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第6回を迎えたスタンダード神挑戦者決定戦。
参加者257名が集まった全9回戦のスイスラウンドを終え、強豪ぞろいのトップ8で競われたプレイオフ2回戦を経て、勝ち残った2名のプレイヤーたちが、ここに火花を散らす。
優勝賞品のスプリットに関してジャッジから説明がなされ、和やかな雰囲気で話し合われる。どちらともなく分配方法が決定され、互いにデッキシャッフルを終えると、場の空気がピリッと締まったように思われた。
後藤 広行(東京)。
【第2回マナバーン杯】で優勝を収めた経験を持つ彼は、地元のカードショップでFNMに参加中でもドラフトの卓が立てばドロップしてまで参加するという、筋金入りのドラフト好きだ。
そして、リミテッドほどマジックの基礎力を問われるゲームはない。その得物「青赤エルドラージ」を手に、磨かれたテクニックの数々で今日もスイスラウンド最終戦、トップ8進出を懸けたバブルマッチで強豪・山田 拓也(【グランプリ・神戸2014】トップ8)を破った猛者だ。
そして、相対するは磯 俊治(東京)。
ご存知・瀧村 和幸(【プロツアー『戦乱のゼンディカー』】優勝)も所属している関東最強のマジックコミュニティ【チーム豚小屋】でその腕を磨いている彼は、関東の各地の大会に出没している。
そんな彼が今日選んだデッキは「グリクシスドラゴン」。【トップ8プロフィール】ではデッキ選択の理由として“ずっと使っているので”と述べていたが、その使い込みを示すかのようにここまでのプレイオフではストレート勝ちを果たしていた。
長い戦いを経て決勝の舞台まで勝ち残った2人。はたしてこの戦いを収め、和田 寛也への挑戦権を勝ち取るのはどちらになるか――?
Game 1
先攻は後藤。素早くマリガンの判断を下すと、6枚になった手札を見て即座にキープ、占術の判断も速く、ここまでの11回戦の疲労をまったく感じさせない堂々とした佇まいだ。
磯が後攻2ターン目に《ヴリンの神童、ジェイス》、後藤が《次元潜入者》をプレイしたところでゲームが動き始めた。後藤は続く第3ターンに《ヴリンの神童、ジェイス》を一瞥し、数秒手札を眺めたあと、《破滅を導くもの》をプレイし空から3点のクロックを刻み始める。
磯は動かず、不気味にターンを返す。一瞬、2人の視線が交錯する。
後藤は第4ターン目に《難題の予見者》! このETB能力に対応して磯は《残忍な切断》で《難題の予見者》を処理し、1ドローを得たあと手札を公開する。後藤はその手札にあった唯一の攻防の担い手、《ピア・ナラーとキラン・ナラー》を追放した。
続く磯のターン、お返しにと《強迫》で後藤の手札を覗き見る。その中にあったのは《つむじ風のならず者》と《現実を砕くもの》。その濃すぎる戦力を前に、磯は思わず苦い表情を浮かべる。
後藤 広行 |
勝負には綾がある。それを先につかんだのは後藤だった。トップデッキしたのは《幽霊火の刃》。これを早速プレイし、《次元潜入者》に装備して攻撃を仕掛ける。磯は《龍詞の咆哮》でこれを処理しようと試みるが、《次元潜入者》が能力を起動すると公開された磯のトップは《沼》!
