栄光か死か ~MCQレポート~

Allen Wu

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/11/08)

初日

午前6時15分。モーテルのべたつく床を避けるように、ベッドから手探りでパソコンを探しました。MTGアリーナを起動させ、8時45分にアラームをセット。昨夜にグランプリの登録するのをすっかり忘れていたため、直接登録しに行くために朝早く出ていかなければならなかったのです。

日程が重なっていたミシックチャンピオンシップ予選(MCQ)にはあまり期待していませんでした。夕食後にデッキを構築し、文字通り1マッチしか練習していないほどです。デッキ内のカードがMTGアリーナ上でどのような仕様になっているのかを最低限知っていれば良いと思っていました。当初からグランプリ・フェニックスに参加する計画だったからです。とはいえ、MCQを完全に無視してしまうのはプロのあるべき姿ではないと感じていました

王冠泥棒、オーコ世界を揺るがす者、ニッサ

MCQの初戦はエスパースタックス。《王冠泥棒、オーコ》を出す、《世界を揺るがす者、ニッサ》を出す、相手は爆発する。起き上がって歯を磨き、顔を洗い、ビタミン剤と抗うつ剤を飲む。再びパソコンの前に戻ると、ミラーマッチ。《王冠泥棒、オーコ》を出す、《世界を揺るがす者、ニッサ》を出す、相手は爆発する。こんなことが8時45分まで続き、7-0となっていました。この時点で2日目進出は確定していたものの、複雑な想いを抱きながらグランプリの登録を諦め、MCQを最後までやることに決めたのです

MCQの2日目に進出でき、安心感と幸福感があったのは紛れもない事実でした。あまり大きく謳われていませんが、アリーナのMCQ2日目は現在の競技マジックで最もかかっているものが大きい大会のひとつです。約100名のプレイヤーが176,470ドルという賞金をかけて争いますが、これはグランプリの賞金総額のおよそ4倍。参加者一人頭の賞金は、紙のミシックチャンピオンシップよりも大きい額です。

とはいえ、私は賞金をできるだけ多く稼ごうと思ってマジックをやっているわけではありません。フェニックスまで足を運んだのは、友人と時間を過ごし、リミテッドをプレイしたかったからです。そんな考えとは裏腹に、2日目はスターバックスに8時間もこもって独りでアリーナをプレイすることになりました。もし本選への権利が得られなければ、この週末は台無しです。2日目に参加しないという選択肢もありましたが、それだけはしたくありませんでした。

探索する獣エンバレスの宝剣

初日のマッチを全て終え、成績は8-2でした。ゴルガリアドベンチャーに負け、ミラーマッチに勝利し、最後はグルールに負けました。最終戦は《害悪な掌握》《探索する獣》に唱えるのではなく、ブロック要員の《恋煩いの野獣》を優先させたところ、《エンバレスの宝剣》に押し切られてしまいました。

ニヴ=ミゼット再誕

それからルームメイトのザック/Zackリチャード/Richardマイク/Mikeとともにグランプリ会場へ向かい、午後のプレイヤーズツアー予選(PTQ)が始まるまでシールドプールについて語り合いました。日曜の朝に開催されるPTQのトップ8もMCQ2日目とかち合っているため、勝っても参加できない予定でした。しかし、私がPTQに用意したのは素晴らしいモダンのデッキ、《ニヴ=ミゼット再誕》コントロールです。皮肉なことに、私はPTQのトップ8に入ってしまいました。アミュレットタイタンに負けたものの、ジャンド、ティムールミッドレンジ、バーン、ドレッジ、ドルイドコンボに勝ったのです。スタッフに事情を話せば、もしかしたらトップ8のスケジュールを遅らせてくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながらプレイしていました。ですが、運営のジャッジは私の権利を9位に繰り下げると判断しました。

グランプリ後、ルームメイトはロサンゼルス・クリッパーズとフェニックス・サンズの試合を観戦しに行きましたが、私はニー/Nhiカイ/Kaiと一緒にディナーをともにしました。明日は早く起きなければならなかったので、早く部屋に戻ってシャワーを浴びて荷造りしたかったのです。ディナーで食べたコーニッシュ・パイは程よく心臓が痛くなるような味付けがされていました。PTQで私から権利を譲り受けた9位のプレイヤーがカイの友人であり、ディナーに同席していたのです。こんなことがあるなんて、世の中は狭いものですね。

