ウルザソプターを解析しよう

Piotr Glogowski

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/07/11)

(編注: この記事は2019/07/08の禁止制限告知前に書かれたものです。)

序論

『モダンホライゾン』の発売とともに、《甦る死滅都市、ホガーク》や、ブリッジヴァインの大幅な強化が大きな話題となりました。ブリッジヴァインの強さや多彩なシナジーを認識していたものの、私がプレビュー期間中にこの上なく期待を抱いていたのは《甦る死滅都市、ホガーク》ではありませんでした。

最高工匠卿、ウルザ

私の目を奪っていたのは《最高工匠卿、ウルザ》です。以前から私をご存知の方にとっては意外なことではないでしょう。私は長きに渡って《オパールのモックス》をこよなく愛してきたのですから。

ステップ1:《最高工匠卿、ウルザ》の評価

ウルザのカード化には多大な時間を要しました。銀枠以外で彼本人が登場するのはこれが初であり、デザイナーは彼の力強さや威圧感を表現したかったのでしょう。その想いは見事にカードに現れています。強さ、楽しさ、複雑さを感じ取れる仕上がりとなっている一方、どうやって使えば良いのかが直感的にはわからないのです。

なかでも重要に思われた能力は、マナ能力です。アイアンワークスが環境を席巻していたことは皆さんの記憶にも新しいでしょう。《最高工匠卿、ウルザ》は、アイアンワークスと似たデッキの実現に向けて下方修正されたツールと見ることもできます。マナ能力がいかに危険であるかは歴史的に見ても明らかです。まずはこの能力を活かす構築をとることにし、以下のようなデッキを作り上げました。

永劫のこだま逆説的な結果

《最高工匠卿、ウルザ》の中でもマナ能力に焦点を絞った構成です。“モックス”になる0マナのアーティファクト・《Timetwister》《逆説的な結果》で構築し、最終的に《研磨基地》で相手をライブラリーアウトさせます。ところが少し調整してみた結果、マナ能力を活かす方向性では十分に機能するデッキは作れないだろうと確信しました。しかし、収穫がなかったわけではありません。

アーティファクトをタップして青1マナを捻出するだけでは、ストームやアイアンワークスのように1ターンで相手を倒しきることができません。《最高工匠卿、ウルザ》を何らかのカードと組み合わせ、生成されるマナを増加させる必要があるのです。

研磨基地練達飛行機械職人、サイミラディン包囲戦崇高な工匠、サヒーリ

《研磨基地》はアーティファクトが戦場に出るたびにアンタップするため、《最高工匠卿、ウルザ》のマナ能力と合わさると、ちょっとした《クラーク族の鉄工所》になります。ただ、《研磨基地》はそれ以外の状況において手持ち無沙汰になりがちという問題を抱えています。

《練達飛行機械職人、サイ》《ミラディン包囲戦》《崇高な工匠、サヒーリ》は1枚のアーティファクトが2枚分になるため、ロングゲーム向けのカードです。しかし、これらは序盤に引きすぎてしまうと手札でもたついてしまいます。ましてや、”効果がない”アーティファクトばかりのデッキでは、長期戦に強いというメリットも表に出てきません。《思考囲い》デッキからすれば、これほど楽な相手はいないでしょう。

虚空の杯

コンボを完遂するまで4マナのクリーチャーが生き残らなければならないというのは、決して簡単な条件ではありません。基本的にどのデッキにも除去は採用されていますし、他に対象がなければ《最高工匠卿、ウルザ》に使われるのは間違いないでしょう。ただ、《虚空の杯》で除去から身を守ることはできます。

《虚空の杯》は追加の0マナのアーティファクトとしても運用したいところですが、他にも0マナのカードがたくさん採用されているデッキですし、後々それらのカードが唱えられなくなることを加味すると、少々楽観的だと言わざるをえないでしょう。《虚空の杯》を採用するとなると《アーカムの天測儀》を諦めることになりますが、これについては後ほど言及します。

