By Hiroshi Okubo
開催回数500回を超える格式ある名代のイベント、それこそが「Plains Walker Cup」だ。【18年の歴史】の中で渡辺 雄也をはじめとした数々の名プレイヤーを輩出してきた、関東でも指折りの有名トーナメントである。
2009年より開始されたPWCC(Planes Walker Cup Championship)は今年から【オープンイベント】となり、総勢100名弱のプレイヤーが集い、スイスラウンド全7回戦の激闘を繰り広げてきた。
そんな戦いを勝ち抜き、今宵見事に決勝の舞台へと駒を進めた2名のプレイヤーをご紹介しよう。
若き野武士、岡井 俊樹(東京)。
関東のトーナメントによく顔を出すというプレイヤーであれば、どこかで彼の姿を見かけたことがあるのではないだろうか? 弱冠20歳にして実力派のプレイヤーとして認知されつつある彼は、ここ「PWC」はもちろんのこと、「神挑戦者決定戦」や「BIGMAGIC Open」など数々のトーナメントに参加し、実戦の中で叩き上げられた若き雄だ。【トップ8プロフィール】では「PWCのどんなところが好きですか。」という問いに対しても、「人が多くて強者が多く、運営がスムーズ」と回答している。
強者との戦いに飢えた岡井は対戦前もリラックスした様子で、立ちはだかる最後の好敵手を前に笑みを湛えながらシャッフルを行う。
そしてPWCが誇る精鋭、簗瀬 要(東京)。
堅実なプレイとデッキ選択を武器に勝利を重ねる簗瀬はプロツアー出場経験もある実力者であり、今日も「4色サヒーリコンボ」を手繰ってスイスラウンドを2位で通過している。秋田でPWCが開催されていた頃よりPWC常連だったという彼は【準決勝】で同郷対決を制して見事に勝利を収め、この決勝の舞台へと足を踏み入れていた。
実は簗瀬と岡井はスイスラウンド1回戦でも刃を交えており、岡井は簗瀬の今日の戦績に唯一土を付けた存在だという。簗瀬にとってもよもや岡井と決勝の舞台で相対することになるとは夢にも思っていなかったであろう。物腰柔らかながら、絶好のリベンジのチャンスに闘志を燃やす。
PWCの歴史にその名を刻むのは果たしてどちらになるのか? ヘッドジャッジにして本イベントのホスト・中島のアナウンスにより、決勝の火蓋が切って落とされた。
Game 1
簗瀬が苦い笑みを浮かべながらマリガンを選択し、6枚になった初手をキープ。互いに《霊気との調和》からスタートし、後攻の岡井が《導路の召使い》をプレイするとゲームが動き出す。簗瀬が《ならず者の精製屋》でドローを進めつつクロックを用意すると、返す岡井は小考しつつ《導路の召使い》をレッドゾーンに送り込み、簗瀬に先んじてダメージを通した。
続いて岡井は《つむじ風の巨匠》を呼び出して飛行機械トークンを生成し、ドローゴーを宣言する簗瀬とは対極に《チャンドラの誓い》でブロッカーを排除しつつアグレッシブに簗瀬を攻め立てる!
さすがに6点クロックとなると簗瀬も無視はできない。負けじと《ニッサの誓い》を絡めつつ《反逆の先導者、チャンドラ》をプレイし、「-3」能力で《導路の召使い》を除去する。
だが、バニラ同然の2/2を1体除去したところで盤面のイニシアチブを岡井が握っていることに依然変わりはない。岡井は《反逆の先導者、チャンドラ》を陥落させつつ、簗瀬のライフを9まで削る。
ここまでのゲーム展開を覆すにはサヒーリコンボを決めるほかないが……その手段を持たない簗瀬が素早く負けを認め、第2ゲームに運命を託した。
岡井 1-0 簗瀬
マリガンの憂き目もあり、 防戦一方のまま岡井に先勝を譲ることとなった簗瀬。気を取り直して、互いのデッキリストをチェック(※)しながらサイドボードを進める。
対する岡井も優勝へ王手をかけたものの、まだまだ油断は禁物と気を引き締めながら入念にシャッフルを行う。PWCC2017、2人の運命は第2ゲームへと引き継がれた――
※PWCCではトップ4以降のマッチでゲーム前とゲーム間に対戦相手のデッキリストを見ることができる
Game 2
簗瀬が再びのマリガン。6枚になった初手を見て頭を抱え、さらに苦渋のテイクマリガン。5枚になった手札をしばし見つめ、今度こそ行けるとキープを宣言したところで第2ゲームの幕が開ける。
そんな簗瀬が第1ターンにプレイしたのは《領事の権限》。さきほど穴が開くほど見つめた岡井のデッキリストに、すでに設置されたこれを対処する手段は皆無だった。つまり、このゲーム中簗瀬はサヒーリコンボに怯えることなく戦うことができるようになったわけである。このマッチアップにおいては絶好のスタートと言えよう。
対する岡井も負けてはいない。2ターン目にプレイした《導路の召使い》を経由し、3ターン目に《反逆の先導者、チャンドラ》を叩きつける! 簗瀬はこれに《つむじ風の巨匠》で対抗しようとするが、岡井は動じず《反逆の先導者、チャンドラ》の「-3」能力でこれを除去しつつ《守護フェリダー》で忠誠度を回復させる好プレイを見せる。
簗瀬が継いだ二の矢、《不屈の追跡者》も《反逆の先導者、チャンドラ》が無慈悲に焼き払い、《サヒーリ・ライ》をプレイして《守護フェリダー》をコピー。再び《反逆の先導者、チャンドラ》をブリンクして「+1」能力でアドバンテージを得る……とやりたい放題。簗瀬はこれに対して1体の飛行機械トークンで対抗せざるを得ないが……
岡井「《チャンドラの誓い》でその飛行機械を」
簗瀬「あっ最後の望みが……」
岡井も徹底的に簗瀬の反撃の芽を潰す。簗瀬はかろうじて《チャンドラの誓い》で《導路の召使い》を焼いて岡井の攻勢を少しでも抑えようとするが、大勢に影響を与えるには至らない。
ここからはさながら詰将棋のようだった。真綿で首を絞めるが如く、岡井はじわじわと簗瀬を追いつめる。一手一手確実に、そのライフを最速で削るべく。
やがて簗瀬の猶予ターンは残り1ターンまで落とし込まれてしまう。万事休すか、そのように思われたが……。
……最後のターン、簗瀬がプレイしたカードを見て誰もが思いだす。
そう、このマッチアップは。
簗瀬「《守護フェリダー》……土地をブリンクして、4マナ、青1浮きで《サヒーリ・ライ》」
岡井「通りますね……」
簗瀬「じゃあ、『-2』で」
簗瀬は見逃さなかった。岡井の赤マナベースは《獲物道》1枚のみ……つまり、除去でコンボに干渉できる回数は1回のみであることを。
岡井「《蓄霊稲妻》で……」
岡井も当然気づく。わざわざ簗瀬が青1マナを残していることに。つまり、《払拭》があれば負け……。
すべての観衆が息を呑む中――
簗瀬が広げて見せた手札。そこに《払拭》は無かった。
岡井 2-0 簗瀬
岡井「《払拭》だったら負けてましたね、色マナ事故ってたんで(赤)(赤)が出せなかったんですよ」
簗瀬「《否認》はあったんだけどね、どうしても一手足りなかった(笑)」
試合が終わった2人は表情を和らげ、感想戦を始める。絶望的な状況に陥りながらも最後の最後まで粘り腰を見せ、したたかなブラフで以て岡井に食らいついた簗瀬の姿にPWCの強豪としての矜持を見た。
そして、岡井にとっては初のタイトル戴冠であった。伝統あるこのイベントに新たな歴史を刻んだ彼は、これからは“PWCC2017優勝者”として再び戦いの中に身をやつすのであろう。
新たなるPWCの王者の前途に幸あれ。
PWCC2017、優勝は岡井 俊樹(東京)!
おめでとう!!
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