移り行くモダン環境を振り返る

Goncalo Pinto

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/07/19)

はじめに

『モダンホライゾン』の登場により、モダンの中には大量の“新たな血”が流れるようになりました。大きな大会も多く控えていますので、昨今のモダンの変化を簡単に振り返っておくことは、きっとみなさんの役に立つことでしょう。

今回の記事で取り扱う内容は以下の通りです。

まずは環境の脅威から見ていくことにします。

暗黙の存在、ホガークヴァイン

甦る死滅都市、ホガーク狂気の祭壇屍肉喰らい

ホガークヴァインの実力は本物でした。『モダンホライゾン』の発売前からブリッジヴァインとして存在していたアーキタイプでしたが、《甦る死滅都市、ホガーク》《狂気の祭壇》《屍肉喰らい》が新戦力として加わりました。その結果、何らかの措置をとらなければならないほど、デッキパワーが飛躍的に高まったのです。そして《黄泉からの橋》が禁止になりました。

2ターン目までに《復讐蔦》の隣に8/8トランプルとその他クリーチャーが並ぶようになりました。そこに《狂気の祭壇》も合わされば、ほぼリソースを使うことなく2ターン目に相手を一気に倒すことも可能だったのです。

この動きに基本的に必要となるのは、《甦る死滅都市、ホガーク》《狂気の祭壇》を戦場に揃えることです。自らの山札を8枚削り、《黄泉からの橋》を2枚、あるいは《黄泉からの橋》ともう一体の《甦る死滅都市、ホガーク》を墓地に落とすことで、自分の山札をほぼすべて墓地に送ることができるため、最終的に相手をライブラリーアウトさせることができます。

ジェイコブ・ナグロ/Jacob Nagroが素晴らしい記事を書いていますので、かつてのホガークヴァインの動きに興味がある方はご参照ください。

環境があまりにも歪んでいたため、《黄泉からの橋》の禁止は必要だったと思います。《外科的摘出》をメインデッキで採用する構築が流行っていたにも関わらず、メインデッキに《虚無の呪文爆弾》《虚空の力線》などが採用されていました。それでもなお、ホガークヴァインはMagic Onlineのリーグで次点のデッキと比べ3倍以上の5-0を達成したのです。このデッキの問題点は、2ターン目に対策カードを使われなければ、かなりの確率で勝ってしまうことでした。これが健全だとは言えません。

黄泉からの橋

私も禁止の対象として《黄泉からの橋》が良いのではないかと思っていました。《狂気の祭壇》によるライブラリーアウトコンボができなくなりますし、素のデッキパワーもある程度抑えることができるからです。フェアデッキのなかには《屍肉喰らい》+《墓所這い》+《黄泉からの橋》といった墓地シナジーに太刀打ちできないデッキもあります。

《黄泉からの橋》はマジックのカードらしさがないことも禁止の後押しとなったのではないか、というのが個人的な見解です。ウィザーズとしては新規のプレイヤーにとってモダンを魅力的なものにしたいでしょうしね。

この禁止改定でホガークヴァインの勢いが止められたかというと、そんなことはないと思います。今後もホガークヴァインは存続していくでしょうが、もっとフェアなデッキになっていくのは確かです。さらなる措置が必要かと問われれば、おそらく必要だと考えています。しかしながら、今は環境が適応していくかどうかを見守った方が良いでしょう。ミシックチャンピオンシップ・バルセロナ2019や数多くのグランプリが今後ありますから、参加者たちが何らかの答えを導き出すはずです。この話題については夏が終わるころにまた話すことにしましょう。

新生化

ネオブランドにも何らかの措置をとった方が良いと思いましたが、デッキが安定しないことを理由にプレイヤーたちが身を引いてくれることを期待したいところです。突出した結果を出していないからといって、必ずしもネオブランドのようなデッキが禁止なしのままモダンで許されるわけではないですからね。

禁止改定が出るまでの間、私はモダンの調整をひと休みし、Magic Online Championship予選(『モダンホライゾン』のシールド)に参加することにしました。

Hogaak

さて、続いては新しいデッキについてお話しましょう。

新たに生まれたデッキ

ウルザソプター

今の私のお気に入り、ウルザソプターからご紹介しましょう。

最高工匠卿、ウルザ飛行機械の鋳造所弱者の剣

新カードである《最高工匠卿、ウルザ》により、《飛行機械の鋳造所》《弱者の剣》のコンボは今や無限コンボとなりました。『モダンホライゾン』の発売前は、1マナにつきトークン1体とライフ1点回復につながるコンボでした。具体的には、《飛行機械の鋳造所》のコストとして1マナで《弱者の剣》を生け贄に捧げ、生成された1/1飛行機械トークンに《弱者の剣》が墓地から再び装備されるという動きがマナの分だけループされます。

ここに《最高工匠卿、ウルザ》のマナ能力が加われば、《弱者の剣》をタップして《飛行機械の鋳造所》に必要なマナが補填できるため、無限ループが発生します。無限のトークンで無限の青マナを出し、《最高工匠卿、ウルザ》《束の間の開口》効果を好きなだけ起動し、やりたい放題できるのです。