スタンダード

多くのプレイヤーと同様に、私もMCQでスゥルタイフードを選択しました。

屋敷の踊り害悪な掌握創案の火

このリストはスタニスラフ・ツィフカ/Stanislav Cifkaがミシックチャンピオンシップ V(MC V)で使用したバントフードを参考にしています。《拘留代理人》《意地悪な狼》に変更し、(言うまでもなく)ゴロスデッキが減り(禁止制限告知後は最強であろうオーコを抱える)ミラーが増えることを予想してタッチカラーを白から黒にしました。とはいえ、オーコデッキを倒そうとするエスパースタックスや《創案の火》デッキなどが一定数出てくるだろうと思ったため、あらかじめミラーマッチ用に全力で調整されたメインデッキにはしたくありませんでした(たとえば、メインデッキに《害悪な掌握》を4枚入れること)。実際にこの考えは悪くなかったように思います。MCQの初日はエスパースタックスと2回対戦し、ミラーは”たったの4回しか”当たりませんでした。

私は最近になって調整方法を大きく変更させました。ランク戦やMagic Onlineのリーグではなく、配信を観たり友人と意見を交換したりすることを重視し始めたのです。ですから、上記のリストは完全に脳内で構築したものです。従来の方法をやめようと思ったのは、そのマッチアップに適切なアプローチをしない相手に当たったり、テストしたいアーキタイプに当たるまでに3マッチやらなければならなかったりすることで、誤った結論を導いてしまうことにうんざりしていたからです。おかしな発想かと思うかもしれませんが、調整方法を変更してから成績は劇的に改善されました

ゴルガリの女王、ヴラスカ呪われた狩人、ガラク

今後についてですが、今のスタンダードは誰もが認めるオーコ環境です。《害悪な掌握》を増やし、《樹上の草食獣》を減らすことで、まさに最初からミラー用にサイドボーディングしたデッキにしようかと思い始めています。しかし、いまだにこのやり方はあまり気が進みません。ミラーマッチにおいて《害悪な掌握》《ゴルガリの女王、ヴラスカ》《呪われた狩人、ガラク》よりも断然強いというわけでもないのに、この2種のプレインズウォーカーの方が圧倒的に相手を選ばないからです。とはいえ、他の全員がメインデッキから対策してくる以上、プレインズウォーカー作戦に思い上がっていては不利な立場になるのは必至です。

サイドボードガイド

続いては、MCQで採用したサイドボーディングを解説しましょう。今後はミラー用にメインデッキを調整すると思いますが、全体の75枚はいまだにそのままで良いと思ってます。以下の入れ替えを参考に、ミラー用のメインデッキ構成をスタート地点に調整するようにしてください

フードミラー

対 フードミラー (先手)

Out

むかしむかし むかしむかし 樹上の草食獣 樹上の草食獣
軽蔑的な一撃

In

害悪な掌握 害悪な掌握 夏の帳 夏の帳
呪われた狩人、ガラク

対 フードミラー (後手)

Out

むかしむかし むかしむかし 樹上の草食獣 樹上の草食獣
世界を揺るがす者、ニッサ 世界を揺るがす者、ニッサ 軽蔑的な一撃

In

害悪な掌握 害悪な掌握 夏の帳 夏の帳
霊気の疾風 霊気の疾風 呪われた狩人、ガラク
霊気の疾風夏の帳軽蔑的な一撃

ミラーのサイドボーディングは、相手がどんな入れ替えをしてくるか予想し、その予想によって少々変更を加えます《霊気の疾風》《夏の帳》《軽蔑的な一撃》を入れるか、あるいはどれも入れないのかは相手のプレイの仕方や構成によります。基本的な入れ替えとしては上記のものが良いと思います。

むかしむかし

《むかしむかし》をサイドアウトしているのは、2戦目以降はクリーチャー以外の呪文の方がはるかに重要だと考えているからです。また、《むかしむかし》を減らすことで、長期戦になった際に実質的な土地の数をわずかに減らせます。ミラーは序盤がカギを握っているから《むかしむかし》を削るのはあり得ない、という意見もあるかと思います。ですが、私は絶対にサイドアウトする派です。

