き詰めるともう1つ、《歩行バリスタ》というカードの過大評価にも行き着きます。

歩行バリスタ

色々できるのは認めますが、所詮は2マナ1/1か4マナ2/2換算です。はたしてこんなにもマナ効率が悪いクリーチャーが使われるのが許されるほどスタンダードは低速化するものなのかどうか、むしろ私にとっては《歩行バリスタ》《巻きつき蛇》があって辛うじてスタンダードレベル程度のカードであり、そんなとても狭くて拙い2枚コンボがデッキに内包されているビートダウンというのは、リスク以外の何物でもないように感じられました。

△ 黒緑の欠点その3

その上でメタゲーム上の位置も最悪《巻きつき蛇》を殺せる除去が8枚、例えば黒だと《致命的な一押し》《闇の掌握》を積んだデッキなんてそこら中に溢れかえっており、しかもよりにもよって黒緑自身がそうなってしまっています。

致命的な一押し闇の掌握

もちろん黒緑がある程度強いからこそそうなってしまうのですが、環境のデッキたちが除去を大量に積むことで利益を得るのが純正コントロール。ということで現状では一番まともなコントロールデッキであるジェスカイ、さらに進めてコントロール対決に微有利がつく《サヒーリ・ライ》を入れられるジェスカイ・サヒーリが今のところの勝者だろう……

そんな予測を立てていたらそのまま直前週のスターシティーオープンで現実になってしまい、「使いたいデッキがない」というのはより強固なものになってしまいました。

サヒーリ・ライ守護フェリダー

《守護フェリダー》《サヒーリ・ライ》に関しても《歩行バリスタ》と同じく、使いたくないカードだと感じました。《思案》があれば違ったかもしれませんが、この組み合わせは決して《詐欺師の総督》《欠片の双子》ではないのです。

黒緑はメタゲームを跳ね返せるほど強いとは思えず、ジェスカイ・サヒーリはメタゲーム上、現在は優位にいるだけ、両者ともただ立ち位置により勝ち負けをしているという印象なのです。

ともあれ、それで私としてはです。使いたいデッキの最低条件として、

・単体で弱いカードは入れたくない
・ビートダウンであれば除去を多く積みたくない

をクリアしておきたくあります。

とは言ってもビートダウン系のデッキであれば黒緑との対峙を想定する以上、除去8枚という先程のルールが自分も相手も縛ってくるのは致し方なく。

そこを回避しようとするのであれば、パウロがちょっと手を出していた青赤ゾンビのような別軸で枚数損を回避するのがベターだろうか、しかしパウロも再度チャレンジするとは言っているものの一度は投げ出したところからみると怪しい。あるいは《巻きつき蛇》がより有効に使えるようだし、手数も増えているのでもしかすれば黒緑エネルギーを研究するべきかも……?

そんな中、ヘインが作成していたグリクシス《電招の塔》はかなり私の条件を満たせるものではないかと思えるものではありました。


アレクサンダー・ヘイン「グリクシス《電招の塔》

4 《島》
2 《山》
2 《沼》
4 《進化する未開地》
4 《窪み渓谷》
4 《霊気拠点》
4 《尖塔断の運河》
2 《さまよう噴気孔》

-土地 (26)-

4 《奔流の機械巨人》

-クリーチャー (4)-
3 《致命的な一押し》
2 《ショック》
4 《蓄霊稲妻》
3 《予期》
2 《否認》
4 《不許可》
3 《無許可の分解》
2 《光輝の炎》
4 《天才の片鱗》
3 《電招の塔》

-呪文 (30)-
4 《光袖会の収集者》
3 《ゲトの裏切り者、カリタス》
3 《精神背信》
2 《竜使いののけ者》
2 《苦い真理》
1 《否認》

-サイドボード (15)-
hareruya


奔流の機械巨人電招の塔無許可の分解

黒緑系に対しては除去の多さで対応し、ジェスカイ・サヒーリについては自分がノンクリーチャーデッキとして振る舞う。理論上は悪くなさそうです。

ちなみにそのころ、ジョエル・ラーションが「閃いた」と言って作成してたのはこんなデッキ。


ジョエル・ラーション《金属製の巨像》

3 《沼》
2 《島》
4 《霊気拠点》
4 《産業の塔》
3 《花盛りの湿地》
4 《ウギンの聖域》
3 《発明博覧会》
1 《ハンウィアーの要塞》

-土地 (24)-

1 《老いたる深海鬼》
4 《金属製の巨像》

-クリーチャー (5)-
4 《致命的な一押し》
3 《金属の叱責》
2 《発火器具》
4 《金属紡績工の組細工》
4 《予言のプリズム》
2 《霊気装置の設計図》
4 《耕作者の荷馬車》
4 《面晶体の記録庫》
2 《領事の旗艦、スカイソブリン》
2 《策謀家テゼレット》