ギラプールの霊気格子研磨基地イシュ・サーの背骨屑鉄さらい

実質的なゲームエンドに持ち込むことを目的としたカードは1枚だけ搭載されていることが一般的です。例を挙げるならば、《ギラプールの霊気格子》《研磨基地》《イシュ・サーの背骨》(厳密にはゲームエンドになりませんが、相手のパーマネントを根絶やしにできるため、勝利の芽を摘むことができます)・《屑鉄さらい》が該当します。

《屑鉄さらい》《弱者の剣》を生け贄に捧げるたびに《黄鉄の呪文爆弾》を手札に戻し、《黄鉄の呪文爆弾》を起動するたび《オパールのモックス》を回収して赤マナを捻出できるようになるため、この動きを繰り返すことで相手のライフを削りきることが可能です。

ゴブリンの技師

このデッキは基本的に青単であり、タッチの要素は《ゴブリンの技師》《飛行機械の鋳造所》の混成マナですから、デッキ全体の色としてはジェスカイかグリクシスになります。この点についてはピオトル・グロゴゥスキ/Piotr Glogowskiが自身の記事にて考察していますので、ぜひご覧になってみてください。

エスパーメンター

瞬唱の魔道士発掘ヴリンの神童、ジェイス

おかしな話ですが、たった1枚のコモンカードがモダンで使えるようになったことで実現したデッキです。《発掘》があれば何度もクリーチャーを蘇らせることができるため、主な勝ち筋をクリーチャー4枚だけに絞ることが可能となっています。《瞬唱の魔道士》《ヴリンの神童、ジェイス》《発掘》と相性が良く、たった1~2枚の消費で何もない盤面から強固な盤面を形成できるのです。

イーオスのレインジャー長死の影

勝ち筋を《イーオスのレインジャー長》《死の影》にした全く新しい型も登場していますが、私は《僧院の導師》のタイプの方が良いと感じています。

強化された既存のデッキ

ジャンド(《レンと六番》)

呪詛呑み歴戦の紅蓮術士
疫病を仕組むもの溜め込み屋のアウフWeather the Storm

『モダンホライゾン』から多様なカードを取り入れたデッキがジャンドです。《呪詛呑み》《歴戦の紅蓮術士》といった影響力の大きいものから、《疫病を仕組むもの》《溜め込み屋のアウフ》《嵐の乗り切り》などの比較的替えが利きやすいものまで豊富な強化を得ました。ですが、中でも注目なのが《レンと六番》であり、「Wrenn and Tix(レンとチケ)」と呼ばれないのはそれ相応の強さがあるからです。

レンと六番

[+1]能力は青以外のアドバンテージ源であると同時に、着地してすぐに忠誠度を4まで引き上げることができます。回収した土地は《ヴェールのリリアナ》《歴戦の紅蓮術士》の効果で捨てても良いですし、単純に土地を伸ばしても良いでしょう。奥義はどんなフェアデッキもなす術がないほど強力なものであり、[-1]能力は環境でよく見かけるパーマネントを数多く対処できます。《闇の腹心》《若き紅蓮術士》《貴族の教主》《呪詛呑み》・[-3]能力を使った後の《時を解す者、テフェリー》《ぎらつかせのエルフ》《荒廃の工作員》・5色人間の半数のクリーチャー。例を挙げればキリがありません。

イゼットフェニックス(《炎のアリア》)

溶岩の投げ矢マグマの陥没孔炎のアリア

イゼットフェニックスも《溶岩の投げ矢》《マグマの陥没孔》といった強化を受けましたが、何よりも大きな収穫だったのは《炎のアリア》であり、異なる角度からの攻めが可能になりました。《紅蓮術士の昇天》も同じような役割を果たしていましたが、《炎のアリア》には2つの大きな利点があります。

まず、墓地に依存しなくなります。ホガークヴァインの隆盛によってメインデッキに墓地対策が多く使われるようになった、とお伝えしたことを覚えているでしょうか。《紅蓮術士の昇天》は間接的にその被害を受けるのです。ホガークヴァインは以前ほどの勢力ではなくなるでしょうが、墓地対策が依然としてサイドボードに残ることは間違いなく、従来も《弧光のフェニックス》《信仰無き物あさり》の妨害に一役買っていました。対して《炎のアリア》には墓地対策が効きません。戦場に出たときに相手に10点のライフを献上してしまいますが、すぐに取り返すことができます。高校で悪い成績をとったことでクリスマスにもらったPS2を父に取り上げられ、取り返すのには時間がかかりましたが、《炎のアリア》はそれよりも早くライフを取り返せるでしょう。

《炎のアリア》《紅蓮術士の昇天》よりも優れているもうひとつの点は、一見わかりづらいですがデッキ構築の制約にあります。《紅蓮術士の昇天》が機能する確率を最大化するためには同名カードを4枚採用し、非常にわかりやすい構築にしなければなりません。他方、《炎のアリア》はそういった制約を気にすることなく、好きなだけ1枚挿しできます。キャントリップが多いデッキならではの強みを存分に発揮できるわけですね。

《献身のドルイド》コンボ(《ルーンの与え手》)

エラダムリーの呼び声ルーンの与え手

《エラダムリーの呼び声》も大きな強化でしたが、サーチ効果が多いモダンでは《ルーンの与え手》ほどの影響力はありません。

以前から2ターン目の《献身のドルイド》は恐ろしい存在でしたが、大半のデッキは通常1マナの呪文で効率的に対処してきました。ところが1ターン目に《ルーンの与え手》を出せば、少なくとも同じ1マナを払って相手は除去しなければならず、《献身のドルイド》のためにもう1枚の除去を必要とするようになります。マナカーブ通りに展開できる《呪文滑り》だと考えれば良いでしょう。

感染(《厚鱗化》)

厚鱗化

情報が公開された当初から大きな注目を集めたカードであり、今もなおその強さを証明し続けています。クリーチャーのサイズを強化する呪文の3枚分に相当するだけでなく、《強大化》と違って2ターン目から唱えることができるため、2~3ターン目に勝利できる確率が大きく高まったのです。このカードについては多くを語るまでもないでしょうが、今後も感染で採用されていくと思います。

青白コントロール(《否定の力》)

覆いを割く者、ナーセット時を解す者、テフェリー否定の力

カードアドバンテージをもたらす超強力な3マナのプレインズウォーカーが2種も登場したため、《否定の力》は青白コントロールで特に活躍しています。2種のテフェリーや《精神を刻む者、ジェイス》のマイナス能力がクリーチャーを対処できることを考えれば、打ち消したいのはクリーチャー以外の呪文のはずです。私の友人であるリカルド・ベージャ/Ricardo Bejaはブリュッセルで行われたRed Bull Untapped予選で準優勝をしたので、その大会レポートを晴れる屋に寄稿するでしょう。きっと彼は《否定の力》について賞賛の言葉を送っているはずです。

(編注: この記事はリカルド選手のレポートが掲載される前に執筆されたものです。)

このカードをプレイテストしたチームはお見事だと思います。かつてはモダンで《意志の力》が使えるようになって欲しいと言っていましたが、このカードの方が断然優れています。相手のターンにだけピッチスペルとして使えるため、フェアなデッキにとってのみ魅力的な効果です。レガシーにおけるスニークショーのように自分の呪文を押し通すために使うことはできないデザインとなっています。


この項はここで終わりとなりますが、新しいデッキ・カードが実際に動いているところをご覧になりたい方は、私たちの同胞であるアーネ・ハーシェンビス/Arne Huschenbethの配信を見ると良いでしょう。彼はほぼ全てのデッキを回しています。彼のチャンネルは要チェックですよ。

ロンドンマリガン

モダンに起きた大きな変化は『モダンホライゾン』と《黄泉からの橋》の禁止だけではありません。ロンドンマリガンが本採用となり、バンクーバーマリガンに取って代わります。スタンダードやリミテッドに関しては諸手を挙げて賛成ですが、モダンのような旧フォーマットについては不安となる要素がいくつかあります。モダンでの採用には賛成なのですが、デッキの公開制度と合わせた方がより良いだろう、というのが私の意見です。

思考囲い闇の腹心致命的な一押しタルモゴイフ

ロンドンマリガンの理論上の問題点は、自分のゲームプランしか頭にない型破りなデッキが恩恵を受けることにあります。キーとなるカードが含まれる5枚の手札をキープし、余分なカードを山札の底に戻すことも容易です。かたやジャンドのようなフェアなデッキがダブルマリガンする場合、不公平な状況が発生します。相手のデッキがバーンなのかネオブランドかもわからない状況で、《思考囲い》《闇の腹心》を手札に残すべきか、あるいは《致命的な一押し》《タルモゴイフ》を残すべきかをヒントなしで判断しなければならないのです。デッキが公開されていれば、押し付ける側だけではなく、対応する側もロンドンマリガンの恩恵にあずかることができるでしょう。

脅威よりも解答が遅れを取っているフォーマットでは、ロンドンマリガンがアンフェアなデッキを使うひとつの理由になりかねないため、デッキの公開制度がモダンのイベントでもっと採用されるようになることを願っています。

さいごに

何か質問がある方はTwitterのダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってくださいね。みなさんの都合に合わせて、英語・ポルトガル語・スペイン語で対応するつもりです。ロシア語や日本語でもがんばって返信できるよう最善を尽くします!

ではまた次回!

ゴンサロ・ピント (Twitter)

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Goncalo Pinto ポルトガル出身の古豪。同郷のマルシオ・カルヴァリョをはじめHareruya Latinの面々と親交が深く、彼らと共に日々研鑽を積んでいる。 プロツアー『ドミナリア』ではマルシオと共にトップ8へと勝ち進み、準決勝にて同郷対決を制して準優勝を記録。見事にゴールドレベルを確定させてHareruya Prosへと加入した。 Goncalo Pintoの記事はこちら