はじめに
近年、MTGアリーナが導入されたことで、Magic: The Gatheringのオンラインイベントはかつてないほどの隆盛をみせています。自宅にいながらグランプリと同様のハイレベルなプレイと緊張感、達成感を味わえるものです。
本稿では盛り上がりをみせるオンライン上で開催された大会結果をまとめて、みなさんにお届けしていきたいと思います。今回は先週末に開催されたRed Bull Untapped International Qualifier 1の結果を振り返っていきましょう。
Red Bull Untappedとは
Red Bull UntappedとはプレイヤーはInternational Qualifier 1をはじめとする予選イベントへ参加でき、優勝者は年末開催予定のThe Finalsへの出場権を得る(全16名)。各イベントに賞金が用意されており、The Finals優勝者には『2021年に開催されるウィザーズ オブ ザ コーストの最も権威あるマジック:ザ・ギャザリングのイベントへの出場権』が与えられる。
Red Bull Untapped International Qualifier 1 トップ8アーキタイプ
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Gob123/Gobetti Enrico | アゾリウスコントロール(ヨーリオン) |
準優勝 | Tatsumaki/大森 健一朗 | ジェスカイルーカ(ヨーリオン) |
トップ4 | One/市川 ユウキ | ジャンド城塞 |
トップ4 | manohito/増田 勝仁 | ティムール再生 |
トップ8 | Lanyr/Zachary Borotsik | グルール変容アグロ(ウモーリ) |
トップ8 | trogdor3026/brian hart | 赤単アグロ(オボシュ) |
トップ8 | Dapten/Dapten | ティムール再生 |
トップ8 | cometa183/christopher virula | ジェスカイルーカ(ヨーリオン) |
Red Bull Untapped International Qualifier 1では、トップ8に6つのアーキタイプが占めることとなりました。アグロデッキが半数を占めていたMagicFest Online: Season 2 Finalsと打って変わり、大半がミッドレンジやコントロールとなっています。「相棒」では《空を放浪するもの、ヨーリオン》の活躍が目立ちますね。
トップ8デッキリストはこちら。
アゾリウスコントロール(ヨーリオン)
6 《平地》
4 《神聖なる泉》
4 《寓話の小道》
4 《啓蒙の神殿》
3 《アーデンベイル城》
2 《ヴァントレス城》
1 《廃墟の地》
-土地 (33)- 4 《厚かましい借り手》
2 《夢さらい》
-クリーチャー (6)-
4 《吸収》
4 《神秘の論争》
4 《空の粉砕》
3 《薬術師の眼識》
4 《海の神のお告げ》
3 《メレティス誕生》
1 《払拭の光》
3 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《サメ台風》
2 《ガラスの棺》
4 《時を解す者、テフェリー》
3 《覆いを割く者、ナーセット》
-呪文 (41)-
3 《霊気の疾風》
3 《太陽の神のお告げ》
2 《ドビンの拒否権》
2 《物語の終わり》
1 《ガラスの棺》
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》
-サイドボード (15)-
卓越したプレイで優勝に輝いたのはアゾリウスコントロール(ヨーリオン)を使用したGob123選手。同じ青白系であるジェスカイやバントに比べてタップイン土地のテンポロスがなく、ショックランドによる自傷ダメージも少ないデッキです。アグロデッキ、ジェスカイルーカに的を絞った構成であり、メタゲームの勝利といっても過言ではないでしょう。
数ある3マナカウンターの中から《悪意ある妨害》《中和》と対コントロール面で優れる2種ではなく、アグロデッキへのガードを下げず《吸収》が選択されています。片一方ではなくアグロ・コントロール両デッキタイプに勝ちきる強い意志が感じられる選択です。
メインボードで特に目を引くのが4枚とられた《厚かましい借り手》。万能なバウンス呪文はときに相手のテンポを大いに狂わせ、ときにはテキスト以上の結果をもたらしてくれます。対コントロール戦ではクロック/プレインズウォーカーの牽制役としても活躍します。
『イコリア:巨獣の棲処』から採用されているのは《空を放浪するもの、ヨーリオン》を除くと《サメ台風》のみ。ですがこの1枚によって《時を解す者、テフェリー》との試合運びは大きく変化しています。
これまでは《時を解す者、テフェリー》が着地した瞬間に詰んでいたマッチもありましたが、彼の影響下でも「サイクリング」によってインスタントタイミングでクリーチャーを生成できるのです。《時を解す者、テフェリー》を巡る攻防では常に意識しなければならない1枚となっています。
このデッキのオススメ!