石のような静寂

結論ですが、上記のデッキリストは《石のような静寂》などのアーティファクトを封じるカードやクリーチャー除去への耐性が低く、コンボ自体も不完全であり、相手に対する介入や妨害されたときの建て直す力にも難がありました。これらの問題を無視できるだけの速度に仕上げることも困難であるように思えたため、別の方向性ーーー速度を遅くすることにしたのです。

ここで《最高工匠卿、ウルザ》別の能力の出番です。戦場に出ると《ウルザの後継、カーン》の[-2]能力と同じトークンを生成しますが、このデッキならば十分なサイズになる見込みがあります。

つまり、この大きなバニラクリーチャーを有効活用できれば、《最高工匠卿、ウルザ》の単体除去への耐性は大きく向上し、より長いゲームを目指せるのです。巨大なクリーチャーを先に除去すべきか、はたまたアドバンテージ源となるクリーチャーを優先すべきか。相手は除去を使うに当たって岐路に立たされます。

そしてもうひとつ、《束の間の開口》の効果にも価値が出てきます。起動コストは重く、上記のデッキリストでは価値あるカードが捲れる確率も低いため、コンボを継続する方法としては不十分です。とすれば、デッキの平均的なカードパワーを底上げしたり、土地が捲れたとしても、その土地を有効活用できる方法があれば良いでしょう。こう考えていくと、自然と”あのコンボ”へと帰結します。

ステップ2:ソプターコンボ

飛行機械の鋳造所弱者の剣

《弱者の剣》がかつてモダンで禁止されていたことを覚えているでしょうか?解禁されてから多くのプレイヤーが試行錯誤したものの、使用に値する出来にはなりませんでした。このコンボには問題が山積しているのです。

過剰な2マナ域、《弱者の剣》を墓地に送る有効な手立てがない、一方のコンボパーツを複数引いても仕方ない、《ダークスティールの城塞》《飛行機械の鋳造所》の色拘束と相性が悪い、おまけに1マナ域が不足しているため《オパールのモックス》の爆発力も影をひそめる。2マナ域が過剰ですと、序盤のターンに2回の行動をとることも困難になります。

虚空の力線石のような静寂スレイベンの守護者、サリア悪ふざけ

アドバンテージを意に介さないデッキには無力であるうえ、墓地対策や《石のような静寂》《スレイベンの守護者、サリア》、アーティファクト破壊にも脆いのです。誰しもが有効な対抗策を持っていると言っても過言ではないでしょう。

しかし、ソプターコンボは《最高工匠卿、ウルザ》のマナ能力と合わされば、無限トークン・無限ライフ・そして無限に《束の間の開口》効果を起動してライブラリーのカードをすべて唱えることが可能です。《欠片の双子》のように、コンボが揃わない限り役に立たないようなカードを使うコンボは、コンボが成立しなかったときに動きが鈍る原因となり得ます。しかし、ソプターコンボは《最高工匠卿、ウルザ》がなくとも十分に強力です。したがって、このようなリストを作ることになりました。

ステップ3:その他の新カード

ゴブリンの技師

《ゴブリンの技師》は、モダンの基準で見れば一級品ではありません。とはいえ、先ほど述べたように《弱者の剣》を重ね引いたときの弱さは大きな課題でした。《弱者の剣》《納墓》できれば実質唱えているのと同じですし、場に残る《ゴブリンの技師》はただのおまけのようなものです。戦場に出たときの能力が主な目的であり、除去されても悪くない交換です。

除去がないデッキや、特定のアーティファクトに弱いデッキと対戦する際には、《ゴブリンの技師》を本来の使い方で運用すれば良いでしょう。相手がサイドボード後に《稲妻》を抜いて《古えの遺恨》を投入してくるようなら、重要なアーティファクトを守ることもできます。3枚しか採用していないため、タッチすべきカードと表現するといささかおかしいですが……その代償はそこまで大きくはありませんよ。