磯は深く息を吸い込み、《ヴリンの神童、ジェイス》で《破滅を導くもの》をブロックしつつ「変身」させターンを稼ぐ。
返す磯のターン、《束縛なきテレパス、ジェイス》の「-3」能力による《龍詞の咆哮》で《破滅を導くもの》を焼き、さらに手札から追加の《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイ。青赤エルドラージの怒涛の攻めに、徹底抗戦の構えを見せる。
後藤はついに5枚目の土地を引き込み、《現実を砕くもの》で攻撃を仕掛ける。ジェイスと自身を交互に指さしながら「対象は?」と磯が聞くと、「んー……プレイヤーかな」と後藤が応じる。これで磯のライフは4になり、いよいよ後がなくなった。
磯は2枚目の《ヴリンの神童、ジェイス》を「変身」させ、墓地から《残忍な切断》を唱えて《現実を砕くもの》をディスカードしながらも処理。さらに3枚目の《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイする。
再び更地にされてしまった後藤だが、すぐに二の矢を継ぐ。《強迫》によってすでに見えていた《つむじ風のならず者》と、先ほど“離脱”に成功した《次元潜入者》を並べて一挙に攻撃する。磯は《つむじ風のならず者》を《ヴリンの神童、ジェイス》でブロックしながら能力を起動し、《闇の掌握》で飛行機械トークンを除去。《次元潜入者》の2点を受けて、残りライフは2。
追い詰められた磯は最後のドローカードをおそるおそるめくるが……状況を変えるカードは引けず。
後藤 1-0 磯
両者じっくりと考え込みながらサイドボードしていく。
第1ゲームは《難題の予見者》に《ピア・ナラーとキラン・ナラー》を抜かれてからというもの、まったくクリーチャーを引くことができずに防戦一方のまま青赤エルドラージの圧倒的な手数に飲み込まれてしまった磯。
しかし、サイドボードからはアンチ青赤エルドラージとなりえる《コラガンの命令》が入る。はたして第2ゲームで巻き返しを図れるか?
対する後藤はマリガンを感じさせない圧倒的なスピードでクリーチャーを展開し、すべてのリソースをダンプしたうえで勝利をもぎ取った。青赤エルドラージかくありきといった動きである。
線の細いビートダウンデッキである青赤エルドラージにとって、序盤にどれだけライフを詰めることができるかは重大な課題である。第1ゲームはきれいに攻め切ることができたが、第2ゲームはグリクシスドラゴン側の圧倒的な除去の数々を躱し切ることができるか?
2人の表情は闘志に燃え、集中力は最高潮に達しているように思われた。デッキカット、マリガンチェックまでが済まされると、風雲急を告げる第2ゲームが幕を開ける――
Game 2
先行の磯は第2ターン、第3ターンと続けて素早く2体の《搭載歩行機械》を戦場に送り込む。わずかな火力以外のクリーチャー除去手段を持たない青赤エルドラージにとっては対処しにくいクリーチャーだ。
だが、後藤はそれにも動じず《次元潜入者》をプレイし、空からクロックを刻む方策を立てる。磯のライフを2点ずつ詰めながら、少しずつ大きくなっていく《搭載歩行機械》に負けじと第4ターン、第5ターンに2枚の《難題の予見者》を立て続けにプレイ!
1体目は《軽蔑的な一撃》で打ち消すことに成功するも、2体目の登場には磯も思わず面食らい、苦笑を浮かべる。明かされるその手札から後藤は逡巡の様子を見せず、2枚あった《コラガンの命令》のうちの1枚を抜き去る。
だが、磯もここまでのゲームですでに《搭載歩行機械》を4/4と3/3まで成長させており、後藤も迂闊に攻撃できない。着実に《次元潜入者》で攻撃を通し続け、追加のフライヤーである《空中生成エルドラージ》を戦線に追加する。
ここでこれまで沈黙していた磯がついに動く。《コラガンの命令》をプレイし、《粉砕》のモードで自身の5/5となった《搭載歩行機械》を破壊しつつ、《ショック》のモードで《空中生成エルドラージ》を焼く。これによって5体の飛行機械トークンを得た磯はそのうち4体で後藤のライフを削り始める。
これによって唯一ここまで攻撃し続けることができていた《次元潜入者》も迂闊に攻めに行くことができなくなり、後藤は戦場に出ていた3枚の《精霊龍の墓》でじっと耐えることを余儀なくされる。
