決勝:松井 保雄(ウルザズ・レガシー) vs. 清原 大地(ティムールデルバー)
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
今期のレガシー東海王決定戦が行われたのは3月15日。
プレビュー当初からそのパワーでレガシープレイヤー達を震撼させた《死の国からの脱出》が、ついに3月10日に禁止カードリストへ追加された。本大会はその1週間後の開催となる。
今期のトップ8の面々は、知る人ぞ知るレガシーの強豪ばかりだった。
その中でも特に異彩を放つのは、スイスラウンドを1位で通過した松井 保雄だ。
愛知県内のプレインズウォーカーポイントを意識してチェックしているプレイヤーは、松井の名を幾度として目にしているはずだろう。自らはその謙譲さから語らないが、東海圏で最も競技マジックをやり込む男。それが松井 保雄だ。
松井は競技シーズンに合わせ、すべてのフォーマットをマスターする。複数フォーマットをこなす競技プレイヤーでも、得意とするフォーマットや好みは存在するが「全部やるから好き嫌いはない」というから驚きだ。
初めてレガシーに触れたのは2016年のグランプリ・千葉。日々の積み重ねが物を言うレガシー界では若手の部類に入るだろう。競技フォーマットが主戦場となれば、レガシーのプレイ機会も限られているに違いない。
そして驚くべきはそのデッキだ。そのデッキとは……
「ウルザズ・レガシー」。
《最高工匠卿、ウルザ》を用いたアーティファクト主体のデッキで、当日朝に構築し臨んだという。
「直近で勝ってるみたいだから仲間へのフィードバックになればと思って。足りないパーツは朝に晴れる屋さんで揃えました」
東海王決定戦にあたり、試金石としてのデッキ選択。常人の発想ではない。
一方の清原 大地、といえば今さら説明は不要だろう。
第3期、第6期レガシー東海王、第7期レガシー東海王決定戦準優勝、第4期トップ4…ほかにもレガシー大会の実績については枚挙に暇がない。間違いなく東海圏最強のレガシープレイヤーの1人だ。貴重なレガシーの戦略記事をnoteでも展開し、その思索を言語化できる理論派プレイヤーでもある。
清原といえばデルバーであり、東海でそれを使わせれば右に出る者はいない。今期の東海王決定戦ももちろんデルバーでの参戦だ。気になるのはそのカラーリングだが、今回清原が選択したのは青赤緑。ティムールカラーのデルバーデッキで3度目の東海王を狙う。青と赤はデルバーデッキの基本ではあるが、「《王冠泥棒、オーコ》を使いたい」という理由での緑投入となっている。
昨今ではパイオニアを活発にプレイしており、レガシーは晴れる屋の平日大会に一度出た程度であるというが、それでここまで勝ち上がってくるのは感嘆に値する。聞けば、デッキは同じデルバー使いの仲間が入念に調整し、サイドのイン・アウトについてもシェアしているという。清原の人望の厚さが伺える。
奇しくも東海一の競技グラインダーと、東海一のレガシープレイヤーが相まみえた形となった決勝戦。その行方を見守ろう。
先手は松井。1マリガン後のハンドは以下。
後手のデルバー相手に優先度は低いと判断したか、《意志の力》をボトムに送る。
一方の清原はノーマリガンで以下をキープ。
松井は《汚染された三角州》でターンを返し、清原は《沸騰する小湖》から《Tropical Island》、そして《秘密を掘り下げる者》をプレイ。
松井の初動は2ターン目。《冠雪の島》から《汚染された三角州》を起動し、《冠雪の沼》を戦場へ。昨今ではすっかりおなじみとなった、冠雪の基本土地が並ぶ。そこから《悪意の大梟》が着地し、《秘密を掘り下げる者》に睨みを利かす。
清原のアップキープ、ライブラリーのトップを確認するが《秘密を掘り下げる者》は変身せず。メインフェイズの《渦まく知識》で手札を整えると、《沸騰する小湖》プレイと起動で不要牌をシャッフルし、《秘密を掘り下げる者》をレッドゾーンに送り込む。松井はこれに《悪意の大梟》を差し出し相打ちとする。
松井の次の矢は《ディミーアの印鑑》からの《湖に潜む者、エムリー》。これを通すと《悪意の大梟》の再投入を許すばかりか、以後の憂いとなると判断したか、清原は《意志の力》を代替コストでプレイ。
更地になった盤面から清原が展開に出る。《タルモゴイフ》と《わめき騒ぐマンドリル》を続けてプレイ!一気に制圧にかかる。早期にゲームを終わらせる大型クリーチャーの連打は、ティムールデルバーの得意技の1つといえるだろう。
そのムーブに「おお……」と感嘆する松井。《終末》のようなスイーパーを持たないデッキにとっては、致命的な局面だ。だが松井は別の回答を持っていた。