アーカムの天測儀

そのため、《アーカムの天測儀》は4枚フルでの採用です。一見地味なアーティファクトですが、運用するには大きなコストが伴います。氷雪マナを捻出すること自体は難しくありませんが、特殊能力を持つ土地をあきらめざるを得ないのです。しかし、《アーカムの天測儀》にはそれ相応の価値がありますよ。本来不足していた1マナ域を埋めるものでありながら便利な能力を持ち、《石のような静寂》などがある状況でもキャントリップはできる実に素晴らしいカードです。マナフィルター能力を使っても墓地に送られないため、従来抱えていた「金属術」の達成しづらさも大幅に改善しています。マナ基盤が整ってくれば、生け贄に捧げても問題ないアーティファクトとしても有用です。

ステップ4:デッキを完成させる

ウルザソプターは決して構築難易度が低いとは言えません。デッキリストは練り始められたばかりであり、結果を出している構成にはバラつきが見られます。私はというと、調整に時間を割けていないのが現状です(ホガークヴァインに集中していましたからね)。

しかし、ウルザソプターはこの上なく奥深く、ワクワクするようなパズルです。これまでの経験からわかったことなのですが、「良いカード=4枚採用」という安易な発想は罠である可能性があります。他のカードタイプを参照する強力なカードをフルで採用しようとする場合、それらを支えるカードの枠に割って入るのが一般的です。

発明品の唸り

たとえば、直感的に考えると《発明品の唸り》は4枚入れたくなるでしょう。実際に、《発明品の唸り》を引きやすくはなりますが、その一方で《発明品の唸り》の効果や安定性を低下させる結果となり、デッキ全体としてみれば脆弱になってしまうのです。これは《ゴブリンの技師》《飛行機械の鋳造所》にも同じことが言えます。この例に限らず、4枚採用する危険性はあまり認知されていないように思えますね。

しかし同時に、先日のSCG Tourではブライアン・コバル/Brian Coval《ゴブリンの技師》と《飛行機械の鋳造所》を4枚ずつ採用した構成で準優勝を果たしています。そのデッキリストには《血清の幻視》が投入されており、何が正しいのかは誰にもわからないのが現状です。もちろん、サイドボードで枚数を調整することはできるのですが。

真髄の針黄鉄の呪文爆弾虚無の呪文爆弾

デッキの枠を埋めるアーティファクトや、シルバーバレットには選択肢が豊富に用意されています。ゲームプランを遂行するためにも、序盤から相手を妨害するためにも1マナ域のカードは必ず多く採用しましょう。《真髄の針》《黄鉄の呪文爆弾》《虚無の呪文爆弾》は大した妨害手段に思えないかもしれませんが、ゲーム速度を少し遅くしてくれることも多いです。ゲームを長引かせる、というのは非常に重要なことですからね。

胆液の水源精神石弱者の剣罠の橋

《胆液の水源》は、すでに《弱者の剣》を引き込んでいる際に《ゴブリンの技師》の良いサーチ先となります。《屑鉄さらい》《ゴブリンの技師》の良き相棒です。《精神石》は厳密にはただの土地ではありませんが、いかにこのデッキがマナに飢えているかがよくわかる1枚となっています。《弱者の剣》の2枚目を採用しておくと、軽度の墓地対策に強くなりますが、これは採用を見送ることも十分に考えられますね。《罠の橋》は特定の相手には効果抜群であり、これ1枚で沈黙してしまうデッキもありますが、そういった相手が多いわけでもないので、こちらもデッキから抜きやすいカードです。

練達飛行機械職人、サイイシュ・サーの背骨

メインデッキに採用している《練達飛行機械職人、サイ》は強力なカードですが、相手がこれを上回るプランを取ってきた場合にはサイドアウトする傾向にあります。《イシュ・サーの背骨》に特別な思い入れがないと言えば嘘になりますし、奇抜すぎるカードかもしれません。ですが、ロングゲームを目指すデッキにとっては、相手のどんな驚異的なパーマネントにも対処できることには大きな価値があります。今はトロンが数を減らしていますが、仮にいたとしても《減衰球》は有効な対抗策とならなかったでしょう。《減衰球》を設置しても《大いなる創造者、カーン》は4マナで唱えられるのですから。

