挑戦者インタビュー: 平木 孝佳 ~神へ仕掛けるのは、いま~

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 平木 孝佳(東京)。

 レガシー界を代表する、“コンボマスター”

 強豪が集った【第7期レガシー神挑戦者決定戦】では、独自の調整を施したコンボデッキ「実物提示教育」を手にして、時に大胆に、時に慎重に……着実にコンボを決めて勝利を積み重ねていく様子は、見るものを魅了してやまなかった。【決勝戦】1ゲーム目の鮮やかな2ターンキルは、語り草になっている。

 レガシー神への挑戦権を手に入れた平木。その”コンボへの愛”と共に、神へと挑む意気込みを聞いてみよう。






圧勝するか、完敗するか

――「マジックとの出会いを教えていただけますか」




平木「『ウェザーライト』、『ヴィジョンズ』の頃、小学校5,6年生だったと思います。きれいなイラストに惹かれて、友達何人かとはじめました。高校時代に一度辞めてしまったんですけど、社会人になって友人に誘われたので復帰しました。そのときに、『ANT』と『リアニメイト』、この2つのパーツを買い揃えました」

――「いきなりレガシーから復帰したんですね」


生き埋め


平木「そうですね。《生き埋め》のような古いカードを使いたかったんです。その頃からレガシーがメインで、モダンやスタンはここ2,3年で時々やるようになった形ですね」

――「生粋のレガシープレイヤーであり、コンボが好きなのですね」

平木「大好きですね。”1点、2点ずつ殴って、じっくりさばき合う”というのは好きじゃないんです。『圧勝するか、完敗するか』で良いと思っているので」



――「平木さんを魅了してやまないコンボですが、その強さはどこにあるのでしょうか?」

平木「色々とあるのですが、”レガシーの他のデッキとは、根本的に戦いの軸がずれていること”が挙げられます。単純に、クリーチャーを使わないコンボならば、相手の除去呪文を腐らせることができますよね。レガシーではさばき合いになる場面が多いと思うのですが、そもそも相手とさばき合わない。これがコンボの強さであり、魅力ですね」

――「様々なカードとデッキが活躍するレガシーの中でも、コンボはひと味違った魅力があるんですね」

平木「ありますね。もちろん、レガシーというフォーマットはカードプールが膨大なので、コンボ対策のカードもたくさんありますよね。ですが、コンボを意識してそれらを採用しすぎると『ジャンド』のような真っ向勝負のデッキに負けてしまいます。“ビートダウン、コンボ、コントロール”という三すくみは、レガシーの面白さの一つだと思います」

――「レガシーの三すくみでは、現在コントロールが頭ひとつ抜けているので、コンボが食われている状態ではありますよね」

平木「そうですね。それでも使い続けたいです。コンボでこの状況に穴を開けられれば、と常に考えています」

――「平木さんと言えば、【のぶおの部屋】で『ドレッジ』の解説を担当されて、コンボデッキに対する愛、そして環境に対する深い知識が披露されていますよね」


陰謀団式療法ゴルガリの墓トロール黄泉からの橋


平木「ありがとうございます。のぶおさん(斉藤 伸夫)にはデッキの相談などで教えてもらうことが多いので、喜んで協力させていただきました。『レガシーは練習、そして知識が重要』と言われますが、それはコンボデッキでも同様です。使う上でも、そして使われる場合でも、コンボに対する知識は重要だと思いますね」

――「使われる場合もですか」

平木「はい。コンボを使っていると分かることなのですが、知っているかどうかは、大きな差があります。知らないというのは、大きなディスアドバンテージですね。動きを知らない相手なら、隙を突いて簡単に勝つことができますからね。自分の勝ち筋以上に負け筋を知っているかが重要で、負け筋を知っていれば負けなくなります」

――「『あ、このまま放っておくと負けてしまうぞ』という感覚ですね」

平木「そうですね。自分と相手のデッキの相性はもちろんですが、盤面を俯瞰して、『ここからどうやれば勝てて、どうなったら負けるか』を瞬時に判断できるかどうかが重要です。そして『今なら勝てる』というタイミングを逃さずに掴めるか、ですね」



目線と所作で、手札が分かる

――「コンボで勝利を逃さずに掴むコツはありますか?」

平木勝てるタイミングでしか仕掛けない、というのは当然だと思うのですが、コンボを使い続けていると、相手がカウンター呪文や対策カードを持っているかどうかは、初手をキープするときや、こちらが呪文を唱えて宣言したときなどの目線や所作で分かるようになります




――「目線や所作で! 達人の領域ですね」

平木「そこまで大したことではないと思いますが、これも『ドレッジ』を使い続けていたからですね《陰謀団式療法》を使う以上、相手の手札を推測しなければいけませんから。この経験が、他のデッキを使用したときの『カウンター合戦』でも活かされているんだと思います」

――「レガシーは練習、経験が重要と言われますが、まさかそこまでとは……。そうやって相手の手札を予測して、コンボを決めに行くのですね」

平木「相手に対処手段がない、と判断したら、多少の防御は犠牲にしてでも仕掛けていきます。もちろん闇雲に仕掛けるわけではなくて、期待値が0.5以上、つまり2回に1回は勝てるような換算ならば行く、という感じですね」



裏付けのないコンボは、揃わない

平木「これも経験からくるものなのですが、コンボを使っていると、ドロー呪文を唱えたときに『これが引けたら、こうしよう』とある程度のプランが勝手に頭に浮かんできます。考えるのではなく、浮かんでくる。プランが浮かんでくるからこそ、素早く判断してプレイすることができるので、相手の目線や所作を見る余裕ができるんだと思いますね」

――「なるほど。余裕があるから、落ち着いて戦況も把握できるし、相手の手札も推測できるんですね」

平木「たとえば、今私が『グリクシスデルバー』のような使い慣れていないデッキで《思案》を唱えたとしても、具体的な手札やプランは想像できません。こうなっている間は『デッキに使われている』という状態だと思うので、勝つことは難しいでしょう」

――「コンボデッキに使われるのではなく、使いこなしているから勝てる、と」


定業渦まく知識思案


平木「コンボデッキの場合、決まるのは一瞬でも、必要なパーツを揃えるためにどうしても時間がかかってしまいます。《渦まく知識》《定業》などを利用して、ライブラリーを掘り進めながら探す必要がありますよね。レガシーのドロー呪文は本当に強力ですが、『ただ勝手に山札がめくれただけ』では勝てません。今回挑戦者決定戦で使用した《パズルの欠片》もある程度のプランを思い浮かべることができるようになるまで練習しました。期待値は2.5, 2.6枚程度あるのですが、それを下回ると厳しいな、といった判断もできます」

――「先ほどから”期待値”という言葉が出てきますが、構築の段階で計算しているのですか?」

平木「そうですね。期待値が最大化されるように、構築の段階で調整していますね。裏付けのないコンボは、揃わないと思っています。挑戦者決定戦で使用した『実物提示教育』も、期待値に基づいて構築しています」



なぜ、『実物提示教育』だったのか

――「挑戦者決定戦で『実物提示教育』を選択した理由について、もう少し詳しくお聞かせください」


実物提示教育引き裂かれし永劫、エムラクール全知


平木「環境で一番強いコンボデッキは何か、と考えて『実物提示教育』にたどり着きました。この場合の”強い”というのは、デッキパワーではなく、相対的な強さという意味です。たとえば『ANT』や『リアニメイト』もデッキパワーは強いと思うのですが、どちらも相対的、つまりメタゲーム的には微妙な位置ですよね。先ほど少し触れた、コンボ対策のカードが存在していますから」

――「『ANT』なら《虚空の杯》《スレイベンの守護者、サリア》、『リアニメイト』なら各種墓地対策など、苦手なカードがありまね」

平木「そうですね。そういったデッキには、座った時点で負けているような状態になってしまいます。ですが、『実物提示教育』にそれはありません。《意志の力》《呪文貫き》を4枚ずつ、さらに豊富なドロー手段もあるので、大抵のデッキに対応することができます。結論として、『実物提示教育』が一番強いんじゃないか、と考えました」

――「先ほど期待値のお話で出てきましたが、比較的新しいカードの《パズルの欠片》が採用されていましたね」


パズルの欠片


平木「少し前に、のぶおさんが《パズルの欠片》を入れた『実物提示教育』を使用していたことがありまして、相談して採用を決めました。私自身も試していた1枚ですね。新セットが発売されたら、ひとまずインスタントとソーサリーをチェックするのですが、そのときに『これは使えるんじゃないか?』と思いまして」

――「『コンボで使えるカードはないか?』と思って探すんですね」

平木「そうですね。なかなか収穫は少ないですが、コンボの場合、採用できるカードが増えるということは、単純に勝ち手段に到達できる手段が増えることなので、1枚でも大きいんですよ」

――「結果、挑戦者決定戦で見事に優勝されて、その強さを証明したわけですね」

平木「そういうことになりますかね。発売日当日に、Foilで4枚揃えて良かったです」

――「Foilがお好きなんですか?」

平木手札が光っているのが好きですね。モチベーションに繋がるというか、レガシーの場合、一つのデッキ、そしてパーツと長い付き合いができるので。『ドレッジ』も日本語のFoilで揃えてまして……あ、そういえば、レガシー神ともFoilの話をしたような気がしますね、出会った頃に」


期待に応えられるデッキを作る

――「では続いて、そのレガシー神である川北 史朗さんについてお聞きしたいと思います」

平木「5,6年前なので、復帰してすぐに参加した大会で対戦したのが初対面だと思います。川北さんは『スニークショー』、私は『ドレッジ』でした。それから大会で何度か顔を合わせている内に、お互い認識したような形です。お互い仕事が忙しくて、週に1度くらいしか大会に出られないという共通点もあって、話をするようになりました。本当に強いプレイヤーですよね」

――「平木さんの考える、『川北さんの強さ』はどういったところでしょうか?」

平木勝ちを引き寄せる感覚が誰よりも鋭い、と思います。『ここで行くべき』というときには行く、そして『ここで引くべき』という場面で引く。単純な運の良さではなくて、臆することなく、自信を持ってプレイしているからこそでしょうね。たとえ勝ち筋が細くても、それを引き寄せられるのが川北さんです。豊富な知識と、そしてプレイングの上手さだけでは説明できない勝負強さですね」

――「その川北さんと神決定戦という場で対戦するわけですが、試合当日に向けて、デッキ選択という大きな決断が必要ですね」

平木「そうですね。川北さんが取るであろう戦略を想定した上でデッキを選択し、調整したいと考えています。ある程度のプランは、定まっています。『コンボを使う』というイメージは、きっと川北さんの中にもあると思いますので、『ドレッジ』『リアニメイト』『実物提示教育』といったデッキに簡単に負けるデッキは、持ってこないでしょう。いずれにしても、想定されるデッキに想定どおり負けるというのは絶対に嫌なので、相性負けするようなデッキ選択はしたくないですね」

――「『コンボを使うのかどうか』という点に、みなさん注目してくると思いますが、いかがですか?」

平木『コンボで行きたい』という思いは、やはりあります。川北さんが使うデッキはコントロール寄りのイメージがあるので、これを覆せるコンボを作ることができれば、といったところですね。ただし、それに拘らずに様々なデッキを当日に向けて試していくつもりです。先ほど述べたとおり、『ドレッジ』の経験が『実物提示教育』で活きているように、現在の自分の実力と知識を活かして、最良な選択をしたいですね。神決定戦は特殊な場で、川北さんの方が慣れているのも間違いありません。それに飲まれないように……みんなの期待に応えられるように、戦いたいと思います



――「最後に改めて、レガシー神へと挑戦する意気込みをお聞かせください」



平木絶対に勝ちたい、と強く思います。『神挑戦者決定戦』を勝ち抜いた、というチャンスをしっかりと活かしたいですね。神決定戦は、やはり盛り上がるイベントです。そして、そういった中で勝ち続けている川北さんに勝つことは、レガシープレイヤーとして1つの目標ですから

――「ありがとうございました。当日、頑張ってください!」





 対戦相手の所作一つ一つから、勝利への好機を見出す”コンボマスター”。

 現在、その眼が見つめる先にいるのは、神・川北 史朗のみ。

 平木は、”川北の思考を読み、好機を見出し、勝利の先にある神の地に立つ”という”コンボ”を達成できるのか―― 試合当日を楽しみに待とう!