カウンターとパーマネント対策、ドローとプレインズウォーカーと防御手段に富んだ伝統的なコントロールデッキです。メタゲームに合わせて構成も変化するため、自分の手に馴染むようにリデザインも可能です。緻密な計画を立て、一歩ずつ慎重にゲームを進めて勝利を目指したいあなたにオススメ!
ジェスカイルーカ(ヨーリオン)
2 《島》
2 《山》
4 《ラウグリンのトライオーム》
4 《神聖なる泉》
4 《聖なる鋳造所》
4 《蒸気孔》
4 《寓話の小道》
2 《天啓の神殿》
1 《啓蒙の神殿》
4 《アーデンベイル城》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (36)- 4 《裏切りの工作員》
-クリーチャー (4)-
4 《海の神のお告げ》
4 《メレティス誕生》
4 《太陽の神のお告げ》
4 《創案の火》
4 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《サメ台風》
4 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《時を解す者、テフェリー》
4 《銅纏いののけ者、ルーカ》
-呪文 (40)-
準優勝となったのはプレイヤーズツアー・名古屋2020でも活躍したTatsumakiこと大森 健一朗選手。選択したのは一番人気、ジェスカイルーカ(ヨーリオン)でした。《銅纏いののけ者、ルーカ》によってデッキから呼び出される《裏切りの工作員》は常に逆転の一手となります。
デッキ選択者がもっとも多く、初日の勝率がもっとも高かったのがこのデッキでした。初日のクリーチャー戦の海を《空の粉砕》と《銅纏いののけ者、ルーカ》で泳ぎ切れば、2日目はミラーマッチが増えるのは必然。コントロール戦まで見越し、サイドボードには《ドビンの拒否権》《神秘の論争》が4枚ずつ採用されています。
『イコリア:巨獣の棲処』によってデッキの核《銅纏いののけ者、ルーカ》を手に入れ誕生したデッキですが、マナベースにも注目です。80枚のデッキを円滑に回すには安定したマナベースが必要ですが、土地の引き過ぎ/引かなさ過ぎ(マナフラッド/スクリュー)の可能性も考慮しなければなりません。これまでは《天啓の神殿》が占術によりその役を担っていました。
新顔の《ラウグリンのトライオーム》は必要な3色を供給するだけではなく、基本地形タイプを持つため「城」のアンタップ条件も満たします。「サイクリング」により新たな1枚をドローできるため、トップデッキしたときはもとより《創案の火》影響下でも呪文カウントを稼がずに済むのです。
このデッキのオススメ!
アゾリウスコントロールと同じく防御に優れたデッキですが、攻守の切り替えこそがこのデッキの魅力。返す刀で《裏切りの工作員》が場に出ようものなら《空を放浪するもの、ヨーリオン》と合わさって相手はたちまちサンドバック状態になってしまいます。パーマネントを根こそぎ刈り取りたい貪欲なあなたにオススメ!
ティムール再生
2 《島》
1 《山》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《踏み鳴らされる地》
4 《蒸気孔》
3 《寓話の小道》
3 《ヴァントレス城》
2 《爆発域》
-土地 (29)- 2 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (2)-
ティムール再生の連続使用時間でギネス記録を狙っていると噂のmanohitoことHareruya Hopesの増田 勝仁選手が愛機とともにトップ4進出を果たしました。 《成長のらせん》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》で土地を伸ばし、《荒野の再生》を早期に場に出すことが第1目標。マナの倍化は行動回数の増加につながり、複数回の《ヴァントレス城》起動を絡めてもう1枚のキーカード《発展/発破》を探し出すのが第2目標となります。あとはありったけのマナを込めた極大消滅呪文をキャストするだけです!
デッキの半数にあたる29枚の土地へ注目してみましょう。《成長のらせん》の加速時は当然として、とにかくセットランドし続けるという強い意志を感じます。ただこれだけ土地あればマナフラッドに陥ってしまうこともあるでしょう。このデッキは保険として3種類の土地を忍ばせています。
『イコリア:巨獣の棲処』より獲得した《ケトリアのトライオーム》はマナベース強化と、フラッド時には新たなカードに変わる1枚です。「サイクリング」コストは3マナと高めですが、マナの溢れたこのデッキならば問題ありません。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の「脱出」コストにも当てることができますね。
《ヴァントレス城》はドローの質を向上させる…というよりも《荒野の再生》と組み合わせて速やかに《発展/発破》を探し出すために使用するといったほうが適切でしょう。《爆発域》は《時を解す者、テフェリー》などパーマネント対策を兼ねています。そして双方ともに《荒野の再生》と抜群の相性を誇ります。
このデッキのオススメ!
何と言っても《荒野の再生》エンチャント後の全能感は、一度味わったら決して忘れられません。カード1枚とは思えないほどの優位、自分だけに許された絶対時間を堪能したいあなたにオススメ!
ジャンド城塞
Team Cygames所属の市川 ユウキ選手は独創的なジャンドサクリファイスを手にトップ4の座を射止めました。緑黒ベースにラクドスサクリファイスの《忘れられた神々の僧侶》/《悲哀の徘徊者》+《初子さらい》パッケージを組み込んでいます。
スピード特化の小粒なアグロデッキに強く《波乱の悪魔》が動き出したら最後、相手の場には何も残りません。反面、クリーチャー同士のシナジーを重視したデッキであるためティムール再生やコントロールマッチでは、リソース不足に陥ることもありました。しかし《パンくずの道標》に加えて《ボーラスの城塞》を採用することで、それを解消しています。
最大の目玉は《ボーラスの城塞》でしょう。これまで《フェイに呪われた王、コルヴォルド》のスペースでしたが、現環境ではマナコストやライフ面でリスクはあるものの爆発力の高い《ボーラスの城塞》へ軍配が上がったようです。
特にティムール再生やコントロール相手には自身のライフをマナ変換することで、波状攻撃をしかけることが可能となりました。これまでは盤面を作り上げることができず、中々真価を発揮できませんでしたが、《ボーラスの城塞》により一気にパーマネントを並べることが可能です。
このデッキのオススメ!
一見すると地味に見えるカードたちですが、デッキ内のありとあらゆるカード達が相乗効果を生み、アドバンテージを生み出すデッキです。特に《パンくずの道標》《大釜の使い魔》《魔女のかまど》が揃えば、毎ターン1マナ1点ドレインとパーマネントカード1枚を手札に加えられます。回せば回すほど味のしてくる、システマティックなデッキです。連鎖するガチャガチャした動きが好き、パズル好きなあなたにオススメ!
グルール変容アグロ
5 《山》
4 《踏み鳴らされる地》
4 《奔放の神殿》
2 《ギャレンブリグ城》
-土地 (25)- 4 《石とぐろの海蛇》
4 《樹上の草食獣》
4 《無法の猛竜》
4 《水晶壊し》
4 《渡る大角》
4 《探索する獣》
4 《変容するケラトプス》
2 《無効皮のフェロックス》
2 《永遠神ロナス》
3 《終末の祟りの先陣》
-クリーチャー (35)-
最後にご紹介するのはトップ8のデッキの中でも一際異彩を放つグルール変容アグロです。《集めるもの、ウモーリ》を「相棒」にする代償としてクリーチャーのみで構成されていますが、「変容」と「出来事」により柔軟性を持ち合わせています。一見すると4マナ過多なデッキですが、様々な工夫が施されています。
マナ加速の《樹上の草食獣》とマナコスト軽減効果(メダリオン)をもつ《無法の猛竜》の2種類は、本来よりも1ターン早く4マナ域へたどり着き動けるようになるこのデッキの屋台骨です。単にコストが軽い「変容」先だけではなく、アグロに対しても《ショック》で除去されない壁役となってくれます。《石とぐろの海蛇》も合わせたクリーチャーへ《渡る大角》を「変容」することで、盤面を強固にしつつ4マナを目指します。
連打される強力な4マナ域たちは相手のデッキを問わず活躍してくれます。クリーチャーデッキは足が止まり、逆にコントロールデッキは速攻により1ターン早く時を進めます。《無効皮のフェロックス》も含めると単体でかなりの打点があり、相手の対処が追い付かなくなるまで脅威を与え続けることでビートダウンを完遂します。
『イコリア:巨獣の棲処』によって確立されたこのデッキは「相棒」と「変容」を組み合わせ、可変的なマナカーブを描きます。「変容」を持つ2種は小型クリーチャーを補強すると同時に、穴のある3マナ域を埋めてくれるのです。頭数を増やしたい場合はクリーチャーとしても扱えますね。
4マナから確定キャストできるメダリオン、《集めるもの、ウモーリ》。単にほかのクリーチャーを並べる手助けばかりではなく、《無法の猛竜》《渡る大角》とタッグを組んでゲームエンダー《終末の祟りの先陣》を呼び込む土壌を作ってくれます。土地25枚ながら8マナ域のカードが3枚も採用されているのは《集めるもの、ウモーリ》あるからこそなのです。
このデッキのオススメ!
いち早く4マナ到達を目指し、その直後に開始される怒涛のビートダウン!4マナクリーチャーで殴り続けるもよし、頭数を揃えマナを伸ばし《終末の祟りの先陣》で一気に決めるもよし!サイズでダメージレースを優位に進めたい、でも器用さと粘り強さも持ち合わせたいあなたにオススメ!
Red Bull Untapped International Qualifier 1:メタゲームブレイクダウン
デッキタイプ | 初日 | 2日目 | トップ8 |
---|---|---|---|
ジェスカイルーカ(ヨーリオン) | 464 | 48 | 2 |
ボロスサイクリング(ルールス) | 242 | 17 | 0 |
ティムール再生 | 205 | 16 | 2 |
赤単アグロ(オボシュ) | 193 | 14 | 1 |
バントコントロール(ヨーリオン) | 117 | 4 | 0 |
ラクドスサクリファイス(ルールス) | 80 | 2 | 0 |
赤単アグロ | 73 | 1 | 0 |
ティムールアドベンチャー | 70 | 3 | 0 |
ティムールエレメンタル(ヨーリオン) | 66 | 1 | 0 |
ラクドスサクリファイス(オボシュ) | 59 | 3 | 0 |
ジェスカイファイアーズ(ケルーガ) | 59 | 0 | 0 |
マルドゥ騎士(ルールス) | 54 | 2 | 0 |
ジェスカイウィノータ | 48 | 1 | 0 |
ジェスカイサイクリング(ルールス) | 47 | 1 | 0 |
グルールアグロ | 26 | 3 | 1 |
グルールファイアーズ(カヒーラ) | 26 | 0 | 0 |
シミックフラッシュ | 22 | 0 | 0 |
白単アグロ(ルールス) | 19 | 2 | 0 |
アゾリウスコントロール(ヨーリオン) | 14 | 2 | 1 |
その他 | 763 | 8 | 1 |
合計 | 2648 | 128 | 8 |
こちらは同大会のメタゲームブレイクダウンとなります。使用者数・初日突破率ともにジェスカイルーカが突出しています。《轟音のクラリオン》《空の粉砕》を多めに採用することで爆発力を保ったままクリーチャーデッキを取りこぼさなかったことが勝因でしょう。その結果2日目に至っては4割り近くがこのデッキであり、ミラーマッチをどこまで想定していたかが一つの焦点であったといえます。
「相棒」も高い使用率を誇りますが、選択によって明暗ははっきりと分かれました。《空を放浪するもの、ヨーリオン》《夢の巣のルールス》《獲物貫き、オボシュ》が成績を残す一方で、環境初期に存在していた《巨智、ケルーガ》は日曜日の日の出を拝むことはかないませんでした。アグロデッキに対しては初動3ターン目が仇となり、ミッドレンジ/コントロールに対してはカードパワー勝負では劣ったためでしょう。
ノン「相棒」の筆頭ティムール再生は初日こそ苦戦が予想されましたが、2日目はジェスカイルーカの海を泳ぎ切り、2名をトップ8へと輩出しました。自身はマナ加速をもち、メインにカウンターのないジェスカイルーカはGame1はボーナスゲームに等しかったようです。新顔のグルール変容アグロとアゾリウスコントロールと合わせ包囲網は形成されつつありますが、デッキパワーで頭一つ抜けたジェスカイルーカを中心として今後もメタゲームは回り続けるでしょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
『イコリア:巨獣の棲処』第3のキーワード「変容」を活用したグルール変容アグロが新しい「相棒」とともに、遂に入賞を果たしました。アゾリウスコントロールのように仮想敵を明確にしたデッキも生まれ、ジェスカイルーカを中心としつつもさまざまなデッキが活躍を続けそうです。
それでは来週もスタンダードの情報をお届けしたいと思います。