決勝: 宮薗 猛 (神奈川) vs. 原根 健太(東京)

晴れる屋

By Hiroshi Okubo


宮薗「またお会いしましたね」

 カバレージ執筆の準備のため、フィーチャーエリアで待機していた私にそう声をかけた宮薗 猛(神奈川)という男は、この「第7期ヴィンテージ神挑戦者決定戦」の3日前に開催された「第7期レガシー神挑戦者決定戦」でも【準々決勝】の舞台へと勝ち進んでいた猛者である。



宮薗 猛


 たまたまその際のカバレージを取らせていただいたのも筆者だったのだが、その試合では悔しくも敗北を喫した。しかし、宮薗はそれに折れることなく再戦に臨み、こうしてフィーチャー席の舞台へ舞い戻ってきた。

 レガシーでマーフォークマスターとして知れ渡る彼だが、ヴィンテージにも造詣が深いことはあまり知られていない。【第6期ヴィンテージ神挑戦者決定戦】でも【決勝】で強豪・藤井と熱戦を繰り広げた彼が選択したデッキは前回同様「メンター」デッキだ。


僧院の導師


 その名を冠する《僧院の導師》をフィニッシャーに据えたこのデッキは《噴出》《精神的つまづき》のようなピッチスペルやMoxenといった0マナの呪文、あるいは《Time Walk》《Ancestral Recall》のような“壊れたマナレシオ”のスペルが数多く存在するヴィンテージ環境では別次元の強さを誇る。

 筆者が「頑張ってください」と声をかけると、宮薗は少し笑ってこう答えた。

宮薗「どうなりますかね、負けたくないけど……」

 あと一勝。勝ちたい。二度目となる「ヴィンテージ神挑戦者決定」の決勝を戦う宮薗の言葉にはその気持ちが滲み出ていたが、自信満々というわけでもないようだ。とはいえ、立ちはだかる最後の対戦相手のことを思えば、彼の自信が揺らぐのも無理はないことと言えよう。


 宮薗の前に立ちはだかるラスボスの名はHareruya Pros所属の原根 健太(東京)。

 【グランプリ・京都2016】ではチームリミテッドという特殊性の高いフォーマットながら見事に☆トップ4☆入賞を果たし、悲願のプロツアー権利を獲得。



原根 健太


 国内マジック界のプロコミュニティからも新進気鋭の若手として(主に某I氏からの)熱烈な期待を一身に受ける原根は、そのマジックへの真摯な取り組みと圧倒的な成長スピード、そして他TCGなどの第一線で活躍してきた実績から数多くのプレイヤーに愛されている注目のルーキーである。

 この「神シリーズ」での戦績も目覚ましく、【第7期モダン神挑戦者決定戦】10位【第7期スタンダード神挑戦者決定戦】5位【第7期レガシー神挑戦者決定戦】3位と着実に上位に入賞を収め、“安定してきた”プレイヤーだ。

 原根は今日が初めてのヴィンテージだと言う。【プロツアー・名古屋05】の覇者・小室 修からデッキを受け取ってからわずかに数時間でこの決勝の舞台へと上り詰めたヴィンテージ界のニューカマーである。


死儀礼のシャーマン


 フォーマットを問わず成果を残すのはその地力の高さを裏付ける最大の証だろう。プレイングの取捨選択と鋭い戦況分析を以て、ヴィンテージ界きってのコントロールデッキ「墓荒らし」を巧みに操り勝利を重ねてきた。


 最古のカードが乱れ舞うヴィンテージで勝利の栄冠を掴み取るのは宮薗 猛か、原根 健太か? 決戦の火蓋が切って落とされた。



Game 1


 先攻の原根は《Mox Jet》から《死儀礼のシャーマン》をプレイしつつ、《Tropical Island》から《定業》を唱えて手札を整える。対する宮薗は《剣を鍬に》《死儀礼のシャーマン》を除去する静かな立ち上がり。

 だが、ゲームは2ターン目にして急展開を迎える。原根がMoxを活用しつつプレイしたのは《トレストの使者、レオヴォルド》


トレストの使者、レオヴォルド


 これには宮薗も「うわっ、強っ!」と声を上げる。その手札には明確な除去手段がなく、ひとまずは手札にあった《Mox Jet》《Black Lotus》をプレイしてマナを伸ばしつつ、《カラカス》《トレストの使者、レオヴォルド》を対処する体勢を整える。

 とはいえ、この厄介なクリーチャーは《カラカス》の能力の対象に取った場合でもカードを引かれてしまうのだ。宮薗からしてみれば、迂闊に手出しはしたくない。返す原根の《トレストの使者、レオヴォルド》の攻撃をスルーし、タイミングを見計らう。