世界を揺るがす者、ニッサ

同様に、後手では《世界を揺るがす者、ニッサ》を減らします。ニッサは場に残っている状態で2枚目を出しても弱いですし、後手で複数枚のニッサがかさばってしまうと最悪です。このアイディアはMC Vのツィフカの試合を見ていて知りました。ですがこちらに関しても、ニッサはカードパワーが高いしゲームプランの中心にいるカードだから削るのはあり得ない、という考えもあるでしょう。このように立場が分かれるからこそ、マジックの魅力が今も続いているのだと思います

エスパースタックス

対 エスパースタックス

Out

意地悪な狼 意地悪な狼 意地悪な狼 意地悪な狼
樹上の草食獣 樹上の草食獣 害悪な掌握

In

軽蔑的な一撃 軽蔑的な一撃 夏の帳 夏の帳
呪われた狩人、ガラク 伝承の収集者、タミヨウ 否認

ジェスカイファイアーズ

対 ジェスカイファイアーズ

Out

意地悪な狼 意地悪な狼 意地悪な狼 意地悪な狼
樹上の草食獣 樹上の草食獣 害悪な掌握

In

軽蔑的な一撃 軽蔑的な一撃 霊気の疾風 霊気の疾風
呪われた狩人、ガラク 伝承の収集者、タミヨウ 否認

セレズニアアドベンチャー

対 セレズニアアドベンチャー

Out

世界を揺るがす者、ニッサ 世界を揺るがす者、ニッサ ゴルガリの女王、ヴラスカ
むかしむかし 軽蔑的な一撃

In

害悪な掌握 害悪な掌握 呪われた狩人、ガラク
採取+最終 採取+最終

ゴルガリアドベンチャー

対 ゴルガリアドベンチャー

Out

むかしむかし むかしむかし 樹上の草食獣 樹上の草食獣
世界を揺るがす者、ニッサ 世界を揺るがす者、ニッサ ゴルガリの女王、ヴラスカ

In

害悪な掌握 害悪な掌握 夏の帳 夏の帳
呪われた狩人、ガラク 採取+最終 否認

このマッチアップの入れ替えについては、ほとんど自信がありません。

グルール

対 グルール

Out

むかしむかし むかしむかし 樹上の草食獣 樹上の草食獣
世界を揺るがす者、ニッサ 世界を揺るがす者、ニッサ ゴルガリの女王、ヴラスカ

In

霊気の疾風 霊気の疾風 恋煩いの野獣 恋煩いの野獣
害悪な掌握 害悪な掌握 呪われた狩人、ガラク

ラクドスサクリファイス

対 ラクドスサクリファイス

Out

世界を揺るがす者、ニッサ 世界を揺るがす者、ニッサ
害悪な掌握 軽蔑的な一撃

In

夏の帳 夏の帳
呪われた狩人、ガラク 伝承の収集者、タミヨウ

2日目

初子さらい波乱の悪魔

翌日、私は7時に起きました。スターバックスを見つけ、MCQの2日目にチェックイン。最初のミラーマッチ2回は勝利したものの、アントニーノ・デ・ロサ/Antonino De Rosaのラクドスサクリファイスに敗北しました。3ゲーム目に致命的なミスを2回してしまったのです

まず、《意地悪な狼》による攻撃を1ターン早くしてしまい、《王冠泥棒、オーコ》の奥義で奪った《波乱の悪魔》《初子さらい》で取り返され、無防備になった《呪われた狩人、ガラク》《王冠泥棒、オーコ》を攻められてしまいました。

次のミスは、《初子さらい》を唱えた相手が《呪われた狩人、ガラク》に総攻撃をしかけてきたところ、私は複数の狼トークンでほぼ無益なチャンプブロックをしてしまったのです。1つ目のミスを引きずった結果でした。

もし1つ目のミスの場面で攻撃していなければ、プレインズウォーカーたちによって勝利していたでしょう。もし2つ目の場面でブロックしていなければ、クリーチャーの数で熾烈なダメージレースを制していたでしょう。こんなにも重大なミスを大一番でしてしまいました。ですが、いまさら何を言っても仕方ありません。