《大いなる創造者、カーン》をキャストされた瞬間、清原の表情に曇りが見える。これが意味するものは…[-2]能力を起動すると、サイドボードからサーチされたのは《罠の橋》。 高パワーのクリーチャー群がこれを突破することは至難であり、かといって松井のライフは未だ19を数え、ティムールデルバーの火力で捉えきることはできない。
ギャラリーにつく東海レガシーのトッププレイヤー達が呟く。
「ゲームセットか?」
「いや、まだ《王冠泥棒、オーコ》がある」
速度を重視するデルバーデッキが汎用除去を持つことは少ない。だが、清原の選んだティムールデルバーにはメインに2枚の回答を残している。
ターンが返った清原、《罠の橋》が設置される前に、まずは《大いなる創造者、カーン》へのアタックでこれを落とすと、2体目の《タルモゴイフ》を増援する。いつでも総攻撃ができる構えだ。
松井は《古えの墳墓》をプレイし、続いて予定されていた《罠の橋》を設える。これに対して清原はカウンターを当てることができない。通った《罠の橋》に対し、ここからは松井が橋を守り、清原がそれを落さんとする戦いとなる。
松井がキャストする《最高工匠卿、ウルザ》に対し、清原は引き込んだ《意志の力》で対処するが、2体目の《大いなる創造者、カーン》を通すカウンター合戦は松井が制する。
しばらくは《稲妻》をケアし、《大いなる創造者、カーン》の[+1]を続ける松井。
そして2体目の《最高工匠卿、ウルザ》が通り、その《精神の願望》能力でアドバンテージを取り続けると、3枚目の《大いなる創造者、カーン》が公開される。
そしてついに《魔術遠眼鏡》がサーチされ《王冠泥棒、オーコ》が指定されると、続くターンで駄目押しの《マイコシンスの格子》サーチで清原の投了となった。
松井 1-0 清原
清原「完璧にやられましたね……」
松井「今のは噛み合いじゃない?普通のデッキなら死んでるよ。負け筋は《罠の橋》だからね」
清原「(頷きつつ)こちらもそういう視点を持ってプレイすべきですよね。ゲームメイクをしっかり持ってやらないと」
Game 1こそ取られたが、いとも簡単に敗北の感情を闘志にすり替える清原。百戦錬磨のレガシー強者の風格を見せる。
今度の先手は清原。クロックこそないものの、豊富なリアクティブカードとドロー強化を含んだハンドをキープ。
松井はというと「後手は《目くらまし》に引っかかるからね」と果敢にダブルマリガン。先行している余裕か、気負う様子は全く見られない。
以上のハンドから、《古えの墳墓》2枚をボトムに送る。
《沸騰する小湖》のプレイのみでターンを返す清原に対し、松井の初動は《オパールのモックス》《ウルザのガラクタ》《汚染された三角州》と1ターンにして3つのパーマネントを展開。ダブルマリガンの後にこの展開、思わず清原も「ハンド何枚?」と確認。笑って3枚の手札を見せて応える松井。
清原の2ターン目、まずは《沸騰する小湖》を起動するが松井は「ちょっと待ってね、(そちらのデッキは)《もみ消し》入ってるじゃん」と軽くそれを制し、小考する。松井の《汚染された三角州》起動が《もみ消し》されないタイミングは今しかない、と判断したが……ここはそのままスルー。
清原は《Tropical Island》をサーチすると、《思案》から《Volcanic Island》を引き入れ、そのままセットしてターン終了。松井は《Underground Sea》をプレイしてターンを返す。
盤面への変化が現れたのは3ターン目。清原は《秘密を掘り下げる者》を召喚すると、場に出した《不毛の大地》で《Underground Sea》を破壊。松井は《冠雪の沼》のみで動きはない。
清原のアップキープ、トップに積み込んでいた《意志の力》を公開し、《秘密を掘り下げる者》を変身させるが、松井も《突然の衰微》で対処。
最初のクロックこそ残らなかったが、ここから数ターン、清原はしばらく《渦まく知識》《思案》による豊富なドロースペルとフェッチランドによるシャッフルで手札を整えていく。松井もこの間に驚異を引き込みたいが、土地のセットとドローを進めるのみで大きな動きができない。
そして清原は2体目の《秘密を掘り下げる者》は対処されるが、3体目、4体目の《秘密を掘り下げる者》を戦場に定着させることに成功する。松井の《最高工匠卿、ウルザ》にも《紅蓮破》を合わせ、あとは《秘密を掘り下げる者》の変身を待つのみとなった。
しかし、虎の子の《秘密を掘り下げる者》は変身しない。松井にブロッカーはいないものの、2点クロックは心もとない。
松井「くー、焦らすなあ」
思わずこぼす松井。清原の墓地を確認しつつ、まだ《意志の力》が落ちていないことを確認すると、満を持して《湖に潜む者、エムリー》をキャスト。
これは松井の読み通り、5マナを支払った《意志の力》されるが、本命の《最高工匠卿、ウルザ》を通すことに成功する。
清原「デルバーひっくり返らないしなあ」
2ターンとその誘発の間のフェッチランド起動によるシャッフルを混じえ、都合3度のチャンスを得ているにも関わらず、《秘密を掘り下げる者》はその姿を変えることなく、地上に留まり続けている。盤面上は《最高工匠卿、ウルザ》と構築物トークンに止められた形だ。
しかし、満を持して清原がトップの《紅蓮破》を公開しつつ変身が成功すると、ようやく空中からの6点クロックが完成する。引いたばかりの《紅蓮破》を《最高工匠卿、ウルザ》合わせ、ついに清原の攻勢が始まった。
松井も《悪意の大梟》をキャストし、《呪文嵌め》と《意志の力》の応酬の末に着地させることはできたが、ドローに対応で清原の《古えの遺恨》が放たれると、勝負の行方はGame 3に持ち越された。
松井 1-1 清原
清原「うーん、厳しいねえ、ダブマリしてここまで持ちこたえるか」
松井「でもねえ、ずっとデルバー変身しなかったんだよ?」
ラストゲームに向けての気持ちを整理しつつ、サイドボーディングを行う2人。
イン・アウトの判断が速かった松井に対し、清原は「マジわかんねえ……」と入念にメイン・サイドの75枚を睨み続ける。「前回もサイドミスって後悔したからな」と振り返るが、意を決して変更しないことを選んだ。
松井「まあ楽しみましょう。後で(イン・アウトを)教えて下さいね」
この期に及んでも変わらず気負いを見せない松井。プレインズウォーカーポイント県内トップレベルのグラインダーは一体どれだけこのような修羅場をくぐり抜けてきたのだろうか。
最後のGameにして、両者はノーマリガンでキープを宣言。
松井の初手は、先攻1ターン目に《虚空の杯》X=1に続き、蓋をするフィニッシャーまで用意されている。
対する清原はドロー呪文と《目くらまし》のハンドをキープ。
ラストゲームの1ターン目は、松井の《古えの墳墓》からの《虚空の杯》X=1で幕を切った。それに対し、《渦まく知識》《思案》が無効化された清原は《Tropical Island》のプレイのみでターンを返す。
続いて松井の2ターン目、《汚染された三角州》起動から《冠雪の島》を戦場に出すと《オパールのモックス》設置後に《湖に潜む者、エムリー》。めぼしいカードは墓地に落ちなかったものの、《ディミーアの印鑑》キャストと繋げていく。 これで《オパールのモックス》は「金属術」の条件を満たし、都合5マナに到達した形だ。
対する清原は、《不毛の大地》から《森の知恵》をプレイ。強力なエンチャントではあるが、現在の松井への回答にはならない。
松井の3ターン目、まずは《Underground Sea》をプレイ。《オパールのモックス》から青マナを出しつつ《湖に潜む者、エムリー》で墓地の《オパールのモックス》を釣り上げレジェンドルールで交換すると、これで使えるマナは合計7マナ。うち4マナで《最高工匠卿、ウルザ》を通すと、設置済みの《虚空の杯》とたった今出した「構築物」トークンを合わせ、残り5マナが使用可能に。
ここから4マナでプレイされたのは、《虚空の杯》X=2!
1マナを残し、ここまでのビッグムーブながら《目くらまし》がケアされていることを示す。
松井「《古えの遺恨》もケアしているし、あとは《王冠泥棒、オーコ》だけだな。これを凌がれたら流石に負けだよ」
清原「すげえな…」
松井のムーブに敵ながら称賛を送る清原。ターンが返り、《溢れかえる岸辺》をプレイするのみの清原に対し、さらに差を広げるべく《最高工匠卿、ウルザ》でトップを追放する松井。めくれたのは《悪意の大梟》で、「どうせタダだしな」とキャストから《虚空の杯》誘発で墓地に送ると、駄目押しで2体目の《最高工匠卿、ウルザ》をキャストし、「構築物」トークンの増援を呼び出す。すでに「構築物」のサイズは6/6にまで達し、それが2体盤面に。
《虚空の杯》で清原のデッキの半分以上を封じ込め、そればかりかアーティファクトによる比類なき盤面を作り上げた松井。
「構築物」が清原の戦場を蹂躙し、伝説のプレインズウォーカー、ウルザさながらに圧倒的な力を見せつける。「第10期レガシー東海王」の座は松井の手中にあった。
松井 2-1 清原
清原「やはり最後はキープが甘かったかな……」
対戦が終わった後も、今や東海王となった松井や仲間とマリガン選択やサイドボーディングを再検討する清原。ラウンドを通じてミスはなかっただろうか?マリガンしていたら結果は変わっていただろうか?
常に上を目指す、その姿勢を持ち続ける清原はきっとまたこの席に着くこととなるだろう。次回の東海王決定戦での活躍を期待せざるを得ない。
『第10期レガシー東海王決定戦』優勝は松井 保雄!おめでとう!