Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/01/06)
全力疾走
やぁ、みんな!
ミシックチャンピオンシップ VII(MC VII)は今年最後のMCだった。そして、俺はこの大会をちょっと変わった状況で迎えた。次期マジック・プロリーグの席は確保していて、すでに世界選手権の権利も獲得していたから、基本的に大会そのもののためにプレイすることになっていたんだ。だからMC VIIはこれまでのMCほど緊迫した状態で取り組まなくても良いとも考えられた。たった数週間の間に2度もMCがあったのだから、そういった選択肢も理に適っていただろうと思う。
でもそれは自分らしいやり方じゃなかった。だから今年で一番大切な大会だと思って準備を進めることにした。どのミシックチャンピオンシップもほかにはない特別な大会だ。最大限の練習をしなければ後悔することになると思ったんだ。これでベストを尽くすことは決まった。でも現実問題として、大会結果が良かったとしても、燃え尽きるリスクや体の健康を考えた場合に、懸命に努力することが正しかったのかは断言できない。
調整
今回の調整は今までにない新鮮な体験になった。一緒に調整してくれたのは、ブラッド・ネルソン/Brad Nelson、ブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duin、セス・マンフィールド/Seth Manfield、ベアトリス・グランチャ/Beatriz Grancha。調整はオンラインで行われたものの、時差の関係で睡眠のスケジュールを少し動かした点を除けば、全体の調整プロセスは非常に効率的に思えた。
これまでの調整では、ほかのプレイヤーたちと同じ空間にいることで練習時間の増加、ひいては効果的なテストプレイができていると感じることがあった。今回のオンライン調整では、空間をともにしなくても従来より実りが少ないとは感じなかったし、むしろその反対である可能性すらあると思えたんだ。
テストプレイ期間のほとんどの間、群を抜いて気に入っていたのはジェスカイファイアーズだった。このアーキタイプの調整を重ねた結果、《裁きの一撃》が非常に重要なパズルのピースであるという結論が出た。《創案の火》の設置前に使える除去でありながら、ミラーマッチでも有効なカードなんだ。それだけなく、《轟音のクラリオン》を耐えられる厄介な大型クリーチャーを対処できるようになる。
これがチームとして行き着いたジェスカイファイアーズだ。今後使うとすれば、サイドボードの2枚の《軍勢の戦親分》の枠を追加の《徴税人》に使うだろう。シミックフラッシュが目下の倒すべきデッキのひとつだからね。
さて、シミックフラッシュというワードが出てきたところで話題を移そう。
シミックフラッシュ
セスはさまざまな大会で”オリジナルデッキ”を使っている。彼はチャンスさえあれば違うデッキを試そうとしているプレイヤーだ。今回彼が携えてきたデッキは最終的に傑作になった。今大会はジェスカイファイアーズがベストデッキだと思い、ある程度使うことを決めていたけど、結果的にセスのシミックフラッシュを使うことになった。最終日にはブラッドもその強さに納得していたしね。
おかしな話だけど、セスはデッキ提出の数時間前にジェスカイファイアーズでアリーナのミシック1位になっていた。それでも彼はシミックフラッシュを選ぶのが良いだろうと確信していたようだった。こんなにも素晴らしいデッキを持ち込んでくれるチームメイトがいて本当に恵まれていると感じたし、シミックフラッシュを使うという選択をした自分にも満足している。これがセス、ブラッドとともに使ったデッキだ。
このシミックフラッシュの新たな構成の背景にある考えは、基本的に従来のシミックカラーのデッキから”弱い”カードを抜き、強い部分だけを残そうというものだ。《エリマキ神秘家》と《夜群れの伏兵》のパッケージはかつてのシミックフラッシュで最も脅威的な部分だったと言えるだろうから、異なる構成でこの2種を試すことはもっともな発想だった。
実際にデッキを回す前は、細かい部分で気に入らない箇所があった。たとえば2枚採用された《薬術師の眼識》だ。でも実際に使っているところを見ていくうちに、その1枚1枚のカードに意味があるのだとわかった。
シミックフラッシュのテストプレイをしていくなかで、こんなことが起こった。相性が良いだろうと思うデッキをセスが使用するシミックフラッシュにぶつけても負けが続いたんだ。デッキリストには依然として個人的に不満が残っていたが、見る見るデッキの完成度が上がっていき、常に恐ろしい相手として立ちはだかっていた。
デッキが弱そうに思えたのは、ランプ呪文・瞬速呪文・打ち消し呪文はこうあるべきだという”常識”に反するものだったからだ。しかし、《世界を揺るがす者、ニッサ》は異なる側面を持つデッキをひとつにまとめ上げる優秀なカードであり、特に《繁殖池》と合わされば4ターン目に《世界を揺るがす者、ニッサ》を出しつつ打ち消し呪文を構えるという恐ろしい動きがよく起こるんだ。
カード選択:メインボード
《成長のらせん》+《楽園のドルイド》
このデッキのランプ要素。《成長のらせん》は本当に良いカードで、できることならもっと入れたいぐらいだ。《楽園のドルイド》は終盤のトップデッキとして弱いから《成長のらせん》ほどではないけど、土地が少ない手札なら断然《成長のらせん》より強いし、3ターン目に《エリマキ神秘家》/《夜群れの伏兵》を構える確率を高めるツールになる。
《エリマキ神秘家》/《夜群れの伏兵》
瞬速パッケージ。同時にこの2種のカードをケアしたプレイはほぼ不可能で、このデッキのベストな始動はたいていこれらのカードを含んだものになる。《夜群れの伏兵》は安定してトークンを生成できれば単体として大きな脅威にもなる。
《エリマキ神秘家》は単なる3/2として展開することもできるから覚えておこう。3/2というサイズが《世界を揺るがす者、ニッサ》を守ったりクロックを1ターン早める場合などに有効になり得る。
《厚かましい借り手》
《厚かましい借り手》は信じられないほど強力なカードであり、デッキの構成を練っているときから枚数を増やしたいと思っていた。レガシーでも使われるぐらいのカードだからね!
でも、大きな脅威を展開するというデッキのプランにあまり噛み合っていない。デッキに合った良いカードというよりは、単純に強いカードというわけだ。たくさんのゲーム数をこなしてみてようやくわかったことだけど、《厚かましい借り手》はデッキ内で一番弱いとは言わないまでも、かなり弱い部類のカードだった。セスは最初からわかっていたみたいだけどね!
それでも《厚かましい借り手》は軽量の妨害手段であり、《世界を揺るがす者、ニッサ》との相性も良く、テンポを重視した戦い方に多少寄せることができる。だから枠を割くに値すると思っているよ。
《ハイドロイド混成体》
初期の構成には《ハイドロイド混成体》は入っていなかった。だけど、このカードは本当にさまざまな役割を果たしてくれることがわかったんだ。《世界を揺るがす者、ニッサ》による膨大なマナを注ぎ込めばたいてい勝てるし、相棒のプレインズウォーカーがいなくとも低速のデッキに対してリソース勝負に持ち込む力がある。
《世界を揺るがす者、ニッサ》
《世界を揺るがす者、ニッサ》はスタンダード界で最強の座を争うほどのカードであり、実際に最強にふさわしい時期も長かった。《世界を揺るがす者、ニッサ》はこのデッキの多様な側面の橋渡し役になっている。《ハイドロイド混成体》と合わされば終盤戦を戦うコンボを成立させてくれるし、あるいは単純にテンポを重視したプレイとして優位を築いてくれることもあるんだ。
一見わかりづらいけど、《ニッサ》は《夜群れの伏兵》とも相性が抜群に良い。相手のターン終了時に《夜群れの伏兵》をプレイすれば、相手は返しのターンに後続として《ニッサ》が展開される恐怖に晒される。《夜群れの伏兵》の処理にリソースを割こうものなら、このプレインズウォーカーを安心して着地させられるんだ。
打ち消し呪文
これまでのフラッシュデッキと同様、このデッキにも打ち消し呪文が豊富に採用されている。枚数を散らして採用しているのは、普通は同じ種類のものを引かない方が良いからだ。違う打ち消し呪文があれば、その時々の状況に応じて使うものを選べるようになるからね。メインデッキの《神秘の論争》は《時を解す者、テフェリー》を意識している。本来は相性が良い相手であっても、その相性を単独で覆してしまうほどのプレインズウォーカーなんだ。
さらに《火消し》を3枚採用している。『ラヴニカの献身』ドラフトでは平凡なカードだった《火消し》は、このデッキで非常に強いカードとなった。《マナ漏出》には及ばないものの、今現在のスタンダードにはマナコストの重い呪文があふれている。《世界を揺るがす者、ニッサ》、《フェイに呪われた王、コルヴォルド》、それから《ハイドロイド混成体》みたいなカードも含まれるね。
だからある程度ゲームが長引いたとしても《火消し》の使いどころを見つけるのはそんなに難しくない。しかも後手であっても《時を解す者、テフェリー》への追加の解答になる。《神秘の論争》の枚数を増やさなくても済むわけだね。
《ヴァントレス城》
すべての土地のなかで《ヴァントレス城》は最も重要なものだ。インスタントタイミングで動くこのデッキの本質ととても噛み合っている。たとえば相手が打ち消し呪文をケアして何もプレイせず、こちらの手札には能動的に唱えられる《夜群れの伏兵》がいなかったとしよう。そんなときに《ヴァントレス城》を起動すれば、しっかりと本来のゲームプランを進めることができる。青のデッキがメタゲーム上で増えてきたら、もう1枚追加すると思うよ。
カード選択:サイドボード
《霊気の疾風》や《恋煩いの野獣》などのサイドボードカードは説明するまでもないだろう。多少解説が必要そうなものをピックアップしていこう。
《薬術師の眼識》
セスはかなり早い段階から気づいていたけど、サイドボード後はお互いに相手に対応するカードを詰め込んだ構成になりやすい。つまり実際の試合になると、打ち消し呪文と脅威を抱えたこちらの手札に対して、相手はそれらの脅威を対処する解答が満載の手札を持っているんだ。相手の手札に《残忍な騎士》があった場合、《夜群れの伏兵》が手札にいても思うような試合運びはできない。
こういった状況を打開するのが《薬術師の眼識》だ。ほかに比べるとカードパワーが落ちるような印象があるだろうけど、今言ったように脅威への解答だけを持った状況ではこの上なく強力なカードなんだ。《老いたる者、ガドウィック》を試したこともあったけど、《薬術師の眼識》の柔軟性には敵わなかった。
《ケンリスの変身》
《ケンリスの変身》は効率的な除去ではないものの、このデッキがときおり苦戦する《朽ちゆくレギサウルス》のようなクリーチャーなどを幅広く対処してくれる。目障りなクリーチャーのなかで特に大鹿にしたいのは、間違いなく《エッジウォールの亭主》だ。このクリーチャーはほかの手段では対処できない。
《蛙化》にしなかったのは、調整段階で《変容するケラトプス》を対象にとれることがあまりにも重要だとわかったからだった。MC VIIでも2度《変容するケラトプス》に《ケンリスの変身》を使ったよ!
《押し潰す梢》
フラッシュ戦略は《創案の火》デッキに対して最も有効なものだろう。しかし、何度もこのマッチアップを練習した結果わかったことだけど、ときおり3ターン目に《時を解す者、テフェリー》が着地してしまうことがあり、そうなると《予見のスフィンクス》/《風の騎兵》を対処できないことが負け筋になりやすい。これらのクリーチャーは《世界を揺るがす者、ニッサ》に非常に強いからだ。そこで、《創案の火》そのものを破壊できるだけなく、飛行クリーチャーも対処できる《押し潰す梢》の出番というわけだね。
ミシックチャンピオンシップ VII
大会本番についてだけど、MC VIIは本当に素晴らしい出来だった。ほかのプレイヤーに比べて自分たちのデッキは優れているという印象で、なんて恵まれてるんだと思ったよ。シミックフラッシュが大会でのベストデッキだったかはわからない(クリス・カヴァルテク/Chris Kvartekやジョーダン・ケアンズ/Jordan Cairnsのゴルガリアドベンチャーの方が優れていた可能性がある)。
だけど、この大会に持ち込んだデッキは正解だったと思えた。使用者が3人で、その全員がトップ8に入賞できたんだ。もちろん使用者はブラッド・ネルソンとセス・マンフィールドなわけだけど、本番でのデッキのパフォーマンスについて少しだけ話しておこうと思う。
Day 1
初日から良いスタートを切ることができた。5-2になったことで、最終戦を戦うことなく初日を終えることができたんだ。何度かミスをしてしまったけど、それはこのデッキを使う以上仕方のないことだと思う。インスタントタイミングとソーサリータイミングの両方で動くデッキは、大きく異なるゲーム展開の2つに1つを選らばなければならない。だから「うわっ!違う方のプレイを選んじゃったかも」という感覚は避けようと思ってもなかなかできないものなんだよ。
Day 2
2日目は負けスタートだったけど、アンドレア・メングッチ/Andrea Mengucciととても楽しい試合ができた。彼の《変容するケラトプス》に見事にやられてしまったね。そこからは順調に歩を進め、次に負けたのは5回戦のブラッド・ネルソンとのミラーマッチだった。
次はマーティン・ジュザ/Martin Juzaとの試合で、3ゲーム目は本当に長かった。会場で一番遅い卓になっただけでなく、お互いにライブラリーのほとんどを引いてしまい、《ハイドロイド混成体》の効果でライブラリーアウトしてしまうんじゃないかと心配になることもあったほどさ。個人的には大会を通じてこのゲームが最高に良かった。3日目進出をかけた試合はカルロス・ロマオ/Carlos Romaoが相手で、デッキはあまり機能してくれなかったけどトップ8に入ることができた。
Day 3
3日目はとても良い滑り出しだった。ブラッド・ネルソンと(いつも打ち負かされてきた)アンドレア・メングッチに勝てたんだ。しかし、勝者側ブラケットの決勝ではピオトル”カニスター”グロゴゥスキ/Piotr Glogowskiに敗北。ちょっとした戦闘のミスがあり、それが結果的に大きな代償になってしまったんだと思う。
ここまで駒を進めるようなプレイヤーと戦う場合、あらゆるミスが破滅的な結果につながり得る。こういったミスが厄介なのは、防止するのが本当に難しいことだ。重要な試合でミスをしたいプレイヤーなんて誰一人としていない。だけど、ミスは起きてしまうものだと受け入れることも大切だ。重要な試合でミスをしてしまったのは例に漏れずショックなことだったけど、大事なものをかけた試合で犯すミスがこれで最後じゃないことを願っている。だってそういうミスをするということは重要な試合まで勝ち進めているってことだからね!