《大いなる創造者、カーン》の名が挙がったところで、ステップ5へ移行しましょう。

ステップ5:問題を鮮明にする

ボーラスの工作員、テゼレット大いなる創造者、カーン儀礼的拒否

トロンが繰り出す《大いなる創造者、カーン》はウルザソプターにとって大きな弊害となります。メインデッキから搭載された対策カードであり、ソプターコンボを封じることができるのです。《最高工匠卿、ウルザ》が攻撃に参加しなければならなくなりますが、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を唱えてくるような相手に対してはあまりにも頼りないプランでしょう。

《大いなる創造者、カーン》への最善の解答は、《ボーラスの工作員、テゼレット》《儀礼的拒否》ではないでしょうか。《ボーラスの工作員、テゼレット》は総じて強力なカードですが、《大いなる創造者、カーン》に対面した状況では的確な解答にならない可能性があります。他方、《儀礼的拒否》《大いなる創造者、カーン》に対しては理想的な対策ですが、対象があまりにも狭すぎるという欠点があります。今現在はトロンが少ないため、この問題をなきものとして扱っていますが、いずれは向き合うべき日がくるでしょう。

虚空の力線

ホガークヴァインが環境のベストデッキである以上、《虚空の力線》は使うべきです。ですが他のプレイヤーもアーティファクトではなく《虚空の力線》で墓地対策をするようになってきていますから、《儀礼的拒否》の用途の狭さはここでも仇となりますね。

ウルザソプターを使うプレイヤーとホガークヴァインを使うプレイヤー両方から聞いたところでは、アーティファクトと《虚空の力線》による墓地対策に加えて無限コンボがあると、ウルザソプター側が有利になるそうです。ただ、私自身はテストできていないので、あまり大きなことは言えません。

時を解す者、テフェリー

暫定的に構築した残りのサイドボードは、ありきたりな妨害手段と脅威です。《時を解す者、テフェリー》はいずれの役割も果たし、本来このデッキには触れない厄介なエンチャントにも対応できるようになっています。とはいえ、《最高工匠卿、ウルザ》はコンボパーツでありながら単体で脅威となるため、《飛行機械の鋳造所》を妨害してくるエンチャントに《断片化》などで対処するよりも、回避する方向性の方が良いように感じます。

飛行機械の鋳造所虚無の呪文爆弾

私のデッキリストでは、メインカラーがグリクシスになっていますが、《飛行機械の鋳造所》の混成マナを見ての通り、土地を入れ替えればジェスカイにすることも容易です。白のカードをサイドボードで使いたいならば、考慮してみると良いでしょう。ただ、《虚無の呪文爆弾》でキャントリップしづらくなる点には注意ですね。

まとめ

簡単にではありますが、私と友人のジュリアン・ヘンリー/Julien Henryがどのような思考をたどり、昨今人気になりつつあるウルザソプターの骨子を組み立てていったのかをご紹介しました。冒頭でお話した通り、《最高工匠卿、ウルザ》はまさにデッキの組み方が見えづらいカードです。粗削りな現状のデッキリストですら競技レベルに達しているのですから、私たちはまだその強さの片鱗を見たに過ぎないのでしょう。

それではまた次回。お元気で。

ピオトル・グロゴゥスキ (Twitter / Twitch)

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Piotr Glogowski マジック・オンライン上でkanisterとしてその名を轟かせ、Twitchの配信者としても人気を博す若きポーランドの雄。 2017-2018シーズンにはその才能を一気に開花させ、プロツアー『イクサラン』でトップ8を入賞すると続くワールド・マジック・カップ2017でも準優勝を記録。 その後もコンスタントに結果を残し、プラチナ・レベル・プロとしてHareruya Prosに加入した。 Piotr Glogowskiの記事はこちら