ここから、壮絶な消耗戦が繰り広げられることとなる。
磯の飛行機械トークンへの明確な回答を持たない後藤は、《次元潜入者》や後続の《空中生成エルドラージ》で不利な交換を繰り返しつつ少しずつ磯の攻め手を削り、毎ターン《精霊龍の墓》を起動することで耐え続ける。
磯 俊治 |
対する磯もライフは5まで追い込まれてしまっているが、《闇の掌握》で後藤の《難題の予見者》を処理し、残った《搭載歩行機械》を6/6→7/7→8/8と成長させ続け、手札を十分蓄えつつ《雷破の執政》などをプレイする。
これは直後の後藤の《空中生成エルドラージ》のチャンプアタックと《次元の歪曲》を合わせた力技で処理されてしまったが、カードアドバンテージ面での利はしっかりと確保しており、磯の継戦能力が失われることはない。
後藤のトップデッキ《現実を砕くもの》や《作り変えるもの》、《不快な集合体》も磯の8/8の《搭載歩行機械》を前に立ち往生し、仕方なく《精霊龍の墓》によってひたすらライフを回復し続け、負けない盤面作りを進めていく。
じりじりとにらみ合う両者。後藤のライフは3桁に突入し、ギャラリーが少し賑わうが、向かい合う2人が緊張を緩めることはない。後藤はそのデッキに入っている《つむじ風のならず者》を引けば即座に勝利が確定する。対する磯は後藤のライフを削り切ることはできないかもしれないが、《束縛なきテレパス、ジェイス》の奥義によって勝利する目は十二分に残っている。
早く《つむじ風のならず者》を引きたい……祈りを込めて引いたカードを見て、一瞬動きを止め、盤面の整理を始める。不気味に計算を始める後藤の様子を磯は固唾を飲みながら見つめる。
引いたカードは2枚目の《現実を砕くもの》! これを戦場に送り込み、後藤は全軍総攻撃の号令をかける。
今度は磯の動きが止まる。ここまでひたすらカウンターを乗せ続けてきた自身の16/16の《搭載歩行機械》を《残忍な切断》で分裂させ、ブロック指定に5分ほどの時間をかけてじっくりと悩み、ついに最適解を見出して完璧に応じる。
~Before~
~After~
なんということでしょう! 思わずそう漏らしたくなるほど、煩雑だった盤面はきれいに片付き《作り変えるもの》の誘発で《現実を砕くもの》が手札に加わる。さっそく後藤が続くターンにそれをキャストしようとすると、それには磯の《軽蔑的な一撃》が刺さる。
しかし、それでも磯の残りわずかなライフを削りに後藤は激しく攻め立てる。《さまよう噴気孔》とともに末裔トークンで攻撃を仕掛け、磯のライフは1に。さらに《海門の残骸》でここまでのチャンプアタックで失ってきたアドバンテージを回復させていく。
磯も押し返す。残りライフ137の後藤を前に《ゴブリンの闇住まい》で《コラガンの命令》を唱え、《幽霊火の刃》を破壊しつつ《ヴリンの神童、ジェイス》を回収する。後藤はこれに《頑固な否認》(「獰猛」は非達成)で応じ、手札を消費する。
一見無意味に損をするだけのプレイにも思えるが、《海門の残骸》の恩恵を受けるためには常にエンプティハンドであることが望ましく、受動的なカードは消費できるときに消費したいという考えだろう。
ついに磯の盤面に《ヴリンの神童、ジェイス》が戦場に舞い降り、さっそく「変身」。「+1」能力で奥義を目指しながら、さらに追加で引き込んだ《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイ。いよいよ磯の反撃が始まるかと思われたが……
磯がターン終了を告げると、後藤の手札から現れたのは《次元潜入者》。激しい消耗戦の末に戦場に舞い降りたフライヤーは、磯のクリーチャーたちの脇をすり抜けながらその最後のライフを削り取っていった。
後藤 2-0 磯
試合時間40分にも及ぶ壮絶な第2ゲーム。擦り切れるような一進一退の攻防を、極限まで研ぎ澄まされた集中力と的確なリソースマネジメント、そして決して好機を見逃さない判断力を見せつけ、スタンダード神・和田への挑戦権を勝ち取った後藤。
後日行われる『第6期スタンダード神決定戦』で、彼と和田はどのような試合を繰り広げるのだろうか? 今から楽しみでならない。
第6期スタンダード神挑戦者決定戦、優勝は後藤 広行(東京)!
おめでとう!!