By Kazuki Watanabe
グランプリ・神戸2017を一週間後に控えた、この日。
高田馬場に多くのモダンプレイヤーが集った。その数、330名。晴れる屋トーナメントセンターに用意された座席すべてが埋まり、長い一日が始まった。
さて、この規模のトーナメントともなれば、殿堂、スポンサードプロ、草の根大会の強豪と集うプレイヤーも様々だ。
その中には、”かつて神であったもの”の姿もある。
ここでお送りするのは、第9期モダン神挑戦者決定戦の決勝。現モダン神、松田 幸雄への挑戦権のかかった一戦である。
一人は、パシス ジャック ニコル(東京)。晴れる屋で日々友人たちと切磋琢磨し、3月に開催されたグランプリ・静岡2017春では15位に入賞を果たした。見事にプロツアー『破滅の刻』の権利を獲得した新進気鋭のプレイヤーである。その実力の高さはプロプレイヤーも認めるところで、今回も「グリクシス《死の影》」を使用し、スイスラウンドを無敗で突破している。
対するは、瀬尾 健太(埼玉)。
第2期、第3期のスタンダード神……そう、彼こそが“かつて神であったもの”である。「エルドラージトロン」を手に、スタンダードからモダンにフォーマットを変え、神挑戦者決定戦に舞い戻ってきた。
トップ8に8種類のデッキが入賞した今大会。モダンのトップメタ同士が、この決勝で対戦する。グランプリを控えたプレイヤーにとっては、そういった意味でも注目が高い一戦であろう。
しかし、これから少し。ほんのわずかな時間は。
しばらく先の未来のことは忘れて、“神を目指す者同士の闘い”にお付き合い頂きたい。
Game 1
瀬尾が《ウルザの鉱山》を場に出し、《探検の地図》を唱えたところからゲームが開始。
対するパシスは《血染めのぬかるみ》。即起動して、ライフを17まで減らし《湿った墓》をアンタップイン。《血清の幻視》を唱える。
瀬尾は《ウルザの魔力炉》。そして、2ターン目にしてゲームを大きく傾ける。《虚空の杯》、X=1!
パシスの「グリクシス《死の影》」には、メインボードから25枚もの1マナのカードが採用されている。デッキ名ともなっている《死の影》や、《黄金牙、タシグル》《グルマグのアンコウ》を早々と盤面に登場させるための《思考掃き》。優秀な手札破壊である《思考囲い》《コジレックの審問》といったそのすべてが、この瞬間に虚空に捕らえられて機能を停止した。
手札を眺めながら苦笑いをしたパシスは、《汚染された三角州》をプレイしてターンを返す。
ターンを受けた瀬尾。《探検の地図》を起動して残る1枚を探すかと思われたが、手札から《ウルザの塔》が盤面に。3枚の土地が揃い、潤沢になったマナを活かして《現実を砕くもの》。これにはたまらず《終止》が飛ぶ。手札を1枚捨てねばならないのだが……。
瀬尾「まあ、1マナ捨てるよね」
応えるかのように、パシスは逡巡することなく手札を1枚墓地へ落とす。
瀬尾はここでようやく《探検の地図》を起動。「どうするかな……」と悩みながら、一度公開した《ウギンの聖域》をデッキに戻し、《幽霊街》を選び直した。
《精神石》を唱えて即座に起動。続けて、先ほど手札に加えた《幽霊街》をプレイし、《作り変えるもの》を戦場に送り出す。
パシスのアップキープに《幽霊街》を起動。《血の墓所》が破壊され、代わりに《島》が戦場に。
瀬尾 健太
瀬尾は静かに《作り変えるもの》で攻撃。パシスは《瞬唱の魔道士》を瞬速で唱えてブロック要員に。《作り変えるもの》が墓地に落ち、公開されたデッキトップは《探検の地図》。まだまだ土地を用意できそうである。
手札から2枚目の《幽霊街》。それを再びアップキープに起動して《湿った墓》を破壊する。今回も《島》が戦場に置かれた。続けて《探検の地図》を起動し、3枚目の《幽霊街》を手札に加える。
さて、しばらく瀬尾の動きばかりを記しているが、これはパシスのターンの記述を忘れているわけではない。ここ数ターン、何もせずにターンを終えているためだ。
その原因を、ここで瀬尾が《難題の予見者》によって暴く。公開された手札は……。
《思考囲い》《思考囲い》《頑固な否認》《死の影》《死の影》、そして《蒸気孔》。
パシスに降り掛かった難題。それは、“手札が1マナのカードで埋め尽くされていること”であった。
安全を確認した瀬尾は、《幽霊街》で三度土地を破壊。さらに《現実を砕くもの》を唱えて、ゲームを砕ききった。
瀬尾 1-0 パシス
瀬尾はじっくりとデッキをチェックし、2ゲーム目のプランを錬る。
対するパシスは一足先にサイドボードを終えて、丁寧にシャッフルを繰り返す。1ゲーム目は、《虚空の杯》1枚によってデッキ全体の動きが滞り、手札のカードを眺める場面が続いた。その悔しさは、彼の心中に突き刺さっているはずである。両者がシャッフルを終え、静寂が戻ったフィーチャーエリアに、
パシス「先手貰います」
という声が少し大きく響いたのは、きっと気のせいではないだろう。
Game 2
