Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/10/03)
チューナー視点で見る『エルドレインの王権』
みなさんお久しぶりです!再びこのワクワクする時期がやってきましたね。マジックに少しでも携わっている人なら誰しもが同じ気持ちでしょう。とうとう新セットの発売です!
新カードがリリースされる場合、マジックのプレイヤーは2つのグループに分けられると思います。ひとつは「デッキビルダー」。もうひとつは「チューナー」です。
デッキビルダーとは、非常に強力かもしれない新カードをすぐに試したり、新たなデッキを組んだりする人のことを指します。対して、チューナーとは既存の戦略を新セットから登場したカードで強化することに神経を集中させる人のことです。僕自身はデッキビルダーであったことは一度たりともないので、今回は下の環境ーーモダンとレガシー向けのカードたちを見ていきましょう。
昨今は驚くほど強いカードが登場しています。下の環境は大きく様変わりし、全く新しいデッキが環境を支配することさえありました(《ゴブリンの技師》や《甦る死滅都市、ホガーク》、《時を解す者、テフェリー》など)。
しかし、これは普通ではなく、例外的な事態だと僕は思います。下の環境はカードプールが広いため、昨今のように1枚のカードの登場が大きな波を生むことは極めて珍しいのです。大抵は、既存のデッキを若干強化するパーツを何枚か手に入れたり、あるいは刺激的なサイドボードカードを採用できるようになるのが普通です。そして、『エルドレインの王権』はそのような影響をもたらすセットになると予想しています。ここからは使われる可能性があるカードを一通り確認していくことにしましょう。
モダンとレガシーで採用される可能性があるカードたち
《厚かましい借り手》
非常に注目のカードです。メインデッキに入れるカードパワーはないと思いますが、特定のパーマネント1つに悩まされるデッキならば、サイドボードでの採用を真剣に検討するに値します。純粋なコンボデッキでは、《残響する真実》や《蒸気の連鎖》といったバウンス呪文が依然として魅力的でしょうが、ライフを削って勝利を目指すデッキならば《厚かましい借り手》と入れ替えるのもありかもしれません。たとえば、モダンの青赤ストームではどうでしょうか。
説明するまでもないですが、ストームのメインゲームプランは1ターン内でコンボを決めて勝利することです。ですが、ときには筋書き通りに事を運ぶ必要はなく、相手のライフを削ることで勝つこともあり得ます。サイドボード後はクリーチャー(《巣穴からの総出》によるゴブリントークン)がいますし、さらに《ぶどう弾》(と《稲妻》)があれば、3/1飛行によるクロックが有用である展開も多い可能性があります。
《魅力的な王子》
《ちらつき鬼火》にやや劣るように思えるので、このカードが強いのかは確信が持てません。《ちらつき鬼火》はクリーチャー以外も対象にとれますし、相手のパーマネントも効果の範囲内です。他方、《魅力的な王子》は1マナ軽く、柔軟性が備わっています。そのため、《霊気の薬瓶》を使用するデッキで採用されても何ら驚きではないでしょう。「明滅」以外の2つの能力は極めて優れているわけではなく、「明滅」能力を主たる目的として採用することになるでしょうが、バーンなどと対面した際には能力が3つあることに大きな価値が出てきます。
《湖に潜む者、エムリー》
モダンのウルザソプターにピッタリなカードではないでしょうか。基本的に追加の《ゴブリンの技師》になりますが、ゲーム展開に関与するカードを墓地に落とせるかが不確定であるため、現実的なデメリットを抱えているのは明らかです。ですが、たったの1マナで唱えることができ、能力を起動するためにアーティファクトを生け贄に捧げなくて良いので、《ゴブリンの技師》にとって強力なライバルが登場したと言えるでしょう(墓地に《弱者の剣》があるのに、《飛行機械の鋳造所》しかアーティファクトが戦場になく、コンボが揃えられない場面がたまにあります)。
また、墓地を肥やす能力が備わっているため、《マグマの陥没孔》のような墓地に関連したカードをより魅力的にするクリーチャーでもあります。
《神秘の論争》
モダンよりもレガシー向けのカードです。このカードを入れる価値があるほどモダンには青のデッキがいません。しかし、レガシーはほとんどのデッキが青であるため、この打ち消し呪文に大きな可能性を感じます。裏目が非常に大きいので4枚挿しされることはないと思いますが、《紅蓮破》に類似した効果を持ち、青のデッキ相手以外でも完全には腐らないというのは魅力的です。
過去には《紅蓮破》をメインデッキに投入するプレイヤーもいましたし、言うまでもありませんが赤1マナではなく青1マナですので、その点では《神秘の論争》は良い強化になったと言えるでしょう。赤マナを含むデュアルランドをサーチして《不毛の大地》に身をさらすことがなくなりますからね。
《ヴァントレスのガーゴイル》
《ヴァントレスのガーゴイル》はときおり登場する昔ながらのカードですね。大きなデメリットを持っていて、扱いが難しいのです。しかしそのデメリットを解消する方法があれば、非常に強力なカードへと変貌します。いくらフェッチランドやキャントリップ呪文が多い環境とはいえ、相手の墓地が7枚以上という条件の達成を相手だけに委ねることはできないですし、《思考掃き》を2回唱えても条件の達成は難しいでしょう。では、モダンに存在するこのデッキではどうでしょうか。