その後、再びのミラーマッチでブラッド・ネルソンに敗北して大会を去ることになった。初手があまり強くないときに怪しいマリガン判断をしてしまったけど、それが変わったところで結果が違ったかはまったくわからない。ブラッドを倒すのは本当に大変だからね!敗北からおよそ2分後、シミックフラッシュを使用した3人で決勝のピオトルとどう戦うかを話し合った。感傷に浸っている時間などいらないと思ったんだ。その敗北から学べることがあるのかもしれないけどね。
そして、ピオトル・グロゴゥスキは自らが世界トップクラスの選手であることを世に再び知らしめた。大会を通じて1マッチも落とさずにあらゆるものをつかみ取ったんだ。おめでとう!
- 2019/12/20
- ミシックチャンピオンシップ Ⅶを優勝するまで
- ピオトル・グロゴゥスキ
自分自身は3位に終わった。生涯で最高の成績のひとつだ。ただおかしな話だけど、大会で特に上手いプレイをできたという感覚はない。ライバルに差をつけられたのは、プレイングの技術ではなくて、デッキ選択の段階にあったのだと思う。参加者のレベルを考えればそう考えるのが妥当だろう。
大会の結果にはとても満足している。次回の大会が楽しみで仕方ないよ!
ここまで読んでくれてありがとう!
……うそうそ!各マッチアップ・サイドボードガイドを書いておくね。
マッチアップ/サイドボードガイド
ジェスカイファイアーズ
対ジェスカイファイアーズ(先手)
対ジェスカイファイアーズ(後手)
後手では《楽園のドルイド》をサイドアウトする。2ターン目に《楽園のドルイド》を展開してしまうと、一番厄介な《時を解す者、テフェリー》を着地させる隙を与えてしまうからね。
シミックフラッシュ
対シミックフラッシュ
ミラーマッチは難しいけど、テンポをかけて争うのが基本的に重要になる。だからこそマナコストの重い打ち消し呪文は好ましくない。3~4マナのカードを《神秘の論争》で打ち消されるなんてたまったものじゃないよ。
ジャンドサクリファイス
対ジャンドサクリファイス
ちょっとした事情の変化でこのマッチアップのサイドボーディングは変わる。だけど基本的には《薬術師の眼識》と《ハイドロイド混成体》によるロングゲームを目指し、相手のゲームプランに対して十分な解答を用意することが狙いになる。
ゴルガリアドベンチャー
対ゴルガリアドベンチャー
相手は除去をサイドインしてくるのが一般的だ。だからゲームが長引いたときに《否認》の価値が非常に高くなる。《朽ちゆくレギサウルス》と《グレートヘンジ》を使う構成に対しては、リソースで争うプランが好ましくないので、《厚かましい借り手》の評価が上がる。
ラクドスサクリファイス
対ラクドスサクリファイス
ここで気をつけておきたいのは、《波乱の悪魔》はジャンド型のときほど強力ではないということ。打ち消し呪文や《ケンリスの変身》を使うなら別のカードを対象にした方が良いことは往々にしてある。
シミックランプ
対シミックランプ
本来のプランからあまり変更を加えないマッチアップ。《神秘の論争》を入れる主な目的は、相手の《神秘の論争》/《霊気の疾風》に対抗することにある。主な勝ち筋は、相手の《ニッサ》は対処しつつ、こちらの《ニッサ》を通すことだ。
ティムール再生
対ティムール再生
《ケンリスの変身》は《パルン、ニヴ=ミゼット》への解答として入れてある。マナコストが重い打ち消し呪文をサイドアウトしているのは、《神秘の論争》に対して弱いからだ。
ラクドス騎士
対ラクドス騎士
相性は悪いけど、サイドボード後に大きく改善される。《ケンリスの変身》は《真夜中の死神》への強力な解答であるだけなく、《朽ちゆくレギサウルス》に対しても有効だ。このマッチアップに限っては《蛙化》の方が絶対に強いけどね。
じゃあ今度こそ、ここまで読んでくれてありがとう!