《血染めのぬかるみ》、《エルドラージの寺院》と互いに並べ、まず動き出したのは先手のパシス。2ターン目のメインフェイズに《血染めのぬかるみ》を起動して《湿った墓》、さらに手札から《蒸気孔》と続けてアンタップイン。残りライフは15。《血清の幻視》を唱えて手札を補充し、占術は2枚ともデッキトップに据える。
対する瀬尾。1ゲーム目では2ターン目に設置した《虚空の杯》でパシスのデッキを機能不全に陥らせたが、2ゲーム目は”エルドラージ”の真骨頂を見せつける。
手札からプレイしたのは2枚目の《エルドラージの寺院》。そして戦場に送り出されたのは、《難題の予見者》。
公開された手札は、《通りの悪霊》《頑固な否認》《頑固な否認》《思考掃き》《瞬唱の魔道士》《黄金牙、タシグル》。悩んだ末、《思考掃き》を選択。
2ターン目にして盤面に4/4の驚異が登場し、墓地を肥やす《思考掃き》を失いはしたものの、手札は潤沢。パシスは落ち着いてゲームを進めていく。まずは《通りの悪霊》を「サイクリング」。さらに《溢れかえる岸辺》をプレイして即起動し、《島》を戦場に。残りライフは12。
増やした墓地を「探査」に充てて、《黄金牙、タシグル》。順当な展開、と言いたいところではあったが、瀬尾がその展開を打ち砕く。まず、瀬尾が《四肢切断》。これは、先ほど見ていた《頑固な否認》で打ち消される。打ち消された《四肢切断》を墓地へ置きながら、瀬尾は静かな声でこう告げた。
瀬尾「じゃあ、《四肢切断》」
2枚目を盤面に叩きつけ、《黄金牙、タシグル》を除去。遮るもののいなくなった戦場で《難題の予見者》が攻撃を仕掛ける。
さらに2体目の《難題の予見者》。ひとまず《瞬唱の魔道士》は戦場に滑り落として回避させるも、公開された《頑固な否認》《仕組まれた爆薬》の後者が追放された。さらに《大祖始の遺産》を唱えて、相手の「探査」を阻む準備も整え、瀬尾がゲームを支配していく。
盤面に並ぶ2体の《難題の予見者》。残りライフ8点をぴったり削りきる打点を前に、パシスのドロー。
パシス ジャック ニコル
手元のメモに目を落として自分のライフを確認。そして、ドローしたカードを唱える。デッキの代名詞、《死の影》。現在のサイズは、5/5だ。
瀬尾も互いのライフを確認してから、小さく頷く。《難題の予見者》を上回るサイズにはなっているが、勝利を遠ざけて死をもたらすほどではないと判断し、《終末を招くもの》を唱えて戦線を固める。
続くパシスのドローは、2体目の《死の影》。早速戦場に送り出し、盤面のパワー合計は10。
瀬尾も追加の戦力を戦場へ。4マナを注ぎ込み、《歩行バリスタ》をX=2で唱え、さらに《終末を招くもの》の能力でドロー。対するパシスも《思考掃き》でドローを進める。
エンドフェイズ、瀬尾は《終末を招くもの》で本体に1点ダメージを飛ばす。残りライフ7点。《死の影》を成長させることにはなるが、着実に勝利に向かって近づいていく。
再び《歩行バリスタ》をX=2で唱えて戦力をさらに増強。そして、《難題の予見者》《難題の予見者》《歩行バリスタ》で攻撃を仕掛ける。パシスは一縷の望みをかけて《瞬唱の魔道士》を瞬速で唱えるが、《歩行バリスタ》の砲撃が即座に襲いかかる。
パシスは《瞬唱の魔道士》を墓地に鎮め、相手の打点をもう一度確認してから、右手を差し出した。
瀬尾 2-0 パシス
「かつて神であったものが、再び神となるための戦いへと挑む」
これだけでも、第9期モダン神決定戦の序章としては十分だ。
しかし、序章はそれだけでは終わらない。その序章を現在進行系で綴っている筆者の脳内には「事実は小説より奇なり」や「因縁」といった言葉が飛び交い続けている。
その飛び交う言葉の源泉を、少しだけ解説しておこう。今回勝利した結果、瀬尾はモダン神への挑戦権を獲得した。相手は、冒頭にも示したとおり、現モダン神である松田 幸雄である。
そして、両者はかつて、とある場で戦いを繰り広げている。そう、神決定戦で。
第3期スタンダード神決定戦
2年前に開催された第3期スタンダード神決定戦で、瀬尾は神として、松田は挑戦者として戦いを繰り広げた。その戦いは、瀬尾の防衛で幕を閉じている。
その後、敗れた松田は第6期モダン神決定戦で勝利し、第7期、第8期と連続防衛を続けている。
モダン神としての松田は、敗北を知らない。しかし、かつて神決定戦という場で敗れたことがある。
そう、瀬尾は神決定戦という場で、松田 幸雄に唯一勝利した経験を持つ者なのだ。
果たして、瀬尾は再び松田に勝利することができるのか。それとも、モダン神として松田が防衛を続けるのか。
無論、それを記すことができるのは、さらにしばらく先の未来である。今は、この場で記すべきたった1つのこと、つまり“神決定戦の序章にして、神挑戦者決定戦の終章”を締め括る一文を書いて、このカバレージを終えたい。
第9期モダン神挑戦者決定戦、優勝は瀬尾 健太!
おめでとう!!
この記事内で掲載されたカード
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする