By Yuya Hosokawa
第9期モダン神挑戦者決定戦。いよいよ来週に迫ったグランプリ・神戸2017の前哨戦となる今大会、330人のプレイヤーが集まって鎬を削りあったが、気付けばここには8名のプレイヤーが立つのみとなった。
トップ8のアーキタイプがすべて異なるという、群雄割拠のモダン環境を象徴する結果となったこの決勝ラウンド。その中から、アブザンカンパニーを駆る山本と、リビングエンドを使用する宇田川の戦いをお届けしよう。
まずはスイスラウンドを堂々の1位で突破した山本 康平。
山本 康平
関東ではすっかりお馴染みとなった「チーム豚小屋」に所属する山本は、BIG MAGIC OPEN Vol.1 スタンダードで優勝経験のあるトーナメントプレイヤーだ。その実績からスタンダードの巧者として知られる山本だが、モダンもお手のものなのだろう。
プロツアーチャンピオンに輝いた瀧村 和幸をはじめ、グランプリトップ8やプロツアー参加ならば何人もが経験している「チーム豚小屋」。だが神への挑戦権を獲得したことのあるプレイヤーは、まだ一人もいない。
新たな実績解除に向けて。豚小屋の名前を背負い、山本が準々決勝を戦う。
そして山本と対峙するのが、モダンを主戦場としている宇田川 徹だ。
宇田川 徹
宇田川は、晴れる屋やBIG MAGIC池袋店に足しげく通いその腕を磨く、生粋のモダンプレイヤー。調整仲間達と共に築き上げたリビングエンドを手に、神への挑戦を目指す。
静かに対戦テーブルでシャッフルする宇田川。そんな彼を真剣な眼差しで見据えるプレイヤーの姿に見覚えがあった。
景山 広樹だ。
第8期モダン神挑戦者決定戦で惜しくも準決勝で敗北してしまった景山は、生粋のリビングエンド使いとして知られている。そして宇田川が共に調整をしていた相手こそが、景山なのだ。
前回自身が成し遂げられなかった神との闘いに、それも自らの愛機で、仲間の宇田川が挑む。この戦いを見守らないわけがない。想いを託された宇田川。その眼に闘志が宿っているのが見て取れる。
山本と宇田川。チーム豚小屋と景山、それぞれ背負うものがある2人が、火花を散らす。
Game 1
スイスラウンドを1位で突破した山本の《寺院の庭》から《極楽鳥》で幕が開けた準々決勝。続けて《臓物の予見者》と《療治の侍臣》を並べて一気にコンボ成立にリーチをかけ、先手として最高のスタートを切る。
だがいくら戦場にクリーチャーを並べようと安心できないのが宇田川の使うリビングエンド。場にクリーチャーを並べるのが山本のアブザンカンパニーなら、宇田川の専売特許は墓地にクリーチャーを送り込むこと。
《砂漠セロドン》を1ターン目に「サイクリング」し、そのまま《通りの悪霊》を1回、2回、そしてなんと3回。1ターン目にして4体のクリーチャーが墓地へと溜まる。
墓地の4枚のクリーチャーと、宇田川が立たせている2枚の土地を山本は見つめる。
リビングエンドは「続唱」呪文で必ず《死せる生》がめくれるようにするため、2マナ以下の呪文は《死せる生》しか入っていない。2マナでは「サイクリング」することしかできないのだ。
もちろんそれを理解している山本は、コンボパーツの最後のピースである《台所の嫌がらせ屋》をプレイする。《療治の侍臣》が戦場にいるおかげで《台所の嫌がらせ屋》は「頑強」し続けるため、これが着地すれば無限ライフとなる。
しかし、コンボが成就することはなかった。
宇田川はまず《猿人の指導霊》を追放して3マナ目をひねり出すと、《内にいる獣》で《臓物の予見者》を破壊する。
更に返ってきたターンで《悪魔の戦慄》をキャスト。ライブラリーから《死せる生》が姿を見せ、一瞬にして戦場に《通りの悪霊》と《砂漠セロドン》が現れる。
これを受けて山本。盤面が一掃されはしたものの、戦場には《臓物の予見者》 (と-1/-1カウンターの乗った《台所の嫌がらせ屋》) が残っている。3/4の群れと6/4の前には心もとないが、無限コンボがある。《永遠の証人》で《療治の侍臣》を回収し、これで手札に揃った《療治の侍臣》と《台所の嫌がらせ屋》を展開できれば無限ライフが成立する状態に。
コンボ成立の前に殴り切る必要がある宇田川は、《通りの悪霊》3体と《砂漠セロドン》をレッドゾーンに送り込む。《永遠の証人》が《砂漠セロドン》の攻撃を受け止め、山本のライフは12。
4マナしかない山本はこのターンにはコンボを成立させることができず、《療治の侍臣》を場に出し、2度目の宇田川の攻撃に備える。
宇田川はもちろん全軍攻撃。前のターンと同じように山本は《砂漠セロドン》の前に《台所の嫌がらせ屋》を捧げる。ターンが帰ってくれば無限ライフ。このターンさえ生き残ることができれば。
そんな山本の希望を打ち砕く、宇田川渾身の《暴力的な突発》。
山本 0-1 宇田川
宇田川の一挙手一投足を真剣な眼差しで見つめる景山。まるで自らが準々決勝のテーブルに座っているかのようだ。座るのは宇田川一人。だが彼は一人で戦っているわけではないのだ。
Game 2
星を取り戻さなければならない山本は、このゲームもまずまずのスタートを切る。《草むした墓》から《貴族の教主》、2ターン目に《薄暮見の徴募兵》をキャスト。
宇田川は《通りの悪霊》を「サイクリング」する滑り出し。続けて墓地にクリーチャーを送り込むことはできなかったものの、《猿人の指導霊》を使い《悪魔の戦慄》を打ち、癌となる《薄暮見の徴募兵》を対処する。
先ほどと同じように《死せる生》が吹き荒れた戦場だったが、今回は山本にとってさほど悪い状況ではない。何せ戦場のクロックは《通りの悪霊》だけなのだ。
しかも宇田川は追加のクリーチャーを「サイクリング」することができない。墓地にクリーチャーが溜まらなければ《死せる生》を打たれたとしても山本は損をしない。
そうこうしている内に山本は、《貴族の教主》と《療治の侍臣》、そしてキラーカードとなる《漁る軟泥》を戦場に並べる。
この《漁る軟泥》を前に、動きを止める宇田川。
「サイクリング」クリーチャーをドローしても動くことはできない。《通りの悪霊》によるダメージレースも、《療治の侍臣》と《漁る軟泥》のクロックの方が圧倒的に早い。
静かに時間だけが過ぎていく。宇田川は《漁る軟泥》を警戒して動けずに、また山本も、いつでも墓地を追放できるようにするためにマナを立たせる必要があり、行動を起こさない。
動いているのはお互いのライフだけだった。そして次に行動を起こさなければならないのは、そのライフがより減っている方だ。
即ち、宇田川だった。《悪魔の戦慄》を唱え、《死せる生》をライブラリーから呼び起こす。
対応する形で山本は《召喚の調べ》をキャスト。デッキから呼び出したのは《臓物の予見者》だ。次々とクリーチャーを墓地に送り込んでいくことで、《死せる生》による復活を目論む。
が、宇田川はその瞬間を狙っていた。
山本が《漁る軟泥》を《臓物の予見者》で生贄に捧げるその瞬間を。《砂漠セロドン》を「サイクリング」し、《フェアリーの忌み者》で《漁る軟泥》と《療治の侍臣》を追放する。
この宇田川の好プレイによって、《フェアリーの忌み者》と《砂漠セロドン》が、《極楽鳥》、《臓物の予見者》、《薄暮見の徴募兵》と睨み合うという盤面に。
ひとまずはこのターンを宇田川は耐えた。と、思われたのだったが。
山本が《臓物の予見者》でライブラリーのトップに積み込んでいたのは《残忍なレッドキャップ》。
手札から戦場に現れて2点。そして墓地から戦場に戻り、1点。
山本 1-1 宇田川
気付けば山本の後ろには、グランプリ・東京2016トップ8の加藤 健介が、第6期スタンダード神挑戦者決定戦の決勝で惜しくも敗れた磯 俊治の姿があった。