 原根が自身のターン終了を告げると、ここだとばかりに宮薗は《カラカス》を起動。原根はまず《トレストの使者、レオヴォルド》の能力誘発で1ドローを得て、《カラカス》の能力が解決される前に宮薗の《Black Lotus》へと《突然の衰微》を差し向ける。

 宮薗はこれに対応して青マナを得て《カラカス》の能力解決後に《噴出》を唱えるが、そこまで読み切っていた原根は《Underground Sea》をタップして手札から1枚、呪文を公開する。


狼狽の嵐


 《狼狽の嵐》


 迂闊な《Black Lotus》先置きを諫められてしまった宮薗は原根の怒涛の攻めを前に後手後手へと追い込まれていくこととなる。

 《闇の腹心》をプレイした原根は宮薗の《Mox Jet》《突然の衰微》。宮薗がフルタップでプレイした《ダク・フェイデン》《闇の腹心》の攻撃で沈め、《不毛の大地》で宮薗の唯一の赤マナソースであった《Volcanic Island》を叩き割る。さらに《タルモゴイフ》までをも呼び出して容赦ない2ターンクロックを突き付けた。


闇の腹心タルモゴイフ


 宮薗は引き込んだ《僧院の導師》をプレイして何とかその後の展開を凌ぐ算段を立てるが、原根はこれに無慈悲な《大渦の脈動》を撃ち込み、《タルモゴイフ》《闇の腹心》で宮薗のライフを苛烈に攻め立てて速やかに第1ゲームを終わらせた。


宮薗 0-1 原根


 第1ゲームのハイライトは原根が宮薗の《Black Lotus》《突然の衰微》をプレイした場面だろう。原根は素早く、涼しい顔でこの判断を下していたが、実際に同様の場面に遭遇して同じように《突然の衰微》を撃ち込むことができる者がどれほどいるだろうか。


Black Lotus


 ましてや初めてのヴィンテージであれば、そもそも《Black Lotus》を除去するという発想さえなかったとしても何ら不思議ではない。そのプレイへと瞬時に辿り着いた原根の実力は底知れない。


 そして、原根がこれほどまでに強かったことは宮薗にとっても誤算だったかもしれない。抵抗らしい抵抗もさせてもらえないまま、一方的に第1ゲームを奪われたことは相当に堪えたはずだ。

 ギャラリーが固唾を呑んで見守る中、2人は黙々とサイドボーディングを進めていく。運命の第2ゲームで、宮薗は巻き返しを果たせるか?


Game 2


 宮薗は手札を整えるのみで原根にターンを明け渡す比較的大人しい滑り出しを見せる中、原根は《Mox Jet》《Tropical Island》から2マナを得て《闇の腹心》で後攻ながら一気に仕掛けていく。


ヴリンの神童、ジェイス


 これを受けては宮薗も動き出さざるを得ない。《Black Lotus》から青3マナを得て、《思案》でドローした後《ヴリンの神童、ジェイス》を戦場に送り込んで戦いに臨む。

 だが、原根はさらにその一段上を行く。《闇の腹心》の誘発型能力で捲れたライブラリートップはパワー9が1枚、《Time Walk》


Time Walk


 想像し得る中でも最凶にほど近いそのカードが原根の手札に加わるのを見守ることしかできなかった宮薗は、《不毛の大地》でマナ基盤を攻められ《突然の衰微》《ヴリンの神童、ジェイス》を除去されマウントを奪われてゆく。

 宮薗は何とか状況を打破すべく《時を越えた探索》をプレイし、7枚の中に見つけ出した《剣を鍬に》《闇の腹心》を追放して体勢を立て直そうと試みる。


時を越えた探索剣を鍬に


 しかし、原根はすぐさま2枚目の《闇の腹心》を戦場に送り込み、宮薗のライフを削りつつ《死儀礼のシャーマン》を追加。これに対処できない宮薗は再び苦境に立たされることとなる。

 ライブラリートップに解決策を求めて《噴出》を唱えた宮薗だったが、原根はこれに《意志の力》で応じ、《闇の腹心》がピッチコスト分を補充。アドバンテージ差が拡がっていき、宮薗は防戦一方となってしまう。


闇の腹心死儀礼のシャーマン


 起死回生の《剣を鍬に》を引き込んで《死儀礼のシャーマン》に撃ち込み、続くターンに《闇の腹心》《稲妻》を撃ち込むも、もはやライフは風前の灯火。原根が繰り出した2枚目の《死儀礼のシャーマン》を除去できなければ敗北は必至――


 宮薗は最後のドローを確認すると、(白)(白)のマナが捻出できずに手札に溜まっていた《至高の評決》をテーブルに置いて崩れ落ち――すなわち戦いの勝者が決した。


宮薗 0-2 原根





第7期ヴィンテージ神挑戦者決定戦、優勝は原根 健太(東京)!


おめでとう!!



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