エッジウォールの亭主エッジウォールの亭主エッジウォールの亭主

この敗北から立ち直り、続くミラーマッチ2回戦を勝利しました。しかし最終ラウンド、革新的なゴルガリアドベンチャーを駆るクリス・カヴァルテク/Chris Kvartekが立ちはだかり、私は有終の美を飾ることができませんでした。1ゲーム目は《エッジウォールの亭主》3体にやられ、2ゲーム目は都合よく引けば勝てる手札をキープし、《夏の帳》で一気に有利を作って勝利。最終ゲームは土地が1枚しかないものの強い手札をキープし、行き詰って負けました(確かそのときの手札は《草むした墓》《金のガチョウ》《楽園のドルイド》《軽蔑的な一撃》《害悪な掌握》《王冠泥棒、オーコ》《発見/発散》だったはずです。リソース争いになる相手なら間違いなくキープすると思います)。

草むした墓金のガチョウ楽園のドルイド
軽蔑的な一撃害悪な掌握王冠泥棒、オーコ採取+最終

大会を振り返って

栄光か死か

権利獲得の目前まで迫り、最後のマッチでつまみ出されるというのは本当に受け入れがたいことでした。仮にクリスに勝ってミシックチャンピオンシップ VIIの参加資格を得ていたら、少なくとも7,500ドルは確定し、上手くいけばもっと上積みできたでしょう。しかし現実は、マジックを10時間プレイし、75%の勝率をたたき出し、その努力もむなしく11000ジェムを獲得しただけ。あまり不平を漏らしてはいけないことはわかっています。競技マジックにおいて私は運に恵まれてきた方です。ですが、ここまで悲惨な一敗はいままでにありませんでした。私が落としてしまった1戦は、勝者は多額の賞金を手にし、敗者には何も残らない試合だったのです。

そしてなによりも、今回のMCQを通じ、現在の組織化されたプレイに対する不満を深く覚えました。今の組織化されたプレイはただ面白くありません。成功と失敗の振り幅が極端なうえに、大会の数は非常に限られていて、生半可な想いではグラインダーになれません。今年は競技プレイヤーとして類を見ない成功をした年でしたが、それでもミシックチャンピオンシップ VI以降のミシックチャンピオンシップの権利はありません。

戦いの重圧

旧システムにあって今のシステムにない重要な要素は、最も重要な大会が最も楽しいということです。フライデーナイトマジックからプロツアー予選、グランプリ、プロツアーへとステップアップしていくことは、より広い地域からより多くの人に出会い、新たな景色を見て、新たなことを学ぶことを意味していました。ただマジックの上達に専念していれば、自ずと成功がついてきたのです。対して、アリーナをやり込んでも何度も何度も同じことが繰り返されるだけです。ランク戦やミシック到達までの過程で勝率70%を超えたとしても、どちらもそれぞれ15時間以上かかります。

マジックをプレイしていてつまらなくなったわけではありません。ですが、競技マジックとの付き合い方は見直そうと思っています。今が最も脂が乗っている時期ですし、ようやく調整方法にも進歩が見られてきたときに競技から距離を置くのはほろ苦い想いです。ですが、楽しめないことを続けるつもりもありません。

大人気の統率者をやるのも良いかもしれないですね。

ボーナストラック:5色《ニヴ=ミゼット再誕》

おまけのデッキを紹介します。モダンPTQでトップ8入賞したときに使用した《ニヴ=ミゼット再誕》コントロールです。

レンと六番アーカムの天測儀

一見すると馬鹿げたデッキに思えますよね。ですが、実力は十分です。モダンのどのデッキよりも《レンと六番》《アーカムの天測儀》を上手く使えます。また、《ニヴ=ミゼット再誕》自体も4~6枚分のドローがついた6/6のクリーチャーです。専用の構成にする必要はありますが、《精神を刻む者、ジェイス》よりもコスパが良いでしょう

アレン・ウー (Twitter)

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Allen Wu アメリカ出身のプロプレイヤー。狭き門といわれるMagic Onlineでのプロツアー予選を幾度となく突破しているアメリカの強豪。グランプリ・アルバカーキ2016の優勝でその名を馳せた後、Wizards of the Coast社のプレイ・デザイン・チームに加入し、マジック開発に携わる。プレイヤーに復帰後、2018年8月に開催されたマジック25周年記念プロツアーでベン・ハル、グレゴリー・オレンジと共に優勝。さらなる研鑽を積むべく、チームメイトたちと共にHareruya Prosに加入した。 Allen Wuの記事はこちら