チーム豚小屋の仲間に見守られながら、山本は最終ゲームに進む。
Game 3
白熱の最終ゲームは、1ターン目を迎える前から始まっていた。先手の宇田川が悩みながらキープを宣言し、その声を聞き、山本もたっぷりと時間を使い、やがて7枚でゲームをスタートすることに決める。
両者は共に自分のターンに2点のライフを支払って終えた。宇田川はフェッチランドを置きながら《通りの悪霊》を「サイクリング」、山本は《草むした墓》をアンタップイン。《極楽鳥》を出す山本のターン終了時に、宇田川は《血の墓所》をタップインで戦場に置く。
いつものようにメインでアクションを起こさない宇田川に、山本は果敢に《臓物の予見者》、《療治の侍臣》を並べる。《死せる生》を打たれても《臓物の予見者》さえいれば山本が損をすることはないのだ。
山本のターン終了時に《イフニルの魔神》を「サイクリング」し、メインフェイズを迎えた宇田川。ここまで静かにプレイしていたが、思わず「難しいな」とこぼす。山本は小さくそれに同意し、静かに盤面を見つめ直す。
《臓物の予見者》、《療治の侍臣》。再びあと1枚で無限ライフという状態。難しいと漏らすのも納得だ。
やがて宇田川はメインで《砂漠セロドン》を「サイクリング」し、セットランドでターンを終える。
立っているマナは2つ。だが《猿人の指導霊》はあるだろう。もし手札に持っていなければ、メインで《砂漠セロドン》を「サイクリング」する理由はない。
とはいえ、《臓物の予見者》をコントロールしている以上、《死せる生》はある程度ケアできているのだ。臆することなく《貴族の教主》と《先頭に立つもの、アナフェンザ》を戦場に加え、一気に宇田川へプレッシャーを与える。
これに応える形で宇田川も動く。自分のメインに入ると《ジャンドの魔除け》を2点ダメージモードで使用し、戦場から《先頭に立つもの、アナフェンザ》以外のクリーチャーが消える。
《先頭に立つもの、アナフェンザ》の攻撃で宇田川のライフは7。更に《歩行バリスタ》がX=2で現れ、事実上のラストターンを迎えた。
《死せる生》を打たなければならなくなった宇田川。山本の墓地には《療治の侍臣》と《臓物の予見者》。《死せる生》を打つためにマナを支払えば、山本は問答無用で無限コンボを決めてくるだろう。それに抗う術はないのだ。
祈るように《遺棄地の恐怖》を「サイクリング」した宇田川。そして《暴力的な突発》に手を伸ばす。程なくして《死せる生》がめくれ、そして山本は墓地の《臓物の予見者》と《療治の侍臣》に触れようとして……。
「待って下さい」
宇田川の一言で、ぴたりと手を止めた山本。
「サイクリング」によって宇田川が手に入れたカードは《フェアリーの忌み者》!
《臓物の予見者》と《療治の侍臣》は戦場に戻ることなく、追放領域に。山本の戦場には《貴族の教主》、《極楽鳥》のみとなり、そこに立ちはだかる《イフニルの魔神》。
《漁る軟泥》をトップデッキした山本だったが、時既に遅し。
宇田川が「サイクリング」を行い、《イフニルの魔神》の誘発を宣言する。
それを聞いて山本は、右手を差し出した。
山本 1-2 宇田川
「もっと良いプランがあったよ」
勝敗が決したその瞬間、景山を含めた友人達が宇田川に声をかける。早速、このゲームのプレイについて検討を始めた。そして宇田川も、激戦を制した直後にも関わらず、景山の言葉に頷いて意見を述べる。
「次の対戦まで時間はどれくらいある?」
そう、ここで戦いは終わりではない。宇田川はデッキを片付けて椅子から立ち上がり、向かう。景山が第8期モダン神挑戦者決定戦で敗れた、準決勝の戦いに。
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