-呪文 (31)-
3 《光袖会の収集者》
3 《精神背信》
3 《燻蒸》
2 《儀礼的拒否》
2 《苦渋の破棄》
1 《グレムリン解放》
1 《否認》

-サイドボード (15)-
hareruya


金属製の巨像致命的な一押し面晶体の記録庫

一応はさっきの条件を満たしている……のか?まあ彼には好きにやってもらいましょう。

ここで時間がないということで、コントロールグループ、ゾンビグループ、コンボグループの3チームに分かれ、それぞれが比較調整、性能評価、サイドボード試験をするということになり、私はイヴァンやヘイン、ペトルと同じくコントロールグループ担当になったのが月曜日。デッキ提出日まであと3日……。

で、火曜日

残念ながらグリクシス《電招の塔》は廃案に。

理由はサイドボードの柔軟性を欠いていたこと。メインボードでは前述の優位性がそれなりに機能するのですが、サイドボード後についてはジェスカイ・コントロールとの優劣をあまり付けることができず。むしろ問題は《屑鉄場のたかり屋》のような墓地から戻ってくる系統。この時の仮想敵は主に各種ゾンビデッキではありましたが、これらの処理が《ゲトの裏切り者、カリタス》に頼り切っていて読まれやすく、簡単に対処されるところから、総合してジェスカイ・サヒーリの方が良いということになりました。

イヴァンはこれをもってジェスカイ・サヒーリを使うと言い出しましたし、同部屋のペトル君も同上。私も渋々同意、かなり消極的ながらとりあえずは現時点での使用候補にせざるを……うーん……

ちなみにヘインちゃんは……気がつけば巨像に興味を示している!?《金属製の巨像》教は疑わしいながら何故か信者を増やしています。ちなみにもしかしたら食わず嫌いで実は凄いのかも、ものは試しと私もちょっとだけ回してみましたが、序盤があまりに無抵抗ですし、サイドボード後に至ってはもはや何デッキがわからない様態になってます。少なくとも私としては選択肢に入れるべきデッキではないという結論。ついでにジョエルはマッド。これも結論。

それでも前述のようにジェスカイ・サヒーリに良い印象がない私としては、もう1度足掻くことにしてみます。まずは黒赤ゾンビ……は、ジェスカイ・サヒーリの前に撃沈。除去でピンポイントに起点を潰され、《安堵の再会》《否認》。おまけにうっかりコンボが決められやすいと散々。

気がつけばもう夕方、残り時間もわずかだしこれが最後かな、と最後の最後に用意したのが、藤沢のPPTQで優勝していたものを私がスパーリング用としてコピーしていたマルドゥ「機体」でした。

マルドゥ「機体」

正直これまでのマルドゥ「機体」への印象はとても芳しくないものでした。理由は簡単で、ビートダウンにしてはあまりにマナベースに負担をかけすぎているのです。1~3ターン目までほぼ特定の色マナを要求するデッキなのに、使い捨て色マナの《霊気拠点》を4枚入れないと成立しないデッキ。それが私の認識するマルドゥ「機体」であり、前環境でも存在していたデッキだけにかつて対戦したことのあるチームメンバー全員が考える、マルドゥ「機体」の致命的な欠点でした。

そこに相変わらず《霊気拠点》を4枚搭載したリストを見せてもあまり良い反応を得られず、スパーリング用デッキの域から昇格できなかったのも仕方がないところ。しかし回している側としては、ハマったときの展開力の凄まじさにこれはと思うものがありました。

霊気拠点キランの真意号

あとから少し考えれば当たり前ですね。黒緑 vs サヒーリコンボの構図で環境がより低速化しているのに対して、このデッキだけは《キランの真意号》のおかげで、《密輸人の回転翼機》が健在であったころよりもさらに一回りサイズが大きくなっているのです。環境の標準より2段階上の速さというのはほとんど暴力。モダンのデッキを見てもらえれば、いかに親和が他のビートダウンを駆逐しているかが解るでしょう。

ただし安定感のなさも暴力的です。《密輸人の回転翼機》があったころですら色事故が多発していたのに、そのバックアップがなくなっているのですからこちらも当たり前と言えば当たり前。

産業の塔

とはいえ、信頼がおけるかはやや怪しいものの、それでも《霊気拠点》よりは格段に違う《産業の塔》の参入でなんとか折り合いをつけることができれば、もしかすればギリギリでモノになるかもしれない。というか現状私には選択肢がないのです。やるだけやってみて駄目ならジェスカイ・サヒーリ。盛大な爆死とブン回りを繰り返しながらそう考えたのは夕食後。

私が回しているのに興味を持ってくれたサム・パーディやパウロたちと相談し、デッキの気に食わないところ、主にマナベースとメインに入れる除去の枚数を調整したところでいつもの眠気が襲ってきたのでギブアップ、デッキを食堂に置いて・・・・・・・・・・ベットへと向かったところで火曜日は終了してしまい、翌日は移動日。

この時点でのリストはたしかこんな感じでした。


「マルドゥ『機体』」

4 《平地》
4 《産業の塔》
3 《霊気拠点》
4 《秘密の中庭》
4 《感動的な眺望所》
4 《尖塔断の運河》

-土地 (23)-

4 《模範的な造り手》
4 《スレイベンの検査官》
4 《経験豊富な操縦者》
4 《屑鉄場のたかり屋》
3 《模範操縦士、デパラ》
2 《ピア・ナラー》

-クリーチャー (21)-
2 《致命的な一押し》
4 《無許可の分解》
4 《キランの真意号》
2 《耕作者の荷馬車》
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (16)-
hareruya

できることなら《霊気拠点》を0枚にしたいですが、そうするとデッキが回らなくなるのは目に見えていたのでまずは3枚に、《沼》も引くと暴れたくなったのでとりあえず《平地》に。色マナはあればあるほど助かるので3マナの乗り物は《耕作者の荷馬車》に。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》4枚は譲れません。《致命的な一押し》はなんとも微妙な立ち位置。つよわい。

相変わらず《金属製の巨像》教の辻説法会が続いているようですが、決めました。私はチームとは距離を置いて、マルドゥ『機体』を使うことにします。

いや、正確には7割マルドゥ、3割ジェスカイ・サヒーリ。デッキ提出日まであと2日……

水曜日、そして木曜日へ

午前4時起床、航空券の都合で私だけが早朝便なのでのそのそ起き出し、ペトル君に別れを告げて下の食堂へ。食堂しかWi-Fiが繋げないのでデッキの回収がてらタクシーの呼びつけを。カフェインが欲しかったのですが残念ながらいつもの通り食物は食べつくされた後、おばちゃんの朝ごはんももう食べることができないのかと思うとちょっと感慨深くなってしまいます。荷造りは昨夜の内にやっておいてあるのでそのまま空港、そしてドイツはフランクフルトまで。

フランクフルトで3時間ほど乗り継ぎ時間があったので、自分の思考を整理します。

まず黒緑とジェスカイ・サヒーリがメタゲームの中心。その中で黒緑の選択肢はなし。ジェスカイ・サヒーリはなんだかんだで安定感があるので本当にデッキがないときの保険として確保。

現状ではマルドゥ「機体」が使用デッキ。ただしプロツアーに持ち込むためには、

・マナベースの修正
《霊気拠点》はできる限り削りたい

・メインボード
土地を23枚として、20枚のクリーチャー、6枚の「機体」、4枚の《無許可の分解》と4枚の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、計57枚までは納得できるが、残り1スロットはどうしても弱いカードを入れなければならなそう。具体的には《致命的な一押し》《ショック》

・サイドボード
全く手が付けられていない

この3点を解決できなければ、タイムアップでジェスカイ・サヒーリ。

……なんてことを考えていたらダブリン行きの便で野生のあんちゃん (高橋 優太) に遭遇したではないですか!