モダンの青黒ライブラリーアウトは以前から《ジェイスの幻》を採用し、除去を使ってこない一人回しデッキとスピード勝負をできるようにしてありました。《ヴァントレスのガーゴイル》はほぼ《ジェイスの幻》と同じであり、デッキの戦略に見事にマッチしているように思います。
《豆の木の巨人》
おそらくモダンのレベルには達しない結果となるでしょう。3マナの《不屈の自然》は残念ながら環境のスピードについていけません。しかし、スケープシフトが1~2枚使う可能性はあります。激しい消耗戦において、使い道のない土地ではなく巨大な生物をトップデッキできれば、ゲームの勝敗を変えられることでしょう。特にサイドボード後はもうひとつの勝ち筋として有用であると考えられます。
《金のガチョウ》
《極楽鳥》から派生した優秀なクリーチャーです。《貴族の教主》や《極楽鳥》には及ばないでしょうが、《集合した中隊》デッキが数枚入れるかもしれません。ライフを回復させる能力が重要な意味を持つ展開もあり得るからです(特に、攻撃的なデッキに対してマナスクリューしているときは《召喚の調べ》のサーチ先として有効)。また、《集合した中隊》で大当たりを引けない場合でも、終盤に無価値の0/1クリーチャーを展開するよりは断然当たりのクリーチャーになるでしょう。
《湖での水難》
《湖での水難》は強すぎるという声をよく耳にしますが、実は僕はそこまで強くないと考えています。受け身のデッキが用いる解答は相手のゲームプランに噛み合っていないことがあるため、1戦目に何の役にも立たないカードを引いてしまうことは多々あります。対して、《湖での水難》であれば何らかの役割を確実に果たせるため、それがこのカードの美点と言えるしょう。しかし、デメリットが決して無視できないものなのです。僕を信じて欲しいのですが、このカードは2ターン目に唱えられないことが多いと思います。
アグロデッキ相手に除去を引いたものの、何の使い道もなかったとなれば悲惨な思いに駆られることでしょう。《湖での水難》はメインデッキの60枚目の柔軟な枠を埋めたり、特定のデッキがサイドボードの候補にしたりするのではないかと予想しています(たとえば、レガシーのANTがサイドボードに数枚入れることを検討するかもしれません)。このインスタントは、厄介なヘイトベアーへの対抗策としてはもちろん、リソース勝負となるマッチでもサイドインし得るでしょう。パワーカードではありませんが、サイドボードの枚数が足りないと感じる際には有効な選択肢になるかと思います。
「城」サイクル
これらレア土地サイクルのほとんどは、これからのマジックの歴史のなかで多かれ少なかれ使われることでしょう。ですが、明確に他に差をつけるものが2つあると思います。それが黒の《ロークスワイン城》と緑の《ギャレンブリグ城》です。
《ロークスワイン城》
《小悪疫》デッキと相性が良いカードが登場したのは随分と久しぶりのことです。このデッキは《思考囲い》、《ヴェールのリリアナ》、《小悪疫》などの呪文でリソースを交換し、その都度小さなアドバンテージを積み重ねます。最終的に相手のリソースを根こそぎ奪い、こちらには何らかのリソースが残っているという状況を作り出すのです。
しかし問題なのは、必ずしも勝利に結びつくカードをドローできるわけではなく、残念なトップデッキが続く可能性にあります。そして《ロークスワイン城》はこの問題を見事に解決してくれます。《ロークスワイン城》を戦場に出し、デッキ本来の妨害プランを遂行し、状況が落ち着いたら《ロークスワイン城》で追加のドローをし始めるのです。
《ギャレンブリグ城》
この土地が声高に求めているものはたったひとつ……《原始のタイタン》です!ときにタップインしてしまいますが、キーカードの1枚を唱える場合はほぼ《古えの墳墓》になるので大した問題ではありません。タイタンシフトやアミュレットタイタンといったデッキが喜んで《ギャレンブリグ城》をツールの1つに加えるのは間違いないでしょう。アミュレットタイタンの土地枠に空きは少ないですし、《森》を多く採用していないので、4枚挿しにはならないはずです。しかし、この土地は赤緑ランプ戦術にとって驚異的なカードではないかと思います。
コモン土地サイクル
いずれも微々たる効果しか持っていないため、ここで言及したことさえ驚きだったかもしれません。ですがここで話題に出したのは、このコモン土地がフェッチランドからサーチできるからなのです。これまでに《ドライアドの東屋》は何らかの理由でクリーチャーが欲しいときや、《悪魔の布告》効果から重要なクリーチャーを守るときなどに活用されてきています。これと同様のことが(白と緑を除く)コモン土地サイクルに言えるのではないかと僕は考えています。
おわりに
できるだけ有用な予想にしようと最善を尽くしましたが、全く期待していなかったカードが思わぬお宝だったというのはいつの時代にもあることです。それこそが僕がマジックを愛してやまない理由のひとつです!このゲームは非常に複雑ですから、長年プレイしてきたとしても完全に理解することなどできません。
今回の記事はお楽しみいただけたでしょうか。
ではまた次回。
ペトル・ソフーレク (Twitter)