あんちゃんが「機体」を使っていることは日本の誰かしらのツイートで知っていたので、私自身はチームデッキを使わずマルドゥ「機体」を使うことにしそうという話をし、ここで聞ける範囲の「機体」のことを聞けたのは本当に助かりました。

致命的な一押しショック

ついでにTL上でマルドゥ「機体」について教えてくれた高尾 (翔太) くんにも感謝。

これで「機体」使う率が90%くらいに。目下の悩みはメインボードにある《致命的な一押し》。3枚の弱いカードスロット中では最もマシに見えるという、立ち位置としては物凄く微妙なカード。大半のリストでは《ショック》にしている箇所ですが、前提として環境に黒緑デッキがあることを考えると、《巻きつき蛇》を殺せない軽量除去というのは軽量除去の要件を満たしていません。

ましてやあんちゃんから《ショック》は同型にすらもサイドボードにあれば《致命的な一押し》と入れ替える枠だと聞いて、《破滅の刃》《死の印》に差し替えるようなサイドボードの無駄使い (通称Hanoiサイド) をとにかく嫌う私としては、ますます《ショック》を使う気がなくなります。

とは言いつつもこの環境で《致命的な一押し》がコントロール相手にはとにかく役にたたないのも事実。2枚手札に腐るとそれだけで負けに向けて致命的な一押し。一方現状で候補が見当たらないとはいえ、2マナまでのクリーチャーが16枚というのも1種類追加してもよい数字ではありますし、どうしたものか……とスタンダードにあるカードリストと格闘していたら、いつの間にか他の面々もホテルに到着してきたようです。

これからブランチに行くようですし、いったんシグリスト部屋に集合のようですから向かってみると……

「ようこそマルドゥ『機体』部屋へ」

????

昨日はせいぜい2人が興味を示していたくらいだったのに、今日は9人!? てか乗り継ぎ先で遅延してまだ到着していないオンドレイとペトルがいないからほぼ全員やん!?

詳しく話を聞いてみると、前日の夜にマルドゥ見て化学反応がチーム内で起こったとのこと。そういえばスパーリング用のデッキが必要ならここに置いとくよと食堂に置いて寝た記憶があります。あと、寝てる最中にオンドレイがサイドボードはどこにあるのー?って私を叩き起こしに来た記憶があるようなないような……

ともあれ、気がつけば結構な数がマルドゥ「機体」を回しだしたのはかなりの予想外。《金属製の巨像》教・教主のジョエル・ラーションですら、《金属製の巨像》デッキを回しながらマルドゥを組みだしています。

しかも緊急事態ゆえの特例なのか、普段では情報を漏らすわけにはいかないからと絶対NGのMOまで使って調整している始末。そんな中ベンスタが、

「今、ティアゴ・サポーリト (bolov) とリーグであたったのだけど、あいつもマルドゥ『機体』使ってる

このとき、私の中である真理に到達しました。

(あ、これプロツアーで結構な数のプレイヤーがマルドゥ「機体」使ってきそうだわ)

ソースはうちのチーム。みんな困ったらマルドゥに駆け込んできそう。

と、まあそんなこんなで気がつけばチームのほぼ全員 (ペトル君以外) がマルドゥ「機体」になったのですが、内実はこんなものでした。

ここからチームの動きとしては、純正3色→4色に戻るなどの揺り戻しが発生したりで、チーム内でメインボードの合意ができたのが木曜日昼過ぎくらい。サイドボードに至ってはデッキ登録締め切りの木曜日23:59の2時間前からスタートして登録時間ギリギリで慌てて解散といった始末。本当にてんやわんや。

そんなうちの調整チームからトップ8が輩出されるとは、つくづくこのチームの面々のプレイングスキルの高さに脱帽です。まさか《グレムリン解放》以外はあんなに適当なサイドボードであそこまで勝てるとは夢にも思いませんでした。その分日曜日に準決勝でのパウロのマッチアップ研究をしていたサムが頭を抱えていましたけど。

一方私の方はというと、ここに至るまでで想定したリストからマルドゥ「機体」のどの部分が気に入らないか、それをどう解消するかに焦点を絞っていたので、そもそも一からマルドゥのリストを作っていこうとした他の面々と意見が平行線になりやすく、かなり独自色を出したものになってしまってました。


中村 修平「マルドゥ『機体』」
プロツアー『霊気紛争』

4 《平地》
4 《産業の塔》
2 《霊気拠点》
4 《秘密の中庭》
4 《感動的な眺望所》
4 《尖塔断の運河》
1 《乱脈な気孔》

-土地 (23)-

4 《模範的な造り手》
4 《スレイベンの検査官》
4 《経験豊富な操縦者》
4 《屑鉄場のたかり屋》
2 《模範操縦士、デパラ》
2 《異端聖戦士、サリア》

-クリーチャー (20)-
2 《致命的な一押し》
4 《無許可の分解》
4 《キランの真意号》
3 《耕作者の荷馬車》
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (17)-
3 《金属の叱責》
2 《大天使アヴァシン》
2 《断片化》
2 《致命的な一押し》
2 《グレムリン解放》
2 《領事の旗艦、スカイソブリン》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》

-サイドボード (15)-
hareruya

具体的には、主に《致命的な一押し》とサイドボードまわりですね。私以外全員が《ショック》を激推ししてくる中、メインボードの最後のスロットは結局黒緑と同型に強い《致命的な一押し》にして、サイドボード後はより重いカードを出す兼ね合いで3枚目の《耕作者の荷馬車》を採用。どのみちデッキの弱い部分なのでそれならばマナフラッドする方がマシだから、というかなり消極的な判断ではありますが、妥協策としてはわりかし良い選択だったと思います。マナが多めなのでサイドボードの5マナ圏も抵抗なく入れることができます。

また、3枚目の《霊気拠点》を削除することは既定路線だったのですが、皆が《ショック》、私が《致命的な一押し》である以上、より強い土地である《鋭い突端》は諦めざるをえず、《乱脈な気孔》へ。《ピア・ナラー》から《異端聖戦士、サリア》にしたのはジェスカイ・サヒーリへの形ばかりの抵抗。とはいえ、そもそもかなり相性が良いので問題はないという認識ではあります。

サイドボードは主にコントロール、黒緑、同型をターゲットに絞っています。《反逆の先導者、チャンドラ》《金属の叱責》は対コントロール、《致命的な一押し》《領事の旗艦、スカイソブリン》は対黒緑、同型に対しては《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を抜き、機体をひたすら壊しつつ《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》にも強い5マナ圏で戦うというゲームプラン。

最後の最後でスティーブ・ルービンの《グレムリン解放》だけは絶対入れた方が良い」という忠告に従って入れたことも含め、今回は我を通した上でとても満足のいくサイドボードに仕上がりました。

個人的には、デッキの完成度とはサイドボードの完成度に比例するものだと思っています。そういう意味では波乱ずくめでデッキ製作に苦労したプロツアー前に比べ、こうしてプロツアー後にはデッキについて良かったと感じるのは、この部分での満足感が大きいのではないかと感じてます。

プロツアー結果

構築ラウンド結果は8勝2敗。勝ちがジェスカイ・サヒーリ×2、グリクシスコントロール、黒緑×3、マルドゥ「機体」×2。負けが同型にマナフラッド負け1回、井上 (徹) くんの青赤《電招の塔》に1回。あれだけ頭を抱えた割にはかなり良い成績と言えるでしょう。問題はリミテッドです。

2勝4敗……3勝3敗までなら覚えはありますが、このシステムになってから2勝4敗は初めてかも。理由は解っています。


※画像は【Magic: the Gathering 英語公式ウェブサイト】より引用させていただきました。

この男 (マルシオ・カルバルホ) に良いようにやられてしまったこと。実際のゲームでというよりドラフト上で、ですね。毎回2つ右の席に座られた上で環境最強色の赤を封鎖され、返しの2パック目で苦虫を噛み締めながら赤いカードをひたすら献上するという役回りをさせられた上に、2戦目にきっちりと屠られるというのを2回で2敗。

ついでにドラフトラウンド最終戦3本目を《難破船ウツボ》《抽出機構》《電招の塔》なんていうスーパーコンボから《気宇壮大》になった《難破船ウツボ》のワンショットキルなんてものを決められて撃沈。もちろん精神衛生にとてつもない悪影響を与えられて、本当に散々でした。

そんなこんなの10勝6敗。絶不調だった一時期に比べて追加のプロポイントも貰ってますし、決して悪い結果というわけではないのですが、デッキ選択で盛大にやらかした上に風邪でくらくらしてた【前回】と同じ結果というのはなんだかなあ。といった気になってしまうのもまた事実。あ、賞金が獲れたのだけは良かったです。前回のホノルルは1位の賞金を増額するためにカットされた順位枠に入ってしまい、つまりは実質賞金をヤソに奪われてしまったのですから。

ま、こうやって終わってしまえばパウロにベネズエラ国旗と評されたアレすらも全てはラム・シャンクの前に許されるのでしょう。お疲れ様でした。

これで私の四半期マジックは終了、春までは休養予定です。ちょっと体調がよろしくないのが続いているので人間ドックにでも行ってこようかと考えていたりしているところですが、トップ8に入ってマジックやる気になった某チェコ人にアメリカのチームGPに誘われてたりでどうなることやら。

それではまた次回でお会いしましょう。

